労災の審査請求で「甲号証」は必要?初回申請との違いと証拠の出し方を実務で解説

労災の審査請求で「甲号証」は必要?初回申請との違いと証拠の出し方を実務で解説
労災の審査請求を検討している方から、「民事裁判みたいに、甲1・甲2と証拠番号を付けた方がいいのでしょうか?」というご相談を受けることがあります。
結論からいうと、審査請求で甲号証方式は法律上の必須ではありません。ただ、実務上は、付けた方がかなり分かりやすく、通りやすい形に近づきます。
特に、メンタル労災、パワハラ、退職勧奨、異動、権限停止など、出来事が複数あり、時系列や評価の組み立てが重要な案件では、本文と証拠をきちんと結び付けることが大切です。
この記事のポイント
・初回申請と審査請求では、証拠の出し方の考え方が違います
・審査請求では、甲号証方式に寄せた方が整理しやすいことが多いです
・大事なのは番号を振ること自体ではなく、本文と証拠が一直線につながっていることです
労災の初回申請と審査請求は、そもそも役割が違います
まず前提として、初回申請と審査請求は、同じ労災手続でも意味合いがかなり違います。
初回申請
初回申請は、労働基準監督署に対して、まず業務起因性や通勤起因性を判断してもらう入口です。ここでは、監督署が事情を確認し、必要に応じて会社や医療機関にも調査を進めていく前提があります。
そのため、初回申請では、最初から民事の準備書面のように厳密な証拠整理までしなくても、申請自体は進むことがあります。
審査請求
一方、審査請求は、すでに出た不支給決定を見直してもらうための手続です。
つまり、「納得できません」と述べるだけでは足りず、どの判断が、どの事実に照らして問題なのか、そしてその事実をどの証拠で裏付けるのかを、より明確に示す必要があります。
ここが大きな違いです。
初回申請は「調査に乗せる入口設計」が大切で、審査請求は「すでに出た判断を崩す設計」が大切です。
甲号証は「必須」ではないが、「やった方が強い」
審査請求では、必ずしも「甲第1号証」「甲第2号証」と振らなければならないわけではありません。ですが、実務上は、証拠に番号を振って、理由書の本文で(甲4)などと対応させる方法は非常に有効です。
なぜなら、審査官が理由書を読んだときに、
- この主張は、どの資料で裏付けられているのか
- この出来事は、どの証拠に載っているのか
- 提出資料のどこを見れば確認できるのか
が一目で分かるからです。
特にメンタル労災では、出来事が1つではなく、面談、上司発言、異動、業務変更、権限停止、退職勧奨、雇止め通知などが連続していることがあります。
このような案件では、証拠をただ提出するだけでは弱く、「この主張はこの証拠で支える」という線を引くことが大切です。
甲号証方式が特に有効なケース
次のような案件では、審査請求で甲号証方式に寄せた方がよいことが多いです。
甲号証方式が有効なケース
- 不支給理由を明確に崩しにいく必要がある
- 出来事が複数あり、単発ではなく連続性を示したい
- パワハラ、メンタル不調、退職勧奨など評価が分かれやすい
- LINE、メール、チャット、録音反訳書、面談メモなど資料が散らばっている
- 会社側の説明と本人の認識にズレがある
- 時系列の整理そのものが争点になっている
こうした案件では、理由書に丁寧な文章を書くだけでは足りません。「どの主張を、どの証拠で支えるか」を見える形にしておくことが大切です。
逆に、そこまで厳密でなくてもよいケース
一方で、すべての案件で民事のような整理が必要かというと、そうではありません。
たとえば、次のようなケースでは、甲号証方式まで厳密にしなくても足りることがあります。
- 事故態様が明確な災害事故
- 資料が少なく、因果関係が比較的シンプルな案件
- 争点がほぼ1つで、資料の見分けが難しくない案件
- 初回申請の段階で、労基署が通常の調査で追える内容である場合
ただし、ここでも誤解してはいけないのは、「甲号証方式が不要」=「証拠整理が不要」ではないということです。
シンプルな案件でも、最低限、時系列の整理、主要資料の選別、添付資料一覧くらいはあった方が、読み手には親切です。
大事なのは「番号」ではなく、本文とのリンクです
ここが実務上、いちばん重要です。
甲1、甲2と番号を振ること自体が目的ではありません。大切なのは、理由書の本文と証拠が、読みながら自然につながることです。
弱い例
4月3日に面談があった。(甲4)
これでも間違いではありませんが、証拠の意味が十分に伝わりません。
よりよい例
令和7年4月3日の面談では、請求人に対し人格否定的な言動がなされ、その後の就労継続に重大な心理的影響を与えた(甲4)。
このように、その証拠で何を立証したいのかまで一文の中に入っていると、読み手は理解しやすくなります。
つまり、審査請求では、証拠を単に並べるのではなく、主張と証拠の対応関係を明示することが重要です。
実務では「証拠説明書」まで付けるとさらに分かりやすい
審査請求で証拠が多い場合は、理由書のほかに、証拠説明書を付ける方法も有効です。
たとえば、次のような形です。
例:証拠説明書のイメージ
甲第4号証 令和7年4月3日面談メモ
(立証趣旨)請求人に対して人格否定的発言がなされたこと、および当該面談がその後の心理的負荷の中核となる出来事であったことを立証する。
このような形にしておくと、審査官が資料を見るときに、「この証拠は何のために出ているのか」がすぐ分かります。
とくに、面談メモ、録音反訳書、LINE、チャット、メールなど、一見して意味が伝わりにくい証拠は、立証趣旨を書いておくと強くなります。
初回申請では「簡易版の資料一覧」で十分なことが多い
ここまで読むと、「初回申請でも甲号証方式にした方がよいのでは」と思われるかもしれません。
ただ、初回申請では、そこまで重い構成にしなくてもよいことが多いです。むしろ、簡易版の資料一覧を付けるくらいが実務上ちょうどよい場合もあります。
初回申請での簡易資料一覧の例
1 診断書
発病時期および受診経過を確認するため
2 会社とのLINE画面
上司からの発言内容および継続的なやり取りを確認するため
3 面談メモ
令和○年○月○日の面談内容を確認するため
4 時系列メモ
出来事の経過および心理的負荷の推移を整理したもの
初回申請では、これだけでも十分見やすくなります。
審査請求で差がつくのは、「証拠の量」より「証拠のつなぎ方」です
審査請求になると、つい「たくさん証拠を出した方がいいのでは」と考えがちです。
もちろん、必要な証拠は大切です。ただ、実務では、量よりも、どうつなぐかで差が出ます。
たとえば、面談メモ、LINE、医師の診断書、会社の通知書があったとしても、それらがバラバラに出されているだけでは、審査官は流れをつかみにくくなります。
逆に、
- どの出来事が中核なのか
- その前後の事情がどう補強するのか
- どの証拠が、どの主張に対応するのか
が見えるだけで、同じ資料でも説得力が変わってきます。
審査請求で大切なのは、証拠を「置く」ことではなく、証拠を「働かせる」ことです。
まとめ|審査請求では、甲号証方式に寄せた方が整理しやすい
労災の審査請求で、甲号証方式は法律上の必須ではありません。
ただし、実務では、理由書の本文と証拠を対応させ、必要に応じて証拠説明書を付ける構成にした方が、かなり分かりやすくなります。
特に、メンタル労災やパワハラ案件のように、出来事が複数重なり、時系列や評価の組み立てが大事なケースでは、証拠の出し方そのものが結果に影響することがあります。
初回申請では簡易整理で足りることもありますが、審査請求では、「どの主張を、どの証拠で支えるか」まで意識した方が安心です。
労災の審査請求は、「不支給に納得できない」だけでは進みにくいことがあります。
どの事実を中核にし、どの証拠で支えるか。
この設計が、書類全体の通りやすさを左右します。
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