業務外要因と既往歴はどこまで不利?|メンタル労災の考え方を解説

第4回:業務外要因と既往歴 —— どこまで不利になるのか?
業務外要因と既往歴があってもメンタル労災を整理できることをイメージした、木目のデスク上に無地の書類とノート、ペンが置かれた落ち着いた写真風アイキャッチ画像
厚生労働省の認定基準シリーズ 第4回

業務外要因と既往歴 —— どこまで不利になるのか?

「もともとメンタルの持病があった」「家庭の問題も大きかった」——。こうした事情があると、「労災は無理かな」と早い段階であきらめてしまう方が少なくありません。

この記事では、業務外要因や既往歴がどのように考慮されるのかを整理しつつ、「それでも業務が決定的な引き金だった」ケースでどう説明していくかを、本人申請の視点から解説します。

結論:業務外要因=即「アウト」ではない

精神障害の労災認定では、「仕事が原因であれば何でもOK」でも、「一つでも業務外要因があれば即NG」でもありません。厚生労働省の基準では、次のような考え方が取られています。

  • 発病前おおむね6か月の「業務による心理的負荷」の強さ(強・中・弱)をまず評価する。
  • そのうえで、もともとの体質・性格、既往歴、家庭問題などの「既存の要因」も補足的に見る。
  • 「元々の要因が主たる原因なのか」「業務が決定的な引き金になったのか」を総合判断する。

ポイント:既往歴や家庭問題があっても、「業務による心理的負荷が強く」「その後の経過が基準に沿っている」場合には、業務起因性が認められる余地は十分にあります。

「業務外要因」として見られやすいもの

認定実務上、「業務外要因」「既往歴」としてよく話題に上るのは、ざっくり次のような事情です。

  • 過去のうつ病・適応障害などの治療歴
  • 子どもの頃からの不安傾向や発達特性
  • 家族の病気・介護・離婚などの家庭問題
  • 金銭トラブル・借金・多重債務
  • 恋愛・友人関係でのトラブル

これらは、診断書や問診、カルテなどからある程度把握されます。「言わなければバレないだろう」と思って隠すと、後で記録から出てきたときにかえって心証を悪くすることもあるため、基本的には最初から織り込み済みで整理した方が安全です。

Q. 打ち明けたら、それだけで不利になりますか?

大事なのは「それが今回の発病にどこまで関係していると考えられるか」です。過去にも波はあったが、今回の悪化は明らかに業務後に急激だった…という経過であれば、そこを丁寧に説明することが重要です。

既往歴がある場合に見られやすいポイント

既往歴があるからといって直ちに労災が否定されるわけではありません。むしろ、次のような点を整理することで、「今回の悪化は業務の影響が大きい」という説明をしやすくなります。

1. 直前はどの程度まで回復していたか

  • 薬なしで普通に働けていたのか。
  • 通院は続いていたが、症状は安定していたのか。
  • 一度完全寛解し、数年問題なく勤務できていたのか。

2. 今回の悪化の「きっかけ」になった出来事

  • 異動・配置転換・上司の交代など、はっきりした転機があったか。
  • 長時間労働が始まった時期と悪化の時期はどう重なっているか。
  • パワハラ・いじめ・カスハラなど、明確な負荷要因があったか。

3. 症状の変化と業務のタイミング

  • どのタイミングで眠れなくなったか。
  • 欠勤・遅刻・早退が増えたのは、どんな出来事の後か。
  • 休職・退職を決断したきっかけは何だったか。

ここを押さえる:既往歴がある場合、「昔からずっと悪かった」のか、「今回の職場で急激に悪化した」のかで、評価は大きく変わります。診断書・カルテの記載と、本人の時系列メモをそろえておきましょう。

家庭問題・性格要因はどう見られるか

家庭の不和や介護、子育て、性格傾向なども、しばしば「業務外要因」として挙げられます。ただし、これも「あるからダメ」「ないからOK」という単純な話ではありません。

実務上は、次のような整理で見られます。

  • 家庭問題は以前からあったのか、それとも直近で急に生じたのか。
  • 家庭問題だけなら、ここまでの重い症状になっていたかどうか。
  • 家庭問題×職場のストレスが重なって、耐えられなくなったタイミングはいつか。

性格についても、「几帳面・責任感が強い」などは多くの人に当てはまるため、それだけで業務起因性を否定する材料にはなりません。むしろ、「その性格ゆえに、過大な仕事を一人で抱え込まされていた」といった整理が可能な場合もあります。

どこまでが「不利」になりうるのか

実際の認定では、次のようなケースで「業務外要因の比重が大きい」とされることがあります。

  • 業務による心理的負荷が評価表上「弱」にとどまる一方で、重い家庭問題や長年の持病が強く影響していると判断される場合。
  • 発病前から長期にわたる症状悪化が続いており、職場の出来事がなくても同程度に悪化したと考えられる場合。
  • 業務による出来事と発病・悪化の時期がかみ合わない場合(時系列がつながらない)。

逆に言えば、

  • 業務による心理的負荷が「強」に近い。
  • 業務後に明らかな症状の悪化がある。
  • 既往歴などがあっても、そこからの変化がはっきりしている。

といったケースでは、「既往歴があるから」という理由だけで一律に不利と決めつけられるものではありません。

「業務外のことも多いからムリそう…」と思った方へ

実際の相談でも、

  • 過去にうつ病歴があるから、最初から労災はあきらめていた。
  • 家庭の問題も大きいので、自分のケースは対象外だと思っていた。

という声はとても多いです。

ただ、認定基準の考え方は「業務外要因がゼロの人だけを救済する」ものではありません。重要なのは、

  • 今回の急激な悪化に、業務がどのように関わっていたのか。
  • 評価表上、どの出来事・どの強度に近いと整理できるのか。

を、時系列と資料で説明できるかどうかです。

※ 「既往歴や家庭の事情もあって整理が難しい」という段階でも構いません。思いつく範囲の時系列メモから、一緒に整理していくことができます。

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