労災は発症から2年以上で時効?休業補償・治療費を今から請求できる場合

「発症や事故から2年以上経っているから、もう労災申請はできない」と思っていませんか。 労災保険には時効がありますが、すべての給付が発症日・事故日から一律に2年で時効になるわけではありません。 休業(補償)等給付(以下、この記事では「休業補償」といいます)は休業した日ごとに、療養の費用は費用を支出した日ごとに時効を確認します。 そのため、発症から数年が経過していても、現在も請求を検討できる給付が残っていることがあります。 この記事では、労災の時効について、休業補償、治療費、健康保険から労災への切替え、退職後の申請などを社会保険労務士が解説します。
- 「発症から2年以上経過=労災のすべてが時効」ではありません。
- 休業(補償)等給付は、賃金を受けなかった日ごとに請求権が発生し、その翌日から2年です。
- 療養の費用は、費用を支出した日ごとに請求権が発生し、その翌日から2年です。
- 労災指定医療機関等で受ける「療養の給付」は現物給付で、療養の費用とは時効の考え方が異なります。
- 健康保険を使っていた過去の治療費は、単純に「受診日から2年」で結論が出ない場合があります。
- 障害(補償)等給付を受ける権利は、原則として傷病が治ゆ(症状固定)した日の5年を経過すると時効により消滅します。
- 時間が経っている場合ほど、自分で「もう時効」と判断せず、給付ごとに確認することが大切です。
動画でわかりやすく解説
「発症から2年以上経っているから、もう労災は無理」と思っている方へ、 労災保険の時効について動画でも解説しています。
発症から2年以上経った場合の休業補償・治療費・健康保険から労災への切替えについて解説しています。
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労災は発症から2年で全部時効になるわけではない
労災の時効について調べると、「2年」という数字を目にすることが多いと思います。
そのため、
- 精神疾患を発症してから3年以上経っている
- 事故から何年も経過している
- すでに会社を退職している
- ずっと健康保険で通院している
- 休業補償を一度も請求していない
といった方が、 「もう2年を過ぎたから労災は無理だろう」 と考えてしまうことがあります。
しかし、労災保険の時効は、 何の保険給付を請求するのかによって、起算点も期間も異なります。
「いつ発症したか」だけを見て、労災保険給付のすべてが時効になったかどうかを判断することはできません。
| 主な給付 | 時効の基本的な考え方 |
|---|---|
| 療養の給付(5号など) | 労災指定医療機関等で受ける現物給付で、療養の費用とは時効の扱いが異なる |
| 療養の費用(7号など) | 療養の費用を支出した日ごとに、その翌日から2年 |
| 休業(補償)等給付(8号など) | 賃金を受けない日ごとに、その翌日から2年 |
| 障害(補償)等給付 | 傷病が治ゆ(症状固定)した日の翌日から5年 |
| 傷病(補償)等年金 | 通常の請求によって始まる給付ではなく、労働基準監督署長の職権により支給決定される |
参考: 厚生労働省「労災保険の各種給付の請求はいつまでできますか。」
休業補償は「発症日」ではなく「休業日ごと」に2年
特に誤解されやすいのが、 休業(補償)等給付の時効です。
休業(補償)等給付は、 賃金を受けない日ごとに請求権が発生し、その翌日から2年 とされています。
たとえば、4年前に精神疾患を発症したとしても、その後も休業が続いている場合、 「発症から4年経ったから休業補償がすべて時効」ということにはなりません。
古い休業日については時効が完成している可能性がありますが、 直近の休業日については、まだ時効期間内である可能性があります。
たとえば令和8年8月に休業(補償)等給付を請求する場合、 令和6年8月以降の休業日については、原則として時効期間内である可能性があります。
一方、令和6年7月以前の休業日については、 各休業日ごとに時効が完成している可能性があります。
ただし、実際の時効完成日は、個々の休業日や請求日などを確認して判断する必要があります。
つまり、令和4年に発症したという理由だけで、 令和6年・令和7年・令和8年の休業分まで一律に請求できなくなるわけではありません。
もちろん、時効期間内であれば自動的に休業補償が支給されるわけではありません。
休業(補償)等給付を受けるには、
- 業務または通勤が原因となった傷病であること
- その傷病の療養のため働くことができなかったこと
- その期間について賃金を受けていないこと
などの支給要件を満たす必要があります。
参考: 厚生労働省「労災保険の各種給付の請求はいつまでできますか。」
ケース例|4年前に発症し、休業補償を一度も請求していない場合
ケース
- 約4年前に精神疾患を発症
- その後、健康保険を使って通院を継続
- 休業(補償)等給付は一度も請求していない
- 現在も療養・休業が続いている
- 数年経ってから初めて労災申請を検討している
このケースで、 「発症から4年経っているので、労災申請はすべて時効」 と判断するのは早いです。
次のように分けて確認します。
| 確認するもの | 確認ポイント |
|---|---|
| 休業補償 | 休業日ごとに時効を確認。古い期間は時効でも、直近の期間が残っている可能性がある |
| 今後の治療 | 労災指定医療機関等で療養の給付を受けられるかを確認 |
| 過去の健康保険診療 | 健保から労災への切替え、返還通知、費用が具体的に確定した時期などを確認 |
| 障害が残っている場合 | 治ゆ(症状固定)の時期と障害(補償)等給付の可能性を確認 |
このように、「発症日が古い」という一つの事情だけでは結論を出せません。
療養の給付(5号など)と療養の費用(7号など)は時効の考え方が異なる
治療費については、 「療養の給付」と「療養の費用の支給」 を分けて考える必要があります。
業務災害で、労災指定医療機関等において療養の給付を受ける際には、 一般に様式第5号を使用します。
一方、労災指定医療機関等以外で受診して費用を負担した場合などには、 療養の費用の支給を請求することがあり、 業務災害で使用する代表的な書類が様式第7号です。
労災指定医療機関等で受ける療養の給付は、医療そのものを現物で受ける仕組みであり、 療養の費用の支給とは時効の考え方が異なります。
そのため、 「発症から2年以上経っているから、今後の治療について労災の療養の給付を受けることもできない」 と一律に考える必要はありません。
ただし、過去に健康保険を使って受診した治療費や、 本人がすでに立て替えた費用については別途確認が必要です。
療養の費用は「費用を支出した日ごと」に2年
療養の費用については、 療養の費用を支出した日ごとに請求権が発生し、その翌日から2年 が基本です。
こちらも「発症から2年」ではなく、 いつ費用を支出したのか を確認することが重要です。
5号・6号・7号の違いや、転院した場合の使い分けについては、こちらの記事で詳しく解説しています。
ずっと健康保険で通院していた場合、治療費はもう時効?
精神疾患などの労災では、 労災申請をする前に、何年も健康保険を使って通院していた というケースもあります。
この場合、過去の治療費について、 「受診から2年以上経ったから全部時効」と単純に判断するのは適切ではありません。
健康保険を使用していた診療を後から労災保険へ切り替える場合には、健康保険の保険者から返還通知を受け、健康保険が負担していた分を精算することがあります。その返還額等を踏まえ、労災保険へ療養の費用を請求する手続が検討されます。
厚生労働省は、健康保険等から労災保険へ切り替える場合について、 保険者から返還通知・納入告知等がされるまでは、本人が返還義務や具体的な返還額を知ることができないことから、 その返還通知等があった時を「費用の支出が具体的に確定した日」として取り扱う ことを示しています。
健康保険で受診していた過去の治療費は、 健康保険から労災への切替え、保険者からの返還通知、 本人負担額や費用が具体的に確定した時期などを確認して整理する必要があります。
また、健康保険の負担分を一度に返還することが経済的に難しい場合などには、 一定の手続により、健康保険への返還が完了する前に労災保険へ請求し、 保険者との間で調整する取扱いが利用できる場合があります。
ただし、保険者との調整の可否や具体的な手続は個別に異なるため、 労働基準監督署と健康保険の保険者に確認しながら進めることが大切です。
参考: 厚生労働省「健康保険証を使って受診してしまいました。どうしたらよいですか。」
参考: 厚生労働省「労災認定された傷病等に対して過去に医療保険から給付を受けていた場合における給付の調整について」
障害補償給付は「発症から5年」ではない
療養を続けても一定の障害が残った場合には、 障害(補償)等給付の対象となる可能性があります。
障害(補償)等給付の時効は、 傷病が治ゆした日の翌日から5年です。
労災保険でいう「治ゆ」には、完全に元どおりになった場合だけでなく、 症状が安定し、それ以上治療を続けても医療効果が期待できない状態、 いわゆる症状固定も含まれます。
したがって、 「発症から5年以上経ったから障害補償も時効」 と単純に判断するものではありません。
傷病補償年金は通常の「本人請求」と時効の考え方が異なる
業務上の傷病について療養開始後1年6か月を経過しても治っておらず、 傷病による障害の程度が一定の傷病等級に該当する場合には、 傷病(補償)等年金の対象となることがあります。
傷病(補償)等年金は、本人が通常の保険給付のように請求して支給が始まるものではなく、 労働基準監督署長が職権で支給決定する仕組みです。
このことからも、 「労災はすべて2年で終わる」という理解は正確ではありません。
すでに退職していても、時効とは別に労災申請を検討できる
発症から時間が経っている方の中には、 すでに原因となった会社を退職している方も多いと思います。
しかし、 退職したことと、労災保険給付の時効は別の問題です。
退職後でも、時効期間内の給付が残っていれば労災請求を検討できます。 その際には、退職後の5号・8号や元会社の事業主証明など、別の手続上の問題を整理する必要があります。
会社に事業主証明を頼めなくても、そこで諦める必要はない
精神疾患やパワハラの労災では、 元会社へ連絡すること自体が大きな精神的負担になることがあります。
また、会社が事業主証明を拒否することもありますが、 事業主証明を得られないことだけを理由に、労災請求そのものを諦める必要はありません。
「もう時効」と判断する前に確認したい7つのこと
発症・事故から時間が経っている場合は、少なくとも次の点を確認してみてください。
- 発症日・事故日はいつか
- いつからいつまで休業したか
- 休業期間中に賃金を受けていたか
- いつ、どの医療機関を受診したか
- 健康保険を使用していたか
- 治療費について健保から返還通知を受けているか
- 現在も療養中なのか、すでに治ゆ・症状固定しているのか
これらを時系列で整理すると、 「すでに時効になった可能性がある部分」と「現在も請求を検討できる部分」 を切り分けやすくなります。
古い休業日について時効が成立していても、 直近の休業分や今後の療養まで同時に失われるとは限りません。 発症から時間が経っているほど、給付ごと・休業日ごと・治療費ごとに整理することが重要です。
よくある質問
労災は発症から2年を過ぎたら申請できませんか?
発症日から2年を過ぎたことだけで、すべての労災保険給付が時効になるわけではありません。 休業(補償)等給付は賃金を受けない日ごと、 療養の費用は費用を支出した日ごとに、原則として翌日から2年で時効を確認します。
健康保険を使って通院していたら、労災には切り替えられませんか?
健康保険を使用していた後でも、労災として認定された場合には、 労災保険と健康保険の給付を調整する手続があります。
健康保険の保険者からの返還通知等を踏まえて療養の費用を請求する取扱いもあるため、 受診日だけを見て「もう時効」と判断しないことが大切です。
退職後でも労災の請求はできますか?
退職したこと自体で労災保険給付を請求できなくなるわけではありません。 ただし、時効、労災性、休業・療養等の支給要件、必要資料、事業主証明などを個別に確認する必要があります。
時効期間内なら必ず労災認定されるわけではない
ここまで時効について説明してきましたが、 時効期間内であることと、労災として認定されることは別の問題です。
労災保険給付を受けるためには、 仕事と傷病との関係や、それぞれの給付の支給要件について、 労働基準監督署による調査・判断を受ける必要があります。
特に精神疾患の労災では、発症時期、発症前の出来事、業務による心理的負荷、 医療機関の受診経過などが重要になります。
また、時間が経過すると、
- 会社の資料が残っていない
- メールやチャットが削除される
- 同僚が退職して連絡が取れなくなる
- 医療機関のカルテ保存期間が問題になる
- 出来事の時期や内容を思い出しにくくなる
といった証拠上の問題も生じやすくなります。
そのため、請求可能性がある場合には、 時効ぎりぎりまで待つのではなく、できるだけ早めに資料を整理すること が大切です。
発症から2年以上経っていても、労災を一律に諦めないでください
労災保険の時効は、 「発症日から2年経ったらすべて終了」という仕組みではありません。
休業補償は休業日ごと、 療養の費用は費用を支出した日ごと、 障害補償は治ゆ・症状固定の日を基準にするなど、 給付によって時効の起算点が異なります。
また、健康保険を使って治療していた場合には、 健康保険から労災への切替えや返還通知の時期なども確認する必要があります。
「もう何年も経っているから無理だろう」と自己判断する前に、
- どの給付を請求したいのか
- いつの休業について請求したいのか
- これまでどの保険を使って治療してきたのか
- 現在も療養が続いているのか
を整理してみることが大切です。
「もう時効かもしれない」と思っている方へ
こもれび社労士事務所では、精神疾患・パワハラなどの労災申請を中心に、 発症や退職から時間が経っているケースについてもご相談をお受けしています。
「数年前の発症なので、もう労災は無理だと思っている」
「ずっと健康保険で通院していた」
「休業補償を一度も請求していない」
「退職後になって労災の可能性を知った」
といった場合でも、発症日だけで結論を出すのではなく、 休業日、受診歴、健康保険の利用状況、現在の療養状況などを整理すると、 今から検討できる給付が残っていることがあります。
すぐに依頼を決めるのではなく、 まず現在の状況を整理するところからご相談いただけます。
参考資料
- 厚生労働省「労災保険の各種給付の請求はいつまでできますか。」
- 厚生労働省「労災保険請求のためのガイドブック」
- 厚生労働省「健康保険証を使って受診してしまいました。どうしたらよいですか。」
- 厚生労働省「労災認定された傷病等に対して過去に医療保険から給付を受けていた場合における給付の調整について」
※この記事は、2026年8月時点の制度・厚生労働省資料をもとに、労災保険給付の時効について一般的な考え方を解説したものです。 実際の時効の起算点や請求可能性は、傷病、休業期間、治療費の支払・返還状況、治ゆ・症状固定の時期などによって異なります。 また、時効期間内であることと、労災として認定・支給されることは別の問題です。
ここまで読んで、まだ迷っていても大丈夫です。

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