退職後に労災申請する場合、会社の証明は必要?様式5号・7号・8号を社労士が解説

退職後の労災申請で会社の事業主証明が必要かを解説するイメージ

退職後に労災申請をするとき、「もう会社を辞めているのに、元会社の事業主証明は必要なのか」と迷うことがあります。 特に、退職後もしばらく健康保険で通院しており、後から初めて労災の様式第5号や様式第8号を提出する場合は注意が必要です。 この記事では、退職後の労災申請における様式第5号・第8号の事業主証明について、社会保険労務士が実務上の考え方を整理します。

この記事の結論
  • 退職後でも労災保険の請求はできます。
  • ただし、「退職したから元会社の事業主証明がすべて不要」になるわけではありません。
  • 初めて様式第5号を提出する場合は、まずは事業主証明を受ける前提で整理します。
  • 様式第8号は、第2回目以降の請求が離職後であれば、事業主証明は不要です。
  • ただし、その請求に係る休業期間の全部または一部に離職前の期間が含まれる場合は、事業主証明が必要です。
  • 会社が証明を拒否する、連絡が困難などの事情があっても、事業主証明がないことだけを理由に労災請求を諦める必要はありません。

退職後でも労災申請はできる

労災保険は、在職中に発生した業務上のけがや病気について、退職後であっても請求できます。

そのため、

  • すでに会社を退職している
  • 退職してから数か月、あるいはそれ以上経過している
  • 退職後も健康保険を使って通院していた
  • 退職後になってから労災申請を検討し始めた

といった場合でも、「退職したから労災申請はできない」ということではありません。

一方で、退職後の労災申請では、 「元会社の事業主証明が必要なのか」 という別の問題が生じます。

ここは、使用する様式や、初回請求なのか第2回目以降なのかによって分けて考える必要があります。

退職したから会社の証明がすべて不要になるわけではない

「もう退職しているのだから、会社に書いてもらう欄は空欄でよいのでは」と考える方もいらっしゃると思います。

しかし、労災保険の事業主証明は、単に「現在その会社に在籍しているかどうか」だけで決まるものではありません。

たとえば、休業補償給付の様式第8号では、事業主が、休業期間や賃金の支払状況、平均賃金に関する事項などを確認する欄があります。

そのため、退職後の請求であっても、

  • 何の給付を請求するのか
  • 初回の請求なのか、第2回目以降なのか
  • 請求する休業期間が在職中なのか、離職後なのか
  • 会社から証明を受けられる状況なのか

を確認して判断する必要があります。

退職後の様式第5号|事業主証明はどう考える?

業務災害について、労災保険指定医療機関で「療養の給付」を受ける際に使用する代表的な書類が、 療養補償給付たる療養の給付請求書(様式第5号)です。

様式第5号には事業主証明欄があります。 退職後に初めて5号を提出する場合について、「退職後だから当然に事業主証明は不要」と一律に考えるのは避けた方がよいでしょう。

初めて労災の療養の給付を受けるケースでは、まずは事業主証明を受ける前提で手続きを整理します。

もっとも、

  • すでに退職しており会社へ連絡しにくい
  • 会社が事業主証明を拒否している
  • 会社から返事がない
  • 会社が廃業している
  • 精神疾患やパワハラのため、会社への接触によって症状が悪化するおそれがある

など、事業主証明を得ることが難しい事情がある場合もあります。

この場合でも、事業主証明を得られないことだけを理由に、労災保険の請求そのものを諦める必要はありません。

厚生労働省も、会社が事業主証明を拒否するなどにより証明が得られない場合でも、労災保険の請求はできると案内しています。

参考: 厚生労働省「会社(事業主)が責任を認めません。労災保険の給付は受けられますか。」

会社への連絡が精神的に難しい場合や、事業主証明を得られない場合の申立方法については、次の記事で詳しく解説しています。

退職後の初回8号|会社の証明はどう考える?

休業補償給付を請求するときに使用するのが、 休業補償給付支給請求書(様式第8号)です。

ここで重要なのが、 「退職後の休業期間だから、最初から会社の証明は不要」とは限らない という点です。

厚生労働省の「休業(補償)等給付・傷病(補償)等年金の請求手続」では、 第2回目以降の請求が離職後である場合には、事業主による請求書への証明は必要ない と案内されています。

したがって、初回の様式第8号については、退職後の休業期間のみを請求する場合であっても、 まずは事業主証明を受ける前提で準備するのが基本です。

ポイント

「退職後かどうか」だけではなく、その8号が初回請求なのか、第2回目以降なのかを確認することが重要です。

参考: 厚生労働省「休業(補償)等給付・傷病(補償)等年金の請求手続」

第2回目以降の8号は、離職後なら事業主証明が不要

厚生労働省は、様式第8号について、 第2回目以降の請求が離職後である場合には、事業主証明は必要ない と案内しています。

たとえば、

  1. 初回の8号を提出した
  2. その後も療養のため働くことができない状態が続いている
  3. 次の8号で請求する休業期間がすべて退職後である

という場合には、第2回目以降の請求書について、元会社から改めて事業主証明を受ける必要はありません。

第2回目以降でも在職中の期間が含まれる場合は注意

ただし、第2回目以降だから必ず証明不要というわけではありません。

離職後の請求であっても、 その請求に係る「療養のため労働できなかった期間」の全部または一部に離職前の期間が含まれる場合には、事業主証明が必要 とされています。

つまり、8号については次のように整理すると分かりやすいでしょう。

8号の状況 事業主証明の考え方
初回請求 まずは事業主証明を受ける前提で準備
第2回目以降・請求期間がすべて離職後 事業主証明は不要
※ただし、その請求に係る「療養のため労働できなかった期間」の全部または一部に離職前の期間が含まれる場合を除きます。
第2回目以降でも離職前の休業期間を含む 事業主証明が必要
会社が証明を拒否・会社への連絡が困難 証明を得られない事情を整理して、労働基準監督署へ相談・提出を検討

参考: 厚生労働省「休業(補償)等給付・傷病(補償)等年金の請求手続」

退職後の様式第7号|療養費を請求するときの事業主証明

退職後の労災申請では、様式第5号・第8号だけでなく、 療養補償給付たる療養の費用請求書(様式第7号) を使用するケースもあります。

様式第7号は、労災病院や労災指定医療機関等以外で療養を受け、 療養にかかった費用を労災保険へ請求するときに使用する書類です。 提出先は、所轄の労働基準監督署です。

退職後に初めて様式第7号を提出する場合は、 まずは事業主証明を受ける前提で準備します。

一方、厚生労働省・労働局の案内では、 療養の費用について、第2回目以降の請求が離職後である場合には、 事業主による請求書への証明は必要ありません。

7号も「退職後だから一律に証明不要」ではありません

初回請求なのか、第2回目以降の請求なのかを確認することが大切です。 第2回目以降の療養費請求が離職後であれば、事業主証明は不要とされています。

また、退職済みで元会社への連絡が難しい、会社が証明を拒否している、 会社が廃業しているなど、事業主証明を得ることが難しい場合でも、 証明が得られないことだけを理由に労災請求を諦める必要はありません。

そのような場合は、証明を得られない事情を整理したうえで、 所轄の労働基準監督署へ相談して提出を進めます。

参考: 和歌山労働局「療養(補償)給付たる療養の費用請求書(7号、16号の5)」

健康保険を使っていた医療費は、単純に「3割分を7号で請求」ではない

退職後も健康保険を使って通院していた方が、 後からその傷病について労災申請をする場合は注意が必要です。

健康保険を使用して受診した医療費については、 単純に「窓口で支払った自己負担分だけを7号で請求すればよい」 とは限りません。

健康保険から労災保険へ切り替える場合には、 健康保険側への医療費の返納や、医療機関との精算、 労災保険への療養費請求などが必要になることがあります。

実際の精算方法や必要書類、手続の順序は、 健康保険の保険者や医療機関の処理状況によって異なることがあるため、 保険者・医療機関・所轄労働基準監督署に確認しながら進めることが大切です。

5号・6号・7号の使い分けについては、こちらの記事で詳しく整理しています。

退職後も健康保険で通院していた場合はどうする?

退職後の労災申請でよくあるのが、 「労災申請をする前は、ずっと健康保険で病院にかかっていた」 というケースです。

たとえば、退職後も健康保険を使用して通院し、その後に別の労災指定医療機関へ転院して、 そこで初めて労災の療養の給付を受けたいという場合です。

この場合、「転院したのだから6号」と単純に判断しないことが大切です。

様式第6号は、すでに労災指定医療機関で労災の療養の給付を受けている方が、 別の労災指定医療機関へ変更する場合に使用する届出です。

一方、それまで健康保険で受診しており、 転院先の労災指定医療機関で初めて労災の療養の給付を受けるのであれば、 日常的には「転院」であっても、労災手続上は様式第5号を提出する場面になることがあります。

5号・6号・7号の使い分けについては、こちらの記事で詳しく整理しています。

ケース例|退職から約8か月後に初めて5号・8号を出す場合

具体例で考えてみます。

ケース

  • 前年10月に会社を退職
  • 退職後も健康保険を使用して通院
  • 翌年6月に別の労災指定医療機関へ転院
  • 転院先で初めて労災として様式第5号を提出予定
  • 6月から8月までの休業について、初めて様式第8号を提出予定

この場合、基本的には次のように整理します。

手続 考え方
転院先への5号 それまで労災の療養の給付を受けておらず、転院先で初めて労災の療養の給付を求めるのであれば、初回5号として整理
6月~8月分の8号 休業補償給付として初回請求であれば、まずは事業主証明を受ける前提で整理
会社から証明を受けられない場合 証明を得られない事情を整理し、所轄労働基準監督署へ相談・提出を検討
次回以降の8号 第2回目以降で、請求対象の休業期間がすべて離職後であれば事業主証明は不要

このように、退職から何か月経っているかだけで事業主証明の要否が決まるわけではありません。

「初回なのか」「何号を出すのか」「どの期間を請求するのか」 を分けて確認することが大切です。

会社が証明を拒否しても、会社が労災を決めるわけではない

会社が、

  • 「労災ではないと思うので証明しない」
  • 「退職者なので対応しない」
  • 「会社に責任はない」

などと回答することがあります。

しかし、労災に該当するかどうかを最終的に判断するのは会社ではありません。 労災保険給付の請求を受けた労働基準監督署長が、必要な調査を行ったうえで支給・不支給を判断します。

また、事業主証明は、請求書に記載された災害の事実や休業・賃金に関する事項について、 事業主が確認するためのものです。 事業主証明をしたことだけで、会社が労災であることや法的責任を認めたことになるわけではありません。

会社が労災であることを認めていないことと、 労働者本人が労災保険給付を請求できるかどうかは、分けて考える必要があります。

厚生労働省も、会社が事業主証明を拒否するなどにより証明を得られない場合であっても、 労災保険の請求はできると案内しています。

参考: 厚生労働省「会社(事業主)が責任を認めません。労災保険の給付は受けられますか。」

退職後の労災では、会社証明以外にも確認したいことがある

退職後に初めて労災申請をする場合は、事業主証明だけでなく、

  • どの医療機関から労災扱いにするのか
  • これまで健康保険を使用した医療費をどう整理するのか
  • 5号・6号・7号のどれを使用するのか
  • 8号の請求開始日をいつにするのか
  • 傷病手当金を受給している場合に調整が必要か
  • 退職後の休業期間をどのように整理するのか
  • 休業補償給付の請求権の時効が進行していないか
退職後しばらく経ってから申請する場合は時効にも注意

休業(補償)等給付は、賃金を受けなかった日ごとに請求権が発生し、 原則としてその翌日から2年で時効となります。

また、様式第7号による療養の費用の請求も、 原則として療養の費用を支出した日の翌日から2年で時効となります。

退職後しばらく健康保険で療養してから労災申請を検討する場合は、 古い休業期間や医療費について時効が進んでいないかも確認しておくことが大切です。

参考: 厚生労働省「労災保険の各種給付の請求はいつまでできますか。」

退職後の労災と傷病手当金、本人申請の考え方については、こちらの記事もあわせてご覧ください。

退職後の労災申請で迷ったら、まず状況を分けて整理する

退職後の労災申請では、 「もう退職しているのだから会社証明はいらない」 「会社に証明してもらえないから申請できない」 と一律に考えないことが大切です。

特に様式第8号は、 初回請求なのか、第2回目以降なのかによって、事業主証明の取扱いが変わります。

また、健康保険で通院した後に初めて労災へ切り替える場合には、 5号・6号・7号の選択や、これまでの医療費の整理も必要になることがあります。

会社へ連絡すること自体が難しい場合も含め、 まずは現在の状況を、

  • 退職日
  • 発病・負傷時期
  • 医療機関ごとの受診期間
  • 健康保険・労災の使用状況
  • 休業期間
  • これまで提出した労災書類
  • 会社へ証明依頼が可能かどうか

に分けて整理すると、必要な手続が見えやすくなります。

退職後の労災申請についてご相談いただけます

こもれび社労士事務所では、精神疾患・パワハラなどの労災申請を中心に、 退職後の申請や、会社から事業主証明を得にくいケースについてもご相談をお受けしています。

「会社に連絡しないと申請できないのか分からない」
「5号・8号のどこまで会社に書いてもらう必要があるのか分からない」
「健康保険で通院していた期間をどう整理すればよいか分からない」

といった段階でも大丈夫です。 すぐに依頼を決めるのではなく、まず現在の状況を整理するところからご相談いただけます。

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参考資料

※この記事では、主に業務災害の場合の様式第5号・第8号について一般的な取扱いを解説しています。 通勤災害では使用する様式番号が異なります。 また、実際の提出方法や必要書類は、受診状況、請求期間、会社からの証明の可否などによって異なる場合があります。

ここまで読んで、まだ迷っていても大丈夫です。

まずは、今の状況を整理するところからで大丈夫です

「まだ相談するか決めていない」
「何を書けばいいか分からない」
そんな段階でも大丈夫です。

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