会社に個人情報を開示請求したら黒塗りだった|どこまで開示される?PPCへの相談も解説

会社への個人情報開示請求で黒塗りされた資料を確認する会社員

パワハラや職場の人間関係、精神的不調などをきっかけに休職し、労災申請を検討している方から、 「会社が自分についてどのような記録を持っているのか確認したい」 というご相談を受けることがあります。

会社に個人情報の開示を請求すると、産業医・保健師との面談記録、人事関係の記録、メールや社内チャットなどが問題になることがあります。

ところが、実際に資料が開示されても、一部が黒塗り(部分不開示)になっていたり、 「ほかに記録が存在するのか」「誰が作成したのか」「誰に共有されたのか」と質問しても、会社から詳しい回答が得られなかったりすることがあります。

この記事のポイント

  • 黒塗りがあるだけで、直ちに違法とはいえません。
  • 一方で、会社が自由に好きな部分を黒塗りできるわけでもありません。
  • 「一部を開示しない」という通知と、その「理由の説明」では、法律上の位置付けが異なります。
  • 会社には、本人からのあらゆる質問に答える一般的な義務があるわけではありません。
  • 黒塗りされた資料でも、労災申請の経過を確認する資料として意味を持つ場合があります。

この記事では、個人情報保護法、個人情報保護委員会(PPC)のガイドライン・Q&A、厚生労働省の資料をもとに、 会社への個人情報開示請求と黒塗り、産業保健記録、労災申請との関係を整理します。

※個別の会社の対応が適法か違法かは、実際に請求した内容、会社が保有するデータ、不開示とした部分や理由などによって異なります。本記事は一般的な制度・実務の解説です。

1.会社に自分の個人情報を開示請求できる?

個人情報保護法33条1項では、本人は個人情報取扱事業者に対して、 本人が識別される「保有個人データ」の開示を請求できるとされています。

ここで注意したいのは、「会社にある自分に関する文書を何でもすべて見せてもらえる」という制度ではないことです。

法律上の開示対象は「文書」そのものではなく、原則として保有個人データです。

「個人情報」と「保有個人データ」は同じではない

大まかに整理すると、次のような違いがあります。

区分 概要
個人情報 生存する個人に関する情報で、氏名などにより特定の個人を識別できるもの等
個人データ 個人情報データベース等を構成する個人情報
保有個人データ 個人データのうち、事業者が開示・訂正・利用停止等を行う権限を持つもの(一定の除外あり)

そのため、「本人の名前が書かれている」というだけで、会社に存在するすべての情報が当然に開示対象になるわけではありません。

2.会社は開示資料を黒塗りにできる?

結論からいうと、一定の場合には、全部または一部を開示しないことが認められています。

個人情報保護法33条2項では、開示することによって次のいずれかに該当する場合、会社は保有個人データの全部または一部を開示しないことができるとされています。

  • 本人または第三者の生命、身体、財産その他の権利利益を害するおそれがある場合
  • 会社の業務の適正な実施に著しい支障を及ぼすおそれがある場合
  • 他の法令に違反することとなる場合

つまり、「黒塗り=違法」ではありません。

法律自体が「全部又は一部」を開示しない場合を予定しています。

ただし、反対に「社内の情報だから」「会社にとって都合が悪いから」というだけで自由に黒塗りできるという意味でもありません。

個人情報保護法では、単に会社側の作業負担が増えるというだけではなく、 会社の業務の適正な実施に「著しい支障」を及ぼすおそれがあるかが問題になります。

個人情報保護委員会のガイドラインは、同一の本人から複雑な対応を要する同一内容の請求が繰り返され、 問い合わせ窓口が事実上占有されることで、他の問い合わせ対応業務が立ち行かなくなるような場合を例として示しています。 ただし、実際に該当するかは、請求内容や対応負担などを踏まえた個別の判断になります。

3.黒塗りにした理由を会社は説明しなければならない?

ここは非常に重要です。

「不開示にしたことを通知する義務」と「なぜ不開示にしたのかを説明すること」は、法律上同じ扱いではありません。

一部を開示しないことの通知は義務

個人情報保護法33条3項では、会社が請求対象となった保有個人データの全部または一部について開示しない旨の決定をした場合、本人にその旨を通知しなければならないとされています。

また、請求対象となった保有個人データが存在しない場合についても、その旨を通知することとされています。

不開示理由の説明は「努力義務」

一方、個人情報保護法36条では、請求された措置の全部または一部を行わない場合などには、 本人にその理由を説明するよう努めなければならないとされています。

会社の対応 法律上の位置付け
全部・一部を開示しない旨の通知 義務
対象となる保有個人データが存在しない旨の通知 義務
不開示等とした理由の説明 努力義務

注意

「理由説明が努力義務だから、会社は何も説明しなくても問題ない」とまで言い切るのも適切ではありません。 法律は、理由を説明するよう努めることを会社に求めています。

したがって、会社から理由の説明がほとんどない場合でも、それだけで直ちに個人情報保護法違反と断定することはできません。 一方で、本人としては、差し支えない範囲で、個人情報保護法33条2項のどの不開示事由を理由としたのかを確認することが考えられます。

一方で、黒塗り箇所ごとに条文番号を示すことや、作成者・共有先などを詳細に説明することまで一律に義務付ける基準は、今回確認した個人情報保護委員会の資料からは確認できませんでした。

4.「私についてほかにも記録がありますか?」と聞けば答えてもらえる?

ここも、開示請求で誤解されやすいポイントです。

個人情報保護法33条は、保有個人データの開示を請求する制度です。 会社に対してあらゆる質問への回答や調査を求める一般的な「質問権」を定めた制度ではありません。

たとえば、

  • 私について、ほかに何か記録がありますか?
  • 誰かが人事部に私のことを報告しましたか?
  • 誰が私について記録を作りましたか?
  • どの部署で共有されましたか?

といった質問について、会社が新たに調査して一覧表を作成し、一つひとつ回答しなければならないという一般的な義務までは、今回確認した法令・PPC資料からは確認できませんでした。

対象を特定して正式に開示請求した場合は別

ただし、これは「記録の存在について会社は絶対に答えなくてよい」という意味でもありません。

たとえば、期間や記録の種類などを具体的に特定したうえで、正式に保有個人データの開示請求を行い、 会社がその対象となるデータを保有していないと判断した場合には、個人情報保護法33条3項の不存在通知が問題になります。

さらに個人情報保護法37条2項は、会社に対し、本人が容易かつ的確に開示請求できるよう、 対象となる保有個人データの特定に役立つ情報の提供など、本人の利便を考慮した適切な措置を求めています。

実務上のポイント

「私について何かありませんか?」という質問だけで終わらせるより、 期間・記録の種類・関係部署などをできるだけ具体化して開示対象を特定することが重要です。

5.作成者・共有先・共有日時は開示してもらえる?

これも一律には答えられません。

たとえば、本人についての記録の中に、

  • 誰が記録を作成したか
  • いつ作成・送信したか
  • 誰に送信したか
  • どの部署へ共有したか
  • メールの送信者・宛先・CC
  • チャットの投稿者・投稿日時

などが本人に関する情報と結び付いて記録されていれば、それらも開示対象となる保有個人データに含まれる可能性があります。

一方で、「誰が作ったのか調べてください」「共有先を新しく一覧にしてください」という質問に対して、 会社が新たな資料や一覧を作成して回答する一般的義務があるとは限りません。

また、他の従業員の氏名などは、その従業員自身の個人情報でもあります。 開示によって第三者の権利利益を害するおそれがある場合には、その部分がマスキングされる可能性もあります。

6.社内メール・Teams・Slack・チャットも開示対象になる?

「社内メールだから対象外」「Teamsだから対象外」と一律に判断することはできません。

媒体の名前ではなく、

  • 本人に関する情報か
  • 本人を識別できるか
  • 個人情報データベース等を構成しているか
  • 会社が開示等を行う権限を持っているか
  • 法律上の不開示事由に該当しないか

などを踏まえて判断されます。

したがって、上司と人事担当者が本人の勤務状況や体調についてやり取りしたメールや、 産業保健スタッフとの社内チャットなども、条件を満たせば開示対象となる可能性があります。

なお、個人情報保護委員会のガイドラインは、電子メールソフトに保管されたメールアドレス帳を、 個人情報データベース等に該当し得る例として示しています。 もっとも、これだけで社内メール本文やチャット履歴のすべてが開示対象になるわけではありません。 実際には、記録の内容、検索可能性、会社が開示等を行う権限を持つかなどを踏まえて判断されます。

7.産業医・保健師の記録は開示請求できる?

産業医や保健師が取り扱う健康情報には、非常にセンシティブな情報が含まれます。

厚生労働省の「労働者の心身の状態に関する情報の適正な取扱いのために事業者が講ずべき措置に関する指針」では、 健康診断結果、病歴、医師・保健師による保健指導や面接指導の内容など、 労働者の心身の状態に関する情報の多くが、個人情報保護法上の要配慮個人情報に該当し得る機微な情報であることを踏まえ、適切な取扱いを求めています。

実務上、開示請求の対象として検討されることがあるものには、たとえば次のような記録があります。

  • 産業医面談記録
  • 保健師面談記録
  • 電話相談の記録
  • メール相談の記録
  • 面談日・相談日などの履歴
  • 受診勧奨の記録
  • 就業上の措置に関する記録
  • 産業保健スタッフと人事・上司との連絡記録

ただし、健康情報だから必ず全文開示されるという意味ではありません。 個人情報保護法上の保有個人データに該当するか、不開示事由があるかなどを個別に検討することになります。

8.社内共有と「第三者提供」は同じではない

「自分の情報が上司から人事部へ共有されたので、第三者提供記録を開示してほしい」 と考える方もいるかもしれません。

しかし、同一法人内での情報共有は、通常、法人外の「第三者」への提供とは区別して考えます。

そのため、個人情報保護法上の第三者提供記録の開示制度だけを根拠として、 社内で誰から誰へ情報が共有されたのかという一覧を新たに作成させられるとは限りません。

一方、外部の産業保健機関やEAP、健康管理サービス会社などが関係している場合は、 委託、共同利用、第三者提供など、実際の契約関係や情報の取扱いによって整理が異なります。

9.個人情報保護委員会(PPC)に相談すると何をしてくれる?

会社から開示を受けたものの、

  • 黒塗りの理由がよく分からない
  • 会社の説明に納得できない
  • 個人情報保護法上どのように考えればよいか分からない

という場合、個人情報保護委員会の「個人情報保護法相談ダイヤル」へ相談する方法があります。

個人情報保護委員会によれば、この窓口では、事業者の個人情報の取扱いに関する苦情や、 個人情報保護法・制度についての質問を受け付け、ガイドラインやQ&Aに基づいて助言・回答を行っています。

PPCへの電話相談=会社の適法・違法を判定してもらう制度ではない

ここは特に注意が必要です。

「PPCに相談したら、会社の対応は適法だと認定された」

「PPCの相談員が会社の黒塗りを違法と判断した」

という理解は適切ではありません。

個人情報保護委員会は、相談ダイヤルについて、 ガイドラインやQ&Aに記載のない相談や、個人情報保護法への適法性・違法性の判断を求める相談には応じていないと案内しています。

電話相談での一般的な案内と、個人情報保護委員会が法律に基づいて行う行政上の監督とは分けて考える必要があります。

10.会社にもう一度開示請求することはできる?

一度開示請求をしたからといって、法律上、二度と請求できなくなるわけではありません。

たとえば、

  • 初回請求後に新しい記録が作成された
  • 別の期間を指定する
  • 別の種類の記録を具体的に指定する
  • 対象部署やシステムを具体化する
  • 初回回答から新しい記録の存在が推測できるようになった

といった場合には、改めて対象を特定して請求することが考えられます。

一方、まったく同じ内容について何度も開示請求を繰り返し、 複雑な対応によって問い合わせ窓口が事実上占有され、他の業務が立ち行かなくなるような場合は、 「業務の適正な実施に著しい支障を及ぼすおそれ」が問題になる場合があります。

単に「2回目だから拒否できる」ということではありません。

11.黒塗りされた資料でも労災申請に意味があることがある

精神障害の労災申請を検討している場合、ここが実務上重要です。

開示された資料の一部が黒塗りだったからといって、 「証拠としてまったく意味がない」とは限りません。

たとえば、黒塗りされていない部分から、

  • いつ産業保健スタッフへ相談したか
  • いつ面談を受けたか
  • いつ会社へ体調不良を伝えたか
  • 受診を勧められた時期
  • 連絡が行われた日時
  • 会社側が不調を把握した時期
  • 休職や就業上の措置が検討された経過

などを確認できる場合があります。

匿名化した例

精神的不調で休職した労働者が、会社に産業保健関係の個人情報開示請求を行ったとします。

開示された面談記録には黒塗り部分が多く、面談の詳しい内容までは分かりませんでした。 しかし、黒塗りされていない部分に産業保健スタッフへの相談日や、その後の連絡履歴が残っていました。

また、別の開示資料から、相談後に医療機関の受診につながった経過の一部を確認できました。

このような場合、黒塗り部分の内容を推測することはできませんが、 開示された部分は、相談・受診・休養などの時系列を確認する資料の一つとして検討できます。

もちろん、こうした資料が一つ存在するだけで労災認定が決まるわけではありません。

精神障害の労災認定では、対象となる精神障害の発病、発病前おおむね6か月間の業務による心理的負荷などについて、 医療記録、勤怠資料、会社資料、本人や関係者の申述などを含めて検討されます。

12.開示請求するときは「何を証明したいのか」を考える

労災申請を検討している方の場合、 「会社にあるものを全部ください」と請求することだけが目的になってしまうことがあります。

しかし、実務上は「何を確認・証明するために、どの記録が必要なのか」を考えることが重要です。

たとえば、

  • 上司へ相談した時期を確認したい
  • 会社が体調不良を把握した時期を確認したい
  • 配置転換や業務変更の経過を確認したい
  • 産業保健への相談から受診までの流れを確認したい
  • パワハラについて会社へ申告した記録を確認したい

というように目的を整理すると、対象期間、部署、記録の種類などを具体化しやすくなります。

個人情報保護委員会のQ&Aでも、「会社が保有する私の情報すべて」という請求について、 事業者は対象となる保有個人データを特定するに足りる事項の提示を求めることができる一方、 本人が容易かつ的確に請求できるよう、特定に役立つ情報を提供するなどの適切な措置をとることが求められています。

まとめ|黒塗りだけを見て諦める必要はありません

会社への個人情報開示請求について、重要な点をまとめます。

  • 開示請求の対象は、原則として本人を識別できる「保有個人データ」です。
  • 法定の不開示事由に該当すれば、会社が全部または一部を開示しない場合があります。
  • そのため、黒塗りがあるだけで直ちに違法とはいえません。
  • 一方、会社が自由に黒塗りできるという制度でもありません。
  • 一部不開示等の通知と、不開示理由の説明では法律上の位置付けが異なります。
  • 会社に、あらゆる記録の名称・作成者・共有先などを新たに一覧化して回答する一般的義務があるとは限りません。
  • メールや社内チャットも、条件を満たせば開示対象となる可能性があります。
  • PPCの相談窓口は、個別案件について適法・違法を最終判定する制度ではありません。
  • 黒塗り資料でも、相談日、面談日、受診までの経過などを確認できる場合があります。

精神障害の労災申請では、資料の「枚数」や「黒塗りの有無」だけではなく、 開示された情報から何が確認でき、それが他の資料とどのようにつながるのかを整理することが大切です。

参考資料

精神障害の労災申請・資料整理でお悩みの方へ

こもれび社労士事務所では、パワハラ、配置転換、業務上の強い心理的負荷などによる精神障害の労災申請についてご相談をお受けしています。

会社から開示された資料についても、 「黒塗りがあるから使えない」と判断するのではなく、 労災申請との関係で、どの部分が事実経過を確認する資料になり得るのかを整理することが重要です。

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免責事項
本記事は2026年10月時点で確認した法令・公的資料をもとに、一般的な情報を提供するものです。 個別の会社による不開示・部分不開示が適法か違法かを判断するものではありません。 具体的な事案については、請求内容、対象となるデータ、会社の回答、不開示理由等を個別に確認する必要があります。

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