精神障害の労災申請|様式第8号の発病年月日で迷ったときの確認点

精神障害の労災申請|様式第8号の発病年月日で迷ったときの確認点

精神障害の労災申請を進める際、迷いやすい項目の一つが、請求書の「負傷又は発病年月日」です。

症状が現れ始めた時期、職場で出来事があった日、仕事を休み始めた日、初めて医療機関を受診した日が、それぞれ異なることがあります。

このような場合、初診日や休業開始日を、そのまま発病日として記入してよいのでしょうか。

この記事の結論

発病日が分からないからといって、書式を埋めるためだけに初診日や休業開始日を選ぶのは避けましょう。まずは、症状の経過、初診日、休業開始日など、分かっている事実を分けて整理することが大切です。

医学的な発病時期が未特定の場合には、その事情を説明できるようにしたうえで、請求書の記載方法を提出先の労働基準監督署に確認しながら準備を進める方法が考えられます。

【約1分で解説】労災申請の発病日、初診日を書いていい?

発病日・初診日・休業開始日の違いを短く解説しています。

※本記事は、発病時期と各日付の違い、請求書の作成前に整理したい事項を解説するものです。個別の相談事例を紹介するものではありません。また、未確認の記載方法を、全国共通の取扱いとして案内するものではありません。

1.精神障害では「発病日」を一日に決められないことがある

精神障害では、心身の不調が徐々に現れ、症状が続いた後に医療機関を受診することがあります。そのため、初めて受診した日だけで、いつ発病したのかまで判断できるとは限りません。

また、本人が「この頃から調子が悪かった」と説明できても、その時点で対象となる精神障害を発病していたかどうかは、医学的な検討が必要です。

公開されている「精神障害の労災認定実務要領」の解説でも、発病時期について、日単位の特定が難しく、ある程度の幅を持たせざるを得ない事案があることが説明されています。

ただし、認定上の発病時期に幅があることと、請求書の年月日欄にどのような表記ができるかは、別の問題です。

発病時期は業務上の出来事との前後関係を検討するうえでも重要なため、日付だけを先に決めるのではなく、症状の経過や診療資料を整理することが大切です。

出典:精神障害の労災認定実務要領・Ⅰ「認定基準の解説」第2・2(2)「発病時期」(冊子4頁)。行政資料の公開版であり、掲載版の現行性には確認を要します。

2.初診日・休業開始日・出来事の日は意味が違う

請求書を作成する前に、関係する日付を次のように分けて整理してみましょう。

日付 意味 注意点
職場での出来事の日 心理的負荷となり得る出来事が生じた日 その日に疾病が発病したとは限らない
休業開始日 実際に仕事を休み始めた日 休業前から発病していた可能性がある
初診日 対象となる症状・疾病について、初めて医療機関を受診した日 医学的な発病時期と一致するとは限らない
診断書上の療養開始日 診断書に、療養を要する期間の開始日として記載された日 実際の休業開始日や医学的な発病時期とは区別して確認する
医学的な発病時期 対象疾病が発病したと判断される時期 診療記録、症状の経過、医学的意見等を踏まえた検討が必要

これらを、一つの日付に無理にそろえる必要があるという前提で考えないことが重要です。

本人が覚えている日付は、その意味とともに記録しておきます。「休み始めた日」と「発病した日」を、説明なく置き換えないようにしましょう。

【動画で詳しく解説】様式第8号の発病年月日で迷ったときの確認点

発病時期、初診日、休業開始日、算定事由発生日の違いと、労基署への確認事項を解説しています。

3.「医学的発病時期」と「算定事由発生日」は別の問題

ここは、今回のテーマで特に重要な点です。

労災保険法第8条では、給付額の計算の基礎となる「給付基礎日額」を算定する際の基準になる日として、「算定事由発生日」が定められています。疾病については、「診断によって疾病の発生が確定した日」とされています。

出典: 厚生労働省公表資料・労災保険法第8条の抜粋(2頁)

これは、精神障害が医学的にいつ発病したかという問題と、必ずしも同じではありません。

労働保険審査会の公表裁決「平成29年労第374号」では、給付基礎日額が争点となった精神障害の事案について、「疾病の症状が確認された初診日を算定事由発生日とする」行政実務が説明されています。

出典:労働保険審査会裁決「平成29年労第374号」3頁・第6の2(2)。なお、「平成29年」は事件番号の表示であり、ここでは裁決年として扱っていません。

ただし、この裁決は、様式第8号の記載方法を直接判断したものではありません。そのため、この裁決だけを根拠に、当該欄には必ず初診日を書くべきだと結論づけることはできません。

給付額の計算に用いる日付と、医学的な発病時期を混同せず、請求書の欄でどのような日付が求められているのかを確認することが大切です。

4.様式第8号に初診日を書いてもよいのか

初診日は分かっていても、医学的な発病時期が分からない場合があります。

その場合、初診日が明確だからという理由だけで、医学的な発病日も同じ日と決めることは避けましょう。

一方、前述の裁決のように、初診日が算定事由発生日として意味を持つこともあります。そのため、「初診日は絶対に書けない」と一律に考えるのではなく、当該欄の取扱いと、記入する日付の意味を確認することが必要です。

実務上の確認ポイント

初診日の記入を案内された場合は、それが医学的な発病日としての記載なのか、算定事由発生日など別の意味での記載なのかを確認します。医学的発病時期が未特定であれば、その事情を別紙等で説明する必要があるかも、併せて確認しましょう。

申立書では「発病時期未特定」と説明しているのに、請求書では特定の日付を説明なく記載すると、書類全体の趣旨が伝わりにくくなるおそれがあります。日付の意味を、関係書類の中で一貫させることが大切です。

5.「不詳」「空欄」「別紙参照」と書けるのか

発病時期が特定できない場合には、次のような記載方法が検討対象になります。ただし、以下は選択肢の整理であり、そのまま提出できることを案内するものではありません。

記載方法 確認・検討すべき点
初診日を記入する 当該欄で初診日を用いる取扱いと、その日付の意味を確認する
「発病時期未特定」と記入する 欄内への文字記載が可能か、別紙での説明が必要かを確認する
「不詳」と記入する その表記で提出できるか、どのような補足説明が必要かを確認する
「○月頃」と記入する その月に発病したとする医学的根拠があるかを確認する。日だけでなく、月も根拠なく選ばない
空欄にして別紙を添付する 別紙による説明で足りるか、当該欄に何らかの記載が必要かを確認する

記載方法についての注意点

厚生労働省は、様式第8号と記入例を公開しています。ただし、医学的な発病時期が特定できない精神障害について、「不詳」「発病時期未特定」「空欄・別紙参照」などの記載を全国共通で認める明確な取扱いは、今回確認した公的資料からは確認できませんでした。

そのため、これらの方法で提出できると断定せず、提出先の労働基準監督署に確認することをおすすめします。

参考:厚生労働省・労災保険給付関係主要様式

「分からなければ空欄でよい」「初診日を書けば必ず問題ない」と一律に判断するのではなく、未特定である事情を正確に説明できるようにしておきましょう。

6.発病時期が分からなくても申請準備は進められる

発病時期が医学的に未特定であることと、申請準備を一切進められないことは別です。

厚生労働省の平成28年度の業務運営通知では、発病日が明らかでない精神障害事案について、必要に応じて地方労災医員に調査上の留意点の助言を求めることが示されています。

これは過去の調査運営に関する通知であり、様式第8号への「不詳」記載を認めた規定ではありません。ただし、発病日が明らかでない事案について、行政側が医学的な助言を得ながら調査することが想定されていたと分かります。

出典:厚生労働省「労災補償業務の運営に当たって留意すべき事項について」(平成28年2月12日)第2・2(2)

申請準備としては、日付欄の記載方法の確認と並行して、次の作業を進めることが考えられます。

  • 本人が経験した出来事と症状の経過を、区別して時系列で整理する。
  • 初診日、診断書の内容、実際の休業開始日を確認する。
  • 診療録や主治医の意見など、発病時期の判断に関係する資料を整理する。
  • 休業日、賃金支払状況、医師が証明できる期間を別途確認する。
  • 提出先の労働基準監督署に、当該欄の記載方法と補足説明の方法を確認する。

大切なのは、書類を完成させるためだけに日付を決めるのではなく、分かっている事実から整理を進めることです。

7.労基署に確認しておきたいこと

記載方法を問い合わせる際は、初診日や休業開始日など、分かっている事実と、医学的発病時期が未特定であることを分けて伝えます。

例えば、次のように確認事項を整理すると、何について回答を求めているのかが明確になります。

  • 精神障害の場合、様式第8号の「負傷又は発病年月日」欄には、どのような意味の日付を記入するのか。
  • 医学的な発病時期が未特定の場合、「発病時期未特定」「別紙参照」などの記載は可能か。
  • 欄内への文字記載ができない場合、別紙で事情を説明する方法は可能か。
  • 初診日を記入する場合、それは医学的発病日としての記載か、算定事由発生日など別の意味での記載か。
  • 申立書の「発病時期未特定」という説明と整合させるため、どのような補足説明が必要か。
  • 後日、医学的意見によって発病時期が明らかになった場合、どのように補充・訂正するのか。
  • 参照できる現行の記載要領、通達、事務連絡等があるか。

回答を受けた際は、確認日、担当部署、回答内容、対象となる欄、示された根拠資料を記録しておくと、提出書類との整合性を確認しやすくなります。

また、医師に確認する場合は、特定の日付への変更を求めるのではなく、「診療記録や症状の経過から、発病時期についてどの範囲まで判断できるか」を尋ねることが大切です。

8.発病時期と休業補償給付の請求期間も分けて考える

休業補償給付では、発病時期だけでなく、実際に休業した日、療養のために労働できなかった期間、賃金の支払状況、待期期間なども確認する必要があります。

休業開始日と診断書上の療養開始日が異なる場合でも、それだけで直ちに、どちらかの日付が誤っているとは限りません。診断書の記載内容や、医師が確認・証明できる範囲を確かめることが必要です。

会社の説明についても、欠勤・有給休暇等の処理、賃金台帳、給与の控除計算などと照合して整理します。

発病日を便宜的に決めることで、請求対象期間や支給開始日まで一律に決めないようにしましょう。日付欄の確認と並行して、休業・医師の証明・賃金資料の整理を進めることができます。

※本記事は、待期の完成日、支給開始日、初診前の休業期間の支給可否を個別に判断するものではありません。

9.まとめ|分からない日付を無理に決めない

精神障害の労災申請では、医学的な発病時期が日単位で明確にならないことがあります。

そのときに大切なのは、書式を埋めるためだけに日付を選ぶことではなく、分かっている事実と、まだ医学的に判断されていない事項を区別することです。

初診日、休業開始日、職場での出来事の日には、それぞれ異なる意味があります。また、給付額の計算に関係する算定事由発生日についても、医学的発病時期とは分けて確認する必要があります。

申立書や診療資料との整合性を保ち、必要な記載方法を確認しながら、事実に忠実な請求書の作成を進めましょう。

参考資料

※参照資料には過去の通知・裁決や、現行性の確認を要する公開資料が含まれます。個別の申請では、現行の様式・記載要領と提出先の取扱いを確認してください。

精神障害の労災申請でお困りの方へ

こもれび社労士事務所では、精神障害の労災申請について、出来事の整理、資料の確認、申立書の作成支援などを行っています。

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執筆・内容確認:こもれび社労士事務所 代表 社会保険労務士 近藤 明久

ここまで読んで、まだ迷っていても大丈夫です。

まずは、今の状況を整理するところからで大丈夫です

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