パワハラによる適応障害の労災不支給が取消しに|深夜約90分の叱責と証拠の評価

パワハラによる適応障害の労災不支給取消裁決|深夜約90分の叱責と証拠の評価

最終更新日:2026年10月23日| 厚生労働省が公表する裁決要旨(公表版)と精神障害の労災認定基準に基づく解説

「上司からひどく叱責され、適応障害になったのに、労災が認められなかった」 「会社は業務指導だったと説明しているが、パワハラとして評価されないのだろうか」

精神障害の労災では、こうした問題が生じることがあります。

実際に、パチンコ店で働いていたアルバイト従業員が、店長による叱責などを原因として精神障害を発病したと主張し、休業補償給付を請求したものの、不支給となった事案があります。

この事案では、審査請求も棄却されましたが、その後の労働保険審査会による再審査請求の裁決で、不支給処分が取り消されました。

審査会が重視したのは、単に「叱責があった」という事実だけではありません。

叱責の理由、人格を否定する言葉、深夜約1時間30分に及ぶ行為の態様、関係者の申述、前任者のメール、そして医学的な発病経過などを検討しています。

この記事では、厚生労働省が公表する労働保険審査会の「平成25年労第563号」を取り上げ、裁決公表版の内容と、現在の精神障害の労災認定基準に照らした実務上のポイントを解説します。

この記事のポイント
  • 店長による深夜約90分の叱責などについて、心理的負荷が「強」と評価された裁決例です。
  • 叱責の内容だけでなく、叱責する合理的な理由があったかも検討されました。
  • 関係者の申述や前任者のメールが、事実認定に用いられています。
  • 医学的な発病時期を踏まえ、発病前の出来事と発病後の悪化が区別されました。
  • 現在の認定基準では、パワーハラスメントの評価項目や継続する行為の取扱いが整理されています。
  • 本件と似た事情があっても、労災認定や不支給処分の取消しが保証されるわけではありません。

動画で解説|労災不支給が取り消された理由

深夜約90分の叱責は、なぜ心理的負荷「強」と 評価されたのでしょうか。裁決の内容と証拠の 評価を、社労士が動画で解説します。

※動画は公表裁決に基づく一般的な解説です。

裁決資料についての注意点

本記事の対象は、厚生労働省の「平成27年裁決」一覧に掲載された、事件番号「25労563」です。事件番号の「平成25年」は裁決年を意味するものではありません。

公表された裁決は5ページで、一部の審査資料や原処分庁の意見などが省略されています。そのため、労基署の詳細な不支給理由や、再審査請求で新たに提出された証拠の有無までは確認できません。

1.パワハラによる適応障害の労災不支給が取り消された裁決の概要

今回取り上げるのは、厚生労働省が平成27年の裁決として公表している「平成25年労第563号」です。

項目 内容
事件番号 平成25年労第563号(25労563)
公表区分 厚生労働省「業務上外(平成27年裁決)」
労働者 パチンコ店で勤務するアルバイト従業員
主な業務 ホール接客、カウンターでの景品交換
問題となった出来事 店長による人格否定的な叱責、深夜の長時間の叱責など
請求した給付 労災保険の休業補償給付
労基署の判断 不支給
審査請求 棄却
再審査請求 不支給処分を取消し

労働者は、店長らから日常的なパワーハラスメントを受けて精神障害を発病したと主張しました。公表版では、主として店長による複数の叱責について、具体的な事実認定と心理的負荷の評価が示されています。

労基署長は、精神障害が業務上の事由によるものとは認められないとして、休業補償給付を不支給としました。

労働者はこの処分を不服として審査請求をしましたが、棄却されています。その後、労働保険審査会に再審査請求を行いました。

審査会は、店長による叱責の内容や態様、医学的な発病経過などを検討し、適応障害の業務起因性を認めて、不支給処分を取り消しました。

出典: 労働保険審査会・平成25年労第563号裁決公表版(PDF)、1~2・5ページ

裁決と裁判の判決は異なる

本件は裁判所の判決ではなく、労働保険審査会が行った行政上の不服申立てに対する裁決です。

また、取り消されたのは休業補償給付の不支給処分であり、会社に対する損害賠償請求の成否を判断したものではありません。

2.店長のどのような叱責が問題になったのか

裁決では、発病前の出来事と、発病後の出来事が分けて検討されています。

① 社員寮への宿泊をめぐる人格否定的な叱責

労働者は、仕事で遅くなって終電を逃し、社員寮に住む友人宅に泊まったことについて、店長から事務所で叱責されたと主張しました。

その際、人格を否定するような言動があったとされています。

審査会は、M班長の申述を踏まえ、店長が人格を否定するような言動で、頭ごなしに叱責した事実を認めました。

この出来事は、当時の心理的負荷評価表における「(ひどい)嫌がらせ、いじめ、又は暴行を受けた」に該当すると判断されています。

② 深夜約1時間30分、立たされたままの叱責

特に注目したいのが、在庫管理をめぐる叱責です。

労働者は、勤務終了後に店長から呼ばれ、商品の在庫管理ができていないなどとして、午前1時30分頃から午前3時頃まで、約1時間30分にわたって立たされたまま激しく叱責されたと主張しました。

G班長は、労働者が長時間立たされ、泣いているところを見たことや、怒鳴り声を聞いたことを述べています。

審査会は、この申述などから、深夜の長時間の叱責があったことを認めました。

ここで重要なのは、約90分という時間だけで心理的負荷「強」と判断されたわけではないという点です。

審査会は、叱責に至った理由の合理性、言葉遣い、時間帯、立たせ続けた状況などを合わせて評価しています。

③ 発病後にも人格否定的な叱責があった

裁決では、適応障害を発病した後にも、店長から約30分にわたる激しい叱責があったと認定されています。

その際には、人格を否定する言葉や、解雇を示唆する発言があったとされています。

審査会は、Oの申述などを踏まえ、この出来事も認定し、症状を悪化させた要因として検討しました。

裁決で検討された出来事の整理
時期 出来事 主な評価ポイント
発病前 社員寮への宿泊をめぐる叱責 人格否定的な言動、叱責の理由
発病前 深夜約90分の叱責 長時間性、時間帯、立たせたままの態様、責任関係
発病後 約30分の激しい叱責 人格否定、解雇を示唆する発言、症状の悪化

※具体的な年月日は公表資料で匿名化されているため、出来事の順序を中心に整理しています。

出典:対象裁決公表版3~5ページ

3.どのような証拠が評価されたのか

本件の実務上の特徴は、店長の叱責について、本人の説明だけでなく、複数の関係者の申述や業務上の背景事情が検討されていることです。

関係者の申述によって叱責の態様を確認

裁決には、M班長、G班長、Oなどの申述が登場します。

例えばG班長は、深夜に労働者が立たされて泣いていた状況を見たことや、怒鳴り声を聞いたことを述べています。

こうした申述は、叱責の具体的な態様を確認する資料として用いられています。

ただし、すべての関係者が、すべての発言を直接聞いていたという意味ではありません。誰が何を見聞きしたのかは、申述ごとに区別して読む必要があります。

前任者のメールが、本人の責任を検討する資料になった

在庫管理をめぐる叱責では、労働者が「前任者から引き継いだとおりに管理していた」と説明していました。

裁決によると、前任者のF元社員は、倉庫の奥の商品について、自分も前の社員から引継ぎを受けていなかった旨を、店長に伝えたことを携帯電話のメールで説明していました。

審査会は、このメールを踏まえ、アルバイトである労働者に、在庫管理について大きな落ち度があったとは認められないと判断しています。

このメールが示す重要なポイント

パワハラの労災では、暴言そのものを記録した資料だけが重要なのではありません。

叱責の理由とされた業務上の問題について、実際に誰が担当していたのか、どのような指示や引継ぎがあったのかを確認できる資料も、行為の評価に関係する場合があります。

もっとも、本件でメールが唯一の決定的証拠だったとまではいえません。審査会は、複数の資料と出来事の経緯を合わせて検討しています。

録音がなかった事案とは断定できない

裁決の公表版では、関係者の申述や前任者のメールなどが判断部分に登場します。

一方、審査資料の一覧などは省略されているため、録音が存在したかどうかを確認することはできません。

したがって、本件を「録音がなくても認定された裁決」と断定することは適切ではありません。

ただし、録音以外の資料が具体的な事実認定に用いられたことは、裁決から確認できます。

資料 裁決で確認できる役割
M班長の申述 人格否定的な叱責の認定
G班長の申述 深夜の長時間の叱責や、その態様の認定
F元社員のメール 在庫管理に関する引継ぎ状況と本人の責任の検討
Oの申述 発病後の人格否定的な叱責の認定
L医師の医学的所見 適応障害の発病時期と、その後の悪化の判断

出典:対象裁決公表版2~5ページ

60秒で見る|なぜ労災不支給が取り消された?

深夜約90分の叱責だけが理由ではありません。 どのような事情が判断に関係したのか、 ショート動画で紹介します。

※約90分という時間だけで 労災認定が決まるわけではありません。

4.審査会はなぜ労災不支給処分を取り消したのか

本件では、労基署は精神障害の業務起因性を認めず、不支給としました。

しかし、労働保険審査会は、店長の対応について、業務指導の範囲を逸脱した人格否定的な叱責であると判断しました。

叱責の理由と方法を分けて検討した

業務上のミスや問題があれば、上司が必要な指導を行うこと自体はあり得ます。

しかし、指導の必要性があることと、どのような叱責でも許されることは別です。

本件で審査会は、叱責に至った理由について合理性が認め難いことや、言葉遣いが常軌を逸していること、深夜に長時間立たせたまま叱責したことなどを重視しました。

その結果、発病前の店長による対応について、心理的負荷の強度を「強」に相当すると判断しています。

発病前の心理的負荷の全体評価も「強」

審査会は、店長が業務指導の範囲を逸脱し、人格否定的な叱責を感情的かつ執拗に行っていたと認めました。

そして、当時の心理的負荷評価表の「(ひどい)嫌がらせ、いじめ、又は暴行を受けた」に該当し、心理的負荷の総合評価を「強」としています。

さらに、発病前おおむね6か月間における業務による心理的負荷の全体評価も「強」と判断しました。

審査会は、この判断によって、労働者が主張していた社員Cとのトラブルなど、その他の業務要因を検討するまでもないとしています。

これは、Cの言動が存在しなかった、あるいは認められなかったという意味ではありません。

業務起因性を認め、休業補償給付の不支給処分を取消し

審査会は、業務外の心理的負荷や発病前の精神疾患の受診歴等も検討したうえで、適応障害は業務上の事由によるものと認めました。

そして、休業補償給付を不支給とした処分を取り消しています。

労基署の判断が覆った具体的な過程は一部不明です。

公表版では、原処分庁の意見や審査資料などが省略されています。そのため、「労基署が前任者のメールを無視した」「心理的負荷を『中』と判断していた」「新証拠の提出で逆転した」といった説明はできません。

出典:対象裁決公表版4~5ページ

5.適応障害の発病時期と、その後の悪化はどう判断されたのか

精神障害の労災では、どの時点で精神障害を発病したかが重要な論点になることがあります。

本件では、医学的な見解にも違いがありました。

医学的見解 発病・悪化についての考え方
専門部会 「F41 他の不安障害」を発病したとする見解
L医師 「F43.2 適応障害」を発病し、その後悪化したとする見解
審査会 症状等の経過に照らし、L医師の所見を採用

審査会は、適応障害の発病前に受けた叱責と、発病後に受けた叱責を区別して検討しています。

発病前の出来事については、業務による心理的負荷を「強」と評価しました。

また、発病後の叱責については、適応障害を悪化させ、強い不安や恐怖症状、抑うつ症状の出現、出社不能につながったと判断しています。

初診日や休職開始日が、そのまま発病日とは限らない

精神障害の発病時期は、医療機関を初めて受診した日や、仕事を休み始めた日と必ず一致するわけではありません。

症状がいつから現れ、どのように変化し、診断基準を満たす状態になったのかについて、医学的な検討が必要です。

そのため、労災申請では、職場での出来事だけでなく、症状の経過、受診歴、欠勤や休職の時期なども、できる限り正確に整理することが重要です。

なお、本件は発病前の業務による心理的負荷自体が「強」と認められた事案です。

もともと業務外で発病した精神障害について、業務による悪化だけが認められた事案と混同しないよう注意が必要です。

出典:対象裁決公表版2・4~5ページ

6.現在の精神障害の労災認定基準ではどう考える?

今回の裁決は、平成23年12月26日付けの認定基準に基づいて判断されています。

その後、精神障害の労災認定基準は改正され、令和5年9月1日付けの認定基準が定められました。

したがって、現在の申請を検討する場合には、当時の裁決の判断をそのまま当てはめるのではなく、現在の認定基準との違いを確認する必要があります。

令和5年改正で基本要件そのものが大きく変わったわけではありません。

令和5年の認定基準でも、対象疾病を発病していること、発病前おおむね6か月の間に業務による強い心理的負荷が認められること、業務以外の心理的負荷や個体側要因によって発病したとは認められないことが基本的な認定要件です。

そのうえで、ハラスメントの評価、繰り返される行為の取扱い、精神障害の悪化に関する考え方などが、より明確に整理されました。

現在はパワーハラスメントの評価項目が明示されている

本件では、当時の評価表における「(ひどい)嫌がらせ、いじめ、又は暴行を受けた」という項目が用いられました。

その後、令和2年の改正でパワーハラスメントに関する独立した評価項目が設けられています。

令和5年の認定基準では、具体的出来事として「上司等から、身体的攻撃、精神的攻撃等のパワーハラスメントを受けた」という項目が示されています。

人格や人間性を否定するような言動、執拗な精神的攻撃、行為に至る経緯やその後の状況などを踏まえ、心理的負荷の強さを評価します。

一度の叱責でも、内容や態様によっては「執拗」と評価される場合がある

令和5年の認定基準では、ハラスメント等の反復・継続する出来事について、一体として評価する考え方が示されています。

また、「執拗」であるかどうかについては、単に回数が多い場合だけでなく、一度の行為であっても、比較的長時間に及び、その態様が強烈・悪質な場合などには、執拗と評価すべき場合があるとされています。

したがって、叱責の回数だけで心理的負荷の強さを判断することはできません。

本件の約90分という時間も、それ自体が認定の基準となるわけではなく、叱責の理由、内容、時間帯、態様などと合わせて考える必要があります。

発病前6か月より前から続くパワハラも確認が必要

精神障害の労災認定では、原則として発病前おおむね6か月間の業務による心理的負荷を評価します。

ただし、パワーハラスメントなどが6か月より前から始まり、評価期間内にも継続している場合には、開始時からの行為を評価対象とする取扱いがあります。

そのため、発病前6か月より古い出来事だからという理由だけで、記録を機械的に除外することは適切ではありません。

発病後の悪化についても現在の基準を確認する

令和5年の改正では、既存の精神障害が業務による強い心理的負荷によって悪化した場合の取扱いも見直されています。

一定の場合には、特別な出来事がなくても、業務による強い心理的負荷によって自然経過を超えて著しく悪化したと医学的に判断されれば、悪化部分の業務起因性が認められる余地があります。

ただし、今回の裁決は、発病前の業務による心理的負荷が「強」と認められた事案です。令和5年改正による悪化の取扱いが、そのまま本件の取消理由だったわけではありません。

論点 今回の裁決 現在の認定基準
パワハラの評価項目 「ひどい嫌がらせ、いじめ、又は暴行」等の項目で評価 パワーハラスメントの独立項目を設けて評価
叱責の態様 人格否定、深夜、長時間、理由の合理性等を検討 行為の内容、程度、執拗性、経緯、職場環境等を総合評価
継続する行為 複数の叱責を検討 反復・継続する行為を一体として評価
発病時期 医学的所見を踏まえ、発病と悪化を区別 医学的判断により発病時期を検討
既存疾病の悪化 本件では業務起因性のある適応障害の発病を認定 業務起因性のない既存疾病の悪化についても一定の場合に認定の余地

根拠: 厚生労働省「心理的負荷による精神障害の認定基準について」(令和5年9月1日付け基発0901第2号)、 同認定基準の運用上の留意点

7.パワハラによる精神障害の労災申請で整理したいこと

今回の裁決から、現在の労災申請にも参考になるのは、出来事の具体的な整理方法です。

単に「上司から毎日パワハラを受けた」と記載するだけでは、どのような行為があったのか、どの程度の心理的負荷だったのかを確認しにくい場合があります。

そこで、個々の出来事について、次のような事項を整理する方法が考えられます。

整理する項目 確認したい内容
日時 いつ、何時頃、どのくらいの時間続いたか
場所・相手 誰から、どこで言動を受けたか
具体的な言動 発言内容、声量、威圧的な態度、身体的な行為等
叱責の背景 何を理由に叱責されたか、指示や引継ぎはどうなっていたか
継続状況 同様の行為がいつから、どの程度続いていたか
裏付け資料 メール、チャット、業務資料、関係者の申述、相談記録等
症状の経過 不眠、不安、欠勤、受診、休職などがいつ生じたか

「言われたこと」と「叱責の背景」を分ける

本件では、前任者のメールによって、在庫管理に関する本人の責任が検討されました。

このように、叱責された言葉だけでなく、その前提となった業務の指示、担当範囲、引継ぎ状況などを整理することも重要です。

ただし、業務上のミスがあった場合に、必ず心理的負荷が弱く評価されるという意味ではありません。指導の必要性と、その方法の相当性は分けて検討する必要があります。

証拠は出来事との対応関係を整理する

資料が大量にあっても、それぞれが何を示すのかが分からなければ、事実関係を確認しにくくなります。

例えば、あるメールが叱責の内容を示すのか、業務指示を示すのか、本人の担当範囲を示すのかを区別します。

また、関係者の申述についても、本人から聞いた話なのか、実際に見聞きしたことなのかを分けて整理することが大切です。

発病時期と出来事の順序を確認する

精神障害の労災では、出来事の時期と医学的な発病時期との関係が重要です。

初診日や休職開始日だけで発病時期を決めつけず、症状が現れた時期、症状の変化、受診経過などを確認します。

発病時期そのものは医学的判断を要するため、申請に有利な日付を任意に設定することは適切ではありません。

実務上のポイント

パワハラの労災申請では、出来事を時系列に並べるだけでなく、「具体的な言動」「背景事情」「裏付け資料」「症状の変化」を対応させて整理することが重要です。

これは今回の裁決から得られる実務上の示唆であり、この方法で整理すれば必ず労災が認定されるという意味ではありません。

8.パワハラ労災が不支給となった場合、何を確認すべき?

本件のように、不支給処分が不服申立てを経て取り消される場合があります。

ただし、不支給になったからといって、直ちに「労基署の判断が間違っている」と決めつけることはできません。

まずは、どのような理由で不支給となったのかを確認する必要があります。

確認したい主な論点

  • 疾病・発病時期:どの精神障害を、いつ発病したと判断したのか。
  • 出来事の認定:本人が主張した言動のうち、何が認められ、何が認められなかったのか。
  • 心理的負荷の評価:認定された出来事が、どの評価項目に当てはめられ、どの程度の強さと判断されたのか。
  • 証拠の評価:関係者の申述、メール、診療記録などが、どのように扱われたのか。
  • 総合評価:複数の出来事や継続的な行為が適切に検討されているか。
  • 業務外要因・個体側要因:どのような事情と医学的所見が判断に用いられたのか。

不支給通知だけでは判断の詳細が分からない場合には、利用可能な情報開示等の手続を確認し、判断の前提となった資料を把握する方法も考えられます。

そのうえで、事実認定に問題があるのか、心理的負荷の評価に問題があるのか、医学的な発病時期の判断に問題があるのかを整理することが重要です。

不服申立てには期限があります。

審査請求や再審査請求を検討する場合には、処分通知や決定書の教示、最新の制度案内を確認してください。資料収集に時間をかける場合でも、期限を見落とさないよう注意が必要です。

9.よくある質問

Q1.パワハラによる適応障害は労災になりますか?

適応障害は、精神障害の労災認定の対象となり得ます。ただし、診断名だけで労災が認められるわけではありません。業務による強い心理的負荷など、認定基準に沿った個別の検討が必要です。

Q2.アルバイトでもパワハラによる労災を請求できますか?

はい。雇用形態だけで労災保険の対象外になるわけではありません。アルバイトやパートであっても、労働者として業務に従事していれば、労災保険給付の対象となり得ます。今回の裁決でも、請求人はアルバイト従業員でした。

Q3.パワハラの録音がないと労災は難しいですか?

録音がないことだけで、直ちに労災の対象外になるわけではありません。関係者の申述、メール、業務資料、相談記録なども事実確認に関係する場合があります。ただし、今回の裁決では録音の有無自体は確認できません。

Q4.仕事でミスをした場合、強く叱責されてもパワハラにはなりませんか?

ミスがあったことだけで、すべての叱責が正当化されるわけではありません。指導の必要性、発言内容、行為の程度、継続性などを踏まえて判断します。

Q5.一度だけの長時間の叱責でも、心理的負荷が「強」になることはありますか?

現在の認定基準では、一度の行為でも比較的長時間に及び、その態様が強烈・悪質な場合などには、執拗と評価すべき場合があるとされています。ただし、一定の時間を超えれば自動的に「強」になるという基準ではありません。

Q6.発病後に受けたパワハラも労災で考慮されますか?

発病前の心理的負荷と発病後の悪化は、区別して検討する必要があります。現在の認定基準では、既存の精神障害が業務による強い心理的負荷で悪化した場合についても、一定の取扱いが定められています。個別の医学的検討が必要です。

Q7.労災が不支給になっても、判断が変わることはありますか?

今回の裁決のように、不服申立てによって不支給処分が取り消されることはあります。ただし、必ず取り消されるわけではありません。不支給理由と、事実認定・心理的負荷・医学的評価の内容を確認することが重要です。

10.裁決公表版・参考となる公式資料

本記事では、次の公的資料を主な根拠としています。

※本記事は、公開裁決と公表されている認定基準をもとにした一般的な制度解説です。裁決の公表版には省略・匿名化された部分があり、すべての審査資料を確認できるものではありません。また、過去の裁決は、現在の個別案件について同じ結果を保証するものではありません。法令・通達等の最新状況は、実際の申請時点で確認が必要です。

まとめ|不支給の理由を確認し、事実・証拠・発病経過を分けて整理する

今回の裁決では、店長による人格否定的な叱責や、深夜約1時間30分にわたる叱責について、関係者の申述や前任者のメールなどが検討されました。

審査会は、叱責に至る理由、言葉遣い、時間帯、長時間性などを踏まえ、発病前の業務による心理的負荷を「強」と評価しています。

さらに、医学的な発病経過を検討し、適応障害の業務起因性を認め、休業補償給付の不支給処分を取り消しました。

この裁決から分かるのは、パワハラの労災では、具体的な言動に加えて、その背景事情、裏付け資料、発病時期との関係を丁寧に確認することが重要だという点です。

ただし、心理的負荷の評価は個別の事情によって異なります。特定の言葉や叱責時間、証拠の種類だけで認定結果が決まるわけではありません。

パワハラによる適応障害・うつ病の労災申請でお悩みの方へ

「上司からの叱責が労災の対象になるのか分からない」 「証拠が十分にあるか不安」 「不支給になったが、どの点を確認すればよいのか分からない」

こもれび社労士事務所では、精神障害の労災申請に向けた出来事の時系列整理、資料の確認、申立書等の作成支援、不支給処分後の対応に関するご相談をお受けしています。

まずは現在の状況や、ご希望のサポート内容をお知らせください。ご体調に無理のない範囲でご相談いただけます。

公式LINEで労災について相談する

※ご相談内容を確認したうえで、対応の可否、支援範囲、費用等をご案内します。労災認定や不支給処分の取消しを保証するものではありません。

ここまで読んで、まだ迷っていても大丈夫です。

まずは、今の状況を整理するところからで大丈夫です

「まだ相談するか決めていない」
「何を書けばいいか分からない」
そんな段階でも大丈夫です。

※ 個人のご相談(労災・後遺障害・障害年金)/全国対応(LINE・オンライン)
※ 「まず整理だけ」でも大丈夫です