労災の症状固定は誰が決める?|主治医と労基署の判断が違ったらどうなる?

労災の症状固定は誰が決める?主治医と労基署の判断が違った場合の対応

「主治医はまだ治療が必要と言っているのに、労基署から症状固定と言われた」――この場合、誰の判断が優先されるのでしょうか。

労災保険でいう「治ゆ(症状固定)」は、けがや病気が完全に治ったことだけを意味しません。症状が残っていても、医学上一般に認められた治療によって、それ以上の改善が期待できない状態になれば、治ゆと判断される場合があります。

一方、治療が続いているからといって、必ず未治ゆになるわけでもありません。実際の公開裁決・決定例には、週3回通院していても症状固定が維持された事例と、新しい装具療法やリハビリによる改善可能性を理由に不支給処分が取り消された事例の両方があります。

結論:労災の症状固定は、主治医だけが最終決定するものでも、労基署が自由に決めるものでもありません。主治医の診療録・意見書、検査結果、治療内容、改善可能性などを踏まえ、労基署長が保険給付について判断します。争いになった場合は、療養・休業給付の不支給処分を対象に、審査請求等で検討されます。
この記事で分かること
  • 主治医と労基署長の役割の違い
  • 痛み・投薬・リハビリが続いていても症状固定になる理由
  • 症状固定が維持された裁決と、不支給処分が取り消された事例
  • 精神障害の症状固定をめぐる裁判例
  • 療養・休業・障害給付への影響と、不服申立てで確認すること

動画で解説|労災の症状固定は誰が決める?

主治医と労基署の判断が違った場合はどうなるのでしょうか。 症状固定が維持された裁決と、不支給処分が取り消された 実際の事例を比較しながら解説します。

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労災の症状固定は誰が決める?主治医と労基署長の役割

結論:主治医が医学的な状態・治療見込みについて意見を示し、労基署長がそれらの医学資料を踏まえて、労災保険給付との関係で「治ゆ後として扱うか」を決定します。主治医の意見が不要になるわけでも、労基署が医学的根拠なしに自由に決められるわけでもありません。

主治医は、診察・検査・治療経過に基づいて、傷病の状態や今後の改善可能性について医学的な意見を示します。一方、労災保険の療養補償給付や休業補償給付を支給するかどうかについては、労働基準監督署長が保険給付の要件を判断します。

主体主な役割
主治医診断、治療内容、症状の推移、医学的な改善可能性や治ゆ時期について意見を示す
労基署長診療録、主治医意見、専門医意見などを踏まえ、労災保険給付の支給・不支給を決定する
労災保険審査官不支給処分等に対する審査請求を審理する
労働保険審査会審査官決定に対する再審査請求を裁決する
裁判所訴訟において処分の適法性を審査する

つまり、「主治医が継続治療を必要と考えているから、労基署は必ず未治ゆと判断しなければならない」わけではありません。反対に、主治医が一定の日を症状固定日と記載していても、その後の治療経過などから、その日を治ゆ日とする判断が否定された事例もあります。

重要なのは、誰が先に「固定」と言ったかではなく、その時点で医学的な改善が期待できたかを、具体的な資料で説明できるかです。

60秒で解説|主治医と労基署、どちらが決める?

主治医が「まだ治療が必要」と考えていても、 労基署が症状固定と判断する場合があります。 その理由をショート動画で解説します。

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痛み・しびれや治療が続いていても症状固定になる?

労災保険上の治ゆとは、一般に、症状が安定し、医学上一般に認められた医療を行っても、症状の回復・改善が期待できなくなった状態を指します。

したがって、痛みやしびれが残ること、薬を飲んでいること、リハビリに通っていることだけでは、治ゆか未治ゆかは決まりません。

状況判断上のポイント
痛み・しびれが残る症状の安定性と、今後の医学的改善可能性
投薬・注射が続く一時的な疼痛緩和なのか、病態の改善が期待できる治療なのか
リハビリ中可動域・筋力・歩行能力などに改善が見られるか、効果判定中か
新しい装具を使用中装具の調整や訓練に具体的な改善目標があるか
手術予定がある手術適応と改善見込みが医学的に具体化されているか
定期的に診察している積極的治療か、経過観察・維持的な対応か
判断の核心:「治療を受けると一時的に楽になる」ことと、「傷病そのものが治療によって回復・改善する見込みがある」ことは、分けて考える必要があります。

治療を続けていても症状固定が維持された裁決

事例1|約10年治療を続けても治ゆとされた(令和元年労第235号)

結論:再審査請求は棄却され、治ゆ日後の療養・休業に関する不支給処分が維持されました。

腰部を負傷した請求人は、長年にわたり投薬、トリガーポイント注射、鍼灸などを受けていました。主治医は、治療による改善があったことや、治ゆ時期の予測が難しいことを述べていました。

一方、審査会は、受傷から長期間が経過していたこと、画像所見に大きな変化が見られなかったこと、治療内容が主として対症療法にとどまっていたことなどを重視しました。

治療による一時的な軽減はあっても、傷病自体の改善可能性は認め難いとして、労基署長の治ゆ判断を維持しました。

出典:労働保険審査会「令和元年労第235号」(令和2年7月17日裁決)。

この事例のポイント:長く通院していること自体は、未治ゆを裏付ける決定的な事情ではありません。治療内容が変わらず、症状や機能に持続的な改善が見られない場合には、症状固定を支持する事情となり得ます。

事例2|週3回通院していても固定が維持された(平成27年労第104号)

結論:休業補償給付の不支給処分が維持されました。

腰椎椎間板障害について、請求人は症状固定日後も週3回通院し、注射、内服薬、坐薬、湿布などが欠かせないと主張しました。

しかし、審査会は、症状が安定し、治療が対症療法にとどまることなどを踏まえ、症状固定を認めました。「治療を中止すれば悪化する」との主張についても、医学的資料による裏付けが十分ではないと判断しています。

出典:労働保険審査会「平成27年労第104号」。調査資料上、裁決年月日は確認できません。

なお、審査会は、医学的には労基署長が認定した日より早く治ゆしていた可能性にも言及しましたが、請求人に不利益となる変更は行われませんでした。

症状固定の判断が否定され、不支給処分が取り消された事例

一方、治療が続いていたことに加えて、その治療による改善可能性が具体的に説明されていた事例では、労基署の治ゆ日認定が否定されています。

事例3|新しい装具療法の効果判定中だった事例

結論:療養補償給付の不支給処分が取り消されました。

両下腿コンパートメント症候群や反射性交感神経性ジストロフィーなどについて、労基署長は、症状が一進一退であることなどから治ゆと判断しました。

しかし、当時は新しい装具の作成・調整が進められ、荷重調節や歩行訓練の効果を見極めている段階でした。複数の医師に加え、地方労災医員も、装具療法等による改善可能性が残っていると考えていました。

審査官は、当初の治ゆ日では医療効果が期待できる状態にあったとして、その日を治ゆ日とする判断を否定しました。

出典:労災保険審査官の公開決定例。調査資料では事件番号・具体的な決定日・新たな治ゆ日は確認できません。

重要なのは「リハビリ中だった」という名称ではありません。新しい装具、荷重調節、歩行訓練という具体的な治療内容があり、効果判定に期間が必要であることが医学的に説明されていた点です。

事例4|主治医の固定判断後、リハビリで実際に改善した事例

結論:休業補償給付の不支給処分が取り消されました。

主治医が一定の日を症状固定日としていたものの、その後、別の医療機関でリハビリを継続した結果、腕のだるさや痛みが軽快した事例です。

審査官は、固定日後に実際の改善が確認されたことを踏まえ、当初の固定認定を誤りと判断しました。

出典:平成26年度4~6月公表の労災保険審査官決定例。公開要旨では事件番号・新たな固定日は確認できません。

この事例は、「今後改善するかもしれない」という見込みだけでなく、実際の改善経過が判断資料になることを示しています。ただし、後から症状が軽くなれば、どの事案でも過去の症状固定が否定されるわけではありません。改善が原傷病への適切な治療によるものかどうかも重要です。

精神障害の症状固定が争われた東京高裁判決

国・土浦労基署長事件|東京高裁令和6年1月31日判決

精神障害の症状固定を考えるうえでは、東京高裁令和6年1月31日判決(令和4年〔行コ〕第317号)が注目されます。

公開されている判例情報によれば、第一審は請求を退けましたが、東京高裁は原判決を取り消し、平成31年3月31日時点で疾病が治ゆ(症状固定)していなかったとして、不支給処分を取り消しました。

報告で紹介された控訴審の重要な着眼点は、当初の診断・治療が病態に適合していたのかという点です。従来の治療から、双極性障害を前提とする治療へ変更した後に症状や活動性が改善し、就労に至った経過が重視されたと整理されています。

これは、単に「症状が続いていたから未治ゆ」という話ではありません。適切な診断と治療を尽くす前に、改善の見込みがないと判断してよかったのかという問題です。

精神障害での注意点:治ゆ(症状固定)と、就労できるかどうかは必ずしも同じではありません。厚生労働省も、就労可能な状態でなくても症状固定に至る場合があると説明しています。
判決資料の確認状況:調査報告では、公刊判例情報等により事件番号・判決日・要旨を確認したとされていますが、裁判所公式の判決全文は未確認です。上記は調査報告に基づく要旨の紹介であり、判決文からの直接引用ではありません。公開時には公刊判例本文との照合を推奨します。

裁決を横断比較|症状固定の判断を分けたのは何か

比較する点症状固定を支持する方向固定時期を否定する方向
症状の推移長期間ほぼ横ばい固定日後に持続的な改善が確認された
治療内容同じ投薬・注射等を反復新しい治療を開始し効果を判定中
リハビリ維持的で改善実績が乏しい歩行・可動域等の改善目標と成果がある
医師の意見「治療継続が必要」との結論のみで理由が不明確改善させる機能・治療方法・期間・見込みが具体的
診断・治療の適切さ病態に対応した治療を尽くし、改善が期待し難い診断や治療の前提に再検討の余地がある
治療中断中断時悪化の医学的裏付けが乏しい中断・再開と症状変化の関係が具体的に示される

これらは機械的な認定表ではなく、紹介した事例から読み取れる確認の視点です。傷病の種類や治療内容によって判断は変わります。

主治医に確認するなら:「まだ症状固定ではないと書いてください」と結論だけを求めるよりも、①何を改善する治療なのか、②どの程度の改善が見込めるのか、③いつ効果判定するのか、④これまでにどのような改善があったのか、を医学的事実として確認する方が、争点を整理しやすくなります。

症状固定になると労災の給付はどうなる?

症状固定は、労災保険の給付がすべて終了するという意味ではありません。給付の種類によって位置付けが異なります。

制度症状固定との関係
療養(補償)等給付原則として治ゆまでの療養が対象。治ゆ後の通常治療は原則対象外
休業(補償)等給付療養のため労働できないこと等が要件。治ゆ後は原則として当該傷病の療養を理由とする支給対象にならない
障害(補償)等給付治ゆ後に障害が残る場合に検討。症状が残っていても等級不該当はあり得る
傷病(補償)等年金療養開始後1年6か月を経過しても治っておらず、所定の傷病等級に該当する場合の制度
再発時の療養治ゆ後、原傷病と相当因果関係のある明らかな悪化があり、治療による改善が期待できる場合に検討
アフターケア対象傷病について、治ゆ後の健康管理等を行う別制度

特に、「症状固定したから必ず後遺障害の等級が付く」わけではありません。症状固定時期の問題と、残った障害が何級に該当するかという問題は分けて検討する必要があります。

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労基署の症状固定判断に納得できない場合、何を確認する?

まず確認したいのは、「症状固定だと説明されたこと」と「保険給付について不支給処分が出たこと」は同じではないという点です。

労災保険法38条は、保険給付に関する決定に不服がある場合に、労災保険審査官への審査請求、さらに労働保険審査会への再審査請求ができる仕組みを定めています。公開事例でも、治ゆ日後の療養補償給付や休業補償給付を支給しない処分が争われています。

最初に整理したい6つの事項

  1. 処分の有無:労基署からの説明・照会なのか、正式な支給・不支給決定なのか
  2. 処分の対象:療養給付、休業給付など、どの給付のどの期間についての判断か
  3. 認定された治ゆ日:労基署が何年何月何日を固定日としているか
  4. 医学的な争点:その時点で改善が期待できた治療は何か
  5. 裏付け資料:診療録、画像、リハビリ記録、装具の調整記録、主治医意見、治療変更後の経過など
  6. 期限:審査請求期間がいつまでか

労災保険給付に関する審査請求は、原則として処分があったことを知った日の翌日から3か月以内です。期限や提出先、対象処分は、実際の通知書と現行法令で必ず確認してください。

※期限の起算点は、原則として「保険給付に関する決定があったことを知った日の翌日」です。電話連絡の日ではなく、通常は支給・不支給決定の通知書を受け取った日を基準に、通知書の記載を確認します。

また、審査請求をしただけで不支給処分が自動的に取り消されたり、給付が再開したりするわけではありません。後続の請求期間に別の不支給処分が出る場合もあるため、通知書と対象期間を整理することが重要です。

取消しの意味にも注意:不支給処分が取り消されたとしても、審査官や審査会が新しい症状固定日を必ず確定するわけではありません。また、休業給付については、治ゆ日以外の支給要件も別途確認されます。

よくある質問

Q.主治医が「まだ治療が必要」と言えば、労基署は症状固定にできませんか?

いいえ。主治医の医学的意見は重要ですが、労災保険給付に関する判断を法的に拘束するものではありません。治療の目的、効果、症状の推移などが総合的に検討されます。

Q.毎週リハビリに通っているのに症状固定になることはありますか?

あります。通院頻度だけでは決まりません。機能改善を目指す治療なのか、主に症状維持・一時的緩和を目的とする治療なのか、改善の実績や見込みが重要です。

Q.症状固定後に改善したら、固定日の判断を争えますか?

後日の改善が、当初固定日時点にも改善可能性があったことを示す資料となる場合があります。ただし、原傷病との関係や治療内容などを確認する必要があり、改善した事実だけで必ず判断が覆るわけではありません。

Q.症状固定後も痛みがある場合、治療は受けられませんか?

医療機関で治療を受けること自体が禁止されるわけではありません。ただし、労災保険の療養給付の対象になるかは別問題です。対象傷病ではアフターケア制度が利用できる場合もあります。

Q.症状固定とされたら、必ず障害補償給付がもらえますか?

いいえ。治ゆ後に残った障害について、障害等級の認定要件を満たすかどうかが別途判断されます。

Q.労基署から「症状固定」と電話で言われました。すぐ審査請求できますか?

電話での説明だけで、直ちに審査請求の対象となる処分があったとは限りません。療養・休業等の保険給付に関する支給・不支給決定が出ているか、対象期間と処分日を確認することが先決です。

まとめ|「治療が続いている」だけでは決まらない

症状固定の判断では、痛みやしびれが残っているか、通院を続けているかだけでなく、その時点で医学的にどのような改善が期待できたかが重要になります。

  • 主治医は医学的な意見を示し、労基署長は保険給付について判断する
  • 投薬・注射・通院が続いていても、対症療法が中心なら治ゆとなる場合がある
  • 新しい治療の効果判定中や、治療後の実際の改善が、当初の固定判断を否定する資料になる場合がある
  • 精神障害では、診断と治療の適切さが争点になることもある
  • 判断に納得できない場合は、具体的な不支給処分と医学的な争点を分けて確認する

公開事例が示しているのは、「治療を続けたい」という希望だけでも、「長く治療したからもう固定」という期間だけでも結論は出せないということです。診療経過と治療の目的を具体的に整理することが大切です。

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