労災の「通過率」は何%?|こもれび社労士事務所が認定率を公表しない理由

「こもれび社労士事務所に依頼すると、何%くらい労災認定されますか?」
精神障害の労災についてご相談を受けていると、 実際によくいただく質問の一つです。
録音などの直接的な証拠が少ない方から、 「この状態でも通りますか?」 「先生のところでは何%くらい認定されていますか?」 と聞かれることもあります。
先に結論
こもれび社労士事務所では、 「通過率○%」「成功率○%」という形でのご案内はしていません。
これは実績を隠すためではありません。 精神障害の労災は事案ごとに発病時期、出来事、心理的負荷、証拠関係などが異なり、 事務所の過去の割合を、新しいご相談者の「認定される確率」のように示すと、 誤解につながる可能性があるためです。
一方、厚生労働省は、精神障害の労災について全国の 「認定率」を公表しています。
この記事では、精神障害の労災に関する全国の認定率の意味、 個別案件の認定可能性と同一視できない理由、 社労士事務所の「成功率」「通過率」を単純比較できない理由、 録音などの直接証拠がない場合の考え方、 そして当事務所がご相談時に確認している点を、 公的統計と労災認定基準をもとに解説します。
動画で分かりやすく解説
「認定率28.2%」は、あなたの認定確率ではありません
全国の認定率28.2%の意味と、社労士事務所の「通過率・成功率」を見るときの注意点を解説しています。
そもそも労災に「通過率」という言葉はある?
まず、「通過率」という言葉について整理しておきます。
厚生労働省の労災統計や精神障害の認定基準などを確認すると、 「通過率」は正式な統計用語として使われていません。
公的資料では、主に次のような言葉が使われます。
- 請求件数
- 決定件数
- 支給決定件数
- 不支給決定
- 認定
- 認定率
この記事では、相談者の方から実際によく聞かれる言葉として 「通過率」をタイトルなどで使用していますが、 以下では原則として「認定率」と表現します。
精神障害の労災認定率は28.2%【令和7年度】
厚生労働省が2026年7月15日に公表した 「令和7年度 過労死等の労災補償状況」によると、 精神障害の業務災害について、次の数字が公表されています。
| 項目 | 令和7年度 |
|---|---|
| 請求件数 | 4,958件 |
| 決定件数 | 3,839件 |
| 支給決定件数 | 1,082件 |
| 不支給決定件数 | 2,757件※ |
| 認定率 | 28.2% |
※不支給決定件数2,757件は、決定件数3,839件から支給決定件数1,082件を差し引いた値です。
出典:厚生労働省「令和7年度『過労死等の労災補償状況』を公表します」 (2026年7月15日公表)および別添資料「業務災害に係る精神障害に関する事案の労災補償状況」。
令和7年度の精神障害の労災認定率は28.2%です。
厚生労働省の認定率は、 「決定件数に占める支給決定件数の割合」です。
認定率 = 支給決定件数 ÷ 決定件数
したがって、
1,082件 ÷ 3,839件 ≒ 28.2%
となります。
「1,082件÷4,958件=21.8%」ではない
ここは、労災統計を見るときに特に注意したいところです。
令和7年度には4,958件の請求があり、 1,082件が支給決定されています。
単純に割ると、
1,082 ÷ 4,958 ≒ 21.8%
となります。
しかし、この21.8%は厚生労働省がいう「認定率」ではありません。
「その年度に請求された案件」と 「その年度に支給・不支給が決定された案件」は、 同じ案件の集団ではありません。
労災の調査には時間がかかるため、 前年度以前に請求された案件が翌年度以降に決定されることがあります。
したがって、 「令和7年度に申請した人の21.8%が認定された」 という説明は正確ではありません。
認定率はここ5年でどう変わった?
厚生労働省の公表資料をもとに、 精神障害の労災認定率の推移を見ると次のようになります。
| 年度 | 請求件数 | 決定件数 | 支給決定 | 認定率 |
|---|---|---|---|---|
| 令和3年度 | 2,346 | 1,953 | 629 | 32.2% |
| 令和4年度 | 2,683 | 1,986 | 710 | 35.8% |
| 令和5年度 | 3,575 | 2,583 | 883 | 34.2% |
| 令和6年度 | 3,780 | 3,496 | 1,056 | 30.2% |
| 令和7年度 | 4,958 | 3,839 | 1,082 | 28.2% |
※令和6年度の支給決定件数は、最新の令和7年度公表資料に掲載された過年度比較値1,056件を使用しています。
こうした全国統計は、精神障害の労災全体の状況を知るうえでは重要です。
しかし、ここから 「自分も28.2%の確率で認定される」 と考えることはできません。
全国28.2%=あなたの認定確率28.2%ではない
全国の28.2%という数字は、 令和7年度に決定されたさまざまな精神障害の労災事案を まとめた結果です。
一人ひとりの案件では、認定基準に照らして個別に判断されます。
精神障害の労災では、基本的に、
- 対象となる精神障害を発病しているか
- 医学的な発病時期はいつか
- 発病前おおむね6か月間にどのような業務上の出来事があったか
- その出来事による心理的負荷はどの程度か
- 複数の出来事をどのように全体評価するか
- 長時間労働があったか
- 業務以外の心理的負荷はどうか
- 既往歴などの個体側要因はどう評価されるか
- 主張する出来事を資料や関係者聴取等から認定できるか
などを確認していきます。
全国の認定率は「過去に決定された多くの案件をまとめた割合」であって、 目の前の一人の相談者について認定確率を計算するための数字ではありません。
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では、こもれび社労士事務所の「通過率」は?
ここで最初の質問に戻ります。
「こもれび社労士事務所に依頼した場合、何%くらい認定されますか?」
当事務所では、 「認定率○%」「成功率○%」「通過率○%」という案内はしていません。
その大きな理由の一つが、 事務所独自の認定率には、統一された計算方法がない ことです。
「成功率90%」でも、分母によって意味が変わる
例えば、ある事務所が 「労災認定率90%」 と表示していたとします。
その数字を見るには、少なくとも次の点を確認する必要があります。
| 確認したいこと | なぜ重要か |
|---|---|
| 分母は何か | 相談件数、受任件数、申請件数、決定済み案件のどれかで割合が変わります。 |
| 分子は何か | 初回の支給決定だけか、審査請求後の取消し等を含むかで変わります。 |
| 結果待ちをどう扱うか | 結果が出ていない案件を除外すれば数字は変わります。 |
| 取下げをどう扱うか | 分母から除くかどうかで割合が変わります。 |
| 対象案件 | 精神障害だけか、けが等の労災も含むかで比較できなくなります。 |
| 集計期間 | 1年間なのか開業以来なのかで意味が異なります。 |
| 対象件数 | 10件中9件と100件中90件では、同じ90%でも情報量が異なります。 |
| 受任基準 | どのような案件を受任しているかによって割合が変わり得ます。 |
受任する案件によって、事務所の認定率は変わり得る
ここは、事務所の「成功率」を考えるうえで重要なところです。
例えば、認定の見込みが比較的高いと判断した案件を中心に受任する場合と、証拠関係が難しい案件や、すでに不支給となった審査請求案件なども扱う場合とでは、結果として認定率に違いが生じる可能性があります。
反対に、
- 証拠関係が難しい案件
- 会社と本人の説明が大きく食い違う案件
- すでに不支給となった審査請求案件
- 他で対応が難しいと言われた案件
などを扱えば、単純な割合だけでは事務所の経験や対応力を評価できません。
「認定率が高い事務所=自分の案件も認定されやすい」 と単純に考えることはできません。
今回確認した公表資料では、 社労士事務所ごとの成功率について、公的な統一算定基準は確認できませんでした。
そのため、事務所を選ぶ際には、 「認定率が何%か」だけではなく、 精神障害の労災をどのような手順で整理するのか、 相談時にどこまで説明してくれるのか、 不支給となった場合の対応範囲はどうか、 費用や連絡方法が明確かといった点も確認することが大切です。
認定率を公表すること自体が悪いわけではない
一方で、事務所が過去の認定実績を公表すること自体を、 一律に問題だという趣旨ではありません。
例えば、
- 対象案件数
- 集計期間
- 分母と分子
- 対象とする労災の種類
- 結果待ちや取下げの扱い
- 審査請求をどう数えるか
- 受任時の選別があること
などを明確にすれば、 その事務所が過去に扱った案件についての参考情報 にはなり得ます。
ただし、それでも 「これから相談する人が認定される確率」そのものではありません。
「録音がないと通過率は下がりますか?」
これもよくいただく質問です。
今回確認した公的統計では、 「録音がある案件」と「録音がない案件」を分けた認定率は確認できませんでした。
したがって、
「録音がないと認定率が○%下がる」
という数字を示すことはできません。
また、精神障害の労災認定において、 録音が必須とされているわけでもありません。
実際の調査では、例えば、
- メール
- チャット
- 日記やメモ
- 診療録
- 相談記録
- 勤怠記録
- 会社に残っている資料
- 本人への聴取
- 上司・同僚など関係者への聴取
などを通じて、事実関係が調査されることがあります。
「録音などの直接証拠がないこと」と 「出来事を裏付けるものが何もないこと」は同じではありません。
もちろん、録音があれば有力な資料になる場合があります。
しかし、 「録音がない=労災申請できない」 と一律に考える必要はありません。
社労士に依頼すれば認定率は上がる?
これについても、数字で断定することはできません。
今回確認した公表資料では、 社労士や弁護士などの専門家が関与した案件と、本人申請の案件を比較した認定率は確認できませんでした。
そのため、
「社労士に依頼すれば認定率が○%上がる」
といった説明を裏付ける公的統計は、今回確認できませんでした。
一方で、専門家が関与する実務上の意味として、
- 発病時期と出来事の時系列を整理する
- 認定基準上、どの出来事が重要か確認する
- 手元にある資料を整理する
- 不足している事実や資料を確認する
- 本人の申立てと客観資料の整合性を確認する
- 労基署へ伝えるべき事実を整理する
といった作業があります。
ただし、専門家が関与したからといって、 認定結果を保証できるものではありません。
こもれび社労士事務所では「何%」の代わりに何を見るのか
当事務所では、ご相談を受けた際、 単純に 「認定される確率は○%です」 という説明はしていません。
その代わり、可能な範囲で、
- 傷病名と初診日
- 医学的な発病時期
- 発病前おおむね6か月の出来事
- パワハラ、長時間労働、配置転換などの具体的内容
- 出来事の回数・継続期間・程度
- 勤怠記録
- メールやチャット
- 録音・反訳
- 日記・メモ・相談記録
- 診療記録
- 会社側に残っている可能性のある資料
- 関係者から確認できる可能性のある事実
などを整理します。
そして、
- どの出来事を中心に検討するのか
- どこに不確実な点があるのか
- 追加で確認できる資料がないか
- 労基署の調査で何が確認される可能性があるのか
を考えていきます。
「何%で通るか」よりも、
「認定基準上どこが重要で、何を確認・整理する必要があるのか」
を具体的に考えることを重視しています。
「通過率を公表しない=実績がない」という意味ではありません
認定率や成功率を掲載していないと、 「実績を公表したくないのでは?」 と思われる方もいらっしゃるかもしれません。
しかし、当事務所が「通過率○%」という表示をしていない理由は、 過去の案件の割合を、これから申請する方の認定可能性のように見せたくないためです。
精神障害の労災では、 一見似ている相談であっても、 発病時期、出来事、証拠、会社側の説明、関係者の供述などによって、 事案の内容は大きく異なります。
そのため当事務所では、 大きな「○%」を示すことよりも、 目の前の事案について確認できることと、まだ分からないことを分けて説明すること を大切にしています。
よくある質問
Q.全国の認定率が28.2%なら、労災はかなり難しいのでしょうか?
28.2%は令和7年度に決定された精神障害の労災事案全体の割合です。 個別案件の認定確率を示す数字ではありません。 出来事の内容、心理的負荷、発病時期、証拠関係などを個別に確認する必要があります。
Q.録音がありません。それでも申請できますか?
録音は必須要件ではありません。 メール、チャット、日記、メモ、診療録、勤怠資料、会社資料、関係者への聴取など、 他の資料や調査によって事実関係が確認される場合があります。 ただし、どの程度裏付けられるかは個別の事案によって異なります。
Q.会社が出来事を否定していたら認定されませんか?
会社が出来事を否定していることだけで、直ちに不支給となるわけではありません。 労基署は、事案に応じて、本人、会社、上司、同僚等への聴取や、 勤怠記録、メール、業務記録、医療記録などを確認し、 事実関係を調査します。
ただし、どのような資料や供述があり、出来事をどこまで認定できるかは、 個別の事情によって異なります。
Q.社労士に依頼すれば認定率は上がりますか?
専門家が関与した案件と本人申請を比較した全国的な認定率は、 今回確認した公表資料では確認できませんでした。 そのため「依頼すれば○%上がる」とはご案内していません。
Q.相談したら、自分が認定される確率を教えてもらえますか?
当事務所では「70%」「80%」などの確率としてはご案内していません。 その代わり、認定基準に照らして、 どの出来事が重要か、どの資料があるか、何がまだ確認できていないかを整理してお伝えします。
まとめ|労災の「通過率」よりも、認定基準と事実関係の確認を
精神障害の労災について、 厚生労働省が公表する令和7年度の認定率は 28.2%です。
しかし、この数字は全国の決定事案をまとめたものであり、 あなたの労災が28.2%の確率で認定されるという意味ではありません。
同じように、社労士事務所が独自に公表する 「成功率」「通過率」についても、 分母・分子、集計期間、受任基準、結果待ち案件などの扱いによって数字が変わります。
こもれび社労士事務所では、 「通過率○%」という数字をお伝えする代わりに、 その方の出来事、発病時期、心理的負荷、証拠関係などを確認し、 認定基準上どこを整理する必要があるのかを個別に検討しています。
録音がない、会社が事実を否定している、 手元の資料が少ないといった事情がある場合でも、 それだけで結論を決めるのではなく、 まずは現在確認できる事実と資料を整理することが大切です。
参考資料
- 厚生労働省「令和7年度『過労死等の労災補償状況』を公表します」
- 厚生労働省「令和7年度 過労死等の労災補償状況」別添資料
- 厚生労働省「心理的負荷による精神障害の労災認定基準を改正しました」
- 厚生労働省「社会保険労務士法施行規則」
※本記事の数値は2026年9月時点で確認できる公表資料に基づいています。 統計や制度は更新されることがありますので、最新の厚生労働省資料をご確認ください。
精神障害・パワハラの労災申請について
こもれび社労士事務所では、 パワーハラスメント、長時間労働、配置転換、業務上のトラブルなどをきっかけとする 精神障害の労災申請について、全国からご相談をお受けしています。
「録音がないけれど申請できるのか」 「自分の出来事が認定基準上どのように評価されるのか」 「時系列や証拠をどう整理すればよいのか」 といった段階でも、現在の状況を確認しながら進め方を検討します。
ここまで読んで、まだ迷っていても大丈夫です。

まずは、今の状況を整理するところからで大丈夫です
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