精神障害の労災後遺障害|9級・12級・14級は「8つの能力」でどう分かれる?

精神障害の労災後遺障害|9級・12級・14級は「8つの能力」でどう分かれる?
精神障害の労災後遺障害9級・12級・14級と8つの能力を解説するイメージ

労災保険では、業務上の精神障害が治ゆ(症状固定)した後に障害が残った場合、 「障害(補償)等給付」の対象となることがあります。 この記事では、一般に「後遺障害」と呼ばれる労災保険上の障害等級について解説します。

「うつ病が労災と認められたけれど、症状が残っています」 「復職したら後遺障害にはならないのでしょうか」 「精神障害の場合、9級・12級・14級は何が違うのでしょうか」

ただし、精神障害の後遺障害は、 単純に 「症状が重いから9級」「軽いから14級」 と決まるわけではありません。

先に結論

脳の器質的損傷を伴わない精神障害では、 通常の認定枠として 第9級・第12級・第14級 が問題になります。

重要なのは診断名そのものより、 精神症状によって「8つの能力」がどの程度低下し、 仕事をするうえでどの程度の助言・援助や職種制限が必要なのか という点です。

さらに意外なのは、 症状が非常に重ければ、そのまま7級・5級などへ上がっていく仕組みではない という点です。

重い精神症状が残っている場合には、 精神障害には改善する可能性があるという特質を考慮し、 原則として療養を継続する扱いがあります。

1.精神障害の後遺障害は何級になる?

ここで扱うのは、 脳の器質的損傷を伴わない精神障害(非器質性精神障害) です。

例えば、業務上の心理的負荷などによって発病した うつ病、適応障害、PTSD、不安障害などが問題になります。

脳挫傷などによる高次脳機能障害については、 別の評価体系があるため、この記事で扱う精神障害とは区別する必要があります。

非器質性精神障害について通常問題となる障害等級は、 次の3つです。

等級 基本的な状態 就労上のイメージ
第9級 通常の労務には服せるが、就労可能な職種が相当程度制限される 働くことはできるが、職種そのものに相当な制限がある
第12級 通常の労務には服せるが、多少の障害を残す 職種制限まではないが、就労にかなりの配慮が必要
第14級 通常の労務には服せるが、軽微な障害を残す 職種制限はないが、就労に多少の配慮が必要
「精神症状が残っている」だけでは、障害等級が付くとは限りません。

認定基準上は、 所定の精神症状が残っていることに加えて、 後述する8つの能力のうち少なくとも1つに障害があることが重要になります。

2.等級を分ける「8つの能力」とは

精神障害の後遺障害を理解するうえで、 最も重要なのが 「8つの能力」です。

能力 主に確認される内容
1.身辺日常生活 入浴、更衣、清潔保持、規則的な食事などを行えるか
2.仕事・生活に積極性・関心を持つこと 仕事、職場生活、社会の出来事、娯楽などへの意欲・関心があるか
3.通勤・勤務時間の遵守 規則的に通勤し、出勤時間などを守れるか
4.普通に作業を持続すること 通常の集中力・持続力で業務を続けられるか
5.他人との意思伝達 上司や同僚などと適切にコミュニケーションできるか
6.対人関係・協調性 上司・同僚などと円滑に共同作業や社会的行動ができるか
7.身辺の安全保持、危機の回避 職場の危険などから適切に自分を守れるか
8.困難・失敗への対応 新しいストレス、困難、失敗に直面したときに対応できるか

非器質性精神障害の後遺障害に関する意見書等では、 各能力について「適切又は概ねできる」「時に助言・援助が必要」 「しばしば助言・援助が必要」「できない」といった区分で、 具体的な能力低下の状況が確認されます。

説明上の表示 状態
A 適切又は概ねできる
B 時に助言・援助が必要
C しばしば助言・援助が必要
D できない(能力が失われている)

※A~Dはこの記事での説明上の便宜的な表示です。認定基準の表現は、 「時に助言・援助が必要」「しばしば助言・援助が必要」「能力が失われている」などです。

ポイント

「うつ病だから○級」 「PTSDだから○級」 と診断名だけで決めるのではありません。

精神症状が、実際の仕事や生活上の能力にどの程度影響しているのか を見る仕組みになっています。

動画でも解説しています

3.9級・12級・14級はどこで分かれる?

就労している人、または就労意欲がある人について、 基本的な違いを整理すると次のようになります。

8能力の状態 基本的な考え方
2~8のうち1能力が「できない」 9級の基準
4項目以上で「しばしば助言・援助が必要」 9級の基準
4項目以上で「時に助言・援助が必要」 12級の基準
1項目以上で「時に助言・援助が必要」 14級の基準
すべて「適切又は概ねできる」 原則として、この基準による障害等級には該当しない方向
単純な点数表ではありません。

例えば、「しばしば助言が必要」が3項目あり、 別の1項目が「時に助言が必要」というように評価が混在する場合もあります。

実際には、療養経過、症状の変動、 就労状況や職場で受けている配慮なども含めて判断されます。

4.9級|働けるが職種が相当程度制限される

第9級の基本

「通常の労務に服することはできるが、 非器質性精神障害のため、 就労可能な職種が相当な程度に制限されるもの」

9級で重要なのは、 「働けない」ことではありません。

一定の就労は可能でも、 精神障害のために 就ける仕事そのものが相当程度制限される 状態が問題になります。

認定基準では、例えば、 身辺日常生活を除く2~8の能力のうち1能力が失われている場合や、 4項目以上について「しばしば助言・援助が必要」とされる場合などが示されています。

基準上の具体例として、 対人業務に就けないことによる職種制限 も示されています。

「復職している=9級にならない」ではありません。

重要なのは、単に会社へ戻ったかどうかではなく、 どのような職種・業務なら働けるのか、 配置や業務内容がどの程度制限されているのかです。

5.12級|職種制限はないが、かなりの配慮が必要

第12級の基本

「通常の労務に服することはできるが、 非器質性精神障害のため、 多少の障害を残すもの」

12級では、 9級のような 「就ける職種そのものの相当な制限」までは認められない 一方で、 就労に当たってかなりの配慮を要する状態が問題になります。

認定基準では、 8能力のうち 4項目以上について「時に助言・援助が必要」 な場合などが示されています。

※「かなりの配慮」は認定基準に示された整理です。個別にどのような配慮が必要かは、 診療経過、能力低下、実際の勤務状況等を踏まえて判断されます。

したがって、9級と12級を考えるときには、 単純な症状の強弱だけではなく、

  • 職種そのものを変えなければ勤務できないのか
  • 同じ職種でも配慮があれば勤務できるのか
  • どの能力について援助が必要なのか
  • 援助が「時に」なのか「しばしば」なのか

といった違いが重要になります。

6.14級|多少の配慮が必要

第14級の基本

「通常の労務に服することはできるが、 非器質性精神障害のため、 軽微な障害を残すもの」

14級では、 職種制限までは認められないものの、 就労に当たって多少の配慮が必要 という状態が問題になります。

判断項目の 1項目以上について「時に助言・援助が必要」 な障害を残している場合が基準として示されています。

※「多少の配慮」は認定基準に示された整理です。個別にどのような配慮が必要かは、 診療経過、能力低下、実際の勤務状況等を踏まえて判断されます。

ここで重要なのは、 14級は単に 「少し症状が残っている人の等級」ではない ということです。

精神症状によって、 8能力の少なくとも1つについて、 実際に援助を必要とする程度の能力低下が認められるかが問題になります。

7.14級と非該当はどこで分かれる?

相談者にとって分かりにくいのが、 14級と非該当の境界です。

例えば、 不安感、意欲低下、疲れやすさなどの症状が残っていても、 それだけで14級になるとは限りません。

14級方向 非該当方向
精神症状が残っている 症状の訴えだけにとどまる
8能力の少なくとも1つに支障がある 8能力は概ね保たれている
時に助言・援助が必要 仕事・生活上の援助を特に要しない
業務上の精神障害との関係が認められる 別の傷病や事情による支障と考えられる
14級のポイントは「症状」だけではなく「能力上の支障」です。

軽い症状が残っているかどうかではなく、 その症状によって仕事や生活上、 どのような援助が必要になっているのかを具体的に確認することが重要です。

8.症状が重いほど上位等級になる?

ここは精神障害の後遺障害で、 特に誤解されやすいところです。

一般的には、 症状が重ければ 「14級→12級→9級→7級……」 と上がっていくように思えるかもしれません。

しかし、非器質性精神障害では、 そのような単純な仕組みではありません。

精神症状が非常に重い場合、原則として「さらに上の障害等級」ではなく、療養継続となる場合があります。

認定基準では、 例えば、

  • 身辺日常生活ができない
  • 身辺日常生活以外の能力のうち、2能力以上が失われている

といった重い状態について、 精神障害には将来大幅に改善する可能性があるという特質を考慮し、 原則として療養を継続する考え方が示されています。

イメージ

治療による改善が見込まれる
↓
療養を継続

治療を続けても大きな改善が見込めず、症状が安定
↓
労災保険上の「治ゆ」を検討
↓
障害等級を検討

なお、十分な療養を行っても改善が見込めず、 重い症状のまま症状固定と判断される例外的な事案については、 通常の9級・12級・14級の基準によらず、 厚生労働省本省との協議によって個別に障害等級を検討する仕組みがあります。

したがって、 「精神障害は絶対に9級まで」 と断定するのも正確ではありません。

9.復職していても後遺障害になる?

復職していることだけを理由に、障害等級の対象外になるわけではありません。

実際、9級・12級・14級の基準はいずれも、 一定程度の労務に服することができる状態を前提としています。

そのため確認すべきなのは、 単なる 「復職した・していない」 ではなく、

  • どのような仕事をしているのか
  • 配置転換が行われたのか
  • 業務内容が限定されていないか
  • 勤務時間が短縮されていないか
  • 上司や同僚からどの程度援助を受けているのか
  • 欠勤・遅刻・早退などがどの程度あるのか

といった 実際の就労状況です。

反対に、 退職しているからといって、 自動的に重い等級になるわけでもありません。

精神障害によって就労意欲そのものが失われているのか、 元の仕事には戻れないが別の仕事を希望しているのか、 会社都合や家庭事情など別の理由で退職したのかによって意味が変わります。

1分でポイントを解説

10.主治医が9級と書けば9級になる?

主治医の診断や意見は、 もちろん非常に重要な資料です。

しかし、 主治医が「9級相当」と考えたから、そのまま9級になるという仕組みではありません。

精神障害の障害等級では、 主治医の意見だけでなく、

  • 8能力それぞれの評価
  • 診療録との整合性
  • 本人の日常生活状況
  • 復職後の勤務実態
  • 職場で受けている配慮
  • 本人・家族等からの聴取内容
  • 必要に応じた専門医の意見

などを確認して判断されます。

最終的な労災保険上の治ゆや障害等級については、 主治医の意見を重要な資料としつつ、 労働基準監督署長が判断します。

11.実際の労働保険審査会の裁決ではどう判断された?

ここからは、 公開されている労働保険審査会の裁決から、 実際に精神障害の等級が争われた事例を見てみます。

事例1|12級か9級かが争われた事例

令和元年労第273号

適応障害について、 原処分では精神障害部分が12級と判断されました。 請求人は、より重い9級に該当すると主張しました。

この事例では、 8能力のうち、

  • 仕事・生活への積極性・関心
  • 他人との意思伝達
  • 対人関係・協調性
  • 困難・失敗への対応

の4項目について 「時に助言・援助が必要」 と評価され、 その他の4項目は概ね可能とされました。

そのため、 精神障害部分について12級という判断が維持されました。

※この事例では、精神障害部分は第12級とされ、他の身体障害と併合した全体の障害等級は第11級とされました。

この裁決のポイント

単に「まだ症状がある」というだけではなく、 8能力のうち、どの能力がどの程度低下しているのか が具体的に確認されています。

事例2|主治医は7級相当、しかし9級が維持された事例

平成26年労第485号

うつ病について原処分では9級。 請求人側は、より重い7級相当であると主張しました。

この事例では、 主治医が7級相当との意見を示していました。

しかし、個別の能力評価を見ると、 対人関係・協調性などについて 「できない」ではなく 「しばしば助言・援助が必要」 という評価でした。

また、身辺日常生活ができない状態や、 複数の能力が失われた状態とも認められず、 最終的に9級が維持されています。

「医師が○級と書いたか」だけを見るのではありません。

等級についての結論と、 8能力それぞれの具体的な評価が整合しているかも重要になります。

事例3|「普通に作業を持続すること」ができないとされた事例

平成27年労第278号

非器質性精神障害等について、 審査請求の過程で精神障害の評価が9級へ変更された事例です。

この事例では、精神障害に関する能力評価のうち、 「普通に作業を持続すること」が「できない」 と評価され、 身辺日常生活以外の能力のうち1能力が失われている場合として、 第9級の基準との関係が問題になりました。

一方で、 能力上の障害が存在することと、 その障害が業務上の傷病に由来することは別の問題です。

残っている症状と業務上疾病との因果関係も、 障害等級の判断では重要になります。

12.障害年金・精神障害者手帳と労災の等級は同じ?

ここも混同されやすいところです。

障害年金の等級や精神障害者保健福祉手帳の等級が、そのまま労災の障害等級へ換算されるわけではありません。

それぞれ制度の目的や認定基準が異なります。

例えば、 障害年金で2級だから 「労災でも必ず重い等級になる」 とはいえません。

精神障害者保健福祉手帳の診断書や生活能力に関する資料が、 労災の判断材料の一つとして検討される場合はあります。

しかし、 最終的には 労災保険独自の障害等級認定基準 に基づいて判断されます。

13.まとめ|精神障害の後遺障害は「8つの能力」で見る

精神障害が労災認定された後も症状が残っている場合、 通常の認定枠として 9級・12級・14級 が問題になります。

その違いを大きく整理すると、

等級 大きな違い
9級 働くことはできるが、就ける職種が相当程度制限される
12級 職種制限はないが、就労にかなりの配慮が必要
14級 職種制限はないが、就労に多少の配慮が必要
等級名だけを見るのではなく、実際の能力低下を具体的に整理することが重要です。

特に、 「どの仕事ならできるのか」 「どの能力に支障があるのか」 「どのくらいの頻度で援助が必要なのか」 を整理することが、9級・12級・14級を考えるうえで重要になります。

また、 復職しているから後遺障害にならないわけではありません。

反対に、 症状が非常に重ければ、 そのまま上位等級になるとも限りません。 改善可能性を考慮して、 原則として療養継続となる場合があります。

「症状が残っている」という一点だけではなく、 治療経過・8能力・実際の就労状況を一体として見る ことが大切です。

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参考資料

※本記事は、公表されている厚生労働省資料・労働保険審査会裁決等をもとに、 非器質性精神障害に関する労災保険の障害等級認定の一般的な考え方を整理したものです。 個別事案の障害等級を保証するものではありません。 実際の認定は、治療経過、残存症状、能力障害、就労状況、医学的資料等を踏まえて個別に判断されます。

ここまで読んで、まだ迷っていても大丈夫です。

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