精神障害の労災認定は労基署で違う?大阪・東京など地域別データを5年比較

精神障害の労災認定は地域で違うのか大阪・東京などの地域別データを5年比較

精神障害の労災についてご相談を受けていると、 「大阪は労災認定が厳しいと聞きました」 「労基署によって認定されやすさは違うのでしょうか」 と聞かれることがあります。

確かに、同じ労災保険制度であっても、実際に調査・決定を行うのは各地域を管轄する労働基準監督署です。

そこで今回は、厚生労働省が公表している精神障害の労災補償統計を確認し、 全国の都道府県別データと直近5年間の数字を調べました。

さらに、

  • 大阪は本当に労災認定が厳しいのか
  • 東京なら認定されやすいのか
  • 認定基準は全国共通なのか
  • 労基署によって調査方法は違うのか
  • 審査期間にも地域差があるのか

という、申請する方が気になる点まで整理します。

先に結論

厚生労働省の公表統計を見ると、 都道府県によって「決定案件に占める支給決定割合」にはかなりの差があります。

しかし、この数字だけから 「大阪は厳しい」「新潟は通りやすい」「東京より地方で申請した方が有利」 と判断することはできません。

各地域で扱っている案件の内容や証拠状況などを調整した比較ではないためです。

また、精神障害の労災認定基準そのものは全国共通です。

動画でも詳しく解説しています

1.精神障害の労災認定|都道府県・労働局で数字に差はある?

厚生労働省は毎年度、 「過労死等の労災補償状況」を公表しています。

精神障害については、全国だけではなく、 47都道府県ごとの請求件数・決定件数・支給決定件数 も公表されています。

※厚生労働省の都道府県別統計は、実務上は各都道府県労働局の管内で処理された件数を集計したものです。個々の労働基準監督署ごとの件数・支給決定割合は、全国統一の定例統計としては公表されていません。

2025年度(令和7年度)の精神障害の労災補償状況は、全国で次のようになっています。

区分 件数
請求件数 4,958件
決定件数 3,839件
支給決定件数 1,082件
支給決定以外の決定件数
(決定件数-支給決定件数)
2,757件

※「決定件数-支給決定件数」は、統計表の数値から算出した差引値です。本記事では、単純に「不支給件数」とは表現していません。

ここで注意したいのは、 4,958件の請求について、その年に1,082件が認定されたという意味ではない ことです。

その年度の決定件数には、前年度以前に請求された案件も含まれます。

「支給決定件数 ÷ 請求件数」を、そのまま「認定される確率」とするのは適切ではありません。

2.「認定率」はどう計算すればいい?

一部の労働局では、

認定率 = 支給決定件数 ÷ 決定件数

という形で数字を示しています。

ただし、本記事では誤解を避けるため、 「決定案件に占める支給決定割合」 または 「支給決定件数/決定件数」 と表現します。

複数年度を比較するときも、各年度の割合を単純平均するのではなく、

対象期間の支給決定件数の合計 ÷ 対象期間の決定件数の合計

として計算する方が適切です。

3.直近5年間で比較すると、かなり差がある

2021~2025年度の5年間について、主要地域と全国を集計すると次のようになります。

地域 5年決定件数 5年支給決定 支給決定割合
北海道 456 219 48.0%
東京 2,959 644 21.8%
神奈川 1,097 339 30.9%
新潟 137 75 54.7%
愛知 948 285 30.1%
大阪 1,280 358 28.0%
福岡 625 225 36.0%
全国 13,857 4,360 31.5%

※小規模県は決定件数自体が少ないため、数件の支給・不支給の変動でも割合が大きく動きます。新潟の5年決定件数は137件、東京は2,959件です。

数字だけを見ると、かなり違います。

たとえば5年間では、

東京 21.8%
大阪 28.0%
全国 31.5%
北海道 48.0%
新潟 54.7%

となっています。

1分でポイントを確認

これだけを見ると、 「新潟は認定されやすく、東京は認定されにくいのでは?」 と思うかもしれません。

しかし、 そこまでの結論をこの統計から出すことはできません。

4.「大阪は労災認定が厳しい」は本当?

ご相談の中でも、 「大阪は労災が厳しいと聞きました」 と言われることがあります。

そこで大阪の数字を確認してみます。

2021~2025年度の5年間では、

大阪:358件/1,280件 = 28.0%
全国:4,360件/13,857件 = 31.5%

確かに大阪の支給決定割合は、5年間の全国値を下回っています。

しかし、年度別に見ると話はもう少し複雑です。

年度 大阪 全国
202136.1%32.2%
202234.6%35.8%
202329.0%34.2%
202423.5%30.2%
202524.2%28.2%

2021年度には大阪の数字が全国値を上回っています。

大阪について、公的機関が「他地域より精神障害の労災認定が厳しい」と認定した資料は、今回確認した範囲では見つかりませんでした。

したがって、

「大阪の決定案件に占める支給決定割合は5年累計で全国値を下回っている。しかし、それが大阪労働局・大阪の労基署の審査が厳しいことを意味するわけではない」

というのが、現時点で最も正確な整理です。

5.では、東京なら認定されやすい?

これも数字を見ると、むしろ逆です。

東京の2021~2025年度の支給決定割合は 21.8%で、全国の31.5%を下回っています。

しかし、だからといって 「東京労働局は全国で特に審査が厳しい」 とも言えません。

東京は5年間の決定件数が2,959件と非常に多く、新潟の137件とは案件数も大きく異なります。

さらに、各地域でどのような案件を処理したのかが同じではありません。

都道府県別の数字は「その地域で処理された案件の結果」です。

同じ条件の案件を全国47都道府県に提出して比較した実験ではありません。

6.なぜ数字だけで「通りやすさ」を判断できない?

地域ごとの支給決定割合を比較するには、本来であれば案件の中身をそろえる必要があります。

たとえば、次のような違いが結果に影響する可能性があります。

  • 長時間労働事案の割合
  • パワハラ・セクハラ・カスタマーハラスメント等の割合
  • 自殺・自殺未遂事案の割合
  • 業種・職種・企業規模
  • 発病時期の特定のしやすさ
  • 会社が事実関係を認めているか
  • 録音・メール・勤怠資料等の客観的証拠の有無
  • 関係者から証言を得られるか
  • 既往歴や私生活上の出来事
  • 前年度から持ち越された複雑事案の割合

ところが、現在公表されている全国統計では、 こうした案件内容と都道府県別の支給決定割合を結び付けて比較することができません。

確認できるのは「地域別の集計値に差がある」というところまでです。

その差の原因が「労働局・労基署の審査姿勢」にあるのかは、公表統計だけでは分かりません。

7.精神障害の労災認定基準は全国共通?

ここは重要です。

精神障害の労災認定基準そのものは全国共通です。

現行の「心理的負荷による精神障害の認定基準」は、 2023年9月1日付けで厚生労働省労働基準局長から 全国の都道府県労働局長に通知されています。

基本的には、

  1. 認定基準の対象となる精神障害を発病していること
  2. 発病前おおむね6か月の間に、業務による強い心理的負荷が認められること
  3. 業務以外の心理的負荷や個体側要因により発病したとは認められないこと

などをもとに判断します。

心理的負荷評価表についても、 東京用、大阪用、新潟用と別々の基準が存在するわけではありません。

8.それでも労基署によって「取扱い」が違うことはある?

認定基準が全国共通だからといって、 すべての調査がまったく同じように進むわけではありません。

調査の基本的な枠組みは共通しています。

  • 請求人からの事情聴取
  • 会社からの報告・資料収集
  • 上司・同僚等への事情聴取
  • 勤怠資料、メール、社内資料等の確認
  • 主治医への照会
  • 必要に応じた専門医意見の収集
  • 調査復命書の作成
  • 支給・不支給の決定

一方で、個別事案によって、

  • 誰から事情を聴くか
  • 追加聴取を行うか
  • どの資料を追加で求めるか
  • 録音やメールをどう評価するか
  • 医療機関へ追加照会するか
  • 専門医への意見聴取が必要か

などには判断が入ります。

「担当者によって調査の進め方に違いが生じる可能性」と、 「特定の労基署が恒常的に認定しにくい」という話は分けて考える必要があります。

特定の労基署が録音を軽視する、会社側の説明を優先する、といった全国比較データは確認できません。

9.精神障害の労災|審査期間に東京・大阪など地域差はある?

「東京や大阪は案件が多いから、地方より時間がかかるのでは?」 という疑問もあります。

しかし、2026年9月時点で確認できる公表資料では、 精神障害の労災について、

  • 都道府県別の平均処理期間
  • 労基署別の平均処理期間
  • 中央値
  • 6か月を超えた案件の割合
  • 1年を超えた案件の割合

といった全国統一統計は確認できません。

したがって、 「東京・大阪など申請件数の多い地域ほど審査が遅い」 とも断定できません。

「6か月」は法律上の期限ではない

労災補償業務の運営上、3か月・6か月を経過した事案について進行管理を行う仕組みがあります。

ただし、

  • 6か月以内に必ず決定しなければならない法律上の期限ではない
  • 6か月を超えれば自動的に認定されるわけではない
  • 6か月を超えただけで直ちに違法になるわけではない

という点には注意が必要です。

精神障害の労災では、事実関係が複雑な場合など、 1年以上かかるケースもあり得ます。

たとえば、発病時期が争われている、ハラスメントについて会社と本人の説明が大きく異なる、関係者が多い、勤怠資料が不完全、複数の事業場にまたがる、といった場合です。

審査が長期化している場合には、担当者へ現在の調査段階や未収資料、今後の見通しを確認して差し支えありません。

10.認定されやすそうな労基署を選んで申請できる?

基本的にはできません。

労災請求の管轄は、本人の住所ではなく、 原則として所属する事業場の所在地を管轄する労働基準監督署 を基準に考えます。

したがって、

「新潟の数字が高いから新潟で申請する」
「東京の数字が低いから別の県で申請する」

といった選択を自由にできる制度ではありません。

転勤、出向、派遣、客先常駐、複数の事業場で働いている場合などは、 雇用関係、指揮命令関係、労災保険関係、原因となった業務を行った場所などを踏まえて個別に確認する必要があります。

11.地域差より、申請者が本当に気にしたいこと

自分が申請する地域の数字を見て、 「ここは低いから無理なのでは」 と不安になる必要はありません。

申請する側でコントロールできるのは、 どこの労基署に当たるかではなく、自分の事案をどのように整理して伝えるか です。

精神障害の労災申請では、たとえば次の点が重要になります。

  • 発病時期・初診日・休職日を整理する
  • 発病前おおむね6か月を中心に時系列を整理する
  • ハラスメントは日時、場所、発言者、同席者等を具体化する
  • メール、チャット、録音、相談履歴等を保存する
  • 長時間労働が問題になる場合は勤怠、PCログ、入退館記録等を確認する
  • 配置転換、ノルマ、トラブル等を裏付ける会社資料を特定する
  • 事情を知る同僚等がいれば整理しておく
  • 主治医に職場で起きた出来事と症状の経過を具体的に伝える
  • 医療記録、申立内容、会社への説明に大きな矛盾が生じないよう整理する
「どこの労基署なら通りやすいか」を考えるより、 認定基準に沿って、発病・出来事・証拠・医学的経過を一貫して整理する方が重要です。

12.まとめ|数字の地域差はある。でも「通りやすさ」とは限らない

今回確認できたこと
  • 精神障害の労災について、都道府県別の請求・決定・支給決定件数が公表されている
  • 決定案件に占める支給決定割合には地域差がある
  • 2021~2025年度では全国31.5%、東京21.8%、大阪28.0%、北海道48.0%、新潟54.7%だった
  • ただし、案件内容や証拠状況等を調整した比較ではない
  • 「大阪は厳しい」「新潟は通りやすい」と断定できる公的根拠は確認できない
  • 精神障害の労災認定基準は全国共通
  • 調査方法の細部には個別判断が入る
  • 都道府県別・労基署別の審査期間の統一統計は確認できない
  • 申請する労基署を認定されやすさで自由に選べる制度ではない

全国の数字を比べると、確かに大きな差があります。

しかし、 「数字が違う」ことと「審査基準が違う」ことは同じではありません。

現時点の公表資料から言えるのは、 地域別の集計値には差がある一方、その原因が労働局・労基署の審査の厳しさにあるかは分からない というところまでです。

精神障害の労災申請では、地域の数字以上に、 発病時期、心理的負荷となった出来事、客観的証拠、医学的経過を整理し、 認定基準に沿って事案全体を伝えることが重要だと考えます。

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※個別の労災認定結果を保証するものではありません。実際の業務上外の判断は、労働基準監督署が個別の事実関係・証拠・医学的資料等を調査したうえで行います。

参考にした主な公的資料

※本記事は2026年9月時点で確認できる公表資料をもとに作成しています。 都道府県別の割合は、各地域の案件内容・証拠状況等を調整した数値ではありません。 また、今後の統計公表や制度・運用の変更により内容が変わる可能性があります。

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