うつ病の障害年金で3級判断が取り消された理由|医師の回答と生活実態を裁決から解説

うつ病で障害厚生年金3級と決定されたものの、「日常生活の状態から考えると、2級ではないのか」と疑問を持つ方もいるでしょう。
実際に、うつ病について障害厚生年金3級とされた処分が、社会保険審査会で取り消された裁決があります。平成27年(厚)第1101号・平成28年7月29日裁決です。
この裁決では、診断書の「日常生活能力の程度」が「(3)」と記載されていました。しかし審査会は、医師の補足説明、家族の援助を要する状態、試験的な作業が続かなかった経過などを総合し、障害認定日当時は2級相当と判断しました。
本記事では、厚生労働省が公表する裁決の原文をもとに、何が争点となり、どのような事情が評価されたのかを解説します。
- 本件は「全面不支給」ではなく、障害厚生年金3級を超える給付を認めなかった処分が争われた事例です。
- 診断書の「程度(3)」は、年金の「3級」と同じ意味ではありません。
- 審査会は、診断書の一つの欄だけでなく、症状・日常生活・医師の回答・試験的作業の経過を総合評価しました。
- 裁決は2016年9月の「精神の障害に係る等級判定ガイドライン」実施前のものです。現在の判断にそのまま当てはめることはできません。
動画で解説|障害年金3級判断が取り消された理由
社会保険審査会の実際の裁決をもとに、医師の回答や生活実態がどのように評価されたのかを解説しています。
1.裁決の概要――何が取り消されたのか
請求人は、うつ病について障害認定日による障害給付の裁定を請求しました。これに対し、厚生労働大臣は、障害認定日当時の状態を障害厚生年金3級と判断し、それを超える障害給付は支給しない処分を行いました。
請求人は2級の障害基礎年金・障害厚生年金を求め、社会保険審査官への審査請求を経て、社会保険審査会に再審査請求を行いました。
| 事件番号 | 平成27年(厚)第1101号 |
|---|---|
| 裁決日 | 平成28年(2016年)7月29日 |
| 傷病 | うつ病 |
| 原処分 | 障害認定日当時を障害厚生年金3級とし、それを超える障害給付は支給しない |
| 主な争点 | 障害認定日当時の状態が2級に該当するか |
| 裁決の主文 | 原処分を取り消す |
| 理由中の判断 | 障害認定日を受給権発生日とする2級の障害給付が支給されるべき |
出典:社会保険審査会「平成27年(厚)第1101号」裁決、公表版147頁・149頁。
大切なのは、年金がまったく認められなかった事件ではないという点です。また、裁決の主文は「原処分の取消し」であり、2級相当との判断はその理由の中で示されています。裁決後の実際の支払額や支払期間までは、公表資料から確認できません。
2.障害年金2級と3級では何が違う?
障害年金の等級は、病名だけでは決まりません。障害によって日常生活や労働がどの程度制限されているかなどを、認定基準に沿って判断します。
| 区分 | 2級 | 3級 |
|---|---|---|
| 基本的な考え方 | 日常生活が著しい制限を受ける程度 | 労働が著しい制限を受ける程度 |
| 障害基礎年金 | 対象 | 3級は設けられていない |
| 障害厚生年金 | 対象 | 対象 |
ただし、これは制度の違いを理解するための簡潔な整理です。「働けない人は2級、働ける人は3級」と機械的に分けられるものではありません。
参考:日本年金機構「国民年金・厚生年金保険 障害認定基準」、「障害年金」。就労状況を含む総合評価については、後述の等級判定ガイドラインも参照してください。
今回の裁決で問われたのは、障害認定日当時のうつ病による生活上の制限が、3級にとどまるのか、2級に該当するのかという点でした。
3.診断書には何が記載されていたのか
不眠、倦怠感、意欲低下などが続いていた
公表された裁決理由によると、請求人には不眠、身体の倦怠感、動悸、意欲低下などが続き、日中は横になって過ごしがちでした。家族以外との対人的な交流がない状態も示されています。
また、先々のことを考えると不安や抑うつ気分が強まり、希死念慮に至ることがある旨も記載されています。ただし、症状の一つだけを取り出して2級の理由とすることはできません。
日常生活能力の7項目にも制限があった
裁決理由には、日常生活能力の項目ごとの評価も示されています。
| 日常生活能力の項目 | 裁決理由に示された状態(要約) |
|---|---|
| 適切な食事 | 自発的にできるが、時には助言・指導が必要 |
| 身辺の清潔保持 | 自発的・適正には難しく、助言・指導があればできる |
| 金銭管理と買い物 | 助言・指導があればできる |
| 通院と服薬 | 助言・指導があればできる |
| 他人との意思伝達・対人関係 | 助言・指導があればできる |
| 身辺の安全保持・危機対応 | 助言・指導をしてもできない、または行わない |
| 社会性 | 助言・指導をしてもできない、または行わない |
出典:対象裁決148頁。公表された裁決理由の要約であり、診断書原本の全文を転記したものではありません。
「日常生活能力の程度(3)」は、障害年金3級という意味ではない
この事例で診断書に記載されていた「日常生活能力の程度」は「(3)」でした。
混同しやすい2つの数字
「日常生活能力の程度(3)」は、精神の障害用診断書の生活能力に関する評価です。一方、「障害年金3級」は年金制度上の障害等級です。番号が同じでも、同じものを指しているわけではありません。
裁決を読む際には、程度の選択欄だけでなく、各項目の評価や実際の生活状況を分けて確認することが重要です。
4.医師の照会回答は、何を補足したのか
再審査請求代理人からの照会に対し、A医師は書面で回答していました。
裁決理由によると、医師は、日常生活能力の低下が顕著であり、家族の援助を必要とすることも多いと説明しています。また、日常生活能力の程度について、「(3)とも(4)とも取れる状況」とし、入院を考慮せざるを得ない時期もあったと述べています。
審査会は、この医師の説明を、診断書の内容や手続全体に照らして受け入れられるものと評価しました。
ここで注意したいのは、医師が診断書を正式に「(4)」へ訂正したと確認できるわけではないことです。また、医師の回答一つだけで等級が覆ったと説明するのも正確ではありません。
公表版では、照会文・回答書の全文や、回答が初めて提出された手続段階までは確認できません。「新証拠によって逆転した」と断定することも避ける必要があります。
出典:対象裁決148頁。
5.家族の援助と試験的な作業は、どう評価されたのか
家族の援助を要する状態も評価された
医師の回答では、日常生活能力の低下とともに、家族の援助を要することが多いと説明されていました。
生活が一見成り立っていても、本人だけで維持できているとは限りません。家族の助言、見守り、手助けなどが必要かどうかは、日常生活の制限を考えるうえで重要な視点です。
ただし、本件の公表資料からは、家族が具体的に何を何回行っていたかまでは分かりません。個別の援助内容を事実として補うことはできません。
短時間の試験的作業をしたが、継続できなかった
請求人は就労支援サービスを受け、リサイクル事業所で短時間の試験的な作業を試みていました。しかし、すぐに体調が悪くなり、再び外出できなくなったという事情が、病歴・就労状況等申立書や審理期日の代理人陳述から示されています。
作業したという事実だけでは、その人が安定して働ける状態だったかどうかは分かりません。どのような支援のもとで試み、続けられたのか、その後の生活にどう影響したのかという経過も大切です。
もっとも、裁決公表版からは、1日何時間・何日間作業したのか、雇用契約があったのか、具体的な作業内容は確認できません。
出典:対象裁決148~149頁。
6.審査会は、なぜ2級相当と判断したのか
審査会は、国民年金法施行令の2級の程度や、当時の障害認定基準における気分(感情)障害の認定要領を踏まえて判断しました。
その際に検討されたのは、診断書の「程度(3)」という記載だけではありません。
- 不眠、意欲低下などの症状と、その経過
- 日中の生活や対人交流の制限
- 日常生活能力の各項目における援助の必要性
- 医師が説明した能力低下と家族援助の必要性
- 試験的な作業を試みた後、体調不良で再び外出困難となった事情
当時の認定基準では、気分・意欲・行動や思考の障害のある時期が持続したり、頻繁に繰り返したりするため、日常生活が著しい制限を受ける状態が、気分(感情)障害の2級の例として示されていました。
審査会は、これらの状態を総合して判断し、気分(感情)障害について示された2級の例示に該当すると認めました。そして、障害認定日を受給権発生日とする2級の障害給付が支給されるべきとして、原処分を取り消しました。
「診断書の数字を変えれば2級になる」という話ではありません。診断書の記載、医師の医学的説明、具体的な生活状況、試験的作業の経過を整合的に捉えた総合判断が示された事例です。
なお、審査会は1級相当ではないとも判断していますが、その詳細な理由が個別の生活項目ごとに示されているわけではありません。
また、公表版には、原処分でどの記載をどのように評価して3級としたのかという詳しい判断過程までは示されていません。そのため、「作業をしたことだけが理由で3級になった」などと説明することはできません。
出典:対象裁決147~149頁。
1分でわかる|なぜ3級判断が取り消された?
診断書の「程度(3)」と障害年金3級の違いを、実際の裁決から短く解説します。
7.現在の等級判定ガイドラインとは分けて読む
この裁決は2016年7月29日のものです。一方、「国民年金・厚生年金保険 精神の障害に係る等級判定ガイドライン」は2016年9月1日から実施されました。実施通知自体は同年7月15日に出されていますが、裁決日は実施前です。
したがって、現在のガイドラインの「等級の目安表」を当時の裁決にさかのぼって適用し、「この表だから2級になった」と説明することはできません。
現在も「程度(3)=必ず3級」ではない
日本年金機構が公表する等級判定ガイドラインでは、診断書の「日常生活能力の判定」の平均と「日常生活能力の程度」を組み合わせて、等級の目安を参照します。ただし、目安がそのまま最終的な等級を決定するわけではありません。 病状、療養状況、生活環境、就労状況なども踏まえて総合評価します。
また、家族等の支援によって生活が維持されている場合の援助の必要性や、就労している場合の支援・配慮、仕事の安定性、仕事以外の生活への影響なども考慮事項です。
これは日本年金機構が公表するガイドラインに基づく一般的な説明であり、今回の2016年7月の裁決がそのガイドラインを適用したという意味ではありません。
参考:日本年金機構「『国民年金・厚生年金保険 精神の障害に係る等級判定ガイドライン』等」、厚生労働省「国民年金・厚生年金保険 精神の障害に係る等級判定ガイドラインの実施等について」(平成28年7月15日・年管管発0715第1号)。最新の改正・運用は申請時点の公的資料で確認が必要です。
8.障害年金の申請や3級決定後に確認したいこと
今回の裁決は、同じ事情があれば誰でも2級になることを示すものではありません。一方、資料を整理するときの視点として、次の点は参考になります。
- 対象となる時点:障害認定日当時の判断を争うのか、その後の悪化を問題にするのかを分ける。
- 診断書と生活実態:評価欄だけでなく、各項目の記載と日々の困難が対応しているか確認する。
- 家族の援助:誰が、どのような場面で、どの程度の援助をしているか、事実に沿って整理する。
- 就労や作業の実態:作業した事実だけでなく、支援、継続状況、体調への影響を確認する。
- 医師への情報共有:実際の生活状況が診察時に十分伝わっているか確認する。希望する等級に合わせた記載を求めることとは異なる。
また、当初の決定に不服がある場合の審査請求と、その後の状態悪化を理由とする額改定請求は、目的や判断の対象時点が異なります。どの手続が適切かは、決定内容、通知を受け取った時期、症状の経過などによって変わります。
両者の違いについては、障害年金で「2級だと思ったのに3級」だった場合の審査請求と額改定請求の解説もご覧ください。
不服申立てには法定の期限があります。具体的な期限や起算点、例外は、現在の法令と公式案内に基づき個別に確認してください。
こもれび社労士事務所では、精神障害の障害年金について、申請に向けた資料整理や、決定内容に関するご相談をお受けしています。現在の状況や必要な支援内容を確認したうえで、対応範囲をご案内します。
ご相談の際は、まず決定された等級、請求の種類、通知を受け取った時期、気になっている点などを整理しておくとスムーズです。個人番号などの機微情報は、案内前に一律送信しないでください。
※審査請求・再審査請求の具体的な支援は、内容を確認したうえで別途ご案内・お見積りします。
9.よくある質問
Q1.診断書の「日常生活能力の程度」が(3)でも、障害年金2級になることはありますか?
あります。今回の裁決では「(3)」と記載されていましたが、症状や日常生活能力、医師の説明、試験的作業の経過などを総合して2級相当と判断されました。ただし、(3)であれば必ず2級になるわけではありません。
Q2.家族と同居していると、障害が軽いと判断されますか?
同居の事実だけで決まるものではありません。家族の援助によって生活が維持されている場合は、どのような援助が必要なのかを確認することが重要です。
Q3.短時間の作業や就労経験があると、2級は認められませんか?
作業や就労の経験だけで一律に判断されるものではありません。今回の裁決では、試験的な作業を試みたものの、体調を崩して再び外出困難になった経過も評価されています。
Q4.医師に「(4)」と書いてもらえば2級になりますか?
そのような仕組みではありません。今回の医師は「(3)とも(4)とも取れる」と説明しましたが、審査会は回答と他の資料との整合性を含めて判断しています。診断書は実際の医学的状態を正確に反映することが重要です。
Q5.障害認定日請求では、今の症状が重ければ過去の2級も認められますか?
認定日当時の状態を判断するため、現在の悪化だけで当時の等級が決まるわけではありません。どの時点を示す資料なのかを分けて考える必要があります。
Q6.3級の決定に納得できない場合、額改定請求をすればよいですか?
当初の決定時点の評価に不服があるのか、その後に状態が悪化したのかによって検討する手続が異なります。決定内容と通知日、症状の経過を確認して判断する必要があります。
Q7.今回の裁決と似た状態なら、現在も2級になりますか?
同じ結果になるとは限りません。個々の症状や生活状況、提出資料、適用される基準などを踏まえて判断されます。今回の裁決は、具体的な事情がどのように評価されたかを学ぶための資料です。
10.一次資料と、公表資料から分からないこと
本記事の中心資料は、厚生労働省が公開する次の裁決です。制度の一般的な説明やガイドラインの実施時期については、日本年金機構・厚生労働省の公表資料も参照しています。
- 社会保険審査会「平成27年(厚)第1101号」平成28年7月29日裁決(PDF)――冊子147~149頁、PDF1~3頁。
- 日本年金機構「国民年金・厚生年金保険 障害認定基準」――障害の程度の基本的な考え方や、精神の障害の認定基準を確認するための資料。
- 日本年金機構「精神の障害に係る等級判定ガイドライン」等――等級の目安と総合評価を理解するための参考資料。
- 厚生労働省「国民年金・厚生年金保険 精神の障害に係る等級判定ガイドラインの実施等について」――平成28年7月15日・年管管発0715第1号。ガイドラインの実施日や取扱いを確認するための通知。
- 日本年金機構「障害年金」――障害基礎年金と障害厚生年金の制度の違いを確認するための公式案内。
公表された裁決には、審査資料や事実認定の一部に省略があります。そのため、診断書・医師回答の全文、資料が初めて提出された時期、家族援助の詳細、作業日数、原処分で3級と判断した詳しい理由、裁決後の実際の支払額などは確認できません。
本記事は、確認できる裁決理由を解説したものであり、公開されていない事情を推測して補ったものではありません。
まとめ|等級の数字だけでなく、生活実態をどう捉えるか
平成27年(厚)第1101号の裁決では、うつ病について障害厚生年金3級とされた原処分が取り消され、審査会は障害認定日当時の状態を2級相当と判断しました。
その理由は、診断書の一つの評価欄や医師の一言だけではありません。症状の経過、日常生活の制限、家族の援助、医師の補足説明、試験的作業が続かなかった事情を総合して評価した点に、この裁決の重要な学びがあります。
障害年金の申請や決定内容を考える際には、等級の数字だけに目を向けず、どの時点で、どのような援助を受け、日常生活にどのような制限があったのかを丁寧に整理することが大切です。
※本記事は公表裁決と公的資料に基づく一般的な解説です。個別の等級認定、原処分の取消し、遡及支給を保証するものではありません。法令・認定基準・手続の運用は申請時点の最新情報をご確認ください。
ここまで読んで、まだ迷っていても大丈夫です。

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