公務災害の申請で職場が書類を書いてくれないときは?所属長の証明が得られない場合の対処法

「公務災害の申請をしたいのに、職場が書類を書いてくれない」「所属長の証明がもらえない」「派遣先と派遣元のどちらに頼めばよいか分からない」。このような状況では、申請そのものを諦めなければならないのでしょうか。
所属長が一部の事実を証明できないからといって、直ちに公務災害の認定請求ができなくなるわけではありません。地方公務員災害補償基金には、所属部局の長による証明が困難な場合の取扱いが示されています。
ただし、本人の申立書だけで証明欄を自由に省略できるという意味ではありません。この記事では、地方公務員災害補償基金の制度について、公表資料をもとに、証明が得られないときの考え方と確認手順を整理します。
- 公務災害の認定請求は、原則として任命権者を経由して基金支部に行います。
- 所属長が把握できない事実について、証明困難である旨を記載する取扱いがあります。
- 「証明できない」と「申請に協力しない」は事情が異なり、対応も変わります。
- 派遣中の災害では、任用形態・派遣の根拠・担当支部を先に確認することが重要です。
- 書類の扱いに迷う場合は、担当する基金支部へ具体的に相談しましょう。
1.公務災害の認定請求は誰が行う?
地方公務員災害補償基金の制度では、被災した職員などが、原則として任命権者を経由し、基金の支部長に公務災害の認定を請求します。基金が内容を審査し、公務災害に該当するかを判断します。
所属長や任命権者による確認・証明は重要ですが、所属長が公務災害かどうかを最終決定するわけではありません。認定の判断主体は基金です。
基金の公式案内でも、認定請求は被災職員等が任命権者を経由して行う手続と説明されています。地方公務員災害補償基金「認定・補償等の手続」
適用制度の確認も必要です。地方自治体で働いていても、任用形態などによって基金の補償ではなく、条例に基づく補償や労災保険が問題となる場合があります。特に会計年度任用職員などは、職員という呼び方だけで判断しないようにしましょう。
2.所属長の証明が得られない場合の取扱い
「すべてを証明できない」場合を想定した公式の取扱いがある
基金本部は、「所属部局の長の証明が困難である場合の証明欄の記入例について」(2017年11月27日事務連絡、2020年12月21日一部改正)を公表しています。
この事務連絡では、所属部局の長が災害発生状況などを把握できず、認定請求書等の記載内容について証明できない箇所がある場合に、その箇所が証明困難である旨を証明欄等に記入する取扱いが示されています。
基金本部の記入例では、証明できない事項について、所属が作成した任意様式の申立書を添付し、証明できない理由や所属での調査結果を示す形も掲載されています。ただし、実際の証明欄の記載方法や添付書類は、使用する様式と担当支部の案内に沿って確認してください。
つまり、所属長が確認できない事実を、無理に「確認済み」として証明する必要はない一方、証明できない部分があることを明らかにして手続を進める余地があります。
根拠:基金本部「所属部局の長の証明が困難である場合の証明欄の記入例について」(PDF)
兵庫県支部の説明から分かること
兵庫県支部の公表Q&Aでは、この取扱いをより具体的に説明し、証明できる箇所とできない箇所を明示することや、所属長名の申立書に所属の調査結果を記載・添付することを案内しています。また、詳細な追加調査は、認定請求の受理後に基金が行うと説明しています。
証明困難な事項を明らかにする取扱いは、基金本部の通知にも示されています。一方、具体的な記載方法や必要な添付書類については、担当支部へ確認してください。兵庫県支部の説明にある提出方法を、そのまますべての支部に当てはめるのではなく、使用する様式や支部の案内に沿って進めることが大切です。
参考:地方公務員災害補償基金兵庫県支部「よくある質問」(PDF)
例えば、こんな場合
職員が勤務中に来庁者から威嚇を受けました。所属長は当日現場におらず、職員本人の説明だけでは威嚇の具体的状況を確認できません。
この場合、所属長が直接把握している勤務状況と、確認できていない事件の詳細を分け、目撃者の記録や事件報告などを用意したうえで、証明欄の扱いを基金支部に相談することが考えられます。
※制度理解のための架空事例です。個別の申請方法や認定結果を示すものではありません。
本人の申立書だけで必ず代替できるわけではない
重要なのは、「所属長の証明が困難な場合の取扱いがある」ことと、「所属長の証明や任命権者経由を自由に省略できる」ことは別だという点です。
本人が独自に証明欄を削除したり、必要な確認を省いたりするのではなく、どの部分が証明困難なのかを明らかにして、基金支部に提出方法を確認することが大切です。
【動画解説】公務災害で所属長の証明が得られない場合の対処法
所属長の証明が困難な場合の取扱いや、職場が協力しないときの確認手順を動画で解説しています。
3.職場が協力しないときに確認したいこと
「職場が協力しない」といっても、状況は一つではありません。まず、何が止まっているのかを整理しましょう。
| 状況 | まず確認したいこと |
|---|---|
| 所属長が事実を把握できない | 証明可能な事項と、証明困難な事項を分けられるか |
| 書類作成を断られた | 誰が、どの書類の、どの部分を、どの理由で断ったのか |
| 担当部署から返事がない | 依頼日、連絡先、回答期限、現在の手続段階 |
| 派遣先が資料を出さない | 派遣元の補償担当を通じた確認や、基金支部への相談が可能か |
| 請求書が基金に届かない | 任命権者経由のどの段階で止まっているのか、支部での対応方法 |
口頭で断られた場合は、日時、部署、担当者、説明された理由を記録しておくと、基金支部への相談時に状況を伝えやすくなります。
基金支部には、「職場が協力しない」とだけ伝えるのではなく、「認定請求書の所属長証明欄について、事件の発生状況は確認できないと言われている」など、困っている箇所を具体的に説明するとよいでしょう。
【60秒で確認】所属長の証明がないと公務災害は申請できない?
職場が書類を書いてくれない場合に知っておきたいポイントを、短い動画で紹介しています。
4.派遣元・派遣先が異なる場合はどうする?
他の自治体に派遣されている間に災害が発生した場合、派遣元と派遣先で保有する資料が異なることがあります。
例えば、派遣元には任用・給与・休職に関する記録があり、派遣先には事件報告・勤務状況・現場の記録がある、といったケースです。
| 確認先 | 主な確認事項 |
|---|---|
| 派遣元 | 任用形態、派遣辞令、給与・休職、補償担当部署 |
| 派遣先 | 事件発生時の業務、現場記録、目撃者、報告書 |
| 基金支部 | 適用制度、担当支部、請求経路、所属長証明の扱い |
ただし、「派遣」という言葉だけで、どちらの自治体の所属長が証明するかを決めることはできません。地方自治法に基づく派遣、出張・応援勤務、併任など、派遣の法的な形態によって確認すべき点が変わります。
派遣辞令や協定書などがあれば、まずその内容を確認し、必要に応じて両自治体の担当部署と基金支部に相談します。
5.本人が整理しておきたい資料
所属長の証明が得られない場合でも、本人が手元の情報を整理しておくことは役立ちます。
- 出来事の記録:発生日時、場所、業務内容、何が起きたか、その場にいた人
- 職場への報告:報告した日時、相手、メール・チャット・事故報告書
- 勤務・任用関係:辞令、勤務表、派遣関係資料、休暇・休職の記録
- 医療関係:初診日、診断名、診断書、療養の経過
- 客観資料:現場写真、防犯映像の有無、目撃者、警察への届出記録など
- 証明を求めた経緯:依頼した書類、依頼日、担当者、回答内容
防犯映像などは保存期間が限られることもあります。本人が自由に取得できない資料については、無理に持ち出さず、保存の必要性や取得方法を担当部署に早めに相談しましょう。
精神疾患の場合の注意点
強い恐怖や暴力的な出来事に遭ったとしても、その事実だけで公務災害認定が確定するわけではありません。出来事の具体的な危険性、診断内容、発症時期、公務との関係などが検討されます。身体にけががなかったことだけで、精神疾患の公務災害が直ちに否定されるわけでもありません。
6.認定請求と補償請求の期限に注意
「所属長が証明してくれないから、しばらく待つしかない」と考えている間に、療養費や休業に関する手続が遅れる可能性があります。
ここで注意したいのは、公務災害の認定請求の手続と、個々の補償を受ける権利の時効は同じ問題ではないということです。
公務災害の認定請求を行うこと自体に時効はないと、基金の支部資料では説明されています。ただし、補償を受ける権利には別に時効があり、地方公務員災害補償法第63条は、原則2年、障害補償・遺族補償については5年と定めています。
このため、後から公務災害と認定されても、過去の治療費などについて補償を受けられる範囲が制限される場合があります。また、時間が経つと、事件や勤務の状況を確認する資料が失われるおそれもあります。
どの補償について、いつから時効の期間を数えるかは、個別の確認が必要です。書類がそろうまで待ち続けるのではなく、認定請求と補償請求の進め方、時効の扱いを担当支部に早めに確認してください。
参考:兵庫県支部「よくある質問」(認定請求・補償請求の時効について)
7.よくある質問
Q.所属長が「公務災害とは認められない」と言ったら、申請できませんか?
所属長の見解と、基金による認定判断は同じではありません。認定請求は原則として任命権者を経由しますが、記載内容の一部を所属長が証明できない場合の取扱いも示されています。どこで手続が止まっているかを整理し、担当する基金支部に提出方法を相談してください。
Q.所属長が現場を見ていない場合、証明は無理ですか?
現場を直接見ていないことと、勤務状況などを含め何も証明できないことは別です。確認可能な事実と確認困難な事実を分ける取扱いが示されています。
Q.証拠や録音がないと申請できませんか?
録音がないことだけで、直ちに申請できないと決まるわけではありません。事故報告、勤務記録、目撃者の説明、診療記録など、事情に応じた資料を整理します。何が必要かは担当支部に確認してください。
Q.職場に書類作成を断られた場合、どうすればよいですか?
まず、どの書類の、どの事項について、どのような理由で作成を断られているかを整理してください。事実を確認できない場合には、証明困難な箇所を明らかにする取扱いがあります。職場の補償担当や担当する基金支部に、必要書類と提出方法を確認しましょう。法的な対立や交渉が必要となる場合には、弁護士への相談も検討します。
Q.基金のどこに相談すればよいですか?
認定・補償に関する手続は基金の各支部が担当しています。勤務先自治体や任用形態、派遣の状況によって担当が異なることがあるため、まず適用制度と担当支部を確認してください。基金公式サイト「支部の連絡先」で確認できます。
8.まとめ|証明が得られないときは、困っている箇所を具体的に整理する
公務災害の申請で所属長の証明が得られない場合でも、それだけで直ちに認定請求を諦める必要があるとは限りません。基金本部は、証明が困難な箇所について、その旨を記載する取扱いを示しています。
大切なのは、何の書類の、どの事実について、誰が、なぜ証明できないのかを分けて整理することです。派遣中の災害では、任用形態や請求経路もあわせて確認する必要があります。
制度の適用や提出方法が分からないときは、職場内の補償担当部署だけでなく、担当する地方公務員災害補償基金支部に相談することも検討してください。
こもれび社労士事務所では、まず状況を伺い、 制度の概要や今後の確認事項を整理しています。
地方公務員の公務災害についても、ご相談を受け付けています。 個別の支援については、ご希望の内容や資料の状況を確認し、 当事務所で対応可能な範囲をご案内します。
なお、ご相談の受付は、認定請求書の作成・提出代行・代理や、 自治体との交渉をお約束するものではありません。 内容によっては、担当する基金支部や弁護士などの 相談先をご案内する場合があります。
初回の簡単な状況確認は無料です。 有料での対応をご提案する場合は、 支援内容と費用を事前にご説明し、 ご同意をいただいたうえで進めます。
公式LINEで相談する参考資料・根拠
- 地方公務員災害補償基金「認定・補償等の手続」
- 地方公務員災害補償基金「所属部局の長の証明が困難である場合の証明欄の記入例について」(2017年11月27日事務連絡、2020年12月21日一部改正)
- 地方公務員災害補償基金「様式一覧(補償)」
- 地方公務員災害補償基金兵庫県支部「よくある質問(任命権者・所属の公務災害担当者向け)」(2025年10月6日作成)
- 地方公務員災害補償基金「支部の連絡先」
- 地方公務員災害補償法(e-Gov法令検索)、特に第63条(時効)
※本記事は2026年10月31日時点で確認した公表資料に基づく一般的な制度解説です。支部ごとの書式・運用や個別の事情によって対応は異なります。認定の結果や特定の提出方法を保証するものではありません。
ここまで読んで、まだ迷っていても大丈夫です。

まずは、今の状況を整理するところからで大丈夫です
「まだ相談するか決めていない」
「何を書けばいいか分からない」
そんな段階でも大丈夫です。
※ 個人のご相談(労災・後遺障害・障害年金)/全国対応(LINE・オンライン)
※ 「まず整理だけ」でも大丈夫です


