精神疾患の労災・公務災害は自分で申請できる?|本人・生成AI・社労士の違い

精神疾患の労災・公務災害は自分で申請できるのか、本人・生成AI・社労士の違いを解説するイメージ

精神疾患の労災や公務災害を検討している方から、 「申立書や時系列は自分で作れるのでは?」「社労士に依頼すると何が違うの?」「生成AIを使えば自分でも整理できるのでは?」 というご質問をいただくことがあります。

結論からいうと、ご自身で申請資料を準備することは可能です。
生成AIも、メモの整理や時系列の下書き、文章の要約などには活用できます。
社労士に依頼したという事実だけで、労災・公務災害の認定上有利になるわけでもありません。

では、専門家へ依頼する意味はどこにあるのでしょうか。

大きな違いは、単に文章を代わりに書くことではありません。

精神疾患の労災・公務災害では、発病・発症時期、業務上の出来事、 勤務状況、症状の経過、受診歴、メールや勤怠などの客観資料を確認し、 それぞれの情報がどのようにつながっているのかを整理していく必要があります。

文章を「うまく書く」ことよりも、
事実・時系列・医療経過・客観資料を整理し、
申請資料全体の矛盾や不足を確認することが重要です。
この記事について
民間企業で働く方の労災と、地方公務員の公務災害では、 適用される制度、認定基準、様式、提出経路などが異なります。
この記事では両制度を同一のものとして扱うのではなく、 精神疾患の申請資料を整理する際に共通する考え方を中心に解説します。

精神疾患の労災・公務災害は自分で申請できる?

はい。社労士などの専門家へ依頼しなければ申請できない制度ではありません。

むしろ、職場で何が起きたのか、そのときどのように感じたのか、 いつから眠れなくなったのか、どのような症状が出たのかなど、 ご自身の経験を最もよく知っているのはご本人です。

ご自身で出来事を整理し、必要な資料を集め、 申請書や申立書などを準備して請求することも選択肢です。

また、ご自身で作成したからという理由だけで不利になるものでもありません。 反対に、専門家が作成を支援した文章だからというだけで、 記載された出来事が事実として認められるわけでもありません。

大切なのは「誰が文章を書いたか」ではありません。
書かれている内容が実際の出来事や資料と一致しているか、 認定で確認される事項について具体的に整理されているかが重要です。

なぜ精神疾患の申請資料は複雑になりやすいのか

精神疾患の労災・公務災害では、一つの出来事だけを確認すればよいとは限りません。

例えば、次のような情報が関係することがあります。

  • 配置転換や担当変更
  • 業務量や責任の変化
  • 時間外勤務や休日勤務
  • 上司・同僚とのトラブル
  • 叱責、パワーハラスメント等の具体的な言動
  • 会社・所属部署へ相談した時期と対応
  • 不眠、抑うつ、動悸などの症状が現れた時期
  • 欠勤、遅刻、能率低下など勤務上の変化
  • 初診、診断、休業、入院、復職などの医療経過
  • 既往歴や業務以外の出来事

さらに、それぞれについて、メール、チャット、勤怠記録、業務資料、 録音、日記、診療録、診断書、相談記録、関係者の説明など、 確認できる資料が異なります。

そのため、単に長い経緯書を作るだけではなく、 「いつ何が起きたのか」「その後どうなったのか」「何の資料で確認できるのか」 を対応させることが重要になります。

民間労災では何が確認される?

民間企業で働く方の精神障害については、 厚生労働省の「心理的負荷による精神障害の認定基準」に基づいて判断されます。

現行の認定基準では、対象となる精神障害を発病していることに加え、 原則として発病前おおむね6か月の間に、業務による強い心理的負荷が認められることなどが 認定要件として示されています。

民間労災では、本人がどれほど強くつらく感じたかだけではなく、 同じような業務・立場に置かれた労働者にとって、 その出来事や出来事後の状況がどの程度の心理的負荷となるかという観点から、 具体的事情を踏まえて評価されます。

そのため、「とてもつらかった」という説明だけでなく、 何が、いつ、どの程度、どのくらい続き、その後どのような状況になったのか を具体的に整理することが大切です。

地方公務員の公務災害では何が確認される?

地方公務員の精神疾患による公務災害については、 地方公務員災害補償基金の 「精神疾患等の公務災害の認定について」および 「『精神疾患等の公務災害の認定について』の実施について」 を中心に判断されます。

こちらも発症前おおむね6か月の業務負荷が重要になりますが、 民間労災の「心理的負荷評価表」をそのまま使用する制度ではありません。

地方公務員では、基金の基準に基づき、 仕事の質・量、異動や昇任、業務の執行体制、パワーハラスメント、 職場トラブル、住民・保護者等との関係など、 具体的な業務負荷を確認していきます。

地方公務員の公務災害では、被災職員が主観的にどれほどつらく受け止めたかだけでなく、 職種、職、業務経験等が同等程度の職員が同じ事態に遭遇した場合に、 一般的にどのように受け止めるかという観点から、業務負荷を判断します。

したがって、民間労災と公務災害の認定基準を混同しないことも重要です。

地方公務員の方へ
地方公務員の公務災害認定請求では、民間労災とは異なり、 所属、任命権者、地方公務員災害補償基金支部等を通じた手続となる場合があります。
必要書類、所属長等による証明、提出経路は、勤務先・基金支部の案内を確認してください。

本人が作る場合と社労士へ依頼する場合は何が違う?

違いは文章力だけではありません。
本人の経験と客観資料を、認定で確認される事項に沿って整理し、 書類全体の矛盾・不足・確認事項を点検するところに、 専門家による支援の意味があります。
項目 本人が行う場合 生成AIが補助できること 社労士が支援する場合
出来事の整理 自分の記憶をもとに出来事を記録する メモの要約、日付順の整理 申立書等で確認が必要となる事項を踏まえ、日時・内容・関係者・資料を整理する
時系列 出来事や症状を自分で並べる 表形式への整形、並べ替え 出来事・症状・受診・勤務状況・資料を対応させる
制度・基準 自分で制度を確認する 制度資料の要約や整理 適用される制度・公開基準・様式を確認し、事実関係と資料の整理を支援する
客観資料 メール、勤怠、診断書等を集める 資料一覧の下書き 出来事ごとに裏付け資料を対応させる
矛盾の確認 自分で各資料を読み比べる 入力された文章同士の比較 申立内容、勤怠、メール、診療経過等の不一致を確認する
不足資料 必要と思うものを集める 入力情報から不足候補を抽出する 手元資料と記載内容を確認し、追加確認の候補を整理する
医学的判断 本人は診断できない AIも診断・発病時期を決定できない 社労士も医学的判断を行うことはできない
認定判断 本人に決定権はない AIに決定権はない 社労士にも認定を決める権限はない

🎥 動画で解説|自分で申請する場合・生成AI・社労士は何が違う?

本人申請・生成AIによる整理・社労士による支援について、それぞれ何が違うのかを動画でも解説しています。

社労士がするのは「つらく見える文章を書くこと」ではありません

精神疾患の申請というと、 「どれだけつらかったかを強く書いた方がよい」と考える方もいるかもしれません。

しかし、社労士が本人の経験を実際以上に強く表現したり、 認定基準に合うように事実を作ったりするものではありません。

資料整理を行う場合には、例えば次のような順番で確認します。

  1. 何が起きたのかを具体的に確認する
  2. いつ起きたのかを時系列で整理する
  3. 症状がいつ始まり、どう変化したのかを整理する
  4. 受診・診断・休業等の医療経過を確認する
  5. メール・勤怠・録音・診療録等の資料と対応させる
  6. 認定基準・調査資料で確認事項とされる論点を整理する
  7. 資料間に食い違いがないかを確認する
  8. 不足している資料・確認事項を洗い出す
社労士の役割は、本人の話を「強くする」ことではなく、
本人の話と資料を「確認できる形に整理する」ことです。

例えば「上司からひどく叱責された」だけでは分からない

例えば、本人から 「上司からみんなの前でひどく叱責されました」 というお話を伺ったとします。

その経験がつらかったこと自体を否定する必要はありません。 ただ、申請資料として整理する際には、さらに具体的な確認が必要になります。

  • いつの出来事だったのか
  • どこで行われたのか
  • 誰が何と言ったのか
  • 何人くらいがその場にいたのか
  • 一度だけなのか、繰り返されたのか
  • 業務上どのような経緯があったのか
  • その後、会社・所属はどのように対応したのか
  • メール、チャット、録音、相談記録等が残っているか
  • その前後で症状や勤務状況に変化があったか
  • 診療録には当時の状況がどのように記録されているか

つまり、「つらかった」という本人の経験を、 事実を確認できる単位まで分解していく作業が必要になります。

時系列表は「出来事一覧」だけではありません

精神疾患の申請で時系列を作る場合、 日付と出来事だけを並べるよりも、 複数の情報を横に並べた方が整理しやすくなります。

日付 客観的な出来事 本人の受け止め 症状・勤務変化 医療経過 裏付け資料
4月1日 配置転換 経験のない業務への不安 特になし 未受診 辞令・事務分掌表
4月中旬 新しい案件を担当 支援が少ないと感じた 不眠が始まる 未受診 指示メール・業務資料
5月上旬 上司からの叱責 強いショックを受けた 動悸・欠勤 その後初診 録音・休暇記録・診療録

このように、 客観的な出来事と本人の受け止めを分けながら、 症状・医療経過・資料を対応させると、 どこが確認できていて、どこがまだ不明なのかが見えやすくなります。

なお、上の表は整理方法を説明するための架空の例です。 実際の申請では、個別の事実・資料に基づいて作成します。

資料整理は「証拠を作ること」ではありません

資料整理とは、証拠を新しく作ることではありません。 現在残っている記録、関係者、医療経過、勤務状況を確認し、 どの出来事に何の資料が対応するのか、 何が確認できていて何が未確認なのかを見える形にする作業です。

そのため、資料が十分に残っていない場合でも、 まずは出来事、時期、関係者、当時の症状、相談先などを整理し、 確認できる資料があるかを検討することに意味があります。

例えば、メールが残っていなくても、 勤怠記録、会議資料、相談記録、診療録、同僚の説明など、 別の資料から確認できる場合があります。

反対に、大量の資料を持っていても、 すべてを無差別に提出することが適切とは限りません。

資料は多ければよいとは限りません。 各資料について、どの出来事、勤務状況、症状経過又は医療経過を確認するためのものかを整理し、 必要な範囲で提出・説明することが重要です。

「何を証明・確認するための資料なのか」を考えながら整理することが大切です。

診療録について
初診時の診療録に職場の出来事が詳しく書かれていないことだけで、 直ちに業務上の出来事がなかったことになるわけではありません。
一方で、申立内容と医療経過の記載に違いがある場合には、 なぜそのような違いが生じたのかを含め、事実関係を丁寧に確認する必要があります。

生成AIで申立書や時系列を作ることはできる?

生成AIは、資料整理の補助として活用できます。
ただし、AIが作った文章や時系列そのものが、出来事の事実を証明するわけではありません。

生成AIは、例えば次のような作業に向いています。

  • 長いメモを要約する
  • 出来事を日付順に並べる
  • 時系列表のたたき台を作る
  • 重複した出来事を整理する
  • 資料一覧を作る
  • 文章を読みやすく整える
  • 確認が必要な項目をリストアップする

一方、生成AIは実際の職場で出来事を見ていたわけではありません。 入力されていない事実を知ることもできません。

場合によっては、日付や発言、因果関係などについて、 資料にない内容をもっともらしく補ってしまうこともあります。

そのためAIを利用する場合でも、 原資料との一致、日付、引用内容、推測の混入、医療資料との整合性などを、 最終的に人が確認する必要があります。

生成AIへ資料を入力する際の注意
診断書・診療録・職場資料などには、本人だけでなく、 同僚、上司、医療関係者等の個人情報や機微な情報が含まれる場合があります。
利用するサービスのデータ取扱いを確認し、 必要性のない個人特定情報を安易に入力しないことも大切です。

🎥 1分で見る|AIで作れる?それでも社労士に依頼する理由

生成AIでできる資料整理と、専門家が資料を確認・整理する場合の違いを短くまとめています。

専門家へ依頼した方がよいのはどんなケース?

すべてのケースで専門家への依頼が必要というわけではありません。

出来事が比較的シンプルで、資料も整理できており、 ご自身で制度を確認しながら進められる場合には、 本人申請という選択肢もあります。

一方、例えば次のような場合には、第三者と一緒に整理する意味が大きくなることがあります。

  • 出来事が多数あり、何を中心に書けばよいか分からない
  • メール、チャット、録音、勤怠など資料が大量にある
  • 発病・発症時期と初診日が大きく離れている
  • 配置転換、長時間労働、叱責など複数の出来事が重なっている
  • 既往歴、休職、復職、再発・悪化などが関係している
  • 本人の記憶と会社・所属の説明が異なっている
  • 診療録の記載と本人の記憶に違いがある
  • 自分で下書きを作ったが、資料との整合性を確認してほしい
  • 心身の状態から、大量の資料を自分で整理することがつらい

「全部そろえてから相談」しなくても大丈夫です

相談前に、すべての証拠や資料を完璧にそろえる必要はありません。

むしろ最初の段階では、 現在何があるのか、何がないのか、何を追加で確認した方がよいのか を整理すること自体が重要です。

ご自身で進めている途中に、 「時系列を作ったが、申立書との関係が分からない」 「資料はあるが、どの出来事を裏付けるものか整理できない」 「診療録と自分の記憶の違いが気になる」 という段階になってから相談することもできます。

社労士ができること・できないこと

こもれび社労士事務所では、受任内容に応じて、 精神疾患の労災・公務災害について次のような資料整理・書類作成を支援しています。

  • 本人から伺った出来事の整理
  • 時系列表・経緯書・申立書等の作成支援
  • 勤怠、メール、チャット、録音、医療資料等の整理
  • 出来事と資料の対応関係の整理
  • 認定基準・調査資料で確認事項とされる論点の整理
  • 書類間の矛盾・不足事項の確認
  • 追加で確認した方がよい資料・事項の整理
  • 請求・認定手続に必要となる書類の作成支援

一方、社労士が本人に代わって事実を作ることはできません。 また、医師の診断や医学的な発病時期の判断、 労働基準監督署や地方公務員災害補償基金による認定を 社労士が決めることもできません。

地方公務員の公務災害では、所属長等の証明、任命権者を通じた手続、 基金支部による調査・認定など、本人・所属・基金が担う手続があります。 社労士がこれらの立場や判断を代替するものではありません。

損害賠償請求、示談交渉、訴訟などについては、 労災・公務災害の行政上の請求手続とは別の問題となり、 内容に応じて弁護士への相談が必要になる場合があります。

自分で作った資料がある段階でもご相談いただけます

「自分で時系列を作ってみたけれど、何を中心にすればよいか分からない」 「メールや診断書がたくさんあり、どう結び付ければよいか分からない」 「申立書と医療資料に食い違いがないか確認してほしい」 という段階からでも大丈夫です。

こもれび社労士事務所では、 民間企業で働く方の精神疾患の労災と、 地方公務員の精神疾患による公務災害について、 資料・時系列・認定上の確認事項を整理する支援を行っています。

まだ申請すると決めていない場合でも、 まず現在の状況や資料を確認しながら、 何を整理しておくとよいか一緒に確認できます。

LINEで状況を相談する

全国からLINE・PDF・スクリーンショットを活用したご相談に対応しています。
実際の受任範囲・提出支援の方法・費用は、制度や個別事情に応じてご案内します。
ご相談後に依頼を急かすことはありません。

この記事を書いた人|近藤 明久(社会保険労務士)

こもれび社労士事務所代表。 精神疾患・パワーハラスメント等に関する労災申請、 労災の審査請求、障害年金、地方公務員の公務災害などの相談・書類作成支援を行っています。

以前はJR東日本グループの人事・労務部門に勤務し、 現在は、本人が大量の資料やつらい出来事を一人で整理し続けなくてもよいよう、 LINE・PDF等を活用しながら資料整理と申請準備を支援しています。

まとめ|専門家支援の意味は「文章を強くすること」ではありません

精神疾患の労災・公務災害では、ご本人が申請資料を準備することもできます。 生成AIも、メモの要約、時系列表の下書き、資料一覧の作成など、 資料整理の補助として活用できます。

ただし、認定では、発病・発症時期、発病前おおむね6か月の出来事、 勤務状況、症状の経過、受診歴、業務以外の出来事、既往歴等について、 本人の説明だけでなく、医療資料、勤怠、メール、関係者の説明などを踏まえて確認が行われます。

社労士に依頼したこと自体が、認定を保証したり、 認定上有利な事情になったりするものではありません。

専門家支援に意味があるとすれば、 本人の経験、時系列、医療経過、勤務記録、客観資料を、 認定で確認される事項に沿って整理し、 書類間の矛盾や不足を点検することにあります。

本人が持っている「経験」と、
資料に残っている「事実」を、
認定で確認される事項に沿ってつないでいく。

それが、精神疾患の労災・公務災害における
資料整理の大切な部分です。

自分で進めるか、専門家へ依頼するかに、 すべての方に共通する正解があるわけではありません。

ご自身で進められるところまで進めて、 途中から資料整理や書類作成の支援を依頼する方法もあります。 無理のない方法を選ぶことが大切です。

ご注意
本記事は、精神疾患の労災・公務災害について一般的な制度と資料整理の考え方を解説したものです。 個別事案の認定結果を予測・保証するものではありません。
民間労災と地方公務員の公務災害では、適用される制度・認定基準・様式・提出経路が異なります。
実際の請求では、請求時点の公式資料や個別の事情を確認する必要があります。
資料・手続に関するご注意
掲載している資料名・リンクは、執筆時点で確認した公表資料です。
認定基準、様式、提出先、手続の運用は改正又は個別事情により異なる場合があるため、 実際の請求時には、請求先となる労働基準監督署、地方公務員災害補償基金支部又は所属先の案内を確認してください。

ここまで読んで、まだ迷っていても大丈夫です。

まずは、今の状況を整理するところからで大丈夫です

「まだ相談するか決めていない」
「何を書けばいいか分からない」
そんな段階でも大丈夫です。

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