労災認定後も、うつ病・PTSDの症状が残るとどうなる?治ゆ後の障害給付と障害年金を社労士が解説

精神障害の労災認定後に症状が残った場合の治ゆ・障害給付・障害年金を解説する水彩画イメージ

うつ病、適応障害、PTSDなどの精神障害が労災として認められても、 すぐに症状がなくなるとは限りません。

治療を続けても、不安、抑うつ、意欲低下、集中力の低下、 対人関係の難しさなどが残り、 「以前と同じようには働けない」という方もいます。

そのようなとき、 「労災はいつまで続くのか」「症状が残ったら後遺障害になるのか」「障害年金も受けられるのか」 と不安になる方も多いと思います。

一般には「後遺障害」と呼ばれることがありますが、 労災保険では、傷病が治ゆ(症状固定)した後に 一定の障害が残った場合、 障害(補償)等給付の対象になることがあります。

この記事では、精神障害が労災認定された後も症状が残っている場合について、 「治ゆ」の考え方、障害給付、医療資料、障害年金との関係まで、 社会保険労務士の立場から分かりやすく整理します。

この記事のポイント
  • 労災の「治ゆ」は、必ずしも完全に症状がなくなった状態を意味しません。
  • 治ゆ後に一定の障害が残れば、障害(補償)等給付が問題になることがあります。
  • 精神障害では、診断名だけでなく、症状と仕事・日常生活への影響などを確認します。
  • 労災の障害給付と障害年金では、制度や判断方法が異なります。
  • 同一の事由で労災年金と障害年金を受ける場合、併給調整が行われることがあります。

動画でも解説しています

労災認定後もうつ病・PTSDなどの症状が残った場合に、 治ゆ後の障害給付や障害年金がどのように関係するのか、 社労士が動画で分かりやすく解説しています。

労災認定後も症状が残るときに知っておきたい「治ゆ」とは

最初に重要なのが、労災保険における「治ゆ」の意味です。

「治ゆ」と聞くと、 「病気が完全に治った」「もう薬も通院も必要ない」 という状態をイメージするかもしれません。

しかし、労災保険上の「治ゆ」は、 必ずしも完全に症状がなくなったことだけを意味するものではありません。

労災保険上の「治ゆ」
傷病の症状が安定し、医学上一般に認められた医療を行っても、 その医療効果が期待できなくなった状態、 いわゆる症状固定を含む考え方です。

治ゆの時期は、本人が「まだつらいと感じるか」だけでなく、 主治医の見解、治療内容、症状の経過、今後の改善可能性なども踏まえて 個別に判断されます。

そのため、精神障害についても、 一定の症状が残っているからといって、 必ず療養補償給付がそのまま続くとは限りません。

反対に、単に「治療期間が長くなったから」という理由だけで 直ちに治ゆになるものでもありません。

症状の状態、治療経過、今後の改善可能性などを踏まえて判断されます。

うつ病やPTSDでも「後遺障害」が問題になることはある?

あります。

精神障害についても、労災による傷病が治ゆした後に 一定の精神症状や能力面の障害が残る場合には、 障害(補償)等給付の対象になる可能性があります。

厚生労働省の障害等級認定基準では、 脳の器質的な損傷を伴わない精神障害を 「非器質性精神障害」として評価する基準が定められています。

ただし、 「うつ病だから○級」「PTSDだから○級」 というように、診断名だけで障害等級が決まるわけではありません。

大切なポイント
精神障害の障害等級は、病名だけを見るものではありません。 残っている精神症状と、それによって仕事や日常生活の能力に どの程度の支障が生じているかなどを確認していきます。

精神障害ではどのような症状・能力が確認される?

厚生労働省の認定基準では、 非器質性精神障害について、精神症状だけでなく 能力面の状態も確認する仕組みになっています。

確認される主な精神症状

  • 抑うつ状態
  • 不安の状態
  • 意欲低下の状態
  • 慢性化した幻覚・妄想性の状態
  • 記憶または知的能力の障害
  • 衝動性、不定愁訴などその他の障害

さらに、仕事や日常生活に関する能力についても確認されます。

能力に関する主な判断項目

  • 身辺の日常生活を行えるか
  • 仕事や生活に積極性・関心を持てるか
  • 通勤や勤務時間を守れるか
  • 通常の作業を継続できるか
  • 他人と意思伝達ができるか
  • 対人関係や協調性を保てるか
  • 身辺の安全を保てるか
  • 困難や失敗に対応できるか

つまり、 「まだ眠れない」「気分が落ち込む」といった症状の有無だけでなく、 その症状によって実際の生活や仕事にどの程度の影響が残っているか が重要になります。

精神障害では9級・12級・14級になるの?

非器質性精神障害については、 厚生労働省の障害等級認定基準に 第9級、第12級、第14級に関する基準が設けられています。

等級 認定基準の大まかな考え方
第9級 通常の労務には服することができるものの、精神障害により就労可能な職種が相当程度制限される場合など
第12級 通常の労務には服することができ、職種制限は認められないものの、精神障害により時には労務に支障が生じる場合など
第14級 通常の労務には服することができるものの、第12級より軽度の精神障害を残す場合など

※ここでいう第9級・第12級・第14級は、非器質性精神障害についての労災保険上の障害等級の考え方です。痛み・しびれ等の身体障害で用いられる第12級・第14級とは、評価の対象や判断資料が異なります。

ただし、ここで注意したいのは、 この表だけを見て 「自分は仕事ができないから9級だ」などと判断することはできない という点です。

実際には、治療経過、残存症状、 前述した能力に関する判断項目、 医師の医学的所見などを踏まえて評価されます。

重い症状が残っている場合の注意点

非器質性精神障害では、重い症状が残っていても、 今後の改善可能性を踏まえて、原則として療養を継続すべき状態と判断されることがあります。 そのため、「症状が重いほど、直ちに高い障害等級になる」という関係ではありません。 治ゆとして障害等級を検討する段階にあるかどうかも、重要な確認点です。
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労災認定後も症状が残っている方へ

「治療はいつまで続くのか分からない」 「症状が残った場合に障害給付の対象になるのか知りたい」 「障害年金も考えた方がよいのか」 といった段階からご相談いただけます。 現在の治療状況や資料を確認しながら、 今後どのような点を整理しておくべきか一緒に確認します。

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障害(補償)等給付を考えるときに確認したい資料

障害給付を考える段階では、 「つらい症状がある」という説明だけではなく、 これまでの治療経過や現在の状態を 資料に基づいて整理していくことが重要です。

たとえば、次のような資料があります。

  • 診療録・カルテ
  • 主治医の診断書や意見書
  • 服薬内容や治療経過が分かる資料
  • 休業・復職・勤務状況が分かる資料
  • 会社による就業上の配慮内容
  • 家族などから見た日常生活上の変化
  • 本人が記録している症状・生活状況

精神障害では、外から症状が見えにくいことがあります。

そのため、 「何ができないか」だけではなく、「どのような援助や配慮があればできるのか」「以前と比べてどのように変わったのか」 を具体的に整理することが大切です。

主治医には何を相談すればいい?

障害給付を考え始めたとき、主治医にいきなり 「○級になるように診断書を書いてください」 と依頼することはおすすめできません。

障害等級は医師だけで決めるものではなく、 最終的には労災保険の認定基準に基づいて判断されるためです。

まずは主治医に、現在の症状や治療状況について事実を伝え、 医学的な見通しを確認することが大切です。

主治医へ伝えておきたいことの例

・現在も残っている症状
・一日の生活リズム
・一人でできること/援助が必要なこと
・外出や通勤の状況
・集中力や作業継続の状況
・人とのコミュニケーションの状態
・復職している場合の会社からの配慮
・仕事を続けられない場合、その具体的な理由

大切なのは、 認定を意識した表現を作ることではなく、実際の状態を正確に医師へ伝えることです。

治ゆすると、療養補償給付や休業補償給付はどうなる?

労災保険上、傷病が治ゆしたと判断されると、 その傷病についての療養補償給付は終了することになります。

また、治ゆ後は、療養のため働けないことを理由とする 休業補償給付についても、それまでと同じ形で続くものではありません。

そこで、治ゆ後に一定の障害が残っている場合には、 次の段階として障害(補償)等給付の対象になるかが問題になります。

障害等級 労災保険の給付
第1級~第7級 障害(補償)等年金
第8級~第14級 障害(補償)等一時金

この違いは、次に説明する障害年金との併給調整を考える場合にも重要です。

労災の障害給付と障害年金は両方受けられる?

ここは混同されやすいところです。

労災保険の障害(補償)等給付と、 国民年金・厚生年金制度の障害基礎年金・障害厚生年金は、 別の制度です。

そのため、労災認定を受けているから障害年金を請求できない、 あるいは障害年金を受けているから労災の障害給付を受けられない、 という単純な関係ではありません。

それぞれの制度について要件を満たせば、 両方が関係する場合があります。

ただし、同一の事由による年金給付には併給調整があります。

同じ傷病について労災の障害(補償)等年金と 障害厚生年金・障害基礎年金などを受ける場合、 公的年金側をそのまま支給したうえで、 労災年金側に所定の調整率を掛ける仕組みがあります。

代表的な調整率

同一事由で併給される公的年金 労災の障害(補償)等年金にかかる調整率
障害厚生年金 + 障害基礎年金 0.73
障害厚生年金のみ 0.83
障害基礎年金のみ 0.88

同一の事由について労災の障害(補償)等年金と 障害厚生年金・障害基礎年金が併給される場合、 障害厚生年金・障害基礎年金は原則として全額支給され、 労災年金側に所定の調整率が掛かります。

たとえば、障害厚生年金のみと労災の障害(補償)等年金を 同一事由で受ける場合、障害厚生年金は原則として全額支給され、 労災年金側に0.83の調整率が適用されます。

ただし、どの給付が併給調整の対象になるかは、労災側が年金か一時金か、公的年金の種類、同一の事由による給付かどうかなどによって確認が必要です。

「労災が認められたから障害年金は意味がない」 と決めつけず、両制度を分けて検討することが大切です。

労災と障害年金では判断の仕組みが違う

労災の障害給付と障害年金には、どちらにも「障害」という言葉が使われています。

しかし、同じ制度ではありません。

労災の障害給付 障害年金
主な制度 労災保険 国民年金・厚生年金
前提 業務災害・通勤災害等との関係 初診日・保険料納付要件・障害状態など
障害評価 労災の障害等級認定基準 障害認定基準
主な確認資料 労災用の診断書、治療経過、医学資料など 年金用診断書、病歴・就労状況等申立書など

したがって、「労災で○級だから障害年金も○級」とはなりません。

反対に、労災側で障害等級に該当しなかったからといって、 直ちに障害年金も対象外になるわけではありません。

それぞれ別の制度として確認する必要があります。

こんな場合は、早めに今後の整理をしておきたい

  • 精神障害で労災認定され、長期間治療を続けている
  • 主治医や労基署から「治ゆ」「症状固定」という話が出てきた
  • 以前と同じ仕事に戻れない
  • 復職できても、大幅な業務軽減や勤務時間の配慮を受けている
  • 対人関係、集中力、意欲、通勤などに支障が残っている
  • 治療終了後の収入が心配
  • 障害年金も対象になるのか知りたい
  • 障害等級の決定に納得できない

特に「治ゆ」という話が出てから慌てて資料を探すより、 その前から、治療経過、仕事の状況、日常生活上の支障を整理しておく ことが重要です。

労基署の障害等級の判断に納得できない場合

障害(補償)等給付を請求した結果、 「障害等級に該当しない」と判断されたり、 想定していたより低い等級で決定されたりする場合もあります。

労災保険給付に関する決定に不服がある場合には、 審査請求という不服申立ての制度があります。

ただし、重要なのは、単に 「症状がつらいから等級を上げてほしい」 と主張することではありません。

決定内容や認定理由を確認し、 どの症状・能力・医学的資料がどのように評価されたのか を整理したうえで検討する必要があります。

決定通知を受け取ったら

「納得できない」と感じた場合でも、まずは決定内容、対象となった障害、医学資料、 認定された事実関係などを確認することが大切です。 審査請求には原則として期限があるため、放置せず早めに確認しましょう。

労災認定後の「その後」まで見通して考える

精神障害の労災というと、どうしても最初は 「労災として認められるか」 に意識が集中します。

しかし、認定された後にも、治療、休業、復職、治ゆ、障害給付、障害年金など、 いくつもの問題が続くことがあります。

1
労災認定・療養 療養を続けながら、症状や就労状況を確認します。
2
治ゆ・症状固定の検討 症状が安定し、今後の治療効果がどの程度期待できるかが問題になります。
3
障害が残っていないか確認 精神症状だけでなく、仕事や生活への影響も整理します。
4
障害(補償)等給付を検討 労災の障害等級に該当する可能性を確認します。
5
障害年金も別に検討 初診日、加入制度、障害状態など、障害年金独自の要件を確認します。

これらを別々に考えるのではなく、 今後の生活や働き方まで含めて全体を整理する ことが大切です。

こもれび社労士事務所

「この先どうなるのか分からない」段階からご相談ください

精神障害の労災認定後も症状が残っていると、 治療を続けるべきなのか、障害給付を考える時期なのか、 障害年金も検討した方がよいのか、 ご自身だけでは整理しにくいことがあります。

こもれび社労士事務所では、 現在の治療経過、労災の状況、仕事や日常生活への影響、 お手元の資料などを確認しながら、 今後どのような選択肢が考えられるかを整理します。

まだ障害給付を請求すると決めていない段階でも大丈夫です。 「まず自分の状況を整理したい」という段階からご相談いただけます。

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よくある質問

Q. うつ病がまだ治っていなくても「治ゆ」になることがありますか?
A. あります。労災保険上の「治ゆ」は完全に症状が消失した状態だけを意味せず、 症状が安定し、医学上一般に認められた治療を行っても それ以上の改善が期待しにくい症状固定の状態を含みます。 ただし、個別の治療経過や改善可能性などを踏まえて判断されます。
Q. うつ病やPTSDでも労災の障害給付を受けられますか?
A. 治ゆ後に一定の精神症状や能力面の障害が残っている場合には、 障害(補償)等給付の対象になる可能性があります。 診断名だけで決まるものではなく、 症状、仕事や日常生活への影響、医学的資料などを踏まえて判断されます。
Q. 労災認定されていても障害年金を申請できますか?
A. 障害年金は労災保険とは別の制度です。 初診日、保険料納付要件、障害状態など、 障害年金の要件を満たせば対象になる可能性があります。 同一事由による年金給付の場合には併給調整が行われることがあります。
Q. 労災で障害等級が認められれば、障害年金も同じ等級になりますか?
A. いいえ。労災の障害等級と障害年金の等級は、 制度も認定基準も異なります。 労災の等級から障害年金の等級をそのまま判断することはできません。
Q. 労災の障害等級が非該当なら、障害年金も受け取れませんか?
A. 直ちにそうとはいえません。 労災の障害給付と障害年金は別制度であり、 認定基準や確認する資料も異なります。 労災側で障害等級に該当しなかった場合でも、 障害年金の要件を満たすかは別に確認する必要があります。
Q. 労災の障害等級の決定に納得できない場合はどうすればいいですか?
A. 労災保険給付の決定に不服がある場合には、 審査請求を検討することができます。 まず決定内容と医学資料などを確認し、 どの点について判断を争うのかを整理することが重要です。 審査請求には原則として期限があるため、早めの確認をおすすめします。

まとめ|労災認定後に症状が残ったら、次の制度まで見通して整理する

うつ病、PTSDなどの精神障害が労災認定された後も、 症状が残ることがあります。

その場合、「治療が終わる=何も補償がなくなる」とは限りません。

傷病が治ゆした後に一定の障害が残っていれば、 労災の障害(補償)等給付が問題になることがあります。 また、別制度である障害年金についても、 要件を満たすか確認する価値があります。

一方で、精神障害の評価は、病名だけで決まるものではありません。

治療経過、残っている症状、 仕事や日常生活への具体的な影響、 医学的資料などを丁寧に整理することが重要です。

労災認定後も症状が残り、 「治ゆと言われたらどうなるのか」 「障害給付や障害年金を考えた方がよいのか」 と迷っている場合には、 早い段階から今後の見通しを整理しておくと安心です。

ここまで読んで、まだ迷っていても大丈夫です。

まずは、今の状況を整理するところからで大丈夫です

「まだ相談するか決めていない」
「何を書けばいいか分からない」
そんな段階でも大丈夫です。

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