診断書に「仕事が原因」と書かれていても労災は認定されない?精神障害の労災で労基署が確認すること

精神障害の労災申請で診断書と職場での出来事を確認するイメージ

「精神科の先生が、診断書に『仕事が原因』と書いてくれました」

「診断書に『職場でのパワハラにより発症した』と書いてあります。これなら労災は認められますか?」

メンタル不調で労災申請を考えている方から、このようなご質問をいただくことがあります。

主治医の診断書や、労基署が確認する主治医意見は、精神障害の労災申請において重要な医学的資料です。

ただし、 診断書に「仕事が原因」「パワハラが原因」と書かれているだけで、労災認定が決まるわけではありません。

労働基準監督署では、診断書の記載だけではなく、 実際に職場で何が起きたのか、発病時期はいつなのか、その出来事が労災認定基準上どの程度の心理的負荷に当たるのか などを確認していきます。

この記事では、精神科の診断書に「仕事が原因」と書かれている場合に、精神障害の労災で実際にどのような点が確認されるのかを整理します。

動画でも解説しています|診断書に「仕事が原因」と書いてあれば労災になる?

診断書や主治医の意見と、労働基準監督署による労災認定の違いを動画で分かりやすく解説しています。

診断書に「仕事が原因」とあっても、それだけで労災認定されるわけではありません

精神障害の労災認定では、主治医の診断書や主治医意見は非常に重要です。

一方で、労災認定では、 病気になったことその病気が仕事によって発病したと認められること は分けて考える必要があります。

厚生労働省の「心理的負荷による精神障害の認定基準」では、原則として次のような点が確認されます。

  • 認定基準の対象となる精神障害を発病していること
  • 発病前おおむね6か月の間に、業務による強い心理的負荷が認められること
  • 業務以外の心理的負荷や個体側要因によって発病したとは認められないこと

つまり、 医師が「仕事が原因」と考えていることは重要ですが、労基署ではさらに、仕事上の出来事そのものを調査し、その心理的負荷を認定基準に沿って評価します。

医師の診断と、労基署の労災判断は役割が違います

ここは、精神障害の労災申請で誤解されやすいところです。

医師は、診察や症状の経過などから、病名や発病時期、治療の必要性などを医学的に判断します。

一方、労働基準監督署は、会社や本人、関係者などから事情を確認しながら、 実際にどのような業務上の出来事があったのか を調査します。

そのうえで、その出来事が精神障害の労災認定基準上、 どの程度の心理的負荷として評価されるのか を検討します。

現行の認定基準では、認定要件を満たすかどうかは、 医師の意見と、労働基準監督署が調査して認定した事実に基づいて判断する とされています。

そのため、例えば診断書に

「職場のパワーハラスメントによるストレスを原因として適応障害を発症した」

と記載されていたとしても、労基署ではさらに、

  • 誰から何を言われたのか
  • いつ起きたのか
  • 何回あったのか
  • どのくらいの期間続いたのか
  • 人前で行われたのか
  • 人格を否定するような内容だったのか
  • 会社へ相談した後も続いたのか

といった具体的な事実を確認することになります。

労基署が確認する主な5つのポイント

1.本当に精神障害を発病しているか

まず確認されるのは、認定基準の対象となる精神障害を発病しているかどうかです。

ここでは、診断書だけではなく、 主治医の意見書、診療録、本人や関係者からの聴取内容など も含めて医学的に検討されることがあります。

また、病名だけではなく、 いつ頃発病したのか も非常に重要です。

2.発病時期はいつなのか

精神障害の労災では、発病前おおむね6か月の業務上の出来事が重要になります。

そのため、

  • 不眠が始まった時期
  • 食欲が落ちた時期
  • 出勤できなくなった時期
  • 精神科を初めて受診した時期
  • 休職した時期

などから、発病時期を整理していくことになります。

診断書の記載と、カルテや本人の説明、勤務状況などに大きなズレがある場合には、その点も確認される可能性があります。

3.職場で実際に何が起きたのか

ここが、診断書だけでは判断できない部分です。

例えば、本人が主治医に 「上司からパワハラを受けた」 と説明していたとしても、労基署ではその言葉だけで判断するわけではありません。

実際には、

  • 具体的にどのような発言・行為があったのか
  • いつ、どこで起きたのか
  • 誰が見聞きしていたのか
  • 繰り返されていたのか
  • 業務上必要な指導の範囲を超えていたのか

といった事実関係が確認されます。

4.その出来事の心理的負荷はどの程度か

職場でつらい出来事があったとしても、それだけで精神障害の労災認定が決まるわけではありません。

精神障害の労災認定では、厚生労働省の 「業務による心理的負荷評価表」 をもとに、出来事の内容や程度を評価します。

例えばパワーハラスメントであれば、

  • 人格や人間性を否定するような発言だったか
  • 業務上必要性のない精神的攻撃だったか
  • 執拗に繰り返されたか
  • 会社に相談しても改善されなかったか
  • その後も行為が継続したか

など、具体的な事情を含めて評価されます。

そのため、 「医師がパワハラと書いてくれたか」よりも、「実際に何が起き、それをどこまで具体的に確認できるか」が重要になる場面があります。

5.診断書以外の資料と整合しているか

精神障害の労災申請では、診断書だけでなく、さまざまな資料が確認されます。

例えば、

  • 精神科・心療内科の診療録
  • 会社とのメールやチャット
  • LINEやSMS
  • 録音
  • 勤怠記録
  • 残業時間
  • 会社への相談記録
  • 同僚や関係者の説明
  • 本人が作成した申立書

などです。

大切なのは、すべての資料にまったく同じ言葉が書かれていることではありません。

むしろ、 職場での出来事 → 症状の変化 → 受診 → 休職 という経過が、全体として無理なく説明できるかが重要になります。

診断書に「パワハラが原因」と書いてあるのに、会社が否定している場合

実務では、

医師は「職場のパワハラが原因」と書いている

しかし会社は「パワハラはなかった」と回答している

というケースもあります。

この場合も、会社が否定したから直ちに労災が認められなくなるわけではありません。

一方で、医師が「パワハラが原因」と記載しているから、会社の説明が無視されるわけでもありません。

労基署は双方の説明を確認したうえで、 客観的な資料や関係者の説明なども踏まえて事実認定 を行います。

そのため本人側としては、 「先生が仕事が原因と言っているから大丈夫」 と考えるだけではなく、 出来事そのものを具体的に整理しておくこと が重要です。

逆に、診断書に「仕事が原因」と書かれていなければ労災申請できない?

これもよくある誤解です。

診断書に 「仕事が原因」「パワハラによるもの」 と明記されていなければ、絶対に労災申請できないというわけではありません。

主治医が診断書にどこまで原因を書くかは、医師や医療機関によっても異なります。

労災では、診断書の一文だけではなく、主治医の意見、診療録、本人・会社・関係者の説明などをもとに、業務との関係が検討されます。

そのため、

「診断書に仕事が原因と書いてあるから必ず認定される」

でもなく、

「書いていないから申請できない」

でもありません。

診断書の記載だけを見て判断せず、 申請全体の事実関係を整理すること が大切です。

「仕事が原因」と書いてもらうことだけに力を入れない

労災申請を考えていると、

「先生にもっと強く『仕事が原因』と書いてもらった方がいいのでは?」

と考えることがあります。

しかし、無理に特定の表現を書いてもらうことより、 実際に起きたことや症状の経過を主治医へ正確に伝えること の方が大切です。

また、労災申請の内容を診断書に合わせるために事実を変えたり、後から無理に説明を作ったりすることはおすすめできません。

実際の経過をそのまま整理し、

  • 何が起きたのか
  • その後どのような症状が出たのか
  • いつ受診したのか
  • 医師には当時何を伝えていたのか

を確認していく方が重要です。

診断書はあるけれど「これで足りるのか」と不安な方へ

「診断書には仕事が原因と書いてあるけれど、ほかに何を整理すればいいか分からない」

「会社はパワハラを否定している」

「診断書と実際の出来事をどうつなげて説明すればいいか分からない」

このような場合は、診断書の一文だけを見るのではなく、 仕事上の出来事・発病時期・症状の変化・手元にある資料を一度整理してみる ことが大切です。

こもれび社労士事務所では、精神障害の労災申請について、申請前の状況整理からご相談をお受けしています。

まだ資料が全部そろっていなくても構いません。 「いつ頃から不調になったか」「仕事で何があったか」など、分かる範囲でLINEからお送りください。

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精神科のカルテに「パワハラ」と書いていない場合は?

もう一つ多いのが、 「精神科のカルテにパワハラと書かれていないのですが、不利になりますか?」 というご相談です。

カルテに「パワハラ」という言葉がないことだけで、労災申請ができなくなるわけではありません。

初診時に「パワハラ」という言葉が記載されていないことだけで、 心理的負荷が弱い、または労災申請ができないと一律に判断されるものではありません。

ただし、初診時にどのような症状を訴えていたのか、職場についてどのような説明をしていたのか、その後の説明や申立書とどのような関係にあるのかは、確認しておきたいポイントです。

この点については、別の記事で詳しく解説します。

まとめ

精神科の診断書に 「仕事が原因」「職場のパワハラが原因」 と書かれていることは、労災申請を考えるうえで重要な資料になります。

しかし、それだけで労災認定が決まるわけではありません。

精神障害の労災では、主に、

  • 精神障害を発病しているか
  • 発病時期はいつか
  • 発病前おおむね6か月にどのような業務上の出来事があったか
  • その出来事の心理的負荷がどの程度だったか
  • 診療録や勤務資料、本人・会社・関係者の説明と整合しているか

などを確認しながら判断されます。

そのため、 「診断書に仕事が原因と書いてあるから大丈夫」と考えるのでも、「書いていないから無理」と考えるのでもなく、仕事上の出来事と発病までの経過を一体として整理すること が大切です。

自分の場合、何を整理すればいいか分からない方へ

精神障害の労災申請は、診断書だけでなく、職場で起きた出来事や症状の経過を整理する必要があります。

こもれび社労士事務所では、 「まだ申請するか決めていない」「自分のケースが労災として検討できるのか分からない」 という段階からご相談いただけます。

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参考資料

ここまで読んで、まだ迷っていても大丈夫です。

まずは、今の状況を整理するところからで大丈夫です

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