「死ね」「辞めろ」「バカ」はメンタル労災になる?認定・不認定事例で見る判断ポイント

上司から「死ね」「辞めろ」「バカ」などと言われ、精神的につらくなった場合、 「ここまで言われたのだから、メンタル労災になるのではないか」と考える方もいると思います。
実際、厚生労働省が公表している精神障害の労災認定事例には、 上司から連日のように叱責され、「辞めてしまえ」「死ね」という発言や、 書類を投げつける行為が度々あったケースがあります。
この事例では、人格や人間性を否定するような言動が執拗に続いていたとして、 心理的負荷が「強」と評価され、労災認定されています。
労災では、何を言われたのかだけでなく、何回・どのくらい続いたのか、 人前だったのか、物を投げるなどの威圧行為があったのか、 業務指導との関係や会社の対応なども含めて確認されます。
先に結論|暴言の「単語」だけでは労災は決まらない
精神障害の労災では、 「この言葉を言われたら認定」「この言葉なら不認定」 というような単語だけの判定は行われません。
現在の精神障害の労災認定基準では、 上司等からの身体的攻撃・精神的攻撃などのパワーハラスメントについて、 その内容、程度、反復・継続性、執拗性などを踏まえて心理的負荷を評価します。
特に確認したいのは、次のような点です。
- どのような言葉を言われたのか
- 人格や人間性そのものを否定する内容だったか
- 何回、どのくらいの期間続いたのか
- 他の従業員の前で大声で言われたのか
- 長時間にわたる叱責だったのか
- 物を投げる、暴行するなどの行為を伴ったか
- 業務上必要な指導の範囲を大きく逸脱していたか
- 会社へ相談した後も改善されなかったか
- 他の出来事や長時間労働なども重なっていたか
つまり、重要なのは「死ねと言われた」というラベルだけではなく、実際に何が起きていたのかです。
🎥 動画でも解説|「死ね」「辞めろ」「バカ」は労災になる?
厚生労働省の認定事例などをもとに、暴言が精神障害の労災でどのように評価されるのかを動画で解説しています。
「死ね」「辞めてしまえ」で労災認定された事例
厚生労働省が公表している「精神障害の労災認定」の事例には、 営業職の労働者が新しい部署で係長に昇格した後、 上司から連日のように叱責を受けたケースが紹介されています。
公表資料では、上司の言動として、 「辞めてしまえ」「死ね」という発言があり、 さらに書類を投げつける行為も度々あったとされています。
その後、本人には抑うつ気分や睡眠障害が現れ、精神科を受診し、うつ病と診断されました。
| 確認された事情 | 連日のような叱責 |
|---|---|
| 具体的な発言 | 「辞めてしまえ」「死ね」 |
| その他の行為 | 書類を投げつける行為が度々あった |
| 精神障害 | うつ病 |
| 心理的負荷 | 「強」 |
| 結果 | 労災認定 |
なぜ心理的負荷「強」と評価されたのか
この事例を、 「『死ね』と言われたから労災になった」 とだけ理解するのは適切ではありません。
厚生労働省の公表資料では、上司の言動に人格や人間性を否定するようなものが含まれ、 それが執拗に行われていたことが重視されています。
具体的には、
- 連日のように叱責されていた
- 「辞めてしまえ」「死ね」という人格否定につながる発言があった
- 書類を投げつける行為も度々あった
- それらが一度で終わらず継続していた
という複数の事情が組み合わさっています。
労災では「どの単語が使われたか」だけではなく、 言動全体がどのような態様で、どのくらい続いたのかを見ることが重要です。
「死ね」と1回言われただけでも労災になる?
「死ね」という言葉は、状況によっては人格や人間性を否定する非常に強い言動になり得ます。
ただし、現在の認定基準では、 人格や人間性を否定する精神的攻撃や、 他の労働者の面前での大声による威圧的な叱責などについて、 反復・継続していない場合は心理的負荷「中」の具体例として示されています。
だからといって、 「1回だけなら絶対に労災にならない」 という意味でもありません。
厚生労働省の運用上の留意点では、 一度の言動であっても、比較的長時間に及び、 行為態様が強烈で悪質性を有する場合などには、 「執拗」と評価すべき場合があるとされています。
したがって、 回数だけで機械的に判断することはできません。
「辞めろ」は退職強要になる?
「辞めろ」という発言については、 パワーハラスメントとしての精神的攻撃だけでなく、 状況によっては認定基準上の「退職を強要された」という出来事として検討されることがあります。
現在の認定基準では、 本人が退職する意思がないことを表明しているにもかかわらず、 長時間にわたって、または威圧的な方法などにより、執拗に退職を求められた場合が、 心理的負荷「強」の具体例として示されています。
一方で、強い退職勧奨があったとしても、 方法や頻度などから退職の強要とまではいえない場合は、 「中」の例とされています。
そのため、
- 「辞めろ」と何回言われたのか
- 本人が退職を拒否した後も続いたのか
- 長時間の面談だったのか
- 威圧的な態様だったのか
- 退職を断った後に不利益な扱いがあったのか
などを具体的に整理する必要があります。
「バカ」は人格否定として評価される?
「バカ」「使えない」などの発言も、 その言葉だけで一律に心理的負荷「強」と評価されるわけではありません。
重要なのは、単なる業務上のミスの指摘なのか、 それとも本人の人格・人間性そのものを否定するような言動になっていたのかです。
さらに、
- 日常的・頻繁に繰り返されていた
- 長期間続いていた
- 他の従業員の前で繰り返し侮辱された
- 仕事を与えない、必要な情報を渡さない等の行為も伴っていた
- 他の人格否定発言も重なっていた
といった事情があれば、出来事全体として確認することになります。
人前で怒鳴られた場合はどう評価される?
現在の認定基準では、 他の労働者の面前での大声による威圧的な叱責も、 精神的攻撃の具体例として示されています。
ただし、 「人前で怒鳴られた=必ず心理的負荷『強』」 ということではありません。
単発なのか、繰り返されていたのか、 発言内容が業務上の指摘にとどまるのか、 人格否定にまで及んでいるのかなどを含めて評価されます。
大声で叱責・机を叩いても「中」とされた事例
過去の労働保険審査会の事例には、 会議中に上司が大声を出し、机を平手で1回叩いたことが確認されながら、 出来事全体として心理的負荷が「中」と評価されたケースがあります。
このケースでは、本人が厳しい叱責を受けたと主張していましたが、 上司側は、本人一人だけに向けたものではなく、 会議参加者全体を見回す形で大声を出したと説明していました。
また、人格や人間性を否定する言動が執拗に繰り返されたとまでは認められず、 当時の認定基準のもとで「上司とのトラブル」として「中」と評価されました。
「怒鳴られた」「机を叩かれた」という出来事の名称だけで判断するのではなく、 誰に向けた言動だったのか、何を言われたのか、どの程度繰り返されたのか などを確認する必要があります。
なお、この事例は過去の認定基準に基づく判断です。 現在の事案について同じ事実があれば、必ず同じ結論になるという意味ではありません。
この事例については、こちらの記事で詳しく解説しています。
人前で叱責・机を叩かれても労災にならない?心理的負荷「中」とされた事例
「中」から「強」に評価が変わった事例もある
一方、過去の審査請求では、 原処分で「上司とのトラブル」として心理的負荷「中」とされたものの、 審査請求で言動の内容や継続性を改めて確認した結果、 「強」と評価され、不支給処分が取り消された事例もあります。
その事例では、 人格を否定する発言が継続的・頻繁に行われ、 物を投げつけられる行為なども繰り返されていた点が重視されました。
詳しくはこちらで解説しています。
パワハラ労災で「中」から「強」に変わった事例|審査請求で不支給処分が取り消された理由
会社から「業務指導だった」と言われたら?
労災申請では、会社側から 「パワハラではなく、業務上必要な指導だった」 と説明されることがあります。
しかし、会社がそう説明しただけで結論が決まるわけではありません。
実際には、
- どのようなミスや問題に対する指導だったのか
- 指導として必要な内容だったのか
- 発言や方法が業務目的を大きく逸脱していなかったか
- 人格否定が含まれていなかったか
- 必要以上に長時間・反復していなかったか
- 録音、メール、チャット、関係者の説明などと整合するか
といった具体的な事実を確認していくことになります。
会社が事実関係を否定した場合については、こちらも参考にしてください。
会社が「そんな事実はない」と言ったら労災は認められない?精神障害の労災を社労士が解説
録音がない場合は何を残せばいい?
暴言を受けた方から、 「録音していなかったので、もう労災申請は難しいでしょうか」 と相談されることがあります。
録音は重要な資料になり得ますが、 録音がないことだけで労災申請ができなくなるわけではありません。
例えば、次のような資料を整理します。
1.メール・LINE・社内チャット
上司本人から送られてきたメッセージだけでなく、 暴言を受けた直後に家族や同僚へ送ったメッセージも、 当時の状況を整理する手掛かりになることがあります。
2.会社への相談記録
人事、コンプライアンス窓口、上司の上司、産業医などへ相談した記録があれば保存しておきます。
3.業務日報・手帳・メモ
「○月○日、会議室で○○と言われた」 「同席者はAさん、Bさん」 など、できるだけ具体的に時系列で整理します。
4.診療録・主治医への説明
精神科や心療内科を受診した際に、 職場でどのような出来事があったと説明していたかも確認されることがあります。
5.関係者
同席者や、直後に相談を受けた人などがいる場合、 労基署が必要に応じて関係者から事情を確認することがあります。
複数の資料を組み合わせて、いつ、誰から、どのような言動を受け、 その後どのような症状や変化が生じたのかを整理することが重要です。
認定を分けるポイント
| 確認項目 | 「強」へ向かう事情の例 | 個別確認が必要な事情 |
|---|---|---|
| 発言内容 | 人格・人間性の否定、業務目的を大きく逸脱する侮辱 | 業務上の改善点についての指摘なのか |
| 頻度 | 連日、頻繁、長期間 | 一度の場合でも内容・時間・悪質性を確認 |
| 人前での叱責 | 繰り返し大声で威圧・侮辱される | 単発か、誰に向けられたものか |
| 身体的威圧 | 暴行、物を投げる等が反復 | 行為の程度・危険性・回数 |
| 退職要求 | 拒否しても威圧的・執拗に退職を迫る | 一度の退職勧奨か、強要に及ぶか |
| 会社対応 | 相談後も適切な対応がなく改善しない | いつ会社が把握し、何をしたか |
| 他の出来事 | 長時間労働、過大要求、孤立なども重なる | 複数の出来事を全体として評価する場合がある |
この表は、機械的に「○個当てはまれば労災」というチェックリストではありません。 個々の事案では、出来事全体を具体的に確認して判断されます。
よくある質問
「死ね」と1回言われたら労災になりますか?
その一言だけで自動的に労災認定されるわけではありません。 一方で、内容が非常に強烈・悪質であったり、長時間に及ぶなどの事情があれば、 一度の言動でも強く評価される可能性があります。
「辞めろ」と言われたら必ず退職強要になりますか?
必ずではありません。 本人が退職を拒否しているにもかかわらず、 長時間または威圧的な方法で執拗に退職を求められたかなどを確認します。
「バカ」と言われたらパワハラ労災になりますか?
「バカ」という言葉だけで結論は決まりません。 発言の文脈、対象、頻度、継続性、他の人格否定発言や威圧行為の有無などを確認します。
言い返していたら労災では不利になりますか?
「言い返したから労災にならない」というルールはありません。 実際には、双方の言動や出来事に至った経緯も含めて事実関係が確認されます。
録音がないと労災申請は難しいですか?
録音は有力な資料になり得ますが、録音がないだけで申請できなくなるわけではありません。 メール、チャット、相談記録、診療録、業務メモ、関係者の説明などを組み合わせて整理します。
まとめ|「何と言われたか」だけでなく「どのように続いたか」を整理する
上司から 「死ね」「辞めろ」「バカ」 と言われた場合、その言葉自体は非常に重いものです。
ただし、精神障害の労災認定では、 その単語があったかどうかだけで結果が決まるわけではありません。
確認したいのは、
- 具体的に何を言われたか
- 何回、どのくらい続いたか
- 人格や人間性を否定する内容だったか
- 人前での威圧的な叱責だったか
- 物を投げる、暴行するなどの行為があったか
- 退職を拒否した後も「辞めろ」と迫られたか
- 会社へ相談した後、対応があったか
- メール・録音・相談記録・診療録など、どのような資料が残っているか
です。
「自分が受けた言動が労災でどのように評価されるのか分からない」という場合は、 まず出来事を時系列で整理するところから始めるとよいでしょう。
こもれび社労士事務所では、パワハラ・長時間労働・職場の人間関係などを理由とする 精神障害の労災申請について、状況整理からサポートしています。
「まだ労災申請するか決めていない」という段階でも、 まず何を整理すればよいかをご相談いただけます。
参考資料
- 厚生労働省「精神障害の労災認定」
- 厚生労働省「心理的負荷による精神障害の認定基準」
- 厚生労働省「心理的負荷による精神障害の認定基準に係る運用上の留意点」
- 労働保険審査会 裁決例(平成26年労第494号)
※本記事は一般的な制度・公表事例について解説したものです。 実際の労災認定は、個別の事実関係、医学的資料、関係者からの聴取その他の資料を踏まえて、 労働基準監督署等が判断します。また、過去の裁決例は当時の認定基準と個別事情に基づくものであり、 現在の事案に同じ結論が当然に当てはまるものではありません。
ここまで読んで、まだ迷っていても大丈夫です。

まずは、今の状況を整理するところからで大丈夫です
「まだ相談するか決めていない」
「何を書けばいいか分からない」
そんな段階でも大丈夫です。
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※ 「まず整理だけ」でも大丈夫です


