パワハラ労災で「中」から「強」に変わった事例|審査請求で不支給処分が取り消された理由

パワハラ労災の審査請求で心理的負荷が「中」から「強」へ見直された事例を表すイメージ

「上司とのトラブルだから、心理的負荷は『中』です」

精神障害の労災が不支給になったとき、このような整理を見て、

「やっぱり、ただの人間関係の問題と判断されたのか」

と諦めてしまう方もいるかもしれません。

しかし、厚生労働省が公開している労災保険審査請求の事例には、 原処分では「上司とのトラブル」として心理的負荷「中」と評価されたものが、審査請求では「ひどい嫌がらせ、いじめ又は暴行」に当たり「強」と評価され、不支給処分が取り消された事例 があります。

実際にあった審査請求事例
原処分
「上司とのトラブル」=中

審査請求
「ひどい嫌がらせ等」=強

不支給処分を取消し
実際にあった審査請求事例
原処分
「上司とのトラブル」=中

審査請求
「ひどい嫌がらせ等」=強

不支給処分を取消し

動画でも解説しています

原処分では「上司とのトラブル・中」とされた事例が、審査請求で「ひどい嫌がらせ等・強」と評価され、不支給処分が取り消された理由を動画で解説しています。

なぜ評価が変わったのでしょうか。

なぜ評価が変わったのでしょうか。

ポイントは、単に「怒鳴られた」「物を投げられた」という言葉だけではありません。

人格否定がどの程度繰り返されていたのか、物を投げる行為がどのようなものだったのか、本人が言い返した理由は何だったのかなど、具体的な事実の見方が大きく関係しています。

この記事では、この厚生労働省の公開事例をもとに、 なぜ原処分の「中」が審査請求で「強」に変わったのかを、精神障害の労災を扱う社会保険労務士が解説します。

先に結論|「トラブル」という整理だけでは足りない場合がある

精神障害の労災では、単に

「上司と本人の関係が悪かった」
「双方が言い合っていた」

というだけで判断するのではなく、実際にどのような出来事があったのかを具体的に確認する必要があります。

今回紹介する事例でも、原処分段階では、本人が相手に言い返していたことなどから「上司とのトラブル」として整理され、心理的負荷は「中」とされました。

しかし審査請求では、

  • 人格を否定する発言が継続的かつ頻繁だった
  • 物を投げつけられることが度々あった
  • 物を投げる行為は大けがにつながりかねないものだった
  • 本人の言い返しは相互対立ではなく自己防衛だった

という具体的事情が確認されました。

その結果、当時の認定基準上の「(ひどい)嫌がらせ、いじめ、又は暴行を受けた」に当たり、心理的負荷は「強」と評価され、不支給処分が取り消されています。

この事例で重要なのは「審査請求をすれば評価が変わる」ということではありません。

原処分が出来事をどのように整理したのかと、実際に起きていた具体的な事実との間にズレがないかを確認することが重要だ、という点です。

原処分ではなぜ「中」と評価されたのか

まず、最初の不支給処分ではどのように評価されたのでしょうか。

厚生労働省の公開資料によると、事業場関係者は、

  • 本人が物を投げられている場面
  • 大声で怒鳴られている場面
  • 本人が相手に言い返している場面

を目撃していました。

原処分庁は、本人も言い返していたことなどから、一方的に嫌がらせを受けていたとはいえないと判断しました。

そして、周囲からも客観的に認識される 「上司とのトラブル」 があったものとして整理し、心理的負荷を「中」と評価しました。

原処分での見方

本人も言い返している

一方的な嫌がらせとはいえない

「上司とのトラブル」

心理的負荷「中」

ここだけを見ると、

「本人も反論していたのだから、双方の人間関係の問題だった」

という整理にも見えます。

しかし審査請求では、出来事をさらに具体的に確認した結果、違う評価になりました。

審査請求ではなぜ「強」に変わったのか

審査官が重視したのは、双方が言い返していたという事情だけではなく、その前後を含めて、実際にどのような言動が、どの程度繰り返されていたかでした。

厚生労働省の公開資料では、審査官は、

  • 上司・同僚から人格を否定する発言を継続的かつ頻繁に受けていた
  • 物を投げつけられることが度々あった
  • 物を投げる行為は大けがにつながりかねないものだった
  • その行為に対して本人が言い返したことは自己防衛だった

と判断しています。

そして、これらの事情から、当時の認定基準上の 「(ひどい)嫌がらせ、いじめ、又は暴行を受けた」 という具体的出来事を適用しました。

さらに、

人格・人間性を否定する言動を含み、業務指導の範囲を逸脱した執拗な言動

に当たるとして、心理的負荷を「強」と評価しました。

その結果、本人に発病した精神障害は業務上の事由によるものと判断され、監督署長の不支給処分が取り消されています。

分岐点1|人格否定が継続的・頻繁だった

一つ目の重要なポイントは、人格を否定する発言が継続的かつ頻繁だったことです。

精神障害の労災では、

「ひどいことを一度言われた」

のか、

「人格を否定するような言葉が何度も繰り返されていた」

のかでは、確認すべき事情が違ってきます。

現行の精神障害の労災認定基準でも、ハラスメントのように繰り返される出来事については、繰り返される一連の出来事を一体として評価する考え方が示されています。

そのため、労災申請や審査請求を考える場合には、

  • 最初に言われたのはいつか
  • どのような言葉だったか
  • 週に何回程度あったか
  • いつ頃まで続いたか
  • 途中で内容がエスカレートしたか

まで時系列で整理しておくと、出来事の実態を把握しやすくなります。

分岐点2|物を投げる行為が度々あった

二つ目は、物を投げつけられる行為が度々あったことです。

審査官は、この行為について大けがにつながりかねない行為であることも踏まえて判断しています。

つまり、「物を投げられた」という言葉だけではなく、

  • 何を投げられたのか
  • 本人に向けて投げられたのか
  • どの程度の危険があったのか
  • 1回だけなのか、繰り返されていたのか
  • 誰かが目撃していたのか

といった具体的な状況が重要になります。

「物を投げられた」だけで終わらせない

労災の事実整理では、出来事の名称より、実際の行為の内容・危険性・頻度・目撃者などを具体化することが重要です。

分岐点3|「言い返した=喧嘩」とはされなかった

この事例で特に注目したいのが、本人も相手に言い返していた点です。

パワハラを受けている方の中には、

「自分も言い返してしまったので、パワハラではなく喧嘩だと言われるのではないか」

と心配される方もいます。

実際、原処分では、本人が言い返していたことが、一方的な嫌がらせとはいえないとする判断の一つの材料になっていました。

しかし審査官は、具体的な経過を踏まえ、 本人が言い返したことは自己防衛だったと認めるのが相当 と判断しています。

重要なのは「言い返したかどうか」だけではありません。

どちらからどのような行為が始まったのか、本人はなぜ反論したのか、その前後にどのような言動が繰り返されていたのかまで確認する必要があります。

もちろん、言い返していれば常に自己防衛と評価されるわけではありません。

あくまで、この事例では具体的な事実関係を踏まえてそのように判断されたものです。

「上司とのトラブル」と「パワハラ」の評価は何が違う?

この事例を見ると、

「上司とのトラブル」なのか
「ひどい嫌がらせ等」なのか

という出来事の整理が非常に重要だったことが分かります。

ただし、現在の認定基準では、過去の事例と具体的出来事の名称や評価表が変更されている部分があります。

そのため、古い事例について、

「現在なら必ずこの項目になる」
「同じ事実なら現在も必ず『強』になる」

と機械的に当てはめることは適切ではありません。

現行基準では、対象となる精神障害を発病していること、原則として発病前おおむね6か月の間に業務による強い心理的負荷が認められることなどを確認し、具体的出来事とその後の状況を把握して心理的負荷を判断します。

したがって、重要なのは出来事の名称そのものより、 実際にどのような行為があり、どの程度の心理的負荷だったのかを具体的に整理することです。

不支給になったら確認したい5つのこと

審査請求の期限に注意

労災保険給付の不支給決定に対する審査請求は、原則として、 決定があったことを知った日の翌日から3か月以内 に行う必要があります。

資料を整理している間にも期限は進むため、不支給通知を受け取ったら、まず決定日・通知内容・期限を確認しましょう。

精神障害の労災が不支給になった場合、すぐに反論書を書き始める前に、まず原処分の判断内容を整理することが重要です。

1.労基署はどの出来事を認定したのか

本人が主張した出来事が、すべて認定されているとは限りません。

例えば、

  • 発言自体が認められていない
  • 発言は認められたが頻度が違う
  • 人格否定ではなく業務指導と評価された

など、事実認定の段階で食い違っている可能性があります。

2.どの具体的出来事に当てはめたのか

今回の事例では、原処分の「上司とのトラブル」と、審査請求で適用された「ひどい嫌がらせ等」とで評価が変わりました。

不支給理由や開示資料を確認するときは、 労基署が出来事をどのようなカテゴリーで整理したのか を見ることも重要です。

3.なぜ「強」ではなく「中」などと評価したのか

単に評価結果だけを見るのではなく、

  • 反復性を認めなかったのか
  • 人格否定を認めなかったのか
  • 業務指導の範囲内と判断したのか
  • 本人と相手の双方に原因があると判断したのか

など、評価理由を具体的に確認します。

4.原処分の評価と矛盾する資料はないか

例えば、

  • 同僚が実際に目撃していた
  • 当時の相談メールに人格否定発言が記録されている
  • 録音に原処分で認定されなかった発言が残っている
  • 診療録に当時の職場状況が記録されている

といった資料がないかを確認します。

5.本人の説明と資料が時系列でつながっているか

出来事を単発で並べるだけではなく、

パワハラ等の出来事

職場での状況の悪化

不眠・不安・動悸などの症状

受診

欠勤・休職

という経過で整理すると、何を確認すべきか分かりやすくなります。

審査請求で確認したい資料

審査請求では、単に新しい証拠をたくさん追加すればよいわけではありません。

まず、 原処分がどの資料を見て、どのような事実を認定したのか を確認することが大切です。

そのうえで、

  • 録音
  • LINE・メール・社内チャット
  • 会社への相談記録
  • 同僚・関係者の説明
  • 診療録
  • 診断書
  • 日記・手帳
  • 勤怠記録
  • 会社作成の調査資料

などが、どの争点を裏付けるのか整理します。

資料は「多いか少ないか」より「何を証明するのか」

例えば同じLINEでも、発言そのものを証明する資料なのか、直後に相談していたことを示す資料なのかによって役割が違います。原処分のどこを確認するための資料なのかを意識して整理することが重要です。

よくある質問

労基署が「上司とのトラブル」と判断したら、もう変わりませんか?

必ず変わるわけではありませんが、今回紹介した公開事例のように、審査請求で具体的な事実を改めて検討した結果、出来事の評価が変わった例はあります。

まずは、原処分が何を認定し、なぜその評価になったのかを確認することが重要です。

自分も上司に言い返してしまいました。審査請求しても難しいですか?

言い返したという事実だけで一律には判断できません。

今回の事例では、本人の言い返しは自己防衛だったと評価されています。

一方で、すべての事案で同様に評価されるわけではありません。双方の具体的な言動や、その前後の経過を確認する必要があります。

新しい証拠がなければ審査請求はできませんか?

審査請求は、新しい証拠がある場合だけに限られるものではありません。

原処分で既に存在していた資料について、 事実認定や評価の仕方に問題がないか を確認することも重要です。

「中」と評価された出来事を「強」に変えるにはどうすればいいですか?

「強」に変えること自体を目的に主張を作るのではなく、実際に起きた事実と資料を正確に整理することが前提です。

人格否定の内容、反復性、業務指導としての必要性、身体的危険、目撃者、出来事後の経過などを確認し、その事実を認定基準に照らして評価していくことになります。

審査請求をすれば不支給処分は取り消されますか?

いいえ。

今回紹介したのは、不支給処分が実際に取り消された一つの事例です。

審査請求の結果は、それぞれの事案の事実関係、証拠、医学的資料、原処分の内容などによって異なります。

まとめ|「中」という結果ではなく、その理由を見る

今回紹介した厚生労働省の公開事例では、原処分で 「上司とのトラブル・中」 とされた出来事が、審査請求で 「ひどい嫌がらせ等・強」 と評価され、不支給処分が取り消されました。

評価を分けた重要な事情として、

  • 人格否定発言が継続的かつ頻繁だったこと
  • 物を投げつけられることが度々あったこと
  • その行為に身体的危険があったこと
  • 本人の言い返しが自己防衛と評価されたこと

があります。

この事例から学べるのは、

「心理的負荷が『中』だった」
という結果だけを見るのではなく、
なぜ『中』と評価されたのかを確認する

ことの重要性です。

不支給通知を受け取った場合には、

  • どの出来事が認められたのか
  • どの出来事が認められなかったのか
  • どの具体的出来事として評価されたのか
  • なぜ「強」ではなく「中」などになったのか
  • その評価と矛盾する資料がないか

を一つずつ確認してみてください。

労災が不支給となり、審査請求を検討している方へ

こもれび社労士事務所では、精神障害・パワーハラスメント等の労災について、不支給後の審査請求に向けた資料整理や書類作成のサポートを行っています。

「上司とのトラブルとして『中』と判断された」
「会社の説明が採用され、自分の主張が認められなかった」
「録音やLINEはあるが、どこが争点なのか分からない」
「不支給理由を読んでも、なぜ認められなかったのか分からない」

という段階でも構いません。

まずは、不支給処分の内容と手元の資料から、原処分がどのように事実を認定し、心理的負荷を評価したのかを整理していきます。

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参考資料

※本記事で紹介した事例は、当時の認定基準と個別の事実関係に基づいて判断された審査請求事例です。同様の言動があれば現在も必ず労災認定される、または審査請求で不支給処分が取り消されることを意味するものではありません。現行の精神障害の労災認定は、発病時期、具体的な出来事、その後の状況、心理的負荷、医学的資料、業務以外の事情等を踏まえて個別に判断されます。

ここまで読んで、まだ迷っていても大丈夫です。

まずは、今の状況を整理するところからで大丈夫です

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「何を書けばいいか分からない」
そんな段階でも大丈夫です。

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