労災の審査請求が棄却されたら?再審査請求の前に確認したい7つのこと

労災保険給付の不支給決定に対して審査請求をしたものの、 労災保険審査官から「棄却」の決定が届いた ということがあります。
ここまで自分で資料を集め、理由書を作成してきた方ほど、
- 「もう労災を争う方法はないのだろうか」
- 「再審査請求をしたほうがよいのか」
- 「審査請求と同じ主張をもう一度書けばよいのか」
- 「新しい証拠がなければ難しいのか」
- 「決定書を読んでも、何が否定されたのか分からない」
と迷うことがあります。
審査官の決定に不服がある場合には、労働保険審査会に対する再審査請求を検討できます。
ただし、再審査請求には期限があり、再審査請求をすれば必ず原処分が取り消されるわけではありません。
重要なのは、 審査請求で提出した主張をそのまま繰り返すことではなく、審査官が何を認定し、どの主張・証拠をどのように評価したのかを読み直すこと です。
この記事では、労災の審査請求が棄却された場合に、再審査請求を検討する前に確認したいポイントを、社会保険労務士が実務的に整理します。
労災の審査請求が棄却されたら、再審査請求を検討できる
労働基準監督署による労災保険給付の決定に不服がある場合、まず労災保険審査官に対して審査請求を行います。
そして、その審査官の決定にも不服がある場合には、 労働保険審査会へ再審査請求 をすることができます。
| 段階 | 主な相手方 | 何を争うか |
|---|---|---|
| 原処分 | 労働基準監督署長 | 支給・不支給などの労災保険給付の決定 |
| 審査請求 | 労災保険審査官 | 原処分が妥当か |
| 再審査請求 | 労働保険審査会 | 審査官の決定に不服があるとして、原処分の取消しを求める |
ここで注意したいのは、再審査請求書で求めるのは、 審査官の決定そのものを取り消してもらうという書き方ではなく、原処分の取消しを求める形になる という点です。
厚生労働省の再審査請求書の記載例でも、この点が注意事項として示されています。
最優先で確認したいのは再審査請求の期限
労災保険審査官の決定に対する再審査請求は、原則として、 審査官の決定書の謄本が送付された日の翌日から起算して2か月以内 に行う必要があります。
「決定書をじっくり読んでから考えよう」
「新しい診断書が完成するまで待とう」
としているうちにも、再審査請求の期限は進みます。
したがって、棄却決定が届いたら、再審査請求をするかまだ決めていなくても、 まず決定書が送付された日と期限を確認すること が重要です。
決定書だけでなく、教示部分や送付された封筒なども、念のためそのまま保管しておくとよいでしょう。
再審査請求の前に確認したい7つのこと
1.審査官の「結論」だけでなく「理由」を読む
審査請求が棄却されると、どうしても最初に目に入るのは、
「本件審査請求を棄却する」
という結論です。
しかし、再審査請求を検討するうえでより重要なのは、その後に記載されている判断理由です。
確認したいのは、
- どの事実が認められたのか
- どの事実が認められなかったのか
- どの診断書や医学的意見が重視されたのか
- 本人の主張について、どのように判断されたのか
- 原処分庁の判断を維持した理由は何か
です。
決定書の中から、 どの事実認定・評価が結論につながったのか を抜き出すことが第一歩です。
2.自分の主張と、審査官が認定した事実を分ける
不服申立てでは、自分が経験した出来事や納得できない点を伝えることはもちろん重要です。
しかし、
「自分はこう説明した」
ことと、
「審査官がその事実を認めた」
ことは別です。
再審査請求を考える場合には、たとえば資料を次のように整理すると分かりやすくなります。
| 項目 | 確認内容 |
|---|---|
| 本人の主張 | 審査請求で何を主張したか |
| 原処分庁の判断 | 労基署はどの事実を前提に不支給としたか |
| 審査官の認定 | 何を認め、何を認めなかったか |
| 根拠資料 | 診断書、診療録、会社資料、録音、メール等のどれが対応するか |
この4つを混ぜずに整理すると、再審査請求で確認すべきポイントが見えやすくなります。
3.「同じ主張をもう一度書く」だけになっていないか
再審査請求では、 審査請求で述べた内容をもう一度詳しく書けばよい と考えてしまうことがあります。
もちろん、重要な事実を再度主張する必要がある場合はあります。
ただし、すでに審査官がその主張を検討したうえで棄却しているのであれば、
- なぜその事実が認められなかったのか
- 証拠はどのように評価されたのか
- 決定書の認定と原資料に食い違いはないか
- 重要な資料が十分検討されているか
というところまで確認する必要があります。
つまり、
4.新しい証拠を増やすことだけが再審査請求ではない
「再審査請求をするなら、新しい証拠を用意しなければならないのでしょうか」
というご相談もあります。
新たな診断書、医師の意見、会社資料などが重要になる場合はあります。
しかし、再審査請求で確認すべきなのは、新しい証拠の有無だけではありません。
すでに提出されている、
- 診断書
- 診療録
- 画像・検査結果
- 会社からの回答
- 労働時間資料
- LINE・メール
- 録音
- 本人や関係者の聴取書
などと、審査官決定書の記載を照合すると、 既存資料の意味や評価について改めて確認すべき点 が見つかる場合があります。
「証拠を増やす」ことを目的にするのではなく、 何を証明するための資料なのか を明確にすることが大切です。
5.録音・LINE・メールは「何を証明するのか」を確認する
会社、医療機関、労働基準監督署などとのやり取りを録音している方もいます。
録音があること自体は重要ですが、 録音が存在することだけで、その主張が証明されるとは限りません。
たとえば、
「○○と言われた」
という事実を証明したい場合には、実際の録音内容に、
- 誰が
- いつ
- どのような文脈で
- 具体的に何と発言したのか
が確認できるかを見る必要があります。
LINEやメールについても同じです。
本人の受け止めと、資料から直接確認できる事実を分け、 決定書のどの認定に関係する証拠なのか を整理すると使いやすくなります。
6.医学的判断が争点なら、診断書だけでなく診療経過を見る
労災では、医学的な判断が結論に大きく影響するケースがあります。
たとえば、
- 休業期間中に労働できる状態だったか
- 傷病と業務との因果関係
- 症状固定の時期
- 後遺障害の程度
- 治療継続の必要性
などです。
この場合、診断書の一文だけを見るのではなく、
- 診療録
- 検査結果
- 画像所見
- リハビリ記録
- 他院の診断
- 症状の経過
- 主治医がその判断に至った時期と理由
まで確認する必要がある場合があります。
また、医師によって評価が異なる場合には、 「どちらの医師が正しいか」だけでなく、それぞれがどの資料・診察時点・症状を前提として評価しているのか を整理することが重要です。
7.複数の不支給処分がある場合は、事件ごとに整理する
一つの労災事故や傷病から、
- 休業(補償)等給付
- 療養(補償)等給付
- 障害(補償)等給付
- 通院に関する費用
- 別の傷病についての労災認定
など、複数の決定が出る場合があります。
本人からすると、
「全部同じ事故なのだから、まとめて争えばよいのでは?」
と思われるかもしれません。
しかし、実際には、それぞれの処分について、
- 対象となる給付
- 原処分の日
- 審査官決定
- 争点
- 関係する証拠
- 再審査請求の期限
を区別して確認する必要があります。
複数の事件がある場合ほど、 「どの処分について、何を争うのか」 を整理してから進めることが重要です。
再審査請求で集める資料は「多ければ多いほどよい」とは限らない
不支給や棄却を経験すると、
「もっとたくさん証拠を出さなければ」
と考え、手元にある資料をすべて提出したくなることがあります。
しかし、資料が多いことと、争点が伝わりやすいことは別です。
たとえば100ページの資料があっても、
- どの事実を証明したいのか
- 決定書のどの認定に対応するのか
- 重要な部分が何ページなのか
が分からなければ、主張との関係が見えにくくなります。
再審査請求を考える際には、
という順番で対応関係を作ると、資料を整理しやすくなります。
再審査請求の相談前に準備しておくとよい資料
社会保険労務士などへ相談する場合、すべての資料を完璧に整理してから相談する必要はありません。
まずは、次の資料があると状況を確認しやすくなります。
- 労働基準監督署の支給・不支給決定通知書
- 審査官の決定書一式
- 決定書に付いている別紙・教示
- 審査請求書や理由書
- 審査請求時に提出した証拠
- 情報開示で取得した資料
- 診断書・診療録・検査結果
- 会社とのLINE・メール
- 録音・反訳
- 出来事を整理した時系列
大量の資料がある場合でも、 最初からすべてを文章にまとめなくて構いません。
まず決定書を中心に、
「何の給付について」「いつ不支給になり」「審査請求でどのような決定が出たのか」
を確認すると、その後の資料整理が進めやすくなります。
再審査請求をするか迷ったときに考えたいこと
審査請求が棄却されたからといって、必ず再審査請求をしなければならないわけではありません。
一方で、
- 決定書の事実認定に疑問がある
- 重要な資料が十分検討されていないように見える
- 医学的資料と決定理由に食い違いがある
- 審査官の判断理由を読んでも整理できない
- 新しい資料があるが、どの争点に関係するか分からない
という場合には、期限を確認したうえで、再審査請求を検討する余地があるか整理してみることになります。
大切なのは、
だけではなく、
「どの処分について、どの判断に問題があると考え、その根拠がどの資料にあるのか」
まで具体化することです。
労災の再審査請求について社労士へ相談したい方へ
こもれび社労士事務所では、労災の不支給決定や審査請求後の決定を受けた方について、再審査請求に向けた資料整理・書類作成のご相談を承っています。
たとえば、
- 審査官決定書を読んでも、棄却理由が分からない
- 再審査請求で何を主張すべきか整理できない
- 開示資料が大量にあり、どこを確認すればよいか分からない
- 録音・LINE・メールはあるが、何の証拠になるか分からない
- 診断書や診療録と決定書の評価が合っているのか確認したい
- 複数の不支給処分があり、どれから整理すべきか迷っている
といった段階でもご相談いただけます。
資料が整理できていなくても構いません
決定書の写真・PDF、LINE、メール、録音、時系列の箇条書きなど、現在お持ちの資料から確認していくことができます。
再審査請求を依頼すると決めていない段階でも、まず状況を整理するところからご相談いただけます。
まとめ|審査請求が棄却されたら、まず「決定書と争点」を整理する
労災の審査請求が棄却された場合でも、審査官の決定に不服があるときは、労働保険審査会への再審査請求を検討できます。
ただし、再審査請求は、 審査請求と同じ主張をそのまま繰り返せばよい手続ではありません。
まず、
- 再審査請求の期限を確認する
- 審査官決定書の理由を読む
- 自分の主張と審査官の認定事実を分ける
- どの証拠が、どの争点に関係するか確認する
- 医学的判断がある場合は診療経過まで確認する
- 録音・LINE・メールの証明内容を確認する
- 複数の処分がある場合は事件ごとに整理する
という順番で確認すると、再審査請求で検討すべき点が見えやすくなります。
重要なのは、証拠をただ増やすことではなく、審査官の判断と原資料を照らし合わせ、何を争点にするのかを明確にすることです。
※本記事は労災保険の審査請求・再審査請求制度について一般的な情報を解説したものです。個別の事案において再審査請求を行うべきか、原処分が取り消される可能性があるかなどは、審査官決定書、原処分理由、医学的資料、その他の証拠関係によって異なります。
ここまで読んで、まだ迷っていても大丈夫です。

まずは、今の状況を整理するところからで大丈夫です
「まだ相談するか決めていない」
「何を書けばいいか分からない」
そんな段階でも大丈夫です。
※ 個人のご相談(労災・後遺障害・障害年金)/全国対応(LINE・オンライン)
※ 「まず整理だけ」でも大丈夫です


