労災の審査請求の認容率は公式に出ていない?ネットで見る「数%」を調べてみました

労災審査請求の認容率は公式に出ているのかを解説する水彩画イメージ

「労災の審査請求をしても、ほとんど認められないんですよね?」

労災が不支給になった方から、このように聞かれることがあります。

インターネットで検索すると、 「審査請求の認容率は低い」 「ほとんど覆らない」 「勝率は数%しかない」 といった情報を目にすることもあります。

その数字を見て、 「それなら審査請求をしても意味がないのではないか」 と諦めかけている方もいるかもしれません。

しかし、ここで一度確認してほしいことがあります。

労災保険の第1段階の不服申立てである「審査請求」について、 今回、厚生労働省などの公開一次資料を確認したところ、 令和6年度・令和7年度の全国の受付件数、決定件数、原処分取消件数などをまとめた最新の全国統計表は確認できませんでした。

つまり、インターネット上で見かける 「労災の審査請求は○%しか認められない」 という数字については、 何年度の、どの手続の、何を分母にした数字なのか を確認する必要があります。

一方、通常、審査請求の後に利用される手続である再審査請求については、 厚生労働省・労働保険審査会が公式統計を公表しています。

この記事で最もお伝えしたいこと

審査請求は、「認容率が低そうだからする」「低そうだから諦める」というものではありません。
まず、自分の不支給決定が、どのような事実認定と評価を前提にしているのかを確認することが出発点です。

動画でも解説しています|労災の審査請求は「数%」しか通らない?

「労災の審査請求は数%しか認められない」という情報は本当なのか。 審査請求と再審査請求の違いや、公式統計の数字をどう見るべきかを動画で解説しています。

労災の審査請求は、どのくらい認められる?

結論からいうと、現在公開されている一次資料だけから、 「令和6年度の労災審査請求の全国取消率は○%」 と正確に示すことは、今回の確認ではできませんでした。

厚生労働省は、労災保険給付に関する決定に不服がある場合、 処分を行った労働基準監督署長を管轄する都道府県労働局の 労働者災害補償保険審査官に対して、 審査請求をすることができると案内しています。

また、厚生労働省のウェブサイトでは、 審査官が行った主な決定事案の概要も公開されています。

ただし、今回確認した公開資料の範囲では、 最新年度について全国の審査請求をまとめ、 「受付件数」 「決定件数」 「原処分取消」 「棄却」 「却下」 などを一覧にした統計表は確認できませんでした。

「審査請求の公式記録が存在しない」という意味ではありません。
今回確認した公開一次資料から、最新の全国統一の取消率を確認できなかったという意味です。

したがって、

「労災審査請求の勝率は○%」
「認容率が数%だから、ほとんど無理」

という情報を見たときには、 その数字が本当に現在の労災保険の審査請求を示しているのか、 慎重に確認する必要があります。

一方、再審査請求には公式統計があります

通常、審査請求の後に利用される手続である再審査請求については、 厚生労働省・労働保険審査会が公式統計を公表しています。

令和7年3月31日現在の統計によると、 令和6年度の労災保険の再審査請求は、次のとおりです。

区分 令和6年度
請求件数 575件
裁決件数 555件
原処分取消 11件
棄却 510件
却下 34件
取下げ 14件 ※裁決件数には含まれません

令和6年度の労災保険の再審査請求では、 労働保険審査会が行った555件の裁決のうち、 11件で原処分が取り消されています。

原処分取消件数を裁決件数で割ると、 11件 ÷ 555件=約1.98%となります。 この記事では分かりやすくするため、便宜上約2.0%と表現します。

ただし、厚生労働省の公式統計表自体が 「取消率」「認容率」「逆転率」という名称でこの割合を公表しているわけではありません。

「原処分取消しは約2.0%なのか」と感じた方もいるかもしれません。

しかし、この数字をそのまま 「自分の不支給決定が覆る可能性」 と読むことはできません。

再審査請求の「2.0%」は、あなたの審査請求が認められる確率ではありません

最も重要なのはここです。

統計の2%に、
あなたの不支給理由は書かれていません。

令和6年度の約2.0%という数字は、 令和6年度に労働保険審査会で裁決された労災保険の再審査請求555件 を分母とした数字です。

最初に労災不支給となった人全体を分母にした数字ではありません。

また、精神障害の労災だけを集計した数字でもありません。

公式統計には、 業務上外に関する争いだけでなく、 障害、治ゆ、再発、労働者性、給付基礎日額、通勤災害など、 さまざまな労災保険上の事件が含まれています。

さらに、審査請求と再審査請求は同じ手続ではありません。

したがって、

再審査請求の取消しが約2.0%

あなたの審査請求が認められる可能性も2.0%

という計算はできません。

では、審査請求をするかどうかは何を見て考えるのでしょうか

精神障害の労災が不支給になった場合、 全国の取消率より先に確認したいのは、 「なぜ、自分の申請が不支給になったのか」 です。

精神障害の労災では、単に 「パワハラを受けた」 「仕事が大変だった」 「その後うつ病になった」 というだけで判断されているわけではありません。

原処分庁がどの出来事を認定し、 それを心理的負荷評価表のどの項目に当てはめ、 なぜ「弱」「中」「強」と評価したのかという過程があります。

その前提となっている事実認定が実際の資料と合っているのかを確認することが、 審査請求を検討するうえで重要になります。

精神障害の労災が不支給になる際に、 労基署・原処分庁がどのような流れで出来事を整理し、 心理的負荷を評価するのかについては、 以下の記事でも詳しく解説しています。

メンタル労災はなぜ不支給になる?実際の不支給理由から見る労基署の判断

精神障害の労災で、審査請求を検討するときに確認したい7つの点

たとえば、次のような点です。

不支給理由などに見られる評価 確認したいこと
「業務指導の範囲内」 実際の発言内容、人格否定、威圧性、公開性、反復継続、追及時間など
「一回限りの出来事」 メール、LINE、チャット、相談記録、メモ等から継続性を確認できないか
「会社は配慮していた」 実際の勤務表、担当業務、勤怠、メール、面談記録等と会社説明が一致するか
「心理的負荷は弱・中」 その評価の前提となった事実が正しいか、一連の出来事が不自然に分断されていないか
「発病時期は○月」 初診前の不眠、食欲低下、欠勤、服薬、家族への相談、診療録等と整合するか
「既往歴・業務外要因がある」 それまで安定して働けていた経過や、業務上の出来事後の症状悪化がどう評価されているか
「客観的な裏付けがない」 録音以外にも、メール、チャット、PCログ、勤怠、相談記録、診療録、第三者の説明等がないか

ここで大切なのは、 「上のどれかに当てはまれば、必ず不支給が覆る」という意味ではない ということです。

反対に、全国の取消率が低そうだからという理由だけで、 自分の不支給理由を確認する前に諦める必要もありません。

審査請求で大切なのは、「つらかった」ともう一度訴えることだけではありません

もちろん、職場で受けた出来事や、 その後どれほど苦しんだのかを伝えることは大切です。

ただ、審査請求では、 同じ主張をもう一度繰り返すだけでは十分でない場合があります。

重要になるのは、たとえば次のような点です。

  • 原処分庁が何を事実として認定したのか
  • その認定は録音、メール、LINE、勤怠、診療録などと整合しているのか
  • なぜ心理的負荷を「弱」「中」と評価したのか
  • 重要な事情が評価から抜け落ちていないか
  • 一連の出来事を別々の軽い出来事として扱っていないか
  • 発病時期の認定は医学的な経過と整合しているか
  • 審査請求段階で追加できる資料がないか

こうした点を具体的に確認することが重要です。

私は、精神障害の労災申請だけでなく、 不支給決定後の審査請求にも携わっています。

審査請求の手続では、原処分庁意見書などを確認し、 本人が訴えている出来事が原処分庁によってどのように整理されたのか、 どこで評価が「弱」「中」に下がったのか を検討することがあります。

実際の不支給理由を見ていると、 本人が感じている出来事の意味と、 原処分庁が認定した出来事の意味が異なっていることがあります。

たとえば本人は「長期間パワハラを受けた」と認識していても、 原処分庁側では個々の言動に分けられ、 「業務指導」 「単発のトラブル」 などとして整理されていることがあります。

その場合、審査請求では単に 「これはパワハラだった」 と主張するだけではなく、 なぜその事実認定や評価を見直す必要があるのかを、 資料と時系列に沿って検討することが重要になります。

パワハラが「弱・中・強」のどこに評価されるのかについては、 こちらの記事でも詳しく解説しています。

同じパワハラでも、なぜ労災認定と不支給に分かれる?「弱・中・強」の境界線

数字だけで諦めず、不支給理由を確認する価値があるケース

たとえば、次のような場合には、 少なくとも「取消率が低いらしいから」という理由だけで終わらせず、 原処分の内容を確認する意味があります。

  • 重要だと思っていた出来事が、不支給理由でほとんど触れられていない
  • 繰り返された言動なのに「一回限り」と整理されている
  • 人格否定や公開叱責があったのに「通常の業務指導」と評価されている
  • 会社が「配慮した」と説明しているが、勤務表やメール等と合わない
  • 複数の関連する出来事が、それぞれ独立した「弱い出来事」として評価されている
  • 発病時期に疑問があり、そのため重要な出来事が評価対象から外れている
  • 提出した資料がどのように評価されたのか分からない
  • 不支給決定後に、録音、メッセージ、勤怠、診療録、第三者の説明等の新しい資料が見つかった

もちろん、このような事情があれば 必ず原処分が取り消されるわけではありません。

しかし、 「審査請求は数%しか通らないらしい」という情報だけで、 自分の案件を検討せずに諦めてしまうこととは別の問題です。

審査請求と再審査請求は別の手続です

ここまで「審査請求」と「再審査請求」という言葉が出てきましたので、 簡単に整理しておきます。

手続 何に対する不服か 審理する機関
審査請求 労基署長による不支給決定等 労働者災害補償保険審査官
再審査請求 原則として審査官の決定 労働保険審査会

厚生労働省によると、 労災保険給付に関する決定に不服がある場合には、 まず労災保険審査官へ審査請求をすることができます。 審査官の決定に不服がある場合には、 労働保険審査会へ再審査請求をすることができます。

なお、審査請求をしてから3か月を経過しても決定がない場合には、 一定の制度上の取扱いにより、 審査官の決定を待たずに再審査請求へ進むことができる場合があります。

審査請求には期限があります

数字を調べている間にも、手続の期限は進みます。

労災保険の審査請求は、 労災保険給付の決定があったことを知った日の翌日から起算して3か月以内 に行う必要があります。

そのため、

「認容率をもう少し調べてから考えよう」

と数字だけを探し続けるよりも、 まず不支給決定の内容を確認し、 審査請求を検討する必要があるのか整理しておくこと が大切です。

まとめ|ネットで見る「数%」だけで判断しないでください

労災の審査請求について、 「何%くらい認められるのでしょうか」 と気になるのは自然なことです。

しかし、今回確認した公開一次資料では、 現在の全国の労災審査請求について、 最新の取消率を示す統計表は確認できませんでした。

一方、再審査請求については、 令和6年度に555件の裁決があり、 11件で原処分が取り消されています。 裁決件数を分母にすると約2.0%です。

ただし、この数字は精神障害の労災だけを対象としたものでも、 最初に不支給決定を受けた人全体を対象としたものでもありません。

「認容率が低いらしい」という情報だけで、
自分の審査請求の可能性まで決めないでください。

審査請求を検討するときに大切なのは、 全国の数字ではなく、 なぜ自分の申請が不支給になったのかを確認すること です。

原処分庁がどの出来事を認定したのか。 なぜ心理的負荷を「弱」「中」と評価したのか。 会社側の説明と資料は一致しているのか。 発病時期は適切なのか。 一連の出来事が不自然に切り離されていないか。

その内容を確認して初めて、 審査請求で改めて検討すべき点があるのか を考えることができます。

統計の2%に、あなたの不支給理由は書かれていません。

精神障害の労災が不支給となり、審査請求をするべきか迷っている方へ

「認容率が低いから、自分のケースも無理だろう」 と考える前に、 まず不支給理由や原処分庁意見書を確認することが大切です。

精神障害の労災では、 パワハラ等の出来事がどのように認定されたのか、 心理的負荷がなぜ「弱」「中」と評価されたのか、 発病時期がいつと判断されたのかによって、 検討すべき点が変わります。

こもれび社労士事務所では、 精神障害の労災不支給について、 事実認定、心理的負荷の評価、発病時期、 お手元の資料との整合性などを確認しながら、 審査請求を検討するためのご相談をお受けしています。

短い文章や箇条書きでも大丈夫です。 まずは、不支給決定の内容や現在の状況をお知らせください。

※この記事は、厚生労働省等が公開している資料および 精神障害の労災不支給・審査請求に関する実務上の検討事項をもとに 一般的に解説したものです。 個別の事案について、審査請求や再審査請求による原処分取消しを保証するものではありません。 また、統計資料の公表状況は今後変更される可能性があります。

ここまで読んで、まだ迷っていても大丈夫です。

まずは、今の状況を整理するところからで大丈夫です

「まだ相談するか決めていない」
「何を書けばいいか分からない」
そんな段階でも大丈夫です。

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