ワンオペ・人手不足で限界でも、なぜメンタル労災で「強」にならないことがあるのか

ワンオペ・人手不足で業務を一人で抱え疲弊する労働者の水彩画イメージ

「人が辞めて、気づけば自分一人で仕事を回していた」

「休憩も取れず、休日にも連絡が来る」

「相談しても、『採用する予定です』『応援を入れます』と言われるだけで、実際には負担が減らなかった」

このような状況が続き、うつ病や適応障害などを発症した場合、 「これだけ人手不足だったのだから、労災では強い心理的負荷になるはずだ」 と思う方もいるかもしれません。

しかし、精神障害の労災認定では、 「ワンオペだった」「人手不足だった」という事実だけで、心理的負荷が自動的に「強」と評価されるわけではありません。

実際に確認されるのは、 一人になった結果として、 業務内容、業務量、責任、休憩や休日、職場からの支援などが、 どの程度変化したのかという点です。

この記事で最もお伝えしたいこと

ワンオペになったこと自体ではなく、 ワンオペ化によって「何が増え、何が失われ、どれほど休めなくなったのか」 が、精神障害の労災認定では重要になります。

「ワンオペ」は精神障害の労災認定基準にある

現在の精神障害の労災認定では、 厚生労働省の「心理的負荷による精神障害の認定基準」に基づいて、 業務上の出来事による心理的負荷が評価されます。

その評価表には、

「複数名で担当していた業務を1人で担当するようになった」

という具体的な出来事が設けられています。

この項目の平均的な心理的負荷は「Ⅱ」です。

評価にあたっては、 職務、責任、業務内容、業務量の変化の程度だけでなく、 その後の業務内容・業務量、 職場の人間関係、 職場からの支援・協力の有無や内容などが確認されます。

つまり、認定基準上も、 「一人になったかどうか」だけを見ているわけではありません。

一人になったことで、 仕事や責任がどれほど増えたのか。 相談できる人や代替要員がいたのか。 休憩や休日を確保できたのか。 こうした実態が重要になります。

ワンオペの「弱・中・強」はどう分かれる?

精神障害の労災認定では、 業務による心理的負荷を、 主に「弱」「中」「強」に分けて評価します。

「複数名で担当していた業務を1人で担当するようになった」という出来事についても、 一人担当になったというだけで評価が決まるわけではありません。

以下は、厚生労働省の認定基準に示された評価の考え方をもとに、 理解しやすいよう一般化して整理したイメージです。 実際の労災認定では、出来事の内容やその後の状況を個別に確認し、 心理的負荷が総合的に評価されます。

評価の方向 判断で重視されやすい事情
弱い方向 一人担当化があっても、業務内容・業務量・責任の変化が限定的で、 実際に職場からの支援・協力が確保され、 休息も一定程度確保できている場合
中程度の方向 一人担当化に伴い、業務内容・業務量・責任の増加や、 支援・協力の減少が確認される場合
強い方向 人員削減等で一人担当となり、支援が乏しく孤立した状態で、 業務内容・業務量・責任が著しく増加し、 休憩・休日の確保も難しく、常時緊張を強いられるなど、 業務遂行に著しい困難を伴う事情が重なる場合

ここで大切なのは、 「ワンオペ」という一つの言葉の中に、非常に幅のある状態が含まれている ということです。

一人で担当していても、 他部署から実際に応援が入り、 業務量も調整され、 休暇も取れていた場合と、

一人で全てを背負い、 代替要員もなく、 休憩も休日も取れず、 ミスや緊急対応の責任まで一人で負っていた場合とでは、 心理的負荷の評価は同じではありません。

▶ 動画でも解説|ワンオペでも労災で「強」とは限らない?

ワンオペ・人手不足が精神障害の労災でどのように評価されるのか、動画で分かりやすく解説しています。

人手不足なのに「強」にならない理由

ワンオペや人手不足で本人が限界を感じていても、 労災の評価が必ず「強」になるわけではありません。

その理由は、 評価対象が「人数」そのものではなく、人員減少によって生じた実際の負荷だからです。

たとえば、次のような点が確認されます。

  • 一人になったことで、どの業務が追加されたのか
  • 担当件数や処理量はどの程度増えたのか
  • 責任範囲や判断しなければならない事項が増えたのか
  • 相談相手や代替要員はいたのか
  • 休憩、休日、有給休暇を実際に取得できていたのか
  • 残業や休日対応が増えたのか
  • ミスを許されない、常時緊張を伴う業務だったのか

したがって、

「人が減った」

「心理的負荷が強」

という単純な判断にはなりません。

会社が「支援していた」と説明したら、それで負荷は弱くなる?

人手不足の労災申請では、 会社側から、

  • 他の職員が応援していた
  • 業務量を減らしていた
  • 予約数や担当件数を調整していた
  • 新しい職員を採用した
  • 相談できる体制を整えていた
  • 休暇は取得できる状況だった

といった説明がされることがあります。

しかし、 会社が「支援していた」と説明しただけで、そのまま心理的負荷が低く評価されるという意味ではありません。

重要なのは、 その支援が実際に機能していたのかという点です。

たとえば、 「応援を入れていた」という説明であれば、 実際に誰が、いつ、どの業務を担当したのか。

「業務量を減らした」という説明であれば、 担当件数や予約数、処理量が実際に減っていたのか。

「採用した」という説明であれば、 採用した人が発病前の時点で実際に勤務し、 本人の業務を代替できる状態になっていたのか。

こうした内容を、 勤務表、担当表、勤怠、メール、業務記録などと照らして確認していく必要があります。

「採用予定だった」と「実際に支援があった」は違う

人手不足の職場では、

「求人を出しています」

「来月、新しい人が入ります」

と説明されることがあります。

しかし、 採用計画があったことと、発病前の本人の負担が実際に軽減されていたことは別です。

新しい職員が入社していても、 研修中で一人では業務を担当できず、 結局は本人が教育まで担当していたという場合もあります。

そのため、 単に「採用したかどうか」ではなく、 いつから実際に負担軽減につながったのか を見る必要があります。

ワンオペ、人手不足、残業、休日対応は別々に評価される?

ワンオペ化によって生じる負荷は、 一つの評価項目だけに収まらない場合があります。

たとえば、

人員削減

一人担当

業務量・責任が増える

残業・休日対応が増える

応援を求めても支援がない

休めない状態が続く

という経過であれば、 「一人担当になった」という出来事だけでなく、 仕事内容・仕事量の大きな変化、 長時間労働、 休日のない連続勤務など、 他の評価項目も問題になることがあります。

また、これらが同じ人員減少をきっかけとして連続して生じている場合には、 それぞれを単純に切り離すのではなく、一連の出来事としてどう評価するか という視点も重要になります。

「ワンオペ」「残業」「休日対応」を別々の出来事として並べるだけではなく、 同じ人員減少から生じた一連の負荷として整理できるかが重要になる場合があります。

ただし、 複数の出来事があることだけで、自動的に心理的負荷が「強」となるわけではありません。 同じ人員減少を背景として、 業務量の増加、休息不足、支援の欠如などが時間的・内容的に関連しているか、 それぞれの負荷がどの程度だったかを確認する必要があります。

オンコール・持ち帰り仕事・休憩なしも確認したい

人手不足の負荷は、 勤怠表に表示される残業時間だけでは分からないことがあります。

たとえば、 オンコール当番で休日にも電話に対応していたり、 自宅でメールやチャットを確認していたり、 昼休み中も業務対応を続けていた場合です。

ただし、 オンコールがあるだけで、直ちに強い心理的負荷と評価されるわけではありません。

確認したいのは、 実際の対応回数、 拘束の程度、 代替できる職員がいたのか、 緊急性が高かったのか、 睡眠や休息がどの程度妨げられたのか、 といった具体的な事情です。

たとえば、 休日にも頻繁に電話が入り、 本人しか判断できず、 常にスマートフォンを気にしなければならなかった場合と、 ほとんど連絡がなく、 他の職員でも代替できる状態だった場合とでは、 負荷の内容が異なります。

公開裁決では、人手不足が争点となった例もある

公開されている労働保険審査会の裁決には、 マンパワー不足が争点となった事例があります。

平成26年労第549号では、 配置転換後にリーダーの休職や担当者の異動があり、 人員不足が続いた事情が検討されています。

一方で、 配置転換から人員不足までに一定の期間が経過していたことや、 時間外労働の大幅な増加が認められないことなども踏まえ、 本件では強い心理的負荷とは評価されず、 再審査請求は棄却されています。

この事例からも、 人手不足の事情が認められた場合でも、 その経過、実際の業務量、労働時間などを含めて心理的負荷が評価される ことが分かります。

一方、現在の認定基準では、 人員削減等によって一人担当となり、 職場からの支援もなく孤立し、 業務内容・業務量・責任が著しく増え、 休憩や休日も取れず、 常時緊張を強いられ、 業務遂行に著しい困難を伴った場合が、 「強」の具体例として示されています。

つまり、 人手不足の有無だけではなく、その人手不足が仕事の実態をどこまで変えたのか が重要です。

ワンオペ・人手不足を説明するときに残しておきたい資料

労災申請や不支給後の審査請求を考える場合、 「一人で大変だった」と説明するだけではなく、 その実態を確認できる資料を整理しておくことが重要です。

確認したいこと 資料の例
いつ人が減ったか シフト表、組織図、異動通知、社内メール、退職に関する案内
いつ一人担当になったか 業務分担表、担当表、引継書、会議資料、メール
業務量が増えたか 担当件数、予約数、処理件数、案件一覧、日報、業務記録
責任が増えたか 管理者代行の指示、決裁資料、クレーム対応記録、緊急連絡記録
本当に応援があったか 勤務表、応援者のシフト、担当表、チャット、応援要請の記録
残業・休日対応 勤怠、PCログ、メール送信時刻、電話履歴、休日対応記録
オンコール 当番表、電話履歴、出動記録、チャット、対応メモ
会社へ相談したか メール、LINE、面談記録、相談窓口記録、改善要望書
症状との時間関係 診療録、診断書、服薬記録、欠勤・遅刻・早退、家族等への相談記録

ポイントは、 「ワンオペだった証拠」だけを集めるのではない ことです。

できれば、

人員減少

業務量・責任の増加

支援の不足

休息不足

症状の変化

という流れが分かるように、 複数の資料を時系列で整理していくことが重要です。

不支給になった場合は「人手不足だったか」だけを見ない

精神障害の労災が不支給となった場合、

「これだけ人手不足だったのに、どうして認められなかったのか」

と感じる方もいると思います。

その場合には、 単に「人手不足だった」という主張を繰り返すのではなく、 原処分庁が人員減少後の仕事の実態をどのように認定しているのか を確認することが重要です。

たとえば、

  • 業務量はほとんど変化していないと認定されていないか
  • 会社の「支援していた」という説明が前提になっていないか
  • 実際には取れなかった休憩・休日が評価されているか
  • 残業や休日対応が別々の軽い出来事として整理されていないか
  • 一人担当となった時期と発病時期が正しく整理されているか

などを確認していきます。

精神障害の労災が不支給になる際に、 労基署が出来事をどのように認定し、 心理的負荷を「弱」「中」「強」と評価しているのかについては、 こちらの記事でも詳しく解説しています。

メンタル労災はなぜ不支給になる?実際の不支給理由から見る労基署の判断

また、不支給後に審査請求を検討する際に、 ネットで見かける「認容率」や「数%」をどのように考えればよいのかについては、 こちらの記事で解説しています。

労災の審査請求の認容率は公式に出ていない?ネットで見る「数%」を調べてみました

まとめ|ワンオペで重要なのは「一人で何を背負ったか」

ワンオペや人手不足は、 精神障害の労災認定でも重要な出来事になり得ます。

しかし、 「一人で仕事をしていた」という事実だけで、 心理的負荷が自動的に「強」になるわけではありません。

重要なのは、 一人になった結果として、

  • 業務量がどれほど増えたのか
  • 責任がどれほど重くなったのか
  • 支援や代替要員がなくなったのか
  • 休憩や休日が取れなくなったのか
  • 常時緊張を強いられる状況になったのか

という実態です。

問われるのは、
「何人で働いていたか」だけではありません。

一人になった結果、
「何を、どこまで背負うことになったのか」です。

会社が「応援していた」「業務量を減らしていた」と説明している場合も、 その説明と実際の勤務表、担当表、勤怠、メール等が一致しているかを確認することが大切です。

ワンオペ、人手不足、残業、休日対応、支援不足が同じ流れの中で生じている場合には、 それぞれを切り離すだけではなく、 一連の負荷として整理できないかという視点も重要になります。

人手不足・ワンオペによるメンタル労災でお悩みの方へ

「人が辞めて仕事を一人で抱えるようになった」 「休憩や休日も十分に取れなくなった」 「会社に相談したが、実際には負担が減らなかった」 といった事情がある場合、 一人担当になったことだけでなく、 その後の業務量、責任、支援体制、勤務状況を具体的に整理することが大切です。

こもれび社労士事務所では、 精神障害の労災申請や、 不支給決定後の審査請求について、 出来事の整理、心理的負荷の評価、 発病時期、会社側の説明と資料の整合性などを確認しながら、 ご相談をお受けしています。

短い文章や箇条書きでも大丈夫です。まずは現在の状況をお知らせください。

この記事を読む際の注意点

精神障害の労災認定は、個別の出来事だけでなく、 発病時期、出来事の内容・程度、その後の状況、 他の業務上の出来事、業務外要因、個体側要因等を含めて判断されます。 「ワンオペだった」「人手不足だった」という事情だけで、 労災認定または心理的負荷「強」となることを保証するものではありません。

ここまで読んで、まだ迷っていても大丈夫です。

まずは、今の状況を整理するところからで大丈夫です

「まだ相談するか決めていない」
「何を書けばいいか分からない」
そんな段階でも大丈夫です。

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