オンラインクリニックで精神科を受診した場合でも労災申請できる?確認したい5つのポイント

「仕事のストレスで眠れなくなり、まずオンラインクリニックを受診した」
「あとから労災申請を考え始めたけれど、オンライン診療でも大丈夫なのか不安」
精神的につらい状態では、外出せずに受診できるオンライン診療が、医療につながる大切な入口になることがあります。
一方で、仕事上の出来事が原因として精神障害の労災申請を検討する場合には、 「オンライン診療だったか、対面診療だったか」だけではなく、その医療機関が今後どこまで対応できるのか を確認しておくことが重要です。
オンライン診療を受けたことだけで、労災申請ができなくなるわけではありません。
ただし、
労災指定医療機関か、治療費をどのように請求するか、主治医意見や診療情報の提供に対応できるか、今後も継続して受診できるか
などは確認しておいた方がよいでしょう。
この記事では、オンラインクリニックで精神科・心療内科を受診した後に精神障害の労災申請を考え始めた方に向けて、 確認しておきたい5つのポイント を社会保険労務士が解説します。
結論|オンライン診療を受けたことだけで労災申請ができなくなるわけではない
精神障害の労災申請を考える場合、
「初診がオンライン診療だった」
↓
「だから労災申請はできない」
と直ちに考える必要はありません。
精神障害の労災では、対象となる精神障害を発病しているか、発病前おおむね6か月の間に業務による強い心理的負荷があったかなどを、具体的な資料や関係者からの聴取等を踏まえて判断します。
疾患名や発病時期については、主治医の意見や診療録などの医学的資料を踏まえつつ、本人や関係者からの聴取内容その他の資料も含めて判断されます。
そのため、受診方法だけを見るのではなく、
- どこで初診を受けたか
- どのような症状・経過を医師に伝えたか
- 診療録がどのように作成されているか
- 継続して診療を受けられるか
- 労災関係の照会や書類作成に対応できるか
といった点を確認していくことが重要です。
受診先の対応状況、診療内容、記録、今後の治療継続などを一つずつ確認していきましょう。
1.受診先が労災指定医療機関か確認する
まず確認したいのが、 現在受診しているクリニックが労災保険指定医療機関かどうか です。
労災保険指定医療機関とは、労災保険法上の療養の給付を行う医療機関として、都道府県労働局長の指定を受けた病院・診療所です。
厚生労働省では、医療機関名、所在地、診療科目などから労災保険指定医療機関を検索できるページを公開しています。
「オンライン診療に対応しているから労災にも対応している」とは限りません。医療機関へ直接確認することも大切です。
なお、労災指定医療機関でなければ労災請求そのものができない、という意味ではありません。
ただし、治療費の請求方法が異なるため、次の点も確認します。
2.治療費の請求方法を確認する
業務災害について、労災保険指定医療機関等で療養の給付を受ける場合には、 療養補償給付たる療養の給付請求書(様式第5号) が用いられます。
一方、治療費をいったん負担した場合には、 療養の費用請求書(様式第7号) によって費用の支給を請求する仕組みがあります。
労災指定医療機関等で療養の給付
→ 業務災害では原則として様式第5号
いったん治療費を負担した場合
→ 業務災害では様式第7号による費用請求を検討
ただし、実際の窓口対応は、受診時点、医療機関の取扱い、すでに健康保険で受診しているかなどによって確認が必要になることがあります。
そのため、 「オンラインクリニックだから必ず全額自己負担になる」などと一律に考えず、受診先と所轄労働基準監督署へ確認する のが安全です。
領収書・診療明細は保管しておく
すでに治療費を支払っている場合は、
- 領収書
- 診療明細書
- 処方箋・薬剤情報
- 薬局の領収書
- 受診日が分かる記録
などを保管しておきましょう。
後から労災請求を検討する場合に、受診経過や費用を確認する資料になります。
3.主治医意見・診療情報への対応可否を確認する
精神障害の労災では、この点が特に重要です。
労災の判断では、精神障害の疾患名や発病時期などについて、 主治医の意見や診療録などの医学的資料 が確認されます。
そのため、オンラインクリニックを受診している場合には、
- 労災請求に関係する主治医意見の照会に対応できるか
- 診断書の作成に対応できるか
- 診療情報提供書の作成が可能か
- 診療録の開示・提供に対応しているか
- 労働基準監督署等から照会があった場合に対応できるか
などを確認しておくと安心です。
労災認定を判断するのは医療機関ではありません。医師には医学的な診察・記録・意見をお願いし、それらを含む資料をもとに労働基準監督署が業務上外を判断します。
※医療機関がどの書類や照会に対応できるか、診療情報の開示・提供に必要な手続や費用は医療機関ごとに異なります。受付窓口や医事課等へ確認しましょう。
診療録に何が残っているかも重要
精神障害の労災では、発病時期や受診に至った経過が争点になることがあります。
例えば初診時に、
- 「数か月前から眠れない」
- 「上司から繰り返し叱責されている」
- 「異動後に仕事量が急増した」
- 「会社へ相談したが状況が変わらなかった」
などと医師に伝えていれば、診療録にその内容が残っている場合があります。
もちろん、診療録に書かれている内容だけで労災認定が決まるわけではありません。
ただ、後から本人の説明、会社資料、LINE・メール、勤怠記録などと照らし合わせる際に、受診当時の記録が重要な資料になることがあります。
4.継続受診・必要時の対面診療について確認する
オンライン診療は、受診への心理的・身体的な負担を減らせる場合があります。
一方、精神障害では、
- 症状の変化
- 服薬の調整
- 休職・復職
- 診断書の作成
- 長期的な治療方針
などについて、継続的に診療を受けることがあります。
そこで、現在のクリニックについて、
- 今後も継続して受診できるか
- 必要になった場合に対面診療へ切り替えられるか
- 対面診療が必要になった場合にどこへ紹介されるのか
- 転院時に診療情報提供書を作成してもらえるか
なども確認しておくとよいでしょう。
まずは現在の医療機関が、継続診療、診療情報の提供、労災関係の照会等にどこまで対応できるかを確認し、そのうえで主治医と相談しながら今後の受診先を考えることが大切です。
また、 「労災申請をするなら必ず対面診療に変えなければならない」 という意味でもありません。
診療方法については、症状や治療内容に応じて医師・医療機関が判断するものです。
5.初診・継続診療で伝えておきたいこと
精神障害の労災を考える場合でも、 「労災が通りやすくなるように話す」ことは適切ではありません。
重要なのは、診療上必要な情報を、 できるだけ正確に、事実に沿って医師へ伝えること です。
症状が始まった時期
- いつ頃から眠れなくなったか
- 食欲低下や不安が出始めた時期
- 涙が出る、動悸がする、出勤できないなどの変化
受診に至ったきっかけ
- 直前に何があったのか
- 誰かに受診を勧められたのか
- 会社・家族・産業医等へ相談していたか
仕事上の出来事
- パワハラ・叱責・嫌がらせ
- 仕事内容や仕事量の大きな変化
- 異動・配置転換
- 長時間労働
- 顧客からの著しい迷惑行為
- 職場内の対人関係の変化
仕事以外の事情や既往歴
精神障害の労災では、業務だけでなく、業務以外の心理的負荷や既往歴なども確認されることがあります。
そのため、
- 過去の精神科・心療内科の受診歴
- これまでの服薬歴
- 過去の休職歴
- 家庭・家族等の大きな出来事
についても、医師から聞かれた場合には事実どおり説明しておくことが大切です。
すでにオンライン診療を受けている場合に今からできること
すでにオンラインクリニックを受診してから、
「あとから労災を考え始めた」
という方も多いと思います。
その場合も、まずは次のことから確認してみてください。
- 受診先が労災指定医療機関か確認する
- 領収書・診療明細・処方内容を保存する
- 労災関係の診断書・意見照会等に対応できるか確認する
- 今後も継続受診できるか確認する
- 必要時に診療情報提供書を作成してもらえるか確認する
- 症状と仕事上の出来事を時系列で整理する
特に、 初診日、症状が出始めた時期、会社での主な出来事、休職・欠勤に至った経過 は、記憶が薄れる前に簡単なメモを残しておくとよいでしょう。
ただし、体調が悪い中で詳細な申立書を一気に作る必要はありません。
まずは、
- 日付
- 場所
- 誰から何を言われた・されたか
- 同席者
- 残っているLINE・メール・録音等
程度から、無理のない範囲で残しておけば十分です。
クリニックにはどう確認すればいい?
労災をまだ正式に申請すると決めていない段階であれば、次のように確認するとよいでしょう。
「仕事上の出来事による精神疾患として、今後労災申請を検討する可能性があります。
貴院は労災保険指定医療機関でしょうか。
また、今後必要となった場合に、労災関係の診断書、主治医意見への照会、診療情報提供書等の作成には対応していただけますでしょうか。」
まだ検討段階であることを伝えたうえで、 「必要になった場合に対応可能か」 を確認するだけでも構いません。
医療機関によって対応範囲は異なるため、回答内容をメモしておきましょう。
よくある質問
オンライン診療の診断書でも労災申請できますか?
オンライン診療で診断書が発行されたという理由だけで、労災申請自体ができなくなると一律に考える必要はありません。
ただし、労災の判断では診断書1枚だけではなく、診療録、主治医意見、本人・会社等からの聴取内容、仕事上の出来事に関する資料などが確認されます。
現在の医療機関が今後の照会・診療情報の提供等に対応可能かも確認しておくとよいでしょう。
オンラインクリニックが労災指定医療機関でなければ申請できませんか?
労災指定医療機関でないという理由だけで、労災請求そのものができないということではありません。
ただし、指定医療機関等で療養の給付を受ける場合と、いったん費用を負担して療養の費用を請求する場合では手続が異なります。
具体的な請求方法は、医療機関や所轄労働基準監督署へ確認してください。
初診がオンライン診療だと労災では不利になりますか?
初診がオンラインだったという一点だけで、有利・不利を判断することはできません。
精神障害の労災では、疾患名・発病時期、発病前の仕事上の出来事、その後の状況、医学的資料等を踏まえて個別に判断されます。
大切なのは、初診時にどのような症状や経過を伝えていたのか、その後の診療経過はどうなっているのか、必要な医学的資料が確認できるか、といった点です。
医師に「仕事が原因のうつ病です」と書いてもらう必要がありますか?
労災認定の結論を医師に書いてもらうこと自体が目的ではありません。
医師には、診察に基づいて疾患名、症状、発病時期等について医学的な記録・意見を作成してもらい、仕事上の出来事については会社資料や本人の説明、関係者の聴取内容なども含めて労働基準監督署が判断します。
オンライン診療から対面の精神科へ転院した方がいいですか?
労災申請だけを理由に、直ちに転院すべきとは限りません。
現在の治療状況、症状、医療機関の対応範囲などを確認したうえで、必要があれば主治医と相談してください。
転院する場合には、診療情報提供書などを通じて、それまでの診療経過を引き継げるようにしておくことも大切です。
まとめ|受診方法より、診療・記録・継続性を確認する
オンラインクリニックで精神科・心療内科を受診したからといって、
「オンラインだったから労災は無理」
と自分で結論を出す必要はありません。
一方で、精神障害の労災申請を検討するのであれば、
- 受診先が労災指定医療機関か
- 治療費をどのように請求するか
- 主治医意見・診療情報等に対応できるか
- 今後も継続して診療を受けられるか
- 症状や仕事上の出来事を正確に医師へ伝えているか
を確認しておくことが重要です。
受診当時からどのような症状があり、仕事上の出来事と受診・休職までの経過がどうつながっていたのか。そして、その経過を確認できる診療録や資料があるかを整理することが重要です。
すでにオンライン診療を受けている場合も、まずは現在の医療機関の対応状況を確認し、治療を続けながら、必要な資料を少しずつ整理していきましょう。
精神障害の労災申請を検討している方へ
こもれび社労士事務所では、パワーハラスメント、長時間労働、仕事内容・仕事量の変化などを原因とする精神障害の労災について、申請に向けた事情整理や書類作成のサポートを行っています。
「オンラインクリニックを受診したが、このままでよいのか分からない」
「医療機関が労災関係の書類に対応してくれるか不安」
「会社での出来事をまだうまく整理できていない」
「労災申請をするかどうかも含めて相談したい」
という段階でも構いません。
まずは現在の受診状況と、発病前にどのような出来事があったのかを確認しながら、今後必要になる資料や手続を整理していきます。
参考資料
- 厚生労働省「労災保険指定医療機関検索」
- 厚生労働省「主要様式ダウンロードコーナー(労災保険給付関係主要様式)」
- 厚生労働省「心理的負荷による精神障害の認定基準について」(令和5年9月1日 基発0901第2号)
※本記事は精神障害の労災申請に関する一般的な情報を整理したものです。オンライン診療の実施方法、診断書・診療情報等の発行、労災保険への対応範囲は医療機関によって異なります。また、労災保険給付の可否は、発病時期、具体的な業務上の出来事、医学的資料、業務以外の事情等を踏まえて個別に判断されます。具体的な治療・診療方法については担当医療機関へ、労災保険の請求方法については所轄労働基準監督署等へご確認ください。
ここまで読んで、まだ迷っていても大丈夫です。

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