地方公務員の精神疾患は数年後でも公務災害申請できる?|時効・勤怠記録・上司退職を解説

「精神疾患で休職したのは数年前だから、もう公務災害申請はできないのでは」
「当時の上司はすでに退職している」
「古い勤怠記録が残っているか分からない」
地方公務員の精神疾患について公務災害を検討するとき、 発症や初診、最初の休職から時間が経過していることで、 申請を諦めてしまう方もいるかもしれません。
しかし、時間が経過しているという理由だけで、 直ちに公務災害の認定請求ができなくなるとは限りません。
一方で、時間が経過するほど、 勤務記録や医療記録が残っているか、 当時の出来事をどの資料から確認できるかという問題は大きくなります。
大切なのは、「昔のことだから無理」と最初から諦めることではありません。
まず発症・初診・休職などの時系列を整理し、
どの時期を確認する必要があるのかを考え、
そのうえで残っている資料を一つずつ確認していくことです。
発症から数年後でも公務災害の認定請求はできる?
まず分けて考えたいのが、 「認定請求できるか」「公務上と認定されるか」「補償を受けられるか」は、それぞれ別の問題 だということです。
地方公務員災害補償基金の資料では、 療養補償や休業補償などの補償を受ける権利について時効が定められています。
地方公務員災害補償基金の公表資料では、 認定請求を行うこと自体に時効はないと案内されています。
したがって、発症、初診、最初の休職から数年が経過しているという理由だけで、 直ちに認定請求できなくなるわけではありません。
ただし、療養補償や休業補償など、 補償を受ける権利には別途時効があります。 また、時間が経過するほど資料が残っていなかったり、 当時の関係者から事実確認することが難しくなったりする可能性があります。
| 分けて考えること | 確認する内容 |
|---|---|
| 認定請求できるか | 地方公務員災害補償基金に、公務災害としての認定を求められるか |
| 公務上と認定されるか | 発症時期や業務上の負荷などを認定基準に照らして判断できるか |
| 補償を受けられるか | 療養補償・休業補償など、それぞれの補償請求権の時効にかからないか |
したがって、 「数年前のことでも認定請求できる可能性がある」ことと、「過去の補償をすべて受けられる」ことは同じではありません。
時間が経過している案件では、 認定請求の問題と各補償請求権の時効を分けて確認することが重要です。
精神疾患では「発症前おおむね6か月」が重要
精神疾患の公務災害を検討するときに重要になるのが、 いつ精神疾患を発症したのかという点です。
地方公務員災害補償基金の精神疾患に関する認定基準・実施通知では、 原則として対象疾病の発症前おおむね6か月の間に、 発症に関与したと考えられる業務上の出来事を把握し、 その負荷を検討する考え方が示されています。
ただし、 「6か月より前の出来事はすべて関係ない」という意味ではありません。
それ以前に始まった出来事が発症前6か月の期間にも継続していた場合や、 いじめ・嫌がらせなどが反復継続していた場合には、 それ以前からの経過も含めて確認する必要が生じることがあります。
「発症前おおむね6か月を見る」ことと、 「6か月より前の出来事を全部捨てる」ことは同じではありません。
「初診日=発症日」「休職開始日=発症日」とは限らない
ここでも注意が必要です。
精神疾患では、 初めて医療機関を受診した日や休職を開始した日が、 そのまま医学的な発症日になるとは限りません。
受診する前から、
- 眠れなくなっていた
- 食欲が低下していた
- 欠勤や遅刻が増えていた
- 仕事中に涙が出るようになっていた
- 家族や同僚から様子の変化を指摘されていた
といった経過があることもあります。
そのため、古い案件ではいきなり大量の勤務資料を集める前に、 まず発症時期をどのあたりと考えるのかを整理すること が重要になります。
数年前の出来事は、何を使って確認する?
「昔のことなので、もう証明できません」
そう思われる方もいるかもしれません。
しかし、精神疾患の公務災害では、 一つの資料だけですべてを証明するとは限りません。
たとえば、次のような資料を組み合わせて確認していきます。
| 資料 | 確認できる可能性があること |
|---|---|
| 出退勤記録・在庁記録 | 在庁時間、連続勤務、深夜までの勤務状況など |
| 時間外勤務命令・申請・承認記録 | 正式に把握されていた時間外勤務や業務内容 |
| 給与・時間外手当関係資料 | 時間外勤務の存在や支給状況 |
| メール・チャット・会議資料 | 指示、締切、業務量、休日対応、職場でのやり取りなど |
| 業務日誌・業務分担表 | 担当業務や業務量、その変化など |
| 診療録・問診票・紹介状 | 症状の経過、初診時の訴え、職場について医師へ話していた内容など |
| 本人メモ・家族の記録 | 症状が現れた時期や出来事の時系列を確認する手掛かり |
特に勤務時間については、 正式な時間外勤務命令だけでなく、 在庁記録や同僚の供述などの客観的な根拠から、 実際の業務状況を検討できる場合があります。
当時の上司や同僚が退職・異動していたら?
数年前の案件では、 当時の上司や同僚がすでに退職・異動していることもあります。
しかし、 当時の上司が退職しているという理由だけで、公務災害の認定請求ができなくなるわけではありません。
当時の事実関係については、 上司本人の供述だけでなく、
- 人事資料
- 勤務記録
- 業務分担表
- メール・チャット
- 相談記録
- 診療録
- 当時の同僚や関係者の供述
などを組み合わせて確認できる可能性があります。
もちろん、 客観的な資料がほとんど残っておらず、 当時の関係者からも確認できない場合には、 事実確認が難しくなることはあります。
それでも、 「上司が退職した=もう無理」「証人がいない=申請できない」と最初から決める必要はありません。
古い勤怠記録が残っていないと言われたら?
時間が経過した案件では、 勤務先から「古い勤怠データは残っていない」と言われることもあります。
地方公共団体の出退勤記録、時間外勤務記録、給与関係資料、 休暇記録、人事記録などの保存期間は、 全国一律に同じとは限りません。
自治体ごとの文書管理規程や保存年限表、 文書の種類などによって異なるためです。
また、現在使っている勤怠システムに表示されないことと、 自治体のどこにも資料が残っていないことは同じとは限りません。
案件によっては、
- 旧システムのデータ
- システム移行前の記録
- 紙で保存された文書
- 給与担当部署の資料
- 人事担当部署の資料
- 所属部署に残る資料
などについて、保存状況を確認する余地があります。
注意: 「古い勤怠は必ず残っている」「バックアップを探せば必ず出てくる」とは言えません。 まず対象となる自治体の保存年限と、実際の保有状況を確認することが重要です。
診療録は5年を過ぎたら必ずなくなる?
医師法では、診療録について5年間の保存義務が定められています。
ただし、これは最低限保存しなければならない期間であり、 5年を過ぎたら必ず廃棄しなければならない、という意味ではありません。
医療機関によっては、それより長く診療録等を保存している場合があります。
古い案件では、診療録だけでなく、
- 初診時の問診票
- 診断書の控え
- 紹介状
- 心理検査
- その他の診療関係資料
などについても、保存されているか確認する価値があります。
なお、保存期間の起算や、問診票・診断書控え・紹介状などの取扱いは、 資料の種類や医療機関の管理方法によって異なります。 古い案件では、「もう残っていないはず」と決めつけず、 まず医療機関に、どの資料がいつの分まで残っているかを確認する ことが大切です。
資料が一部残っていなければ申請できない?
特定の資料が残っていないからといって、 それだけで直ちに認定請求できないとは言えません。
重要なのは、 残っている資料を組み合わせて、当時の状況をどこまで再構成できるか です。
| 状況 | 考え方 |
|---|---|
| 勤怠記録がない | 給与資料、メール、在庁記録、会議資料、関係者の供述などを確認 |
| 診療録の一部がない | 診断書、紹介状、処方関係資料、勤務先へ提出した医療関係資料などを確認 |
| 上司・同僚から確認できない | 人事・勤務・業務・医療関係資料を組み合わせて確認 |
| 本人の記憶が中心 | 当時のメモや家族の記録などと、他の客観資料との整合性を確認 |
最初から何年分もの資料を全部集める必要はありません
ここは、時間が経過した精神疾患の公務災害を検討するときに、 特にお伝えしたいところです。
最初から何年分もの資料を、すべて集める必要があるとは限りません。
発症時期を整理しないまま大量の資料を集めても、 どの期間、どの出来事が重要なのか分かりにくくなってしまうからです。
私は、まず次のような順番で整理することが大切だと考えています。
-
初診・休職・復職・再休職などを時系列にする
まず大きな経過を確認します。 -
発症時期を検討する
眠れなくなった時期、欠勤の増加、家族や同僚が気づいた変化なども確認します。 -
発症前おおむね6か月を中心に出来事を整理する
業務量、長時間勤務、対人関係、ハラスメントなどの出来事を確認します。 -
出来事と資料を照合する
勤怠、メール、業務資料、診療録など、残っている資料を確認します。 -
不足している重要資料を確認する
必要に応じて勤務先や医療機関などに保存状況を確認します。
「何が残っているか分からないから、最初から全部請求する」のではなく、
「何を確認する必要があるのかを整理してから、必要な資料を確認していく」。
その方が、ご本人の負担を抑えながら進めやすくなります。
休職・復職・再休職を繰り返している場合は?
精神疾患では、 一度休職した後に復職し、その後再び症状が悪化して休職するケースもあります。
この場合、
- 最初の発症
- 症状が継続していたのか
- 既存の疾病が悪化したのか
- 症状が安定した後に新たに発症したのか
- 治ゆ後の再発に当たるのか
などを区別して整理する必要があります。
また、令和6年の認定基準の改正では、 精神疾患の悪化についての考え方も見直されています。
そのため、 「以前にも休職しているから公務災害は無理」と単純に判断することはできません。
体調が悪く、資料を集めること自体がつらい場合
精神疾患で療養している方にとって、 勤務先への連絡、医療機関への問い合わせ、 大量の資料を読むこと、 過去のつらい出来事を思い出すこと自体が大きな負担になる場合があります。
そのような場合、 最初からすべてをご本人だけで行う必要はありません。
まずは、
- 今手元に何があるか
- 初診はいつ頃だったか
- 最初の休職はいつ頃だったか
- 一番大きな出来事は何だったか
- どこに資料が残っていそうか
といったところから整理していく方法もあります。
必要に応じて、家族の補助、委任状、郵送、 保有個人情報の開示制度などを利用できる場合もあります。
ただし、社会保険労務士へ依頼したからといって、 勤務先や医療機関などが保有するすべての資料を 社会保険労務士が当然に代理取得できるわけではありません。
委任状の要否や代理できる範囲は、 それぞれの制度や資料ごとに確認する必要があります。
よくある誤解を整理
| よくある考え方 | 実際には |
|---|---|
| 数年前の精神疾患はもう申請できない | 一律には言えません。認定請求と補償請求権の時効を分けて確認します。 |
| 上司が退職していたら申請できない | 一律には言えません。他の資料や関係者から確認できる場合があります。 |
| 勤怠記録がなければ無理 | 一律には言えません。在庁記録、給与資料、メール、供述などを検討します。 |
| 診療録がなければ絶対に認定されない | 一律には言えません。他の医療資料や周辺資料を確認できる場合があります。 |
| 発症前6か月より前は関係ない | 一律には言えません。継続する出来事や反復するいじめ・嫌がらせなどは、それ以前からの経過も問題になる場合があります。 |
| 休職を繰り返していると認定されない | 一律には言えません。継続、悪化、新たな発症、再発などを区別して検討します。 |
| 最初から全部の証拠が必要 | 必ずしもそうではありません。発症時期と重要な出来事を整理し、段階的に確認する方法があります。 |
まとめ|「昔のことだから無理」と決める前に
精神疾患の地方公務員の公務災害では、 発症・初診・最初の休職から時間が経過しているからといって、 それだけで認定請求できないとは限りません。
一方で、時間が経過すると、 資料の廃棄、関係者の退職・異動、記憶の変化、 そして各補償請求権の時効など、 確認しなければならない問題が増えていきます。
だからこそ、 最初から何年分もの資料をすべて集めるのではなく、順番を決めて整理すること が大切です。
① 初診・休職・復職などの大きな時系列を整理する
② 発症時期を検討する
③ 発症前おおむね6か月を中心に出来事を整理する
④ 残っている資料と照合する
⑤ 重要な不足資料の保存状況を確認する
昔の出来事を、最初から完璧に説明できなくても構いません。
まずは、 「いつ頃から体調が変わったのか」「その前に仕事で何があったのか」「今どんな資料が残っているのか」 から整理していくことが、最初の一歩になります。
精神疾患の公務災害についてご相談を検討されている方へ
こもれび社労士事務所では、 精神疾患の公務災害について、 初診・休職・復職などの時系列、 発症前の出来事、 勤務資料・医療資料などを整理しながら、 申請に向けた検討を行っています。
「数年前のことなので資料が残っているか分からない」 「何から確認すればよいか分からない」 「体調が悪く、大量の資料を整理することが難しい」 という段階でもご相談いただけます。
なお、個別の事案について公務災害として認定されるかどうかは、 発症時期、具体的な業務上の出来事、医療記録、勤務資料その他の事情によって異なります。 ご相談の段階で認定結果をお約束するものではありません。
まずは今分かっていること、手元にある資料から、一つずつ整理していきます。
現在の状況や、手元にある資料について分かる範囲でお知らせください。
参考にした主な公的資料
- 地方公務員災害補償基金 「精神疾患等の公務災害の認定について」および実施通知
- 地方公務員災害補償基金 令和6年3月22日「精神疾患等の公務災害の認定について」の一部改正関係資料
- 地方公務員災害補償法および地方公務員災害補償基金の補償関係資料
- 医師法第24条(診療録の保存)
※本記事は、2026年9月時点で確認した公的資料等をもとに、 地方公務員の精神疾患に関する公務災害制度について一般的な情報を整理したものです。 個別事案の認定結果を保証するものではありません。 実際の申請では、発症時期、具体的な業務上の出来事、勤務資料、医療資料、 補償請求権の時効等を個別に確認する必要があります。
ここまで読んで、まだ迷っていても大丈夫です。

まずは、今の状況を整理するところからで大丈夫です
「まだ相談するか決めていない」
「何を書けばいいか分からない」
そんな段階でも大丈夫です。
※ 個人のご相談(労災・後遺障害・障害年金)/全国対応(LINE・オンライン)
※ 「まず整理だけ」でも大丈夫です

