労災認定前=私傷病ではない?会社が「業務外」と判断して休職扱いするときの注意点

「まだ労災認定されていないので、会社としては私傷病として扱います」
精神障害などで労災申請をしている方の中には、会社からこのような説明を受けることがあります。
確かに、労災申請をしただけで、その病気が直ちに「業務上の疾病」と確定するわけではありません。
しかし、ここで注意したいのが、
「まだ労災認定されていない」=「業務外の病気であることが確定している」
という意味ではないことです。
労災認定前は、業務上か業務外かについて、労働基準監督署による判断がまだ出ていない状態です。
つまり、
- 労災申請中だから当然に業務上疾病となるわけではない
- 労災認定前だから当然に私傷病となるわけでもない
ということです。
この記事では、労災申請中の傷病を会社が「私傷病」として扱う場合について、会社内部の人事上の取扱いと労災認定の違い、休職期間満了・自然退職との関係を、社会保険労務士が分かりやすく解説します。
この記事のポイント
- 労災認定前だからといって、私傷病であることが確定したわけではありません。
- 会社が当面の人事管理上、私傷病休職として扱うケースはあります。
- 会社が「私傷病」と判断しても、それだけで労災にならないと決まるわけではありません。
- 労災申請の支給・不支給を最終的に判断するのは会社ではありません。
- 私傷病休職の満了によって自然退職・当然退職となる場合は、後に業務上疾病と評価されたときに問題となることがあります。
労災認定前=私傷病ではありません
まず最も大切な点です。
労働者が精神障害などについて労災請求をした場合、その時点ではまだ、労働基準監督署による業務起因性の判断は出ていません。
そのため、労災認定前は、
- 業務上疾病と確定しているわけではない
- 業務外疾病と確定しているわけでもない
という状態です。
ところが、会社には欠勤、休職、賃金、社会保険、復職手続きなどについて、人事上の処理を行う必要があります。
そのため、会社が就業規則やその時点で把握している事情をもとに、当面の人事管理上、私傷病休職として取り扱うケースがあります。
ただし、これは会社内部における人事上の取扱いです。
会社が「私傷病」として扱ったことだけで、その傷病が労災保険上「業務外」と確定するわけではありません。
動画でも解説しています
「労災認定前=私傷病なのか?」について、会社の人事上の取扱いと労災認定の違いを動画でも分かりやすく解説しています。
労災か私傷病かを最終的に決めるのは会社ではない
会社から、
「当社としては労災とは考えていません」
「仕事が原因とは認めていません」
と言われることがあります。
しかし、労災保険給付との関係で、その傷病が業務によるものかどうかを最終的に判断するのは会社ではありません。
労働者本人から労災申請(労災保険給付の請求)が行われた場合、 労働基準監督署が本人、会社、医療機関などへの必要な調査を行ったうえで、 労働基準監督署長が支給・不支給を決定します。
そのため、
「会社が私傷病と言っている」=「労災申請をしても意味がない」
ということではありません。
会社が労災を認めていない場合や、労災請求書の事業主証明を拒否している場合でも、労働者本人による労災請求を検討することはできます。
会社が私傷病休職として扱うことはある
会社の就業規則には、例えば、
「業務外の傷病により一定期間就労できない場合には休職とする」
といった規定が置かれていることがあります。
労災認定前の段階では、会社側も業務上の傷病であるかどうかについて確定的な判断をしていないことがあります。
そのため、会社が就業規則に基づき、当面の人事管理上、私傷病休職として、
- 休職期間を設定する
- 診断書の提出を求める
- 復職判定を行う
- 休職期間満了日を通知する
といった対応を行うことはあります。
このことだけで、直ちに違法または無効になるとは限りません。
一方で、本人が業務起因性を主張して労災申請を行っており、会社もその事実を把握しているのであれば、少なくとも、その傷病が業務上か業務外かについて争いがある状態と考えることができます。
特に問題になりやすいのは「休職期間満了」の場面です
私傷病休職として管理されていること自体よりも、問題が大きくなりやすいのが、休職期間の満了時です。
例えば、就業規則に、
- 私傷病休職期間は3か月
- 期間満了時に復職できない場合は自然退職
と定められていたとします。
会社が労災認定前の段階で私傷病休職として扱い、休職期間満了時に、
「まだ復職できないため、休職期間満了で自然退職です」
と処理するケースがあります。
しかし、その後に、その傷病が実際には業務上の疾病であったと評価された場合には、休職満了による雇用終了の効力が問題になることがあります。
労災申請中に「私傷病扱い」「休職満了」と言われている方へ
会社からの説明だけで判断するのではなく、就業規則、休職通知、診断書、会社とのやり取り、労災申請の経過を整理して確認することが大切です。
こもれび社労士事務所では、パワハラ、長時間労働、過重な業務などによる精神障害の労災申請について、 出来事や資料の整理、申請に向けた準備をサポートしています。
労災認定前だから自由に退職させてよい、とは限りません
労働基準法第19条第1項では、労働者が業務上負傷し、または疾病にかかり、療養のため休業する期間と、その後30日間について、原則として解雇することを禁止しています。
ここで重要なのは、
「会社が解雇や退職処理をした日に労災認定通知が出ていたか」だけで決まるわけではない
という点です。
例えば、会社が休職期間満了による退職処理をした時点では労災認定が出ていなかったとしても、後にその疾病について業務起因性が認められることがあります。
その場合には、当時の退職・解雇の取扱いと労働基準法第19条との関係が問題になる可能性があります。
したがって、
「まだ労災認定されていないから、会社は自由に退職処理できる」
とは一概にはいえません。
一方で、労災認定されれば退職が必ず無効になるわけでもありません
ここも重要です。
労災認定の有無と、退職・解雇・自然退職の有効性は、関連はするものの同じ問題ではありません。
労災認定は、労災保険給付との関係で業務起因性を判断する行政上の決定です。
一方、退職や解雇の有効性については、
- 就業規則の内容
- 休職制度の内容
- 休職期間の起算日・満了日
- 傷病の業務起因性
- 療養の必要性
- 本人の復職可能性
- 会社が行った復職判定
- 配置転換や業務軽減の可能性
- 会社と本人とのやり取り
などを踏まえて、民事上別途問題になることがあります。
そのため、
「労災認定前だから会社の退職処理は必ず有効」
とも、
「後から労災認定されたから退職処理は必ず無効」
とも、一律にはいえません。
「自然退職」なら労働基準法19条は関係ない?
会社の就業規則では、休職期間満了時の扱いを「解雇」ではなく、「自然退職」「当然退職」などと定めていることがあります。
労働基準法第19条は、条文上「解雇」を制限する規定です。
そのため、自然退職と解雇を完全に同じものとして扱うことはできません。
もっとも、会社が就業規則上「自然退職」と呼んでいるからといって、それだけで常に問題がなくなるわけでもありません。
過去の裁判例では、業務上疾病による療養と休職期間満了による雇用終了との関係で、労働基準法第19条の適用または類推適用が問題となった事案があります。
代表的な裁判例として、アイフル(旧ライフ)事件・大阪高判平成24年12月13日、社会福祉法人県民厚生会ほか事件・静岡地判平成26年7月9日などがあります。
ただし、これらの裁判例の結論を、すべての休職満了・自然退職にそのまま当てはめることはできません。
実際の結論は、疾病の業務起因性、就業規則の内容、休職・復職制度の運用、本人の状態などによって異なります。
会社から「労災ではない」と言われても申請できます
精神障害の労災相談では、会社から、
- これは仕事が原因ではない
- プライベートの問題ではないか
- 会社として労災とは認められない
- 事業主証明はできない
などと言われることがあります。
しかし、会社が業務起因性を否定していることと、労働者本人が労災請求できないことは別の問題です。
労働基準監督署は、会社の説明だけで判断するのではなく、本人、会社、医療機関などへの調査や提出資料を踏まえて判断します。
特に精神障害の労災では、発病前の出来事、業務量、長時間労働、パワーハラスメント、配置転換、人間関係、会社側の対応などを時系列で整理することが重要になります。
会社から私傷病と言われたときに確認したい資料
会社から「私傷病として扱います」と説明された場合には、まず資料を確認しておきましょう。
- 就業規則の休職条項
- 「業務外の傷病」という文言があるか
- 休職開始日
- 休職期間
- 休職期間の延長規定
- 復職に関する規定
- 休職期間満了時の取扱い
- 休職命令書
- 休職期間満了通知書
- 自然退職・当然退職に関する通知書
- 主治医の診断書
- 会社とのメール・チャット
- 人事担当者との面談記録
- 労災申請を会社へ伝えた記録
- 労災請求書について会社とやり取りした記録
特に、会社がいつ労災申請の存在を把握したのかは、後から経過を整理するうえで重要になることがあります。
休職満了の通知を受けた場合はこちらも確認してください
すでに会社から、
「〇月〇日までに復職できなければ自然退職です」
「休職期間が満了するため退職となります」
といった通知を受けている場合には、私傷病扱いの問題だけでなく、休職期間満了時の手続きも確認する必要があります。
労災申請中に解雇される?認定前でも休職満了・自然退職になるのか社労士が解説
こちらの記事では、労災申請中に休職期間が満了する場合、自然退職・解雇との関係、会社から通知を受けたときに確認したい事項を詳しく解説しています。
労災の問題と雇用終了の問題は分けて整理しましょう
労災申請中に休職満了や退職の問題が起きると、すべてが一つの問題のように見えてしまいます。
しかし、実際には、
- その病気が労災として認められるか
- 会社が私傷病休職として管理したことをどう考えるか
- 休職期間の計算が正しいか
- 復職判定がどのように行われたか
- 休職満了による退職が有効か
は、それぞれ分けて整理する必要があります。
特に、解雇や自然退職の有効性、雇用上の地位、賃金請求などについて具体的な法的判断が必要な場合には、弁護士への相談が必要になることがあります。
一方、精神障害の労災申請では、出来事の時系列整理、心理的負荷の整理、証拠資料の確認、申立書の作成などが重要になります。
まとめ|労災認定前だから私傷病と確定するわけではありません
労災認定前の傷病について、最も大切なのは次の点です。
- 労災申請中だから当然に業務上疾病となるわけではない
- 労災認定前だから当然に私傷病となるわけでもない
- 会社が当面の人事管理上、私傷病休職として扱うことはある
- 会社が私傷病と判断しても、労災保険上の業務起因性が確定するわけではない
- 労災保険給付の支給・不支給を判断するのは会社ではない
- 私傷病休職の期間満了によって自然退職・当然退職となる場合には、その後の業務起因性判断との関係が問題になることがある
- 労災認定されれば、すべての退職処理が自動的に無効になるわけでもない
つまり、
「労災申請中=業務上疾病」ではありません。
しかし同時に、
「労災認定前=私傷病確定」でもありません。
会社から「まだ労災認定されていないので私傷病です」「私傷病休職の期間が満了するため退職です」と説明された場合には、その言葉だけで判断せず、就業規則、診断書、休職通知、労災申請の経過、会社とのやり取りなどを確認することが重要です。
精神障害の労災申請でお悩みの方へ
こもれび社労士事務所では、パワハラ、長時間労働、過重な業務、人間関係上のトラブルなどによる精神障害の労災申請をサポートしています。
「会社が私傷病と言っている」「労災申請中に休職期間が満了する」「会社が労災を認めてくれない」など、 何から整理すればよいか分からない場合も、 出来事・診断書・会社とのやり取り・休職通知などを整理するところから ご相談いただけます。
短文・箇条書き・スクリーンショットからでも大丈夫です。
※本記事は一般的な制度と考え方を解説したものです。 労災認定の可否、休職満了、自然退職、解雇等の有効性は、就業規則、雇用契約、病状、会社の対応その他の個別事情によって異なります。 雇用上の地位や解雇・退職の効力など、個別の民事上の法的判断については、弁護士等への相談をご検討ください。
ここまで読んで、まだ迷っていても大丈夫です。

まずは、今の状況を整理するところからで大丈夫です
「まだ相談するか決めていない」
「何を書けばいいか分からない」
そんな段階でも大丈夫です。
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※ 「まず整理だけ」でも大丈夫です

