派遣社員が派遣先でメンタル不調になったら労災はどこに申請する?派遣元・派遣先の役割を社労士が解説

「派遣先でパワハラを受けて、適応障害と診断された」
「派遣先の仕事が原因なのに、労災は派遣会社に申請するの?」
「派遣元に相談したけれど、何も対応してもらえなかった」
派遣社員の方が、派遣先でのパワハラ、長時間労働、業務量の増加などによって、 うつ病や適応障害などの精神疾患を発病した場合、 「派遣元と派遣先のどちらが関係するのか」が分かりにくいことがあります。
結論からいうと、派遣社員のメンタル労災では、 労災保険については雇用関係のある派遣元を基本として考えますが、 実際に何が起きたのかを判断するうえでは、派遣先での勤務実態が非常に重要です。
また、安全衛生上の役割についても派遣元と派遣先の双方にそれぞれ分担があり、 民事上の責任については、それぞれがどのような状況を把握し、どのような対応をしていたのかによって個別に判断されます。
【結論】派遣社員のメンタル労災は「派遣元」と「派遣先」を分けて考える
派遣社員のメンタル労災では、まず次のように整理すると分かりやすくなります。
- 労災保険:原則として、雇用関係のある派遣元の事業として考える
- 職場で起きた出来事:派遣先での業務内容、労働時間、指揮命令、ハラスメントなどが重要になる
- 安全衛生:派遣元・派遣先に、それぞれの立場に応じた役割がある
- 損害賠償:労災認定されたからといって、自動的に派遣元・派遣先双方の賠償責任が確定するわけではない
つまり、 「派遣先で起きたことだから派遣先だけの問題」でも、 「派遣元に雇われているから派遣先は関係ない」でもありません。
労災申請を検討するときには、 「どちらの会社が悪いか」を先に決めるのではなく、 発病までに職場で何が起きていたのかを具体的に整理することが重要です。
動画で30秒で確認|派遣社員のメンタル労災
「労災は派遣元?派遣先?」というポイントを、ショート動画で簡潔にまとめています。
派遣先での出来事が原因かもしれないけれど、 どこから整理すればよいか分からない方は、 LINEでご相談いただけます 。
派遣社員の労災保険では「派遣元」が基本になります
派遣社員は、実際には派遣先の会社で働いていても、 雇用契約を結んでいるのは通常、派遣会社である派遣元です。
そのため、労災保険についても、 基本的には派遣元との雇用関係を前提として労災給付の請求を考えます。
派遣労働者の労災保険は、通常、雇用関係のある派遣元の事業を適用事業として扱います。 ただし、労災保険給付を請求する権利は労働者本人にもあり、 派遣元や派遣先が「労災ではない」と考えていることだけで、 労災請求ができなくなるわけではありません。
ただし、ここで注意したいのは、
「派遣元の労災保険だから、派遣先で起きたことは関係ない」
という意味ではないことです。
精神障害の労災認定では、 実際にどのような業務をしていたのか、 どの程度の労働時間だったのか、 誰からどのような指示や言動を受けていたのかなど、 実際の職場である派遣先での出来事が重要になります。
派遣先でのパワハラや長時間労働でもメンタル労災を検討できます
例えば、派遣先で次のようなことが続いた結果、 うつ病や適応障害などを発病したケースを考えてみます。
- 派遣先の上司から繰り返し強い叱責を受けていた
- 人格を否定するような発言を受けていた
- 無視や仲間外しなど、人間関係から切り離されていた
- 一人では処理できないような業務量を与えられていた
- 逆に仕事をほとんど与えられない状態が続いていた
- 長時間労働や休日出勤が続いていた
- 急な配置転換や役割変更によって負担が大きくなった
- ハラスメントについて相談しても状況が改善されなかった
このような場合、 派遣社員だからという理由だけで労災の対象外になるわけではありません。
精神障害の労災認定では、 発病前の業務による出来事や心理的負荷を具体的に確認して判断します。
パワーハラスメントについても、 現在の精神障害の労災認定基準では具体的な出来事として評価の対象とされています。
派遣元と派遣先には、それぞれどのような役割がある?
派遣労働では、 「雇用している会社」と「実際に指揮命令を行う会社」が異なる という特徴があります。
そのため、安全衛生についても、派遣元と派遣先の間で役割が分かれています。
| 主な場面 | 派遣元 | 派遣先 |
|---|---|---|
| 労災保険 | 雇用関係のある派遣元の事業として扱うのが基本 | 通常、派遣先の労災保険を使用するものではない |
| 健康管理 | 雇用主として健康管理や相談対応などを行う | 実際の勤務状況について派遣元と連携する |
| 現場の就業環境 | 派遣先との連絡・調整、状況把握など | 実際の業務指示、勤務環境、安全衛生管理など |
| ハラスメント等 | 相談を受けた場合の対応や派遣先との調整など | 現場でのハラスメント防止や就業環境への対応など |
| 労災の事実確認 | 雇用関係や勤務状況などの確認 | 業務内容、労働時間、上司の言動など、派遣先での事実確認が重要になる |
厚生労働省も、派遣労働者の安全衛生について、 派遣元・派遣先の責任区分を理解し、相互に連携することを求めています。
派遣元に相談していた場合、その記録も重要です
派遣先で問題が起きている場合、 派遣社員の方が派遣元の担当者へ相談することも多いと思います。
例えば、
- 「派遣先の上司から毎日のように怒鳴られている」
- 「仕事に行くことを考えると眠れない」
- 「精神科を受診した」
- 「業務量が多すぎて限界だ」
- 「派遣先を変更してほしい」
- 「ハラスメントを受けている」
などと派遣元へ伝えていた場合には、 いつ、誰に、どのような内容を相談したのかを整理しておくことをおすすめします。
さらに、 その相談に対して派遣元がどのような回答をしたのか、 派遣先への確認や勤務環境の調整が行われたのかなども、 後から重要になることがあります。
労災認定されたら、派遣元・派遣先の双方に賠償責任が生じる?
ここは、労災保険と分けて考える必要があります。
労災認定されたからといって、 それだけで派遣元と派遣先の双方に民事上の損害賠償責任が確定するわけではありません。
民事上の責任については、 それぞれの会社がどのような状況を把握していたのか、 どのような対応をしていたのか、 必要な措置を取っていたのか、 その対応と損害との間にどのような関係があるのかなど、 個別の事情を踏まえて判断されます。
例えば、
- 派遣先の上司による深刻なハラスメントが長期間続いていた
- 著しい長時間労働などが続いていた
- 本人が精神的な不調を具体的に訴えていた
- 派遣元へ何度も相談していたにもかかわらず、十分な対応がされなかった
- 問題を把握した後も勤務環境が改善されなかった
といった事情があれば、 派遣元・派遣先それぞれについて安全配慮義務等が問題となる可能性があります。
大切なポイント
「労災として認められるか」と「会社に損害賠償責任があるか」は別の問題です。
労災申請を検討するときに、最初から賠償責任まで決める必要はありません。
派遣元から「労災ではない」と言われても、それだけで諦める必要はありません
ご相談の中では、
「派遣会社に相談したところ、労災ではないと言われました」
というケースもあります。
しかし、 労災に該当するかどうかを最終的に判断するのは、派遣会社や派遣先ではありません。
労災保険給付については、 労働基準監督署が必要な調査を行ったうえで、業務上かどうかを判断します。
また、会社から事業主証明を得られない場合でも、 会社が証明してくれないという理由だけで労災請求そのものができなくなるわけではありません。
そのため、 派遣元や派遣先から「労災ではない」と言われた場合でも、 それだけで申請を諦める必要はありません。
派遣社員のメンタル労災で残しておきたい証拠・記録
精神障害の労災申請では、 「つらかった」ということだけではなく、 いつ、どこで、誰から、何をされたのかを具体的に整理していくことが重要です。
手元にある場合には、次のような資料を消さずに保存しておきましょう。
- 派遣先で起きた出来事を時系列にしたメモ
- 派遣先の上司や同僚とのメール、LINE、チャット
- 業務指示が分かるメールや社内メッセージ
- タイムカード、勤務表、シフト表
- PCログ、入退館記録など労働時間が分かる資料
- 上司から言われた言葉、日時、場所、同席者の記録
- 派遣元へ相談したメールやLINE
- 派遣先へ相談した記録
- 面談記録や相談窓口への相談履歴
- 配置変更、契約更新、契約終了などに関する資料
- 診断書、受診歴、処方内容
すべての資料が揃っていなくても、 それだけで労災申請ができないわけではありません。
まずは手元にある資料から、 発病前に何が起きていたのかを時系列で整理することが第一歩になります。
精神障害の労災では「発病前の出来事」を整理します
うつ病、適応障害などの精神障害が労災として認められるかどうかは、 単に「職場がつらかったか」だけで判断されるものではありません。
厚生労働省の精神障害の労災認定基準に基づき、 発病時期を確認したうえで、 発病前の業務上の出来事や心理的負荷などを具体的に評価していきます。
なお、診断名だけで労災認定の可否が決まるものではありません。 対象となる精神障害に該当するか、いつ発病したと考えられるか、 発病前に業務による強い心理的負荷が認められるかなどを踏まえて判断されます。
派遣社員の場合にも、この基本的な考え方は同じです。
派遣先でのパワーハラスメント、 業務量の急増、 長時間労働、 配置や役割の変更、 人間関係上の問題などについて、 発病との時間的な関係も含めて整理することが大切です。
動画でも詳しく解説しています
派遣元・派遣先それぞれの役割、労災申請の考え方、 派遣先でのパワハラや長時間労働、残しておきたい証拠について動画でも解説しています。
退職した後でも労災申請を検討できる?
「もう派遣会社を退職してしまったので、労災申請はできないでしょうか」 と心配される方もいます。
しかし、 退職したことだけを理由に、労災保険給付を受ける権利がなくなるわけではありません。
派遣契約が終了している場合や、 派遣会社そのものを退職した後でも、 在職中の業務が原因で精神障害を発病したと考えられるのであれば、 労災申請を検討できる場合があります。
ただし、労災保険給付には時効がありますので、 長期間そのままにせず、早めに状況を整理することをおすすめします。
派遣先でメンタル不調になったときは「どちらの会社が悪いか」より、まず事実整理から
派遣社員の場合、
「雇用されている会社」と「実際に働いている会社」が違う
ため、通常の労災よりも関係が分かりにくくなりやすいところがあります。
そのため、最初から 「派遣元が悪い」 「派遣先の責任だ」 と決めるよりも、
- いつ頃から症状が出始めたのか
- いつ医療機関を受診したのか
- 発病前に派遣先で何があったのか
- どの程度の期間、その状況が続いたのか
- 派遣元へ相談していたのか
- 派遣先へ相談していたのか
- 相談後にどのような対応がされたのか
- どのような資料や記録が残っているのか
を一つずつ整理していくことが重要です。
派遣先での出来事が原因だったとしても、 派遣社員だから労災を申請できないということではありません。
「自分の場合も労災になるのか分からない」という段階でもご相談いただけます
派遣先でのパワハラ、過重労働、業務量の急増、配置変更などによって、 適応障害やうつ病などを発病した場合、 労災申請では「どの会社に何を確認するか」「出来事をどう整理するか」が重要になります。
こもれび社労士事務所では、 派遣元・派遣先それぞれとの関係を確認しながら、 精神障害の労災申請に必要となる 出来事、勤務状況、相談経過、資料の整理を支援しています。
すでに退職されている場合や、 派遣会社から「労災ではない」と言われている場合でも、 それだけで申請できないと決まるものではありません。
「まだ労災になるか分からない」
「何から整理すればよいか分からない」
という段階でも大丈夫です。 まずは分かる範囲から状況を整理していきましょう。
派遣先でのメンタル不調・労災について
まずは状況をお聞かせください
「労災になるか分からない」 「派遣元に相談したけれど進まない」 という段階でも大丈夫です。
LINEで相談する短文・箇条書き・スクリーンショットでも大丈夫です。
派遣社員のメンタル労災についてよくある質問
Q. 派遣先の上司からパワハラを受けた場合でも労災になりますか?
派遣社員であることを理由に労災の対象外になるわけではありません。 派遣先でのパワーハラスメントなどによる心理的負荷と精神障害の発病との関係を、 労災認定基準に基づいて判断することになります。
Q. 労災は派遣先と派遣元のどちらに申請するのですか?
労災保険については、原則として雇用関係のある派遣元の事業として考えます。 一方、実際の業務内容、労働時間、上司の言動などは派遣先での勤務実態が重要になります。
Q. 派遣会社が労災ではないと言っています。それでも申請できますか?
労災に該当するかを最終的に判断するのは会社ではありません。 労働基準監督署が必要な調査を行って判断しますので、 会社が「労災ではない」と考えているという理由だけで請求できなくなるわけではありません。
Q. 派遣元が事業主証明をしてくれない場合はどうなりますか?
事業主証明が得られない事情がある場合でも、 それだけで労災請求そのものができなくなるわけではありません。 証明が得られない事情を含めて労働基準監督署へ相談することができます。
Q. 派遣会社を退職した後でも労災申請できますか?
退職したことだけを理由に労災保険給付を受ける権利がなくなるわけではありません。 在職中の業務が原因で精神障害を発病したと考えられる場合には、 退職後でも労災申請を検討できます。
参考
- 厚生労働省「派遣労働者の安全衛生対策について」
- 厚生労働省「派遣労働者の労働条件・安全衛生の確保のために」
- 厚生労働省「心理的負荷による精神障害の認定基準について」
- 厚生労働省「精神障害の労災補償について」
※本記事は一般的な制度・考え方を説明するものであり、個別の事案について労災認定や損害賠償責任の成立を保証するものではありません。 実際の判断は、発病時期、業務内容、職場での出来事、勤務状況、医療記録その他の事情によって異なります。
ここまで読んで、まだ迷っていても大丈夫です。

まずは、今の状況を整理するところからで大丈夫です
「まだ相談するか決めていない」
「何を書けばいいか分からない」
そんな段階でも大丈夫です。
※ 個人のご相談(労災・後遺障害・障害年金)/全国対応(LINE・オンライン)
※ 「まず整理だけ」でも大丈夫です


