業務上必要な指導とパワハラの違いは?「指導だった」と会社に言われた場合の判断ポイント

上司から厳しく叱責され、会社に相談したところ「パワハラではなく、業務上必要な指導です」と言われた――。そのようなとき、「自分にもミスがあったから仕方がないのだろうか」「どこからがパワハラなのだろうか」と悩む方もいると思います。この記事では、業務上必要な指導とパワハラの違い、判断するときに確認したいポイント、精神疾患を発症した場合の労災との関係について、社会保険労務士が解説します。
先に結論をいうと、業務上必要な注意や指導が、直ちにパワハラになるわけではありません。
一方で、部下にミスや改善すべき点があったとしても、「指導する必要があったこと」と、「その指導方法・言葉・場所・時間・回数まで相当だったこと」は分けて考える必要があります。
動画で解説|業務指導とパワハラの境界線
業務上必要な指導とパワハラは何が違う?
職場では、上司が部下に対してミスを指摘したり、仕事の進め方を改善するよう指示したりする場面があります。
厚生労働省も、客観的にみて、業務上必要かつ相当な範囲で行われる適正な業務指示や指導は、職場のパワーハラスメントには該当しないとしています。
つまり、「厳しいことを言われた」「注意を受けた」というだけで、直ちにパワハラになるわけではありません。
しかし、ここで重要なのが、
① その業務について指導する必要があったのか
と、
② 実際に行われた指導の方法・言葉・時間・場所・回数が相当だったのか
は、分けて考える必要があるということです。
たとえば仕事上のミスがあり、何らかの指導が必要だったとしても、そのことだけで、大勢の従業員の前で長時間怒鳴ったり、人格を否定するような言葉を繰り返したりすることまで当然に正当化されるわけではありません。
「指導だったか、パワハラだったか」を考えるときは、単に会社や上司がその行為を「指導」と呼んでいるかどうかではなく、実際に何が行われたのかを具体的に確認することが大切です。
職場のパワハラの3つの要素
厚生労働省では、職場のパワーハラスメントについて、職場で行われる次の3つの要素をすべて満たす言動と整理しています。
- 優越的な関係を背景とした言動
- 業務上必要かつ相当な範囲を超えた言動
- 労働者の就業環境が害されるもの
上司から部下への言動が典型ですが、「優越的な関係」は役職だけで決まるものではありません。業務上必要な知識・経験を持つ同僚や、複数人からの言動など、抵抗や拒絶が難しい関係が問題となることもあります。
特に重要なのが「業務上必要かつ相当な範囲」
指導とパワハラの境界を考えるうえで、特に重要なのが2つ目の要素です。
仕事上の注意をする必要性があったとしても、その目的を達成するために、そのような言葉や方法まで必要だったのかを確認します。
実際の判断では、言動の目的だけでなく、その言動が行われた経緯や状況、業務の内容・性質、言動の態様、頻度・継続性、当事者の関係などを総合的に考えることになります。
指導かパワハラかを考える7つの確認ポイント
業務上必要な指導だったのか、それともパワハラが問題となり得る言動だったのかを整理するときは、次のような点を確認してみてください。
以下の表は、パワハラかどうかを機械的に判定するためのものではありません。
実際には、指導の目的や経緯、言動の内容・態様、頻度・継続性、当事者の関係など、個別の事情を総合して判断されます。
| 確認する点 | 適正な指導に近い事情 | パワハラが問題となり得る事情 |
|---|---|---|
| 目的 | ミスの改善、安全確保、業務の適正化 | 見せしめ、感情の発散、排除や退職への圧力 |
| 内容 | 改善すべき業務や行動を具体的に伝える | 人格、人間性、存在そのものを否定する |
| 場所 | 必要に応じた面談や業務上必要な場所 | 必要性なく多数の前で恥をかかせる |
| 態様 | 落ち着いて問題点や改善方法を説明する | 大声、威圧、侮辱、物を叩く、執拗な詰問 |
| 時間 | 指導に必要な範囲で行う | 必要以上に長時間説教・追及する |
| 回数 | 改善のため必要な範囲で行う | 同じような叱責を反復・継続する |
| 就業への影響 | 問題点を理解し、業務改善につながる | 強い萎縮、孤立、心身不調、就業困難などにつながる |
たとえば「人前で注意された」という一つの事実だけで判断するのではなく、なぜその場所で行う必要があったのか、どのような声量・言葉だったのか、どのくらいの時間続いたのか、同じことが繰り返されていたのか、といった事情を具体的に見ていくことが重要です。
自分にもミスがあった場合はパワハラにならない?
パワハラについて相談するとき、
「でも、自分も仕事でミスをしています」
と話される方は少なくありません。
確かに、本人に業務上のミスや改善すべき行動があったかどうかは、指導の必要性や相当性を考えるうえで確認される事情の一つです。
しかし、ミスをしたことと、どのような叱責を受けても仕方がないということは同じではありません。
たとえば、
- どのようなミスだったのか
- 会社にどの程度の影響があったのか
- 本人が同じミスを繰り返していたのか
- どのような改善指導が必要だったのか
といった事情と、
- 大勢の前で怒鳴られた
- 「使えない」「辞めろ」など人格を否定する言葉を言われた
- 何十分・何時間にもわたり追及された
- 机を叩くなど威圧的な行為があった
- 同じような叱責が何度も続いた
といった実際の指導方法は、分けて整理する必要があります。
「自分にもミスがあったから、パワハラではない」と最初から結論を出す必要はありません。
まずは「何について指導されたのか」と「実際にどのような言動を受けたのか」を分けて確認することが大切です。
30秒で見る|これって業務指導?パワハラ?
「自分にもミスがあった」と相談をためらっている方へ
仕事上のミスがあった場合でも、それだけでパワハラや精神障害の労災について相談できなくなるわけではありません。
こもれび社労士事務所では、何について指導されたのか、実際にどのような言葉・態様だったのか、その後どのような体調変化があったのかを分けて整理しながら、精神障害の労災申請について検討しています。
会社から「業務指導だった」と言われたら?
上司の言動について会社や人事へ相談したところ、
「確認しましたが、パワハラではなく通常の業務指導です」
と回答されることもあります。
そのような回答を受けると、「会社がそう判断したのだから、自分が気にしすぎただけなのだろうか」と感じるかもしれません。
しかし、会社が「業務指導だった」と説明している場合も、まず確認したいのは実際にどのような出来事があったのかです。
次の2つを分けて整理してみてください。
指導の対象
どのようなミス・業務上の問題について注意を受けたのか。
実際に行われた言動
いつ、どこで、誰の前で、何を言われ、どのくらいの時間続き、何回繰り返されたのか。
「業務指導」という名称だけでなく、言動の目的・内容・態様・頻度・継続性などを具体的に確認することが必要です。
また、会社へ相談した場合は、相談した日、相談内容、会社からの回答、調査結果、その後の職場環境の変化についても記録を残しておくとよいでしょう。
人前で怒鳴る・人格否定・長時間の叱責はどう見る?
30秒で見る|人前で怒鳴られた…これって労災?
厚生労働省が示すパワーハラスメントの典型例では、精神的な攻撃として、人格を否定するような言動、業務の遂行に関する必要以上に長時間にわたる厳しい叱責を繰り返し行うこと、他の労働者の面前における大声での威圧的な叱責を繰り返し行うことなどが挙げられています。
そのため、単に「注意を受けた」という表現だけでなく、
- 周囲に何人くらい人がいたのか
- どの程度の大声だったのか
- 具体的にどのような言葉を言われたのか
- 人格や人間性を否定する内容があったか
- 何分・何時間続いたのか
- 同じような言動が何回あったか
といった事実をできるだけ具体的に整理することが重要です。
人前で大声で怒鳴られた場合については、別の記事で詳しく解説しています。
パワハラと精神障害の労災認定は別の判断
ここは特に混同しやすいところです。
「職場の言動がパワハラに該当するか」と、「うつ病・適応障害などの精神障害が労災として認定されるか」は、同じ判断ではありません。
精神障害の労災認定では、厚生労働省の「心理的負荷による精神障害の認定基準」に基づき、対象となる精神障害を発病していること、原則として発病前おおむね6か月の間に業務による強い心理的負荷が認められることなどを確認していきます。
さらに、業務以外の心理的負荷や個体側要因により発病したとは認められないことも含め、個別の事情に基づいて判断されます。
そのため、
- 会社が「パワハラではない」と判断した
- 会社が「通常の業務指導だった」と回答した
- 本人にも業務上のミスがあった
という事情だけで、精神障害の労災について直ちに結論が決まるわけではありません。
労災を検討する場合には、問題となった言動だけでなく、その前後にどのような業務上の出来事があったのか、いつ頃から症状が現れたのか、いつ医療機関を受診したのかなども含めて時系列で整理することが大切です。
パワハラ以外の出来事も確認する
精神障害の労災では、一つの叱責だけを切り取って考えるとは限りません。
たとえば同じ時期に、
- 配置転換や仕事内容の大きな変更があった
- 仕事量や責任が急激に増えた
- 退職勧奨を受けた
- 人間関係のトラブルが続いていた
- 長時間労働が重なっていた
といった事情がある場合には、それらも含めて整理していく必要があります。
相談前に整理しておきたい記録
「業務指導だったのか、パワハラだったのか分からない」という段階でも、まずは事実を整理しておくことが役立ちます。
たとえば、次のような情報です。
- いつ、どこで、誰から指導・叱責を受けたか
- 何について注意されたのか
- 実際に言われた言葉
- 声の大きさや威圧的な態様があったか
- 誰がその場にいたか
- 何分・何時間くらい続いたか
- 同じような出来事が何回あったか
- 会社や人事へ相談したか、その回答はどうだったか
- いつ頃から不眠、食欲低下、動悸、抑うつ、出勤困難などが出たか
- 精神科・心療内科の初診日、診断名、休職開始日
- 録音、メール、LINE、社内チャット、日報、メモなどが残っているか
特に、出来事を記録するときは、
「上司からひどいパワハラを受けた」
と評価だけを書くより、
「○月○日の朝礼で、社員約10人がいる前で○○と言われた。約20分間、大声で叱責された」
というように、日時・場所・発言・時間・同席者などの事実を具体的に残すほうが、後から経過を整理しやすくなります。
録音が残っていない場合でも、メール、チャット、日記、家族へ送ったLINE、会社への相談記録、同席者、受診記録など、経過を確認する手掛かりになる資料が残っている可能性があります。
「指導だったから仕方がない」と自分だけで結論を出す必要はありません
上司から厳しい叱責を受けたとき、
- 自分にもミスがあった
- 会社から「業務指導だった」と言われた
- パワハラといえるほどひどかったのか自信がない
- 録音をしていない
- 精神科や心療内科を受診したが、労災になるか分からない
といった理由から、相談をためらう方もいます。
しかし、最初から自分で「パワハラではない」「労災にはならない」と結論を出す必要はありません。
まずは、何について指導されたのかと、実際にどのような言葉・態様で指導されたのかを分け、その前後の出来事や体調変化とあわせて整理することが大切です。
精神障害の労災についてLINEでご相談いただけます
こもれび社労士事務所では、パワハラや厳しい叱責などをきっかけとした精神障害の労災について、出来事を時系列で整理し、確認すべき資料や申請の進め方を一緒に検討しています。
「自分にもミスがあった」「会社から指導だったと言われた」「録音がない」という段階でも、現在分かっている事情から整理していくことができます。
まとめ|指導の必要性と「指導の方法」は分けて考える
業務上必要な注意や指導が、すべてパワハラになるわけではありません。適正な業務指示・指導は、職場のパワーハラスメントには該当しないとされています。
一方で、本人にミスや改善すべき点があったとしても、指導する必要があったことと、その方法・言葉・場所・時間・回数まで相当だったことは別に確認する必要があります。
大声や威圧的な態様、人格否定、人前での叱責、必要以上に長時間の追及、同様の言動の反復・継続などがあった場合には、「業務指導だった」という名称だけで判断せず、実際の出来事を具体的に整理することが重要です。
また、パワハラに該当するかどうかと、うつ病・適応障害などの精神障害が労災として認定されるかどうかは別の判断です。
精神障害の労災を検討している場合は、一つの叱責だけでなく、その前後の業務上の出来事、症状が現れた時期、受診経過、会社の対応、残っている資料などを時系列で整理していくことが大切です。
※パワーハラスメントへの該当性や精神障害の労災認定は、個別の事実関係等に基づいて判断されます。本記事は一般的な制度・考え方を解説するものであり、個別事案についてパワハラへの該当や労災認定を保証するものではありません。
ここまで読んで、まだ迷っていても大丈夫です。

まずは、今の状況を整理するところからで大丈夫です
「まだ相談するか決めていない」
「何を書けばいいか分からない」
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