労災申請で生成AIを使ってもよい?AIの回答と社労士の判断をどう考えるか

労災申請について調べる際、ChatGPTなどの生成AIを利用する方も増えています。
制度について質問したり、自分に起きた出来事を整理したり、申立書の文章案を作ったりするうえで、生成AIは便利な道具です。
一方で、生成AIに労災認定の見込みを尋ねると、 「認定される可能性は80~90%程度です」 といった具体的な数字が示されたり、質問の仕方によって異なる回答が出たりすることもあります。
では、生成AIの回答と社労士など専門家の見解が異なった場合、どのように考えればよいのでしょうか。
こもれび社労士事務所でも、情報整理や文章表現の検討などの補助として生成AIを活用しています。 その経験も踏まえ、労災申請における生成AIとの付き合い方について解説します。
この記事のポイント
生成AIを使うこと自体が問題なのではありません。
大切なのは、AIの回答をそのまま結論にせず、実際の事実関係、客観的資料、医学的資料、労災認定基準に戻って確認することです。
労災申請で生成AIを使ってもよい?
生成AIは、労災申請を考える際の補助ツールとして役立つ場面があります。
- 自分に起きた出来事を時系列に整理する
- 制度について調べるための入口にする
- 申立書に書きたい内容を文章にする
- 専門家へ質問したいことを整理する
- 長い文章を読みやすく整理する
こうした使い方であれば、自分の状況を整理するきっかけになることがあります。
ただし、生成AIを利用することと、労災認定についての判断そのものを生成AIに委ねることは別です。
労災申請では、実際に何が起きたのか、その出来事をどのような資料で確認できるのか、症状や診療経過とどのようにつながっているのかなどを整理していく必要があります。
生成AIが作った申立書や補足資料をそのまま提出してよい?
生成AIに事情を入力すると、非常に整った申立書や説明文が作成されることがあります。
しかし、文章が自然で説得力があることと、労災申請の資料として適切であることは同じではありません。
たとえば、次のような点には注意が必要です。
- 実際には確認できていない事実が補われていないか
- 本人が話していない内容まで断定されていないか
- 出来事の日付や順序にずれがないか
- 診断書や診療経過と矛盾していないか
- 会社資料、メール、録音、勤務記録などと整合しているか
- 一つの出来事だけを必要以上に強調していないか
特に精神障害の労災では、単に「つらい出来事があった」というだけで判断されるものではありません。
対象となる精神障害の発病時期や、業務による出来事、その心理的負荷などを、厚生労働省の認定基準に沿って整理していく必要があります。
そのため、生成AIで作成した文章を利用する場合でも、 実際の資料や事実関係との整合性を確認することが重要です。
生成AIが示す「労災認定の可能性80~90%」をどう考える?
生成AIに、
「このケースは労災になりますか?」
「認定される可能性は何%ですか?」
と尋ねると、 「80~90%程度」 など、具体的な数字が返ってくることがあります。
数字で示されると、客観的な評価のように感じるかもしれません。
しかし、その数字については慎重に考える必要があります。
たとえば、
- どの事例を母集団として算出した数字なのか
- 実際の労災認定事例を統計的に分析した結果なのか
- 入力した情報のどの部分を重視したのか
- 資料に書かれていない事情を推測していないか
- 質問の仕方を変えても同じ評価になるのか
といったことが確認できなければ、その「80~90%」という数字自体を、労災認定の見通しを判断する独立した根拠として扱うことは難しいと考えます。
労災認定は、生成AIが示した確率によって決まるものではありません。
実際には、発病時期、業務上の出来事、勤務状況、診療録や診断書、会社資料、メールや録音などの資料を確認しながら、認定基準に照らして検討していくことになります。
なぜ生成AIによって回答が違うことがあるの?
同じ出来事について質問しても、生成AIによって回答が異なることがあります。
また、同じ生成AIであっても、入力する情報や質問の仕方によって、回答や提案が変わることがあります。
当事務所でも、情報整理や文章表現の検討などの補助として生成AIを利用することがあります。 同じ内容についても、生成AIや質問の仕方によって回答が異なることがあるため、AIの回答だけで申請方針を決めることはしていません。
大切なのは、「どのAIが正しいのか」を決めること自体を目的にしないことです。
AIと社労士の意見が違ったら、何を基準に考える?
生成AIと専門家の見解が異なると、不安になる方もいると思います。
しかし、そこで、
「AIと社労士のどちらが正しいのか」
という二者択一にする必要はありません。
確認すべきなのは、誰が言ったかではなく、 その判断が何を根拠にしているかです。
労災申請であれば、たとえば次のようなものに戻って確認します。
- 厚生労働省の労災認定基準
- 実際に起きた出来事とその時期
- 診断書や診療録などの医学的資料
- 勤務表、時間外労働記録などの勤務資料
- メール、チャット、録音などの客観的資料
- 会社側の資料や説明
- 申請書類全体との整合性
精神障害の労災については、厚生労働省が 「心理的負荷による精神障害の認定基準」 を定めており、2023年9月1日付で改正されています。
生成AIの回答を比較することだけに時間を使うのではなく、こうした基準と実際の資料に戻って検討することが重要です。
AIの回答を比較し続ける前に、確認したいこと
生成AIを使って疑問点を整理したり、別の視点から考えたりすることには意味があります。
一方で、複数の回答を何度も比較することよりも、次に何を確認すべきかを具体的にする方が、労災申請の準備につながる場合があります。
たとえば、
- 出来事が起きた日時や場所
- その場にいた関係者
- メール、チャット、録音などの裏付け資料
- 勤務記録や時間外労働の状況
- 症状が現れた時期
- 初診日やその後の診療経過
など、実際の資料で確認できる事項を整理していくことが重要です。
AIの回答を何度比較しても、 新しい診療録が増えるわけでも、勤務記録が増えるわけでも、実際に起きた事実が変わるわけでもありません。
ある程度まで論点が整理できたら、AIの回答そのものではなく、事実関係、客観的資料、医学的資料、認定基準に戻って検討することが大切です。
生成AIを使う専門家なら、AIの回答をそのまま採用している?
当事務所では、資料整理、論点の洗い出し、文章表現の検討など、生成AIが得意な作業について補助的に活用することがあります。
一方で、次のような部分については、人による確認と判断が必要だと考えています。
- 依頼者から伺った事実が正確に反映されているか
- 提出資料同士に矛盾がないか
- どの事実を申請上重視するか
- どの資料を提出するか
- 医学的資料と申立内容が整合しているか
- 認定基準に照らしてどのように整理するか
生成AIを利用することと、生成AIに判断を委ねることは同じではありません。
当事務所の考え方
生成AIを使わないことが専門性なのではなく、生成AIを活用しながら、どこまでAIに任せ、どこから人が確認・判断すべきかを見極めることが重要だと考えています。
ご依頼者自身が生成AIを利用される場合について
こもれび社労士事務所では、ご依頼者が生成AIを利用すること自体を制限していません。 ご自身の状況を整理したり、疑問点を調べたりするための一つの方法になると考えています。
一方で、当事務所が作成又は内容確認に関与した資料と、ご本人が生成AI等を利用して独自に作成した資料とは、区別して取り扱います。
生成AIが示した回答や確率そのものを比較し続けるのではなく、事実関係、資料および認定基準に照らして、申請に必要な事項を整理することを優先しています。
生成AIは「答え」ではなく、整理のための道具として
生成AIは非常に便利になりました。
これまで一人では整理しにくかった大量の情報をまとめたり、自分の考えを文章にしたりするきっかけを作れることは、大きなメリットです。
一方で、労災申請は、もっともらしい文章を作れば終わる手続ではありません。
ご本人に実際に何が起きたのか、その出来事をどの資料で確認できるのか、症状や診療経過とどのようにつながっているのかを、一つずつ整理していく必要があります。
生成AIの回答と専門家の見解が異なる場合も、大切なのは「どちらを信じるか」ということだけではありません。
実際に何が起きたのか、どの資料で確認できるのか、医学的経過とどのようにつながっているのか、そして認定基準上どのように整理できるのか。
当事務所では、こうした確認を一つずつ行いながら、必要な場面では生成AIも補助的に活用し、労災申請の整理・書類作成を支援しています。
精神障害の労災申請についてお悩みの方へ
「自分の場合は労災の対象になり得るのか分からない」
「会社との出来事が多く、どこから整理すればよいか分からない」
「生成AIで調べてみたものの、回答が違って余計に分からなくなった」
このような場合には、AIが示した認定確率だけで結論を出すのではなく、 実際の出来事や資料を整理したうえで検討することが大切です。
こもれび社労士事務所では、精神障害を中心とした労災申請について、 事実関係や証拠資料を整理しながら、申請書類の作成をサポートしています。
まずは現在の状況を整理するところからでも大丈夫です。 LINEからご相談ください。
ご注意: 本記事は、労災保険制度および生成AIの利用について一般的な考え方を解説するものです。 個別事案の労災認定の可否を保証するものではありません。 実際の判断は、個別の事実関係、医学的資料、証拠資料等によって異なります。
執筆:
こもれび社労士事務所
社会保険労務士 近藤 明久
ここまで読んで、まだ迷っていても大丈夫です。

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