労災の審査請求で調査資料を見る方法|法16条の3と保有個人情報開示請求

労災が不支給になり、審査請求を考えている方から、 「労基署がどのような資料をもとに不支給と判断したのか確認したい」 「調査復命書や医師の意見書を見てから反論したい」 というご相談があります。
こうした場合、まず思い浮かぶのが 「保有個人情報開示請求」かもしれません。
しかし、労災の審査請求中には、それとは別に、 労働保険審査官及び労働保険審査会法16条の3に基づき、 審査官に提出された一定の資料について、閲覧や写しの交付を求めることができる制度があります。
法16条の3は、主に 「審査請求の審理に上がっている資料を見る制度」。
保有個人情報開示請求は、 「行政機関が保有している自分の個人情報を開示してもらう制度」 と考えると分かりやすいでしょう。
この記事では、両者について、 何が見られるのか、どこに出すのか、いつまで使えるのか、実際にどう手続するのか を整理します。
結論|16条の3と開示請求は「見られる資料」が違う
| 比較 | 法16条の3 | 保有個人情報開示請求 |
|---|---|---|
| 制度の目的 | 審査請求の審理に提出された資料を確認する | 行政機関が保有する自分の個人情報を確認する |
| 主な対象 | 法律で定められた手続により審査官へ提出された文書・物件等 | 行政機関が保有する本人の個人情報 |
| 提出先 | 審査請求を担当する労働者災害補償保険審査官 | 厚生労働省・労働局の個人情報開示請求窓口 |
| 使える時期 | 審査請求が係属してから、審査官の決定があるまで | 審査請求とは別の制度。対象情報が保有されていれば請求を検討できる |
| 労基署にあるが審査官へ提出されていない資料 | 16条の3の対象外 | 対象となり得る |
| 審査官が何を見ているか確認したい | 適している | 制度の目的が異なる |
| 審査官の決定後 | その審査請求については利用できない | 開示請求を検討できる |
法16条の3とは?
労働保険審査官及び労働保険審査会法16条の3では、 審査請求人や法律上の通知を受けた利害関係者は、 「決定があるまでの間」、一定の規定により提出された文書その他の物件について、 閲覧を求めることができるとされています。
また、文書の写しや、電磁的記録に記録された事項を記載した書面の交付を求めることもできます。 つまり、不支給処分などに対して審査請求をした後、 審査官の手元にどのような証拠資料が提出されているのかを確認し、反論や追加立証につなげるために利用できる制度です。
16条の3なら「事件記録一式」を全部見られる?
ここは特に注意が必要です。
16条の3は、 労基署が保有している労災事件の記録を丸ごと開示する制度ではありません。
対象となるのは、法16条の3が指定している手続、具体的には法14条の3第1項・第2項または15条1項により、 審査官へ「提出された」文書その他の物件です。
- 法14条の3第1項:審査請求人や、通知を受けた関係者が提出した証拠
- 法14条の3第2項:原処分庁が提出した、処分理由となる事実を証する資料
- 法15条1項:審査官による提出命令などに基づいて提出された資料
たとえば、「調査復命書だから必ず16条の3で見られる」というわけではありません。
その資料が、対象となる規定に基づいて 実際に審査官へ提出されているかが重要です。
どんな資料が対象になり得る?
対象となる規定により審査官へ提出されていれば、たとえば次のような資料が対象になり得ます。
- 調査復命書・調査結果復命書
- 原処分庁の意見書
- 地方労災医員、医師、専門医等の意見書
- 主治医に対する照会文書・回答書
- 事業主、同僚その他の関係者の聴取書・申立書
- 勤務記録・タイムカード
- 業務上のメール、LINE等の記録
- 診療録、診断書、画像資料その他の医学資料
ただし、繰り返しになりますが、 これらの名称の資料が存在すれば、自動的に16条の3の対象になるわけではありません。 実際の提出状況を確認する必要があります。
労基署にある未提出資料は見られる?
労基署が資料を保有していても、その資料が法14条の3第2項などにより審査官へ提出されていなければ、 その資料は16条の3の対象にはなりません。
また、審査官が自ら作成した内部の検討メモや進行管理資料なども、 14条の3または15条1項により「提出された資料」でなければ、当然には16条の3の対象になりません。
審査請求直後でも16条の3を使える?
法16条の3は、審査請求が係属してから審査官の決定があるまでの間に利用する制度です。 そのため、審査請求をした直後でも、閲覧や写しの交付を求めること自体は考えられます。
ただし、16条の3の対象は、審査官へ実際に提出された一定の資料です。 審査請求直後で、労基署から審査官へ資料がまだ提出されていない場合には、 その時点で確認できる資料がない、または少ない可能性があります。
「保有個人情報開示請求」は何を見る制度?
保有個人情報開示請求は、個人情報保護法に基づき、 国の行政機関が保有している自分自身の個人情報について開示を求める制度です。
労災事件であれば、処分を行った労働基準監督署が調査の過程で収集・作成した資料に 本人の個人情報が記録されている場合、開示請求の対象となり得ます。
そのため、 労基署には存在するものの、審査官へ提出されていない資料については、 16条の3ではなく、保有個人情報開示請求を検討することになります。
16条の3
→「審査官の審理に上がっている資料を見たい」
保有個人情報開示請求
→「行政が私の労災について持っている本人情報を確認したい」
開示請求は処分した労基署に出すの?
ここも間違えやすいところです。
労基署が保有する労災関係の個人情報を請求する場合でも、 開示請求の受付窓口は、通常、その労基署を管轄する都道府県労働局の情報公開・個人情報保護担当窓口です。
労働局の案内では、管内の労働基準監督署が保有する文書についても労働局の総務課等が窓口となり、 労働基準監督署では開示請求を受け付けないと案内している例があります。 実際に請求する場合は、対象となる労働局の個人情報開示請求窓口を確認してください。
厚生労働省|保有個人情報の開示請求窓口を確認する16条の3も労働局に出すの?
16条の3による閲覧・写し交付は、 その審査請求を担当している労働者災害補償保険審査官に求めます。
労働者災害補償保険審査官は都道府県労働局に置かれています。 そのため、結果として両方とも「労働局」に関係することがありますが、 制度上の提出先・担当ルートは別です。
├ 情報公開・個人情報保護の担当窓口
→ 保有個人情報開示請求
└ 労働者災害補償保険審査官
→ 法16条の3による閲覧・写し交付
期限も違う|16条の3は「決定まで」
16条の3には重要な時間的制限があります。 条文は、「決定があるまでの間」と明記しています。
したがって、その審査請求について16条の3を利用するのであれば、 審査官が決定する前に動く必要があります。 「決定書が届くまで利用できる」とは限らない点に注意してください。
一方、保有個人情報開示請求には、16条の3のような 「審査官の決定まで」という制限はありません。 行政機関が対象となる保有個人情報を保有していることを前提として、審査請求とは別に手続を行います。
開示請求を待ってから審査請求すればいい?
これは注意が必要です。
労災保険給付に関する審査請求は、原則として 処分があったことを知った日の翌日から3か月以内に行う必要があります。
審査請求期限が迫っている場合には、まず期限内に審査請求を行い、 その後、審査請求手続の中で16条の3による資料確認を行い、 必要に応じて保有個人情報開示請求も並行して進める方法が考えられます。
厚生労働省|労災保険審査請求制度を確認する16条の3は具体的にどうやる?
まず担当の労働者災害補償保険審査官に、法16条の3に基づいて閲覧・写し交付を希望することを伝え、 対象資料や具体的な手続方法を確認するのが実務上分かりやすいでしょう。
写しの交付を求める場合は、対象となる文書・電磁的記録を特定するための事項、希望する交付方法、 郵送による交付を希望する場合はその旨を記載した書面を提出します。
対象を特定するときは、単に 「事件記録を全部ください」とするより、 どの規定により提出された資料を求めるのかを明確にする方法が考えられます。
記載例
特に、原処分庁意見書、調査復命書、医師・専門医等の意見書、主治医への照会・回答、 事業主・同僚その他の関係者の聴取資料、勤務時間資料及び医学資料のうち、 上記各規定により提出されたものを対象とします。
写し等の交付については、【白黒/カラー】による【片面/両面】の交付を希望します。
また、【郵送による交付を希望します/窓口での受領を希望します】。
写し等の確認後、必要に応じて補充書及び追加資料を提出する予定ですので、 そのための相当な期間を確保していただくようお願いします。
※上記は公式様式そのものではなく、制度を利用する際の記載例です。 事件番号、氏名、住所、連絡先、対象資料、希望する交付方法などを具体的に記載し、 実際の申出方法は担当審査官に確認してください。
写しの交付には「様式第5号の2」がある
法16条の3に基づいて文書の写し等の交付を求める場合は、 対象となる資料、希望する交付方法、郵送を希望するかどうかなどを記載した書面を提出します。
また、写し等の交付に必要な手数料を納付する書面として、 労働保険審査官及び労働保険審査会法施行規則には 「様式第5号の2」が定められています。
厚生労働省の2016年の通知では、この様式を「交付の実施を申し立てる書面」と説明しています。
厚生労働省|施行規則・様式第5号の2を確認する16条の3の閲覧・写し交付には費用がかかる?
法16条の3では、閲覧そのものについての手数料は定められていません。 一方、文書の写し等の交付を受ける場合には、所定の手数料がかかります。
- 白黒:用紙1枚につき10円
- カラー:用紙1枚につき20円
- 両面の場合:片面を1枚として計算
- オンラインによる交付:片面・白黒で出力した場合の用紙1枚につき10円として計算
- 郵送の場合:別途、送付に必要な費用
経済的困難その他特別の理由がある場合には、 交付請求1件につき2,000円を限度として、手数料の減額・免除を求められる制度もあります。
追加資料が出たら再度請求できる?
一度閲覧・写し交付を受けた後に、専門医意見書、事業主からの回答、原処分庁の追加意見などが 新たに審査官へ提出されることがあります。
法16条の3には利用回数を1回に限る規定はありません。 決定があるまでの間に対象資料が追加提出された場合は、 その追加資料について改めて閲覧・写し交付を求めることが考えられます。
保有個人情報開示請求は具体的にどうやる?
こちらは厚生労働省が 「保有個人情報開示請求書」を公開しています。
一般的には、次の流れで手続します。
- 対象となる保有個人情報を特定する
- 保有個人情報開示請求書を作成する
- 本人確認書類等を準備する
- 手数料を納付する
- 対象となる厚生労働省・労働局等の窓口へ提出、郵送またはオンライン申請する
- 開示・一部開示・不開示等の決定を待つ
開示請求の「1件300円」は、紙1枚300円ではない
厚生労働省の案内では、保有個人情報の開示請求手数料は、 書面による請求の場合は1件300円、 オンラインによる場合は1件200円とされています。
ここでいう「1件」は、資料1ページにつき300円という意味ではありません。 原則として、保有個人情報が記録されている行政文書の単位で判断され、 労働局の案内には「ひとつの行政文書ファイルにつき1件」と説明している例もあります。
そのため、調査復命書と添付資料が一つの行政文書ファイルとして管理されているのか、 複数の文書として管理されているのかによって、必要な手数料が異なる可能性があります。
なお、開示の実施方法や郵送等によって、別途費用が生じる場合があります。
開示請求はどのくらい時間がかかる?
保有個人情報開示請求については、原則として 開示請求があった日から30日以内に開示・不開示等の決定が行われます。 ただし、事務処理上の困難その他正当な理由がある場合や、開示請求に係る保有個人情報が著しく大量である場合などには、 延長・特例の対象になることがあります。
この点でも、審査請求中にすぐ反論材料を確認したい場合には、 16条の3と保有個人情報開示請求を 同じものとして考えないことが重要です。
16条の3なら全部黒塗りなしで見られる?
いいえ。
16条の3では、審査官は、 第三者の利益を害するおそれがある場合や、その他正当な理由がある場合には、 閲覧や交付を拒むことができるとされています。
そのため、第三者の住所・連絡先や、他の労働者の個人情報などについて、 閲覧・交付が制限される可能性があります。
また、16条の3と保有個人情報開示請求では、根拠となる法律も、開示・不開示の仕組みも異なります。 したがって、 「16条の3なら開示請求より必ず黒塗りが少ない」 と単純に考えることはできません。
結局、どちらを使えばいい?
① 審査官が何を見ているのか確認したい
まず法16条の3を検討する意味があります。
特に、原処分庁の意見や調査資料、医師意見等を確認したうえで補充書を提出したい場合には、 審査請求手続の中で資料を確認することが重要になることがあります。
② 労基署が持っている資料をもっと広く確認したい
保有個人情報開示請求を検討します。
たとえば、 「労基署が持っているはずなのに、審査官への提出資料には見当たらない」 という資料がある場合には、開示請求によって確認できる可能性があります。
③ 両方使う意味もある
この2つは、どちらか一方しか使えない制度ではありません。
↓
16条の3で審査官に提出されている資料を確認
↓
何が審理に上がっているのか確認する
↓
必要に応じて保有個人情報開示請求
↓
労基署等が保有する本人情報をさらに確認
↓
資料を比較し、必要な反論・追加立証を検討
こうした使い分けも考えられます。
「労基署は持っていたのに、審査官には出ていない資料」が分かることも
両制度の対象が違うということは、それぞれで取得・確認できた資料を比較することで、 労基署では保有していたものの、審査官への提出資料には含まれていない資料 に気づく可能性もあるということです。
もちろん、 「提出されていない=不適切」 ということではありません。
しかし、審査請求人にとって重要と思われる資料が審理にどのように反映されているのかを確認し、 必要であれば自ら追加資料として提出したり、補充書で指摘したりするための手がかりになります。
取得した資料から補充書を出せる?
16条の3で確認した資料を踏まえて、補充書、反論書、追加の医学資料その他の証拠を提出することが考えられます。
ただし、すべての事件に共通する一律の「補充書提出期限」が定められているわけではありません。 審査官から資料提出の期限を示されている場合や、決定が近い場合もあるため、 写し等を請求する際に、資料確認後に補充書を提出する予定があることを伝え、提出時期を相談するのが安全です。
16条の3を使えば決定を待ってくれる?
ここも注意が必要です。
16条の3による閲覧・写し交付を求めたからといって、 審査官の決定が当然に停止するという規定はありません。
資料を確認したうえで補充書や追加証拠を提出する予定がある場合には、 その旨を担当審査官に伝え、提出のための期間について相談することが考えられます。
再審査請求でも似た制度がある
法16条の3の仕組みは、法50条により、一定の読み替えのうえで 労働保険審査会で行われる再審査請求にも準用されています。
したがって、審査請求だけでなく、再審査請求の段階でも、 審査会に提出された一定の資料について閲覧・写し交付を検討できる場合があります。
ただし、審査請求段階の資料が、そのまますべて再審査請求での閲覧対象になるとは限りません。 それぞれの手続で、どの資料が所定の規定により提出されているかを確認する必要があります。
まとめ|「開示請求しかない」と思わないことが大切
労災の審査請求で資料を確認する方法は、保有個人情報開示請求だけではありません。
法16条の3では、審査請求の決定があるまでの間、 法律で定められた手続により審査官へ提出された一定の資料について、 閲覧や、文書の写し等の交付を求めることができます。
一方、 保有個人情報開示請求は、行政機関が保有している本人の個人情報を対象とする別制度です。
つまり、
16条の3=「審理に上がった資料を見る」
保有個人情報開示請求=「行政が持つ自分の情報を見る」
という違いがあります。
審査請求では、 「何が不支給の根拠になっているのか」 「審査官にはどの資料が提出されているのか」 を確認したうえで反論することが重要になる場合があります。
そのため、資料を確認する目的と現在の手続段階を踏まえ、 16条の3と保有個人情報開示請求を適切に使い分けることが大切です。
動画でも解説|労災の審査請求で調査資料を見る方法
法16条の3と保有個人情報開示請求の違い、 それぞれで確認できる資料や使い分けについて、動画でも解説しています。
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主な一次資料
- 厚生労働省|労働保険審査官及び労働保険審査会法
- 厚生労働省|労働保険審査官及び労働保険審査会法施行令
- 厚生労働省|労働保険審査官及び労働保険審査会法施行規則
- 厚生労働省|平成28年2月25日 基発0225第9号
- 厚生労働省|労災保険審査請求制度
- 厚生労働省|個人情報保護
- 厚生労働省|保有個人情報開示請求書等の様式
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