精神障害の労災申請が31%急増|認定率28.2%でも「審査が厳しくなった」とは言えない理由

精神障害の労災請求が、急速に増えています。
厚生労働省が公表した令和7年度(2025年度)の「過労死等の労災補償状況」によると、 精神障害の労災請求件数は4,958件でした。
令和6年度の3,780件から1,178件増、約31.2%の増加です。
一方、令和7年度の支給決定件数は1,082件。 令和6年度の1,056件から26件の増加にとどまりました。
さらに、その年度に決定された事案のうち支給決定となった割合を見ると、 令和4年度の35.8%から、令和5年度34.2%、令和6年度30.2%、 令和7年度は28.2%へ低下しています。
結論からいうと、支給決定割合が低下していることは事実ですが、 この統計だけから「同じ内容の申請でも以前より認定されにくくなった」とまでは判断できません。
この記事では、令和2年度から令和7年度までの厚生労働省の統計を比較しながら、 「認定率28.2%」が何を意味するのか、 そして精神障害の労災申請を検討している方がこの数字をどう見ればよいのかを整理します。
動画でも解説しています
精神障害の労災請求が急増する一方、支給決定はどう変化しているのか。 「以前より審査が厳しくなったのか?」を動画で解説しています。
精神障害の労災は6年間でどう変わった?
まず、令和2年度から令和7年度までの請求件数、決定件数、 支給決定件数を比較してみます。
| 年度 | 請求件数 | 決定件数 | 支給決定件数 | 支給決定÷決定 |
|---|---|---|---|---|
| 令和2年度 | 2,051件 | 1,906件 | 608件 | 31.9% |
| 令和3年度 | 2,346件 | 1,953件 | 629件 | 32.2% |
| 令和4年度 | 2,683件 | 1,986件 | 710件 | 35.8% |
| 令和5年度 | 3,575件 | 2,583件 | 883件 | 34.2% |
| 令和6年度 | 3,780件 | 3,496件 | 1,056件 | 30.2% |
| 令和7年度 | 4,958件 | 3,839件 | 1,082件 | 28.2% |
※厚生労働省は、この割合を「認定率」と表記し、
「決定件数に占める支給決定件数の割合」と定義しています。
※同じ年度に請求された人を追跡した割合ではありません。
※出典:厚生労働省「過労死等の労災補償状況」各年度資料。
請求件数の増え方が非常に大きい
6年間の変化でまず目につくのは、請求件数の急増です。
- 令和2年度:2,051件
- 令和4年度:2,683件
- 令和5年度:3,575件
- 令和6年度:3,780件
- 令和7年度:4,958件
令和2年度の2,051件から令和7年度の4,958件まで、 請求件数は約6年間で約2.4倍になりました。
特に令和6年度から令和7年度にかけては、 3,780件から4,958件へ1,178件、31.2%増となっています。

支給決定件数も減っているわけではない
一方で、「認定率が下がった」という数字だけを見ると、 精神障害の労災がほとんど認められなくなっているように感じるかもしれません。
しかし、支給決定件数そのものは減っていません。
令和2年度は608件でしたが、令和7年度は1,082件です。 6年間で474件増え、約78%増加しています。
支給決定件数は増えています。
ただし、請求件数の増加がそれを上回るため、当年度に決定された事案に占める支給決定の割合は低下している
というのが、近年の統計から見える大きな特徴です。
「認定率28.2%」とは何を意味する?
令和7年度の精神障害の労災について、 「認定率28.2%」という数字を見ることがあります。
この28.2%は、次の計算です。
厚生労働省の令和7年度資料は、この割合を「認定率」と表記し、 「決定件数に占める支給決定件数の割合」と定義しています。

令和4年度の35.8%を頂点に、 令和5年度34.2%、令和6年度30.2%、 令和7年度28.2%と低下しています。
この「当年度の決定事案に占める支給決定割合が低下している」こと自体は事実です。
28.2%は「令和7年度に申請した人の認定率」ではない
ここは非常に重要です。
令和7年度には4,958件の請求があり、1,082件が支給決定されています。
単純に割ると、
となります。
しかし、この21.8%を「令和7年度の認定率」とすることはできません。
なぜなら、令和7年度に請求された4,958件と、 令和7年度に支給決定された1,082件は、 同じ案件の集団ではないからです。
厚生労働省は、請求件数について 「当該年度中の請求件数であるが、必ずしも同年度中に決定されているものではない」としています。
また、決定件数には、 前年度以前に請求された案件について、その年度に決定されたものも含まれます。
「令和7年度に請求した4,958人のうち、1,082人が認定された」
という統計ではありません。
令和7年度に請求された案件の中には、令和8年度以降に決定されるものがあります。
一方、令和7年度の決定件数には、令和6年度以前に請求された案件も含まれています。
では、精神障害の労災は以前より認定されにくくなった?
ここまでを見ると、 「35.8%から28.2%まで下がっているのだから、審査が厳しくなったのでは?」 と感じる方もいると思います。
しかし、公表されている年度別統計だけから、 審査そのものが厳格化したと判断することはできません。
理由はいくつかあります。
- 各年度の請求件数と決定件数は同一の案件群ではない
- 年度によって請求される案件の内容が異なる
- 疾病、出来事、証拠状況、業種など案件の構成が異なる
- 請求する人の範囲自体が変化している可能性がある
- 精神障害の労災認定基準も改正されている
つまり、
「当年度決定事案に占める支給決定割合が低下している」
ことは統計から確認できます。
一方で、
「同じ内容の申請でも、以前より不支給になりやすくなった」
とまでは、この統計だけでは判断できません。
令和7年度は「請求+31.2%、支給決定+2.5%」
もう一つ注目したいのが、令和6年度から令和7年度への変化です。
| 項目 | 令和6年度 | 令和7年度 | 増減 |
|---|---|---|---|
| 請求件数 | 3,780件 | 4,958件 | +31.2% |
| 決定件数 | 3,496件 | 3,839件 | +9.8% |
| 支給決定件数 | 1,056件 | 1,082件 | +2.5% |
令和7年度は、請求件数の伸びが決定件数・支給決定件数の伸びを大きく上回っています。
ただし、これについても 「請求が31%増えたのに認定は2.5%しか増えなかったから、審査が厳しくなった」 と単純に比較することはできません。
請求から決定までには時間がかかり、 請求された年度と決定される年度がずれるためです。
「請求31.2%増=審査が厳しくなった」と単純には言えない理由を、 ショート動画でも解説しています。
▶ ショート動画を見るなぜ精神障害の労災請求は増えている?
では、なぜ精神障害の労災請求はここまで増えているのでしょうか。
公的研究では、近年の増加の背景として、 認定基準等の制度変更、過労死等防止に関する啓発、 社会環境の変化、仕事上のストレスや心理的負荷など、 複数の要因が考えられるとされています。
また、精神障害の労災認定基準については、 令和2年にパワーハラスメントに関する出来事が明示され、 令和5年9月の改正では、 顧客や取引先、施設利用者等からの著しい迷惑行為、 いわゆるカスタマーハラスメントに関する出来事なども明示されました。
ただし、 「認定基準が改正されたから請求が何件増えた」など、 個々の要因が請求急増にどの程度影響したのかまでは、公表資料から確認できません。
制度の認知が広がった可能性、職場における心理的負荷の変化、 精神障害そのものをめぐる社会的な認識の変化などを含め、 複数の要因を考える必要があります。
令和7年度の支給決定事案で多かった「出来事」
令和7年度の厚生労働省資料では、 支給決定された事案の具体的な「出来事」も公表されています。
支給決定件数が多かったものは、次のとおりです。
- 上司等から、身体的攻撃、精神的攻撃等のパワーハラスメントを受けた:222件
- 顧客や取引先、施設利用者等から著しい迷惑行為を受けた:127件
- セクシュアルハラスメントを受けた:127件
- 仕事内容・仕事量の大きな変化を生じさせる出来事があった:113件
ただし、この数字についても、 「パワハラがあれば労災になる」という意味ではありません。
実際の認定では、具体的な言動、程度、頻度、継続性、 出来事後の状況などを踏まえ、 精神障害の労災認定基準に沿って心理的負荷が評価されます。
請求が増えると審査も長くなる?
請求件数が急増すると、 「労働基準監督署の処理が追いつかず、審査がさらに長くなるのでは?」 という疑問も出てきます。
精神障害の労災では、 本人、会社、関係者、医療機関などへの調査が必要になることがあり、 事案によって調査期間は異なります。
行政の労災補償業務に関する資料でも、 6か月を超える長期未決事案への対応や、 初動調査・進行管理の重要性が繰り返し示されています。
ただし、 単純に「請求件数-決定件数」を未決件数とすることはできません。
年度をまたいで決定される案件や取下げなどもあるため、 公表されている年間の請求・決定件数だけから、 年度末の未決件数を正確に計算することはできないからです。
申請する人が本当に見るべきなのは「28.2%」だけではない
精神障害の労災を検討している方にとって、 28.2%という数字は気になると思います。
しかし、この数字を 「自分が認定される確率は28.2%」 と考えるのは適切ではありません。
個別の労災認定では、たとえば次のような点が重要になります。
- 精神障害をいつ発病したと判断されるか
- 発病前おおむね6か月間にどのような出来事があったか
- 出来事の内容・程度・反復性・継続性
- 長時間労働や仕事量の増加があったか
- 会社へ相談したか、会社がどのように対応したか
- メール、チャット、録音、勤怠記録、診療録、関係者の供述など、どのような資料があるか
全国の統計は制度全体の傾向を見るうえでは重要ですが、 個別案件の認定可能性をそのまま示す数字ではありません。
「28.2%だから難しい」と考えるよりも、 自分のケースについて発病時期、出来事、資料を時系列で整理していくことが重要です。
まとめ|「28.2%」だけで労災が厳しくなったとは言えない
令和7年度の精神障害の労災請求は4,958件となり、 前年度から31.2%増加しました。
一方、その年度に決定された事案に占める支給決定割合は28.2%となり、 令和4年度の35.8%から低下しています。
ただし、ここから 「最近は精神障害の労災審査が厳しくなった」 「申請しても28.2%しか認定されない」 と結論づけることはできません。
請求件数と決定件数は同じ年度に請求された同一案件群ではなく、 年度によって案件の内容も異なるからです。
- 精神障害の労災請求は大幅に増えている
- 支給決定件数そのものも増えている
- 当年度の決定件数に占める支給決定割合は令和4年度以降低下している
- しかし、それだけで審査が厳格化したとは判断できない
- 28.2%は個人の「認定確率」ではない
統計を見るときは、 「請求件数」「決定件数」「支給決定件数」が何を表しているのかを分けて考えること が大切です。
精神障害の労災申請について整理したい方へ
「自分のケースは労災の対象になるのか」
「出来事や証拠をどう整理すればよいか」など、
現在の状況を確認しながら整理します。
※労災認定を保証するものではありません。
※個別の事情・資料を確認したうえで対応内容をご案内します。
よくある質問
精神障害の労災認定率は28.2%ですか?
令和7年度については、その年度に決定された3,839件のうち1,082件が支給決定となっており、 決定件数に占める支給決定件数の割合は28.2%です。 ただし、令和7年度に請求した人を追跡した認定率ではありません。
4,958件の請求に対して1,082件なら21.8%ではないですか?
計算上は21.8%になりますが、認定率として扱うことはできません。 令和7年度の請求件数と支給決定件数は同じ案件群ではなく、 支給決定には前年度以前に請求された案件も含まれるためです。
精神障害の労災は以前より認定されにくくなっていますか?
当年度の決定件数に占める支給決定割合は令和4年度以降低下しています。 ただし、年度ごとの案件構成や請求・決定時期が異なるため、 公表されている年度別統計だけから「同じ内容の申請が以前より認定されにくくなった」と判断することはできません。
請求件数が増えると自分の労災が認定されにくくなりますか?
請求件数が増えたこと自体によって認定枠が狭くなる仕組みではありません。 個別案件は精神障害の労災認定基準に沿って、発病時期や業務による心理的負荷などをもとに判断されます。
主な参考資料
ご注意: 本記事は2026年10月時点で確認した厚生労働省等の公表資料をもとに、 精神障害の労災補償状況について一般的な情報を整理したものです。 個別案件の労災認定の可否を判断・保証するものではありません。 統計値は公表後に訂正される場合があるため、最新情報は厚生労働省の公表資料をご確認ください。
ここまで読んで、まだ迷っていても大丈夫です。

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