精神障害の労災、申請した後どうなる?|労基署は何を調べるのか

精神障害の労災を申請した後に労基署が何を調べるのかを解説するアイキャッチ

精神障害の労災を労働基準監督署へ申請したあと、 「このあと何を調べられるのだろう?」 と不安になる方は少なくありません。

本人への聞き取りがあるのか。
会社には何を確認するのか。
上司や同僚にも話を聞くのか。
主治医には何を照会するのか。
そして、最終的に誰が労災かどうかを決めるのか。

結論からいうと

精神障害の労災では、本人と会社の説明だけを比べて決めるわけではありません。
本人の申立て、会社や関係者への調査、勤怠・PCログ・メールなどの資料、医療機関への照会等を組み合わせ、発病時期や業務による心理的負荷を調査していきます。

🎥 動画でも解説しています

精神障害の労災を申請した後、労基署では何を調べるのか。本人への確認、会社への調査、主治医への照会、支給・不支給決定までの流れを動画で解説しています。

ただし、すべての申請で「本人と必ず対面面談する」「同僚を必ず○人調べる」「必ず会社へ訪問する」といった一律の調査が行われるわけではありません。

この記事では、厚生労働省の精神障害の労災認定基準、認定実務に関する資料、公開されている労働保険審査会の裁決例などをもとに、 精神障害の労災を申請したあと、労働基準監督署では何が行われるのか を順番に整理します。

精神障害の労災を申請した後の大まかな流れ

精神障害の労災請求では、申請書を提出してすぐに「認定」「不認定」が判断されるわけではありません。

公表されている実務資料から整理すると、大まかには次のように調査が進みます。

  1. 労災請求書を受け付ける
  2. 署内で問題点を整理し、調査計画を立てる
  3. 本人の主張を確認する
  4. 会社から勤務状況や出来事などを確認する
  5. 必要に応じて上司・同僚・関係者を調べる
  6. 勤怠、PCログ、メールなどの資料を確認する
  7. 主治医等から医学的な情報・意見を得る
  8. 発病時期と業務による心理的負荷を評価する
  9. 必要に応じて専門医・専門部会等の意見を得る
  10. 労基署長が支給・不支給を決定する

重要なのは、最初から調査内容がすべて固定されているわけではないことです。

調査で新しい事実や資料が出てくれば、追加調査が行われることがあります。

申請すると、まず労基署内で「何を調べるか」が検討される

精神障害の労災では、請求を受け付けたあと、いきなり本人や会社への聴取を始めるだけではありません。

公表されている実務資料では、 原則として受付後1週間以内を目途に事案検討会を行い、主要な問題点、確認すべき事実、調査対象、調査方法などを検討して調査計画を作成する という流れが示されています。

その後も、原則として月1回程度の事案検討会で進捗や収集した資料などを確認し、必要に応じて調査計画を見直す仕組みになっています。

申請後に追加資料を求められることがあります

最初に提出した資料だけで最後まで判断するとは限りません。
調査の途中で新しい確認事項が生じれば、本人や会社などに追加資料の提出や追加説明を求めることがあります。

本人への聞き取りは必ずある?

ここは、申請する方が特に気になるところだと思います。

本人が存命の場合、 本人が何を労災の原因として主張しているのかを確認すること自体は必要 とされています。

ただし、その方法は必ずしも対面聴取とは限りません。

公表されている実務資料では、 申立書または聴取によって本人の主張を確認する という形になっています。

治療中で精神的不安が強い場合や、聴取によって病状の悪化が予想される場合などには、主治医に聴取制限の有無を確認したうえで、文書による照会等に切り替える場合もあります。

本人には何を聞かれる?

確認される事項としては、たとえば次のようなものがあります。

  • いつ頃から症状が現れたのか
  • いつ医療機関を受診したのか
  • 何が発病の原因だと考えているのか
  • 出来事はいつ、どこで、誰との間で起きたのか
  • どのような言動・業務上の出来事があったのか
  • その出来事はどの程度続いたのか
  • 出来事のあと、会社はどのように対応したのか
  • 労働時間や仕事量はどうだったのか
  • 仕事以外に大きな出来事がなかったか
  • 過去の受診歴など

また、日記、手帳、メール、メモ、勤務記録などがあるか確認され、存在する場合には提出を求められることがあります。

会社には何を調べる?

精神障害の労災では、会社側からも事実関係を確認していきます。

公表されている実務資料では、会社から収集し得る資料として、たとえば次のようなものが挙げられています。

  • 会社概要・組織図
  • 就業規則・労使協定
  • 人事記録
  • 出勤簿・タイムカード
  • ICカードの記録
  • PCログ
  • 日報
  • 賃金台帳
  • 健康診断・産業医関係の記録
  • ハラスメント等についての社内調査記録

さらに会社側には、本人の仕事内容や仕事量、症状の変化への気付き、本人が主張する出来事、職場の支援状況、本人からの相談、会社が行った対応などが確認されることがあります。

会社へ必ず訪問するとは限りません

会社への調査が書面だけなのか、担当者への聴取を行うのか、実際に事業場へ赴くのかは事案によって異なります。
すべての精神障害の労災事案で、労基署が必ず会社を訪問するという一律のルールは、公表資料では確認できません。

🎥 1分で解説|労災申請したら会社には何を聞く?

精神障害の労災申請後、労基署が会社側にどのようなことを確認するのかをショート動画で解説しています。

上司や同僚にも話を聞く?

必要に応じて、上司、同僚、部下、相談窓口担当者、ハラスメント行為者、目撃者、取引先などから話を聞くことがあります。

ただし、 「同僚を必ず○人聴取する」という固定的な人数基準は、公表資料では確認できません。

本人が主張している出来事について具体的な情報を持っている人を選び、必要な範囲で確認していくことになります。

また、本人側または会社側に偏った関係者だけを選ぶのではなく、利害関係が異なる人がいる場合には、聴取対象が偏らないようにすることも示されています。

メール・録音・PCログなども確認される

精神障害の労災では、本人と会社の説明だけでは事実関係を判断できないことがあります。

そこで重要になるのが、出来事が起きた当時の客観的な資料です。

長時間労働

  • タイムカード
  • ICカード
  • PC使用記録
  • 入退場記録
  • 日報
  • メールの送受信時刻
  • シフト表
  • 賃金台帳

ハラスメント・対人関係

  • メール
  • チャット
  • 録音
  • 日記・手帳
  • 相談記録
  • 社内調査記録
  • 懲戒・処分関係資料

などが確認材料になり得ます。

ただし、録音がなければ労災申請ができない、ということではありません。

客観資料が乏しい事案では、本人の説明の具体性や一貫性、当時第三者へ相談していたか、他の資料や関係者の説明と整合しているかなども検討されます。

本人と会社の言い分が違ったらどうなる?

会社が否定していても、それだけで申請が終わるわけではありません

労基署は、本人と会社の説明だけで結論を出すのではなく、勤怠記録、メール、相談記録、関係者の説明、診療録などを照合しながら、どの説明が具体的で一貫しているかを確認します。

精神障害の労災では、 本人と会社の説明が食い違うことは珍しくありません。

たとえば本人が、

「上司から繰り返し強い叱責を受けた」

と主張している一方で、会社側が、

「通常の業務指導だった」

と説明することもあります。

このような場合、単純に「会社が否定したから事実ではない」と判断するわけでも、 「本人が主張したからそのまま事実になる」というわけでもありません。

公表されている実務資料では、たとえば、

  • 関係者の説明が一致しているか
  • メール、勤怠、録音、日報、相談記録等と整合しているか
  • 説明が具体的・詳細で一貫しているか
  • 実体験に基づく説明なのか、伝聞なのか
  • 双方の説明のどちらに合理性・信用性があるか

などを検討することが示されています。

必要であれば、第三者や利害関係の異なる関係者を追加で聴取することもあります。

「証拠がない=直ちに認められない」ではありません

特にハラスメントなどでは、録音や第三者の目撃証言が残っていないこともあります。
その場合でも、当時の日記・メモ、第三者への相談、説明の具体性・一貫性、相手方の説明との整合性などを含めて確認されます。

主治医には何を聞く?

精神障害の労災では、医学的な判断も重要です。

治療歴のない自殺事案を除き、 主治医には、疾患名、発病時期、主治医が考える発病原因、その判断根拠などについて意見を求める とされています。

さらに、初診日、初診時の症状や主訴、診断根拠、治療経過、服薬状況、症状の悪化・回復、既往歴などについて確認されることがあります。

必要に応じて、問診票や診療録などの提出について協力を求めることもあります。

主治医の診断だけで労災が決まるわけではありません

主治医の診断や発病時期についての意見は重要ですが、それだけで労災認定が決まるわけではありません。
労基署が調査によって認定した事実と、医師が診断の前提とした事実が一致しているかなども確認されます。

「発病日」は初診日とは限らない

精神障害の労災では、 いつ精神障害を発病したのか が非常に重要です。

原則として、発病前おおむね6か月間にどのような業務上の出来事があったのかを評価するためです。

しかし、 発病日=心療内科・精神科を初めて受診した日 とは限りません。

主治医の意見、診療録、本人や関係者の説明、症状の経過などを総合して、医学的に発病時期が判断されます。

業務による心理的負荷はどう評価される?

発病時期などを整理したうえで、労基署は発病前おおむね6か月の業務上の出来事を、精神障害の労災認定基準にある心理的負荷評価表へ当てはめていきます。

出来事だけを見るのではなく、

  • どの程度続いたのか
  • その後会社がどう対応したのか
  • 職場環境がどう変化したのか
  • 周囲から支援・協力があったのか
  • 本人にどの程度裁量があったのか

なども含めて評価されます。

そして心理的負荷を、 「強」「中」「弱」 などとして評価していきます。

複数の出来事がある場合には、それぞれを完全に切り離して考えるだけではなく、出来事同士の関連性、近接性、重複、継続期間などを踏まえて全体評価される場合があります。

専門医や専門部会は全件で関与する?

全件で専門部会が開かれるわけではありません。

事案によって、主治医の意見だけで医学的判断が可能な場合もあれば、専門医の意見を求める場合、さらに高度な医学的検討が必要として専門部会の意見を求める場合があります。

たとえば、心理的負荷が「強」と明らかではない場合や、主治医意見について補足が必要な場合などには、専門医の意見が求められることがあります。

さらに高度な医学的検討が必要と判断された事案では、精神障害専門部会の合議による意見を求めることがあります。

途中で追加資料を求められるのはどんなとき?

調査が進む中で、申請者側に追加資料を求められることがあります。

公表資料から確認できる例としては、

  • 本人が主張する出来事の日時・内容・相手などが不明確な場合
  • メール、日記、録音、勤務記録等が存在することが分かった場合
  • 長時間労働を主張しているが会社資料だけでは確認できない場合
  • 本人と会社・関係者の説明が食い違っている場合
  • 医療資料から追加確認すべき事情が判明した場合
  • 医学専門家から追加調査が必要と指摘された場合

などがあります。

一方で、 「追加資料は必ず○日以内に提出しなければならない」などの一律の日数は、今回確認した公表資料では確認できません。

調査が終わったら、どうやって決定される?

必要な調査が終わると、担当者は調査結果をまとめ、

  • 疾病名・発病時期
  • 業務上の出来事
  • 業務による心理的負荷
  • 業務外の心理的負荷
  • 個体側要因

などを整理します。

そのうえで、事案に応じて主治医、専門医、専門部会などから必要な医学意見を得て、認定要件を満たすかどうかを検討します。

最終的には、 労働基準監督署長が支給または不支給を決定します。

精神障害の労災は「8か月で必ず決まる」?

精神障害に係る労災保険給付については、 8か月の標準処理期間 が示されています。

ただし、これは 「申請から8か月以内に必ず決定しなければならない」という個別案件の法的な期限ではありません。

また、「調査が終了してから○日以内に必ず決定する」という一律の日数も、今回確認した公表資料では確認できません。

本人、会社、関係者、医療機関等への調査状況によって、実際の期間は事案ごとに異なります。

申請した人が知っておきたいこと

精神障害の労災では、単に 「つらい出来事がありました」 と説明するだけではなく、

発病時期を軸に整理することが重要です
  • いつ何が起きたのか
  • その後どうなったのか
  • いつ症状が出たのか
  • 誰に相談したのか
  • 会社はどう対応したのか
  • 当時どのような資料が残っているのか

を時系列で対応させて整理しておくことが重要です。

メールや録音がないことだけで、直ちに労災申請ができなくなるわけではありません。

一方で、当時のメール、チャット、勤怠、相談記録、日記、診療録などが残っていれば、本人の説明との整合性を確認する重要な材料になる可能性があります。

まとめ|労災申請後は「本人・会社・資料・医療」を組み合わせて調査される

精神障害の労災を申請したあと、労働基準監督署では、本人と会社のどちらの言い分を採用するかだけで判断しているわけではありません。

申請後の主な流れ
  • 請求受付後、調査計画を立てる
  • 本人の主張を確認する
  • 会社から勤務状況や出来事を確認する
  • 必要に応じて上司・同僚等を調べる
  • 勤怠・PCログ・メール・録音等と照合する
  • 主治医から医学的な情報・意見を得る
  • 発病時期と心理的負荷を評価する
  • 必要に応じて専門医・専門部会等の意見を得る
  • 労基署長が支給・不支給を決定する

また、 「本人と必ず対面面談する」「同僚を必ず○人聴く」「会社を必ず訪問する」 といった画一的な調査方法が決められているわけではありません。

事案の内容や争点、集まった資料に応じて、調査内容は変わります。

申請する側としては、調査方法そのものを予想するより、 発病時期、職場での出来事、症状の変化、会社への相談・対応、残っている資料を時系列で整理しておくこと が重要です。

精神障害の労災申請について整理したい方へ

「労基署から何を聞かれるのか不安」
「出来事や資料を、どこから整理すればよいか分からない」方へ。
メモ・メール・スクリーンショット・診断書など、まだ整理できていない段階からご相談いただけます。

LINEで相談する

※労災認定を保証するものではありません。
※個別の事情・資料を確認したうえで対応内容をご案内します。

よくある質問

精神障害の労災を申請すると、必ず本人面談がありますか?

本人の主張を確認すること自体は必要ですが、必ず対面で聴取するという意味ではありません。申立書や聴取によって確認され、体調等によっては文書照会等が用いられる場合もあります。

労災申請をすると会社にも調査が入りますか?

精神障害の労災では、事業主から勤務状況、業務内容、本人が主張する出来事、会社の対応等を確認することがあります。ただし、すべての案件で労基署が会社へ訪問するという一律のルールは、公表資料では確認できません。

本人と会社の説明が違ったら、会社の説明が優先されますか?

会社の説明が自動的に優先されるわけではありません。メール、勤怠、録音、相談記録、第三者の説明などとの整合性や、双方の説明の具体性・一貫性・合理性等を踏まえて事実関係が検討されます。

録音やメールがないと精神障害の労災は認められませんか?

録音やメールがないことだけで直ちに否定されるわけではありません。本人の説明の具体性・一貫性、当時の相談記録、第三者の説明、診療録など、複数の資料・事情を踏まえて確認されます。

精神障害の労災は8か月で結果が出ますか?

精神障害に係る労災保険給付には8か月の標準処理期間が示されていますが、個別案件について8か月以内の決定を保証する期限ではありません。調査内容などによって期間は異なります。

主な参考資料

ご注意: 本記事は2026年10月時点で確認できる公表資料をもとに、精神障害の労災請求後の一般的な調査の流れを整理したものです。 個別事案では、争点や資料の状況などによって調査内容が異なります。 また、本記事は個別案件の労災認定を保証するものではありません。

ここまで読んで、まだ迷っていても大丈夫です。

まずは、今の状況を整理するところからで大丈夫です

「まだ相談するか決めていない」
「何を書けばいいか分からない」
そんな段階でも大丈夫です。

※ 個人のご相談(労災・後遺障害・障害年金)/全国対応(LINE・オンライン)
※ 「まず整理だけ」でも大丈夫です