会社の対応が適法でも、精神障害の労災になることはある?「一連の経過」が重要です

会社の対応が適法でも精神障害の労災が認められる場合があることを、一連の経過という考え方とともに解説する水彩イラストのアイキャッチ画像

会社から、

「契約期間が満了しただけです」
「法律上、問題のない人事対応です」
「雇止めの手続きは適切に行っています」

と説明され、

「会社の対応が違法でないなら、労災申請をしても認められないのではないか」

と考えてしまう方がいます。

しかし、会社の対応が適法かどうかと、精神障害が労災として認められるかどうかは、必ずしも同じ問題ではありません。

精神障害の労災で重要なのは、会社に法律違反があったかどうかだけではなく、仕事上の出来事によって、客観的にみて強い心理的負荷を受けたといえるかどうかです。

そのため、雇止めや配置転換などの人事上の対応自体は適法であっても、その伝え方や前後の対応、複数の出来事の積み重なりによっては、精神障害の労災が認められる可能性があります。

この記事では、

  • 会社の対応の適法性と、労災認定の違い
  • 通常の雇止めと、心理的負荷が問題になるケースの違い
  • 精神障害の労災で重要になる「一連の経過」という考え方
  • ご自身のケースを整理するときのポイント

について、できるだけ分かりやすく解説します。

結論からいうと、会社の対応が適法であっても、精神障害の労災が認められることはあります。

なぜなら、会社の対応が適法かどうかを判断する制度と、精神障害が労災に当たるかどうかを判断する制度では、見ているポイントが異なるからです。

会社の対応が適法でも、精神障害の労災が認められることはある?

会社の対応の適法性で問題になること

雇止めや解雇などの適法性を判断するときは、例えば、

  • 労働契約が有効に終了したか
  • 契約更新への合理的な期待があったか
  • 雇止めに客観的・合理的な理由があったか
  • 社会通念上相当といえるか
  • 必要な手続きや説明が行われたか

といった点が問題になります。

精神障害の労災で問題になること

一方、精神障害の労災認定では、主に、

  • 対象となる精神障害を発病しているか
  • 発病前おおむね6か月の間に、業務による強い心理的負荷があったか
  • 業務以外の出来事や本人側の事情を踏まえても、業務による発病と認められるか

という観点から判断されます。

つまり、労災認定の中心的な問題は、

「会社が違法なことをしたか」ではなく、「仕事によってどの程度の心理的負荷を受けたか」

という点にあります。

会社の対応の違法性と労災認定は、まったく無関係というわけではありません。

会社の対応が著しく不合理だった場合や、人格を否定するような対応が行われた場合には、その事情が心理的負荷の強さを判断する材料になることがあります。

しかし、両者の結論が必ず一致するわけではありません。

「違法なら労災」「適法なら労災ではない」とは限りません

会社の対応が違法でも、労災にならない場合

例えば、雇止めが労働契約法上無効と判断されたとしても、それだけで精神障害の労災が認められるわけではありません。

精神障害を発病した時期や、出来事による心理的負荷の強さ、発病との関係などが認められなければ、労災認定には至らない可能性があります。

会社の対応が適法でも、労災になる場合

反対に、雇止めや配置転換などの人事上の判断自体には大きな法的問題がないとされた場合でも、その過程で強い叱責や人格否定、急な業務排除などが行われていれば、心理的負荷の評価は別に行われます。

したがって、

適法だから労災にならない

とも、

違法だから必ず労災になる

とも言い切ることはできません。

通常の雇止めでは、心理的負荷はどう評価される?

有期労働契約は、あらかじめ契約期間が定められている契約です。

そのため、

  • 契約更新の有無について事前に説明する
  • 契約満了日を伝える
  • 必要な引継ぎを行う
  • 貸与品の返却や退職手続きを案内する

といった通常の流れで契約が終了した場合には、一般的には、それだけで心理的負荷が高い出来事とは評価されにくい傾向があります。

ただし、「契約期間が満了した」という形式だけで、心理的負荷の強さが決まるわけではありません。

実際の労災認定では、

  • 雇止めを告げられた時期
  • それまでの契約更新の状況
  • 本人が契約更新を期待していた事情
  • 雇止めを告げた際の言動
  • 雇止めの理由として説明された内容
  • 雇止めの前後に行われた職場での対応
  • その後も心理的な圧力が続いたか

など、具体的な事情を踏まえて判断されます。

契約期間満了に伴う通常の雇止めだけであれば、一般的には心理的負荷が高い出来事とは評価されにくい傾向があります。

しかし、雇止めに至る過程や前後の対応によっては、評価が変わることがあります。

出来事を「一連の経過」として見るという考え方

精神障害の労災を考えるとき、目立つ出来事を一つだけ取り出して判断すると、実際に受けた心理的負荷を十分に捉えられないことがあります。

例えば、

  • 上司との面談が行われた
  • 担当業務を変更された
  • 契約を更新しないと告げられた
  • 職場で孤立するようになった
  • 退職を前提とするやり取りが続いた

という出来事があったとします。

これらを一つずつ切り離して見ると、それぞれは通常の人事対応や事務手続きのように見えるかもしれません。

しかし、短期間に関連して生じた出来事であり、一つの人事上の対応から連続して発生していたのであれば、全体の流れを踏まえて心理的負荷を評価する必要があります。

ここでいう「一連の経過」とは、難しい専門用語ではありません。

出来事をバラバラに見るのではなく、何が起こり、その後どのような対応が続き、本人がどのような状況に置かれたのかを、流れとして見るということです。

「一連の経過」として確認したい具体例

例えば、次のような事情が複数重なっている場合には、契約満了や人事対応という形式だけではなく、その前後を含めて確認することが重要です。

契約更新を期待させる対応の直後に、雇止めを告げられた

契約終了の直前まで、次の契約期間を前提とする業務の指示や予定の説明を受けていたにもかかわらず、その直後に更新しないと告げられた場合です。

雇止めの有効性とは別に、本人にとって予測できる出来事だったのか、どのような経過で告げられたのかが、心理的負荷を考えるうえで重要になります。

面談で強い叱責や人格を否定するような発言があった

契約終了を説明すること自体は通常の人事対応であっても、面談の中で、

  • 能力や人格を一方的に否定された
  • 長時間にわたり厳しい追及を受けた
  • 反論や説明の機会を与えられなかった
  • 退職を受け入れるよう強く迫られた

という事情があれば、単なる契約終了の説明とは異なる評価が必要になることがあります。

病気や障害に関する不適切な発言があった

本人の病気や障害、通院状況、必要な配慮などについて、侮辱的な発言や不適切な決めつけが行われた場合です。

雇止め自体の有効性だけでなく、その場でどのような発言があり、本人が職場でどのように扱われたのかを確認する必要があります。

人事対応の後、職場で孤立する状態が続いた

周囲への説明がないまま業務から外されたり、同僚との関係を断たれたりした結果、本人が職場で孤立することがあります。

一つの対応だけを見れば軽い出来事に見えても、その状態が継続した場合には、心理的負荷の程度も含めて確認する必要があります。

契約終了や人事対応の後も、心理的な圧力が続いた

契約終了の通知後や配置転換の後も、

  • 繰り返し連絡が届いた
  • 退職に関する書類の提出を強く求められた
  • 本人の責任を追及するやり取りが続いた
  • 説明の食い違いをめぐる対応が長期化した

という場合には、最初の人事対応だけでなく、その後の経過も確認する必要があります。

「雇止めの有効性」と「労災認定」は別の制度で判断される

有期労働契約は、原則として契約期間の満了によって終了します。

ただし、

  • 契約が何度も更新され、期間の定めのない契約と実質的に変わらない状態だった
  • 労働者が契約更新を期待することに合理的な理由があった

という場合には、労働契約法19条との関係が問題になることがあります。

そのうえで、使用者による更新拒絶が客観的に合理的な理由を欠き、社会通念上相当と認められない場合には、雇止めが認められないことがあります。

もっとも、これは主として、

雇止めが有効か、それとも従前と同じ労働条件で契約が更新されたものとして扱われるか

という労働契約上の問題です。

労災保険では、それとは別に、

雇止めやその前後の職場対応によって、業務上の強い心理的負荷が生じ、精神障害を発病したといえるか

が判断されます。

そのため、雇止めの有効性について争う場合と、精神障害の労災申請を行う場合とでは、整理すべき事実や必要となる資料が異なることがあります。

他の人事対応でも「適法性」と「労災認定」は別問題

「適法性」と「労災認定」が別問題になるのは、雇止めだけではありません。

例えば、

  • 配置転換
  • 担当業務の変更
  • 降格
  • 人事評価
  • 注意や指導
  • 懲戒処分
  • 退職勧奨
  • 休職や復職に関する対応

についても同様です。

会社に人事上の対応を行う権限があったとしても、その必要性や相当性、伝え方、回数、継続期間、周囲の状況などによって、本人が受ける心理的負荷は変わります。

したがって、

「会社には異動を命じる権限がある」
「注意指導は業務上必要だった」
「契約期間が満了しただけである」

という説明だけで、精神障害の労災の可能性まで直ちに否定されるわけではありません。

ご自身のケースを整理するときのポイント

雇止めや人事対応をきっかけに体調を崩した場合には、「会社の対応は違法だったのか」だけでなく、次の点を整理してみることが大切です。

1.発病前おおむね6か月に何があったか

精神障害の労災では、原則として発病前おおむね6か月の業務上の出来事が確認されます。

雇止めや人事対応の日だけではなく、その前後に起きた出来事を時系列で整理します。

2.それぞれの出来事が、どのようにつながっていたか

面談、業務変更、雇止め通知、業務からの排除などが、それぞれ無関係な出来事だったのか、それとも一つの人事対応から連続して生じたものだったのかを確認します。

3.会社から、どのような説明を受けたか

雇止めや人事対応の理由として何を説明されたのか、説明が途中で変わっていないか、事前の説明と実際の対応に食い違いがなかったかも重要です。

4.その場で、どのような発言があったか

単に「厳しい面談だった」とまとめるのではなく、可能な範囲で実際の言葉、発言した人、場所、同席者、面談時間などを整理します。

5.出来事の後に、どのような変化が生じたか

出来事の直後から、

  • 眠れなくなった
  • 食事が取れなくなった
  • 出勤できなくなった
  • 涙や動悸が止まらなくなった
  • 医療機関を受診した
  • 休職や欠勤に至った

という変化があれば、その時期も確認します。

6.客観的な資料が残っているか

例えば、次のような資料が役立つことがあります。

  • 雇用契約書や更新通知書
  • 雇止め通知書
  • 会社からのメールやチャット
  • 人事面談の録音や議事録
  • 業務指示や担当変更が分かる資料
  • 社内システムや情報へのアクセス制限が分かる記録
  • 当時作成した日記やメモ
  • 家族や同僚とのメッセージ
  • 診断書、診療録、お薬手帳
  • 勤怠記録や休職に関する書類

すべての資料がそろっている必要はありません。

まずは、いつ、誰から、何を言われ、どのような対応が続いたのかを整理することが重要です。

まとめ|適法かどうかだけでなく、出来事全体を整理することが大切です

会社から「契約期間が満了しただけ」「法的には問題がない」と説明されることがあります。

会社の説明が正しい場合もありますし、雇止めや人事対応自体には法的な問題がない場合もあります。

しかし、それだけで精神障害の労災にならないと決まるわけではありません。

労災では、

  • その対応がどのように行われたか
  • 前後にどのような出来事があったか
  • 複数の出来事がどのように関連していたか
  • 本人がどのような状況に置かれたか
  • その後、いつ精神障害を発病したか

を具体的に確認する必要があります。

雇止めや人事上の対応が適法であることと、精神障害が労災として認められるかどうかは、必ずしも同じ問題ではありません。

通常の雇止め手続きだけであれば、一般的には心理的負荷が高い出来事とは評価されにくい傾向があります。

しかし、その前後に、

  • 強い叱責や人格を否定する発言があった
  • 病気や障害について不適切な発言を受けた
  • 突然業務から外された
  • 職場で孤立させられた
  • 関連する対応が短期間に続いた
  • その後も心理的な圧力が継続した

という事情があれば、一連の経過を踏まえて心理的負荷を検討する必要があります。

「会社の対応が違法ではないから、労災にはならない」

と最初から決めつけるのではなく、

発病前にどのような出来事があり、それらがどのようにつながり、どの程度の心理的負荷になっていたのか

を整理することが大切です。

精神障害の労災では、一つの出来事だけを見て判断するのではなく、その前後を含めた経過全体を整理することが、適切な評価につながる第一歩になります。

雇止めや人事対応の前後に体調を崩した方へ

こもれび社労士事務所では、雇止め、配置転換、退職勧奨、業務からの排除などをきっかけとして精神的な不調が生じた方から、精神障害の労災申請に関するご相談をお受けしています。

ご相談をお受けする際には、「会社の対応が適法だったか、違法だったか」という点だけで判断するのではなく、

  • 発病前おおむね6か月に何があったのか
  • それぞれの出来事がどのようにつながっていたのか
  • 会社と本人の説明に食い違いがないか
  • メール、チャット、録音、診療記録などの資料が残っていないか
  • どの出来事を、どのように労働基準監督署へ説明するか

を一緒に整理していきます。

「契約社員だから仕方がない」
「会社から適法だと言われた」
「一つひとつは大きな出来事ではない」

という場合でも、前後の経過を整理することで、見えてくる事情があるかもしれません。

まだ労災申請をするか決めていない段階でも、まずは出来事や資料を整理するところからご相談いただけます。

※雇止めの有効性、地位確認、損害賠償請求などの法律上の紛争については、弁護士への相談が必要になる場合があります。

※この記事は特定の事案を紹介するものではなく、精神障害の労災認定の一般的な考え方について解説したものです。実際の判断は、個別の事情や証拠関係によって異なります。

「会社は適法だから労災は難しい」と言われても、一度整理してみませんか?

会社から「契約期間が満了しただけです」「通常の人事対応です」と説明されると、 「もう労災は無理なのではないか」と感じてしまう方も少なくありません。

しかし、精神障害の労災では、会社の対応が適法かどうかだけで結論が決まるわけではありません。 大切なのは、発病前おおむね6か月間にどのような出来事があり、それらがどのようにつながっていたのかを整理することです。

こもれび社労士事務所では、

  • 出来事の時系列整理
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