グループチャットで名指し叱責されたら労災になる?LINE・Teamsなどの「公開叱責」を解説

グループチャットで名指し叱責を受ける会社員と公開されたメッセージを描いた水彩イラスト

「職場のグループチャットで、自分のミスを名指しで書かれた」
「部署全員が見ているところで、上司から長文で叱責された」
「LINEやTeamsで何度も批判され、職場に行くのが怖くなった」

精神障害の労災相談では、対面での叱責だけでなく、 グループチャットや社内のオンラインツール上での叱責が問題になることがあります。

LINE、Teams、Slack、Chatworkなどでは、上司の投稿を複数の従業員が閲覧でき、 内容が一定期間残ることで、後から閲覧・引用・転送される場合もあります。

では、こうしたオンライン上の公開叱責によって、 うつ病や適応障害などを発病した場合、労災として認められるのでしょうか。

結論

グループチャットで上司から名指しで叱責されたことだけで、 精神障害の労災における心理的負荷が直ちに「強」になるわけではありません。

ただし、人格否定、見せしめ的な公開、業務上必要とはいいにくい広範な共有、 繰り返しの投稿、長期間の放置、会社へ相談した後も改善されない事情などが重なる場合には、 「強」の心理的負荷として評価される可能性があります。

この記事のポイント

  • グループチャットで名指しされたことだけで「強」と決まるわけではない
  • 投稿内容が業務上の情報共有なのか、人格攻撃・見せしめなのかが重要
  • 閲覧範囲、反復性、公開状態の継続、会社対応なども確認する
  • 「長文メッセージ」と「長時間の叱責」は同じではない
  • スクリーンショットは前後の文脈や閲覧範囲が分かる形で残すことが重要

先に重要な点です。

厚生労働省が公表している裁決等を確認した範囲では、 LINE、Teams、Slack、Chatworkなどのサービス名が明記され、 グループチャット上の公開叱責そのものを主要な出来事として 労災認定の可否を判断した公表裁決・裁判例は確認できませんでした。

そのため、この記事では、 厚生労働省の現行認定基準と、対面での公開叱責について判断された実際の裁決を確認したうえで、 オンライン上の叱責ではどのような事情を整理する必要があるのか を考えます。

精神障害の労災では叱責をどう評価するのか

精神障害が労災として認められるためには、 現行の認定基準上、基本的に次の要件を満たす必要があります。

  1. 対象となる精神障害を発病していること
  2. 発病前おおむね6か月の間に、業務による強い心理的負荷が認められること
  3. 業務以外の心理的負荷や個体側要因による発病とは認められないこと

したがって、 「上司から嫌なことを書かれた」「人前で恥をかいた」という事実だけで、 労災認定が決まるわけではありません。

パワーハラスメントについては、例えば、次のような事情を踏まえて、 心理的負荷を総合的に評価します。

  • 指導・叱責に至る経緯や状況
  • 精神的攻撃の内容・程度
  • 上司との職務上の関係
  • 反復・継続などの執拗性
  • 就業環境を害する程度
  • 会社の対応や改善状況

現行認定基準では、 人格や人間性を否定するような精神的攻撃や、 必要以上に長時間にわたる厳しい叱責、 他の労働者の面前における大声での威圧的な叱責などを、 反復・継続するなどして執拗に受けた場合は、 心理的負荷が「強」となる具体例として整理されています。

また、一度の言動であっても、 比較的長時間に及び、態様が強烈で悪質性が高い場合には、 「執拗」と評価される場合があります。

現行の認定基準: 厚生労働省「心理的負荷による精神障害の認定基準について」(令和5年9月1日付け基発0901第2号)

グループチャットで公開されたら「強」になるのか

注意したいのは、 何人もの人が見られる場所に書かれたことだけで、心理的負荷が「強」になるわけではない という点です。

対面での叱責についても、 単に他の従業員がいる場所で行われたという一点だけで判断されるわけではありません。

グループチャットについても同様に、公開性だけでなく、 次のような事情を確認する必要があります。

  • 何のために投稿されたのか
  • 業務上必要な内容だったのか
  • 本人を名指しする必要があったのか
  • 人格や能力全般への攻撃に及んでいないか
  • 何度も繰り返されていないか
  • どの程度の従業員が閲覧できたのか
  • 会社が問題を把握した後にどう対応したのか

何人以上に見られたら「強」になる、という人数基準は確認できません。

例えば、100人が参加するチャンネルに投稿されたことだけで、 自動的に心理的負荷が「強」になるという仕組みではありません。 閲覧範囲や実際の認識状況は重要な事情になり得ますが、 投稿内容や目的、反復性、会社対応などと合わせて見る必要があります。

🎥 動画でも解説しています

グループLINEやTeamsなどで名指しで叱責された場合、 精神障害の労災ではどのような事情が重視されるのかを動画で解説しています。

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「業務上の情報共有」と「晒し・見せしめ」の違い

特に判断が難しいのが、 従業員のミスをグループチャットで共有された場合です。

仕事上のミスを他の従業員へ共有したからといって、 直ちにパワーハラスメントや強い心理的負荷になるとは限りません。

業務上の情報共有と考えられる方向の事情

  • ミスの原因と再発防止が中心になっている
  • 事実を客観的・簡潔に記載している
  • 共有範囲が業務上必要な人に限定されている
  • 本人を名指しする合理的な必要性がある
  • 本人にも説明する機会がある
  • 他の従業員にも同じルールが適用されている
  • 性格や人間性、能力全般への批判に広がっていない

例えば、再発防止のためにミスを共有する必要がある場合でも、 個人名を伏せる、関係者だけに共有する、個別に注意するなど、 より負担の少ない方法で目的を達成できたかは、 業務上の必要性や相当性を考えるうえで重要な事情になり得ます。

「晒し・見せしめ」と考えるうえで確認したい事情

  • 必要以上に広いグループへ投稿している
  • 実名やメンションで本人を強調している
  • 「またこの人」「何度言っても分からない」などの嘲笑がある
  • ミスと関係のない性格・経歴・能力まで批判している
  • 過去のミスを何度も蒸し返している
  • 他の社員にも批判やリアクションを求めている
  • 本人が説明・謝罪しても非難を続けている

同じ「ミスをグループに書かれた」という出来事でも、 投稿の目的と態様によって意味は大きく異なります。

実際に「強」とされた公開叱責の裁決|平成30年労第468号

オンライン上の事例ではありませんが、 他の従業員にも分かる状態で行われた叱責について、 参考になる労働保険審査会の裁決があります。

この事例では、上司から継続的な叱責を受けていました。

確認された事情には、次のようなものがありました。

  • 繰り返される叱責
  • 非常に長い説教
  • 弁明しにくい態様
  • 業務だけでなく人格面にまで及ぶ厳しい言動
  • 班全員が気付くほどの大声
  • 無関係の第三者でも恐怖を覚えるような態様
  • 管理者が間に入って制止したこと
  • 上司が注意を受けた後も大声による叱責が続いたこと

審査会は、一連の言動について業務指導の範囲内とは認められないとして、 心理的負荷を「強」と評価し、 療養補償給付の不支給処分を取り消しました。

この裁決を、 グループチャットで叱責した場合の裁決として扱うことはできません。

ただし、公開性だけでなく、人格面への言動、大声、長時間性、反復性、 第三者の反応、会社の注意後も改善しなかったことなどが組み合わされて評価された点は、 オンライン上の公開叱責を考えるうえでも参考になります。

一次資料: 厚生労働省「平成30年労第468号」

叱責全般について、労災認定の「強・中・弱」を知りたい方へ

グループチャット上の叱責だけでなく、 対面での大声・威圧的な叱責、人格否定的発言、朝礼での失敗談発表などについて、 実際の労働保険審査会裁決を比較して解説しています。

上司の叱責で労災は認められる?「強・中・弱」を分けた実際の3裁決

「能力はゼロ」でも「中」とされた裁決|平成30年労第357号

反対に、 言葉だけを切り取って判断してはいけないことが分かる裁決もあります。

店長研修中の指導で、録音には 「あなたは幼稚園児並みだ」「能力はゼロなんですよ」 という強い表現が残っていました。

しかし審査会は、その言葉だけではなく録音全体を確認しました。

その結果、次のような事情が考慮されています。

  • 録音の大部分は具体的な業務指導だった
  • 研修上必要な技術や接客方法についての指導が中心だった
  • 口調は静かで淡々としていた
  • 大声や恫喝ではなかった
  • 業務指導を逸脱した言動の継続性は認められなかった

こうした事情から、心理的負荷は「中」と評価されています。

チャットでも同じように、 「能力ゼロと書かれたから必ず『強』」と判断できるわけではありません。

投稿の前後、目的、内容、反復性、公開範囲、会社の対応などを確認する必要があります。

一次資料: 厚生労働省「平成30年労第357号」

オンライン特有の確認ポイント

グループチャットには、対面の叱責とは異なる特徴があります。

ここからは、現行認定基準に示された独立した評価項目ではなく、 認定基準の「内容・程度」「反復・継続」「就業環境への影響」「会社対応」などを、 オンラインの特性に沿って整理した確認ポイントです。

確認する事情 チャットで確認したいこと
閲覧範囲 部署内、全社、役員、取引先など、誰が閲覧できたか
実際の認識 既読、返信、リアクション、引用、転送などがあったか
本人の特定 実名、メンション、役職、担当案件などから本人が分かったか
投稿内容 ミスの事実共有なのか、人格・能力全般への攻撃なのか
業務目的 再発防止、引継ぎ、顧客対応などの必要性があったか
反復性 同様の投稿が何回、どの程度の期間続いたか
拡散 別のグループへの転載、引用、スクリーンショット共有などがあったか
公開状態の継続 投稿が残り続けたか、削除されたか、ピン留め等がされたか
時間帯 深夜・休日にも通知や返信要求が続いたか
集団性 他の社員にも批判・謝罪要求・リアクションへの参加を求めたか
会社対応 削除、注意、調査、チャンネル変更、配置調整などが行われたか

「グループに100人いた」と「100人が見た」は違う

オンラインの公開性を整理するときは、次の3点を分けて確認すると整理しやすくなります。

  1. 閲覧できた人数―グループやチャンネルの参加者
  2. 実際に認識した範囲―既読、返信、リアクションなど
  3. 二次的に広がった範囲―引用、転送、スクリーンショットなど

ただし、これらは単独で「強」「中」「弱」を決める数値基準ではありません。

長文メッセージなら「長時間の叱責」になるのか

ご相談で注意したいのが、 非常に長い叱責メッセージです。

現行認定基準には、「必要以上に長時間にわたる厳しい叱責」という考え方があります。

しかし、 長文メッセージを読むのに時間がかかったというだけで、 直ちに「長時間にわたる厳しい叱責」と同じ評価になるという公式な判断は確認できません。

文字数だけではなく、次のような事情まで確認する必要があります。

  • 業務上の指摘より人格批判が中心になっていないか
  • 多数人のグループで名指しされていないか
  • 過去の失敗を大量に並べていないか
  • 能力・性格・人間性まで否定していないか
  • 投稿後も公開の場で回答や謝罪を求め続けていないか
  • 追撃する投稿が繰り返されていないか
  • 投稿が削除されず、長期間残されていないか

「長文だから強」ではなく、その内容と態様を見ることが重要です。

チャット上の叱責では何を証拠として残すか

グループチャットによる叱責には、 発言内容が文字として残りやすいという特徴があります。

一方で、問題となる投稿だけを切り取ったスクリーンショットでは、 前後の文脈や閲覧範囲が分からない場合があります。

可能であれば、次のような資料を整理しておくと、 出来事の具体的な状況を確認しやすくなります。

  • 投稿日時、投稿者、対象者、全文が分かるスクリーンショット
  • 問題となった投稿の前後のやり取り
  • チャンネル名やグループ名
  • 参加者や閲覧範囲が分かる資料
  • メンション、既読、リアクションの記録
  • 引用・転送された記録
  • 編集・削除される前の投稿
  • 同様の投稿を時系列で整理した一覧
  • 会社へ相談した記録と会社からの回答
  • 投稿前後の配置、評価、業務内容などの変化
  • 症状が現れた時期、受診日、休業開始時期

スクリーンショットは「問題の一文だけ」ではなく、前後関係も残す

「能力がない」「何度言えば分かるのか」といった一文だけでは、 どのような経緯で書かれたのかが分からないことがあります。

一方で、投稿が後から編集・削除される可能性もあります。 日時、投稿者、グループ、前後のやり取りなどが分かる状態で保存しておくことが重要です。

まとめ|チャットの「公開叱責」は投稿全体を確認する

LINE、Teams、Slackなどのグループチャットで上司から名指しで叱責された場合、 どうしても「何人に見られたか」「どんな暴言を書かれたか」に目が向きます。

もちろん、それらも重要な事情です。

しかし、精神障害の労災を考える場合には、 次のような事情を投稿の前後関係や発病までの経過と合わせて整理することが重要です。

  • 業務上必要な情報共有だったのか
  • 本人を名指しする必要があったのか
  • 人格・人間性への攻撃に及んでいたのか
  • どの程度の人が閲覧・認識したのか
  • 同じような投稿が繰り返されていたのか
  • 投稿が長期間残されていたのか
  • 他の社員まで批判に参加していたのか
  • 会社へ相談した後に改善したのか

「グループチャットで晒されたから必ず労災になる」 「一度の投稿だから労災にはならない」 と単純に判断できるものではありません。

投稿が複数ある場合には、一つのメッセージだけを見るのではなく、 いつから、誰から、どのような内容の投稿を受け、その後どうなったのかを 時系列で確認することが大切です。

上司の叱責全般について、実際の裁決を比較した解説はこちら

上司の叱責で心理的負荷が「強」「中」「弱」と分かれた実際の労働保険審査会裁決を、 内容・公開性・継続性・人格否定・会社対応などの観点から比較しています。

上司の叱責で労災は認められる?「強・中・弱」を分けた実際の3裁決

チャット上の叱責・パワハラによる精神障害の労災をご検討の方へ

こもれび社労士事務所では、 パワーハラスメント、公開叱責、配置転換、過重労働などをきっかけとした 精神障害の労災申請について、個人の方からのご相談をお受けしています。

「グループLINEで何度も名指しされた」
「Teamsのチャンネルでミスを公開された」
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という段階でもご相談いただけます。

最初から結論を急がず、お送りいただいた資料や経過を確認しながら、 何が確認できるのか、どこが争点になりそうなのかを整理します。

労災認定の見込みを断定するものではありませんが、 投稿内容、公開範囲、反復性、会社対応、発病までの経過を整理することで、 申請を検討するための論点を確認できます。

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この記事について

この記事は、厚生労働省が公表している 「心理的負荷による精神障害の認定基準」および 労働保険審査会の公表裁決を確認し、 グループチャット上の公開叱責について 精神障害の労災実務の観点から整理したものです。

現時点で確認できた公表資料の範囲では、 LINE、Teams、Slack、Chatwork等のグループチャット上の公開叱責を 主要な出来事として詳細に評価した公表裁決・裁判例は確認できませんでした。

そのため、オンライン上の叱責に関する部分には、 現行の認定基準と、公開性・人格面への攻撃・反復性・業務上の必要性などが 問題となった公表裁決をもとに整理した分析が含まれます。

個別の労災認定は、精神障害の発病時期、具体的な出来事、 証拠資料、関係者の供述、業務外の事情、医学的判断などを含めて行われるため、 本記事で挙げた事情があることだけで認定結果が決まるものではありません。

ここまで読んで、まだ迷っていても大丈夫です。

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