パワハラで労働審判を検討するとき、どこの裁判所?遠方・リモート勤務の場合も解説

パワハラや長時間労働などを理由に、 会社への損害賠償請求や労働審判を検討するとき、
「会社の本社が東京なら、東京地方裁判所まで行かなければならないのでしょうか?」
と疑問に思う方もいるかもしれません。
しかし、労働審判の申立先は、 会社の本社所在地だけで決まるわけではありません。
労働審判法2条では、主に、
- 相手方の住所・営業所・事務所等の所在地
- 労働者が現在、または最後に就業した事業所の所在地
- 当事者が合意で定める地方裁判所
が管轄の基準とされています。
そのため、 「会社の本社が遠い=必ず本社所在地の裁判所へ行かなければならない」 とは限りません。
一方、フルリモート・在宅勤務の場合に、 自宅所在地が当然に申立先になるわけではありません。
この記事では、 パワハラなどをきっかけに労働審判を検討する場合の 申立先となる裁判所の考え方について、 社会保険労務士の立場から一般的に整理します。
動画でも、労働審判の管轄、本社が遠い場合、退職後、リモート勤務の場合の考え方を解説しています。
結論|労働審判の申立先は「会社の本社」だけではありません
労働審判の管轄について、 労働審判法2条は複数の基準を定めています。
| 主な基準 | 確認する場所 |
|---|---|
| 相手方の所在地 | 相手方の住所、居所、営業所、事務所等の所在地 |
| 就業していた事業所 | 労働者が現在就業している、 または最後に就業していた事業主の事業所所在地 |
| 合意した裁判所 | 当事者が合意によって定めた地方裁判所 |
つまり、 本社所在地だけが唯一の申立先になるわけではありません。
実際には、 会社の所在地、 労働者が勤務していた場所、 雇用契約等の内容などを確認していく必要があります。
退職した後でも「最後に働いていた事業所」が基準になります
すでに会社を退職している場合、
「もう勤務していないので、本社所在地の裁判所しか使えないのでは?」
と考える方もいるかもしれません。
しかし、労働審判法2条では、 労働者が 「最後に就業した事業主の事業所」 の所在地も管轄の基準とされています。
退職後であっても、 「最後に就業した事業所」の所在地は 管轄判断の重要な基準になります。
もっとも、 実際にどの場所が 「最後に就業した事業所」に当たるのかは、
- 雇用契約書
- 労働条件通知書
- 辞令
- 所属部署
- 実際の勤務地
- 勤務実態
などを確認して判断する必要があります。
本社と実際の勤務地が違う場合は?
会社の本社と、 実際に働いていた場所が違うことは珍しくありません。
例えば、
- 本社は東京だが、大阪の支店で勤務していた
- 会社の登記上の本店は別の都道府県にある
- 所属部署と実際の勤務店舗が異なる
- 複数の事業所を行き来していた
といったケースです。
この場合も、 本社所在地だけを見て申立先を決めるわけではありません。
労働者が現在または最後に就業した事業所がどこに当たるのか、 会社側の営業所・事務所等がどこにあるのかを確認します。
支店・営業所・店舗・工場で勤務していた場合
支店、営業所、店舗、工場などで勤務していた場合も、 その場所が 労働審判法2条の「事業所」 に当たるかが問題になることがあります。
ただし、
「店舗で勤務していたから、 必ずその店舗所在地を管轄する地方裁判所に申し立てられる」 と一律に考えることはできません。
実際には、
- どこに所属していたのか
- どこで勤務していたのか
- どこから指揮命令を受けていたのか
- どの拠点が勤務先として管理されていたのか
などを確認する必要があります。
フルリモート・在宅勤務なら自宅の裁判所に申し立てられる?
最近は、 フルリモートや在宅勤務の方からも、 労災やパワハラの相談を受けることがあります。
ここで注意したいのが、
「自宅で働いていた=自宅所在地を管轄する地方裁判所に申し立てられる」
と単純には言えないことです。
労働審判法2条が基準としているのは、 労働者が現在または最後に就業した 「事業主の事業所所在地」 です。
今回確認した公的資料の範囲では、 フルリモート勤務者の自宅が当然に 「事業所」に当たるという一般的な扱いまでは確認できません。
フルリモート・在宅勤務の場合には、 例えば次のような事情を確認します。
- 雇用契約書に記載された勤務地・所属先
- 辞令上の所属部署
- 出社する場合の拠点
- 業務上の指揮命令を受けていた拠点
- 勤怠管理を行っていた部署・事業所
- 実際の勤務形態
そのうえで、 具体的な申立先については 労働問題を扱う弁護士へ確認するのが安全です。
雇用契約書に「東京地方裁判所」と書いてある場合は?
雇用契約書や個別の合意書などに、
「紛争が生じた場合は東京地方裁判所を管轄裁判所とする」
といった条項が記載されている場合があります。
労働審判法2条では、 当事者が合意で定める地方裁判所 も管轄とされています。
ただし、
- その条項がどのように解釈されるのか
- 他の裁判所への申立てができるのか
- 就業規則だけで合意といえるのか
- 個別の合意条項が有効か
といった点は、 個別の契約内容や事情によって異なります。
「契約書に東京地裁と書いてあるから、 必ず東京地裁だけしか使えない」 と一律に判断しない方がよいでしょう。
管轄を間違えて申し立てたらどうなる?
労働審判法3条では、 裁判所が事件について管轄がないと認める場合、 申立てまたは職権により、 管轄を有する裁判所へ移送する ことが定められています。
管轄がない裁判所に申し立てられた場合には、 労働審判法3条により、 申立てまたは裁判所の職権により、 管轄を有する裁判所へ移送されることがあります。
もっとも、 移送の要否や手続への影響は個別の事情によって異なるため、 申立ての前に管轄を確認しておくことが重要です。
- 移送にどの程度時間がかかるか
- 申立書の修正が必要か
- どの裁判所が管轄となるか
- 手続全体への影響
については個別に異なります。
そのため、 最初の段階で申立先を確認しておくことが重要です。
遠方の裁判所でもテレビ会議を利用できる場合があります
管轄となる裁判所が自宅から遠い場合、
「何度も遠方まで行かなければならないのでは?」
と不安に感じる方もいると思います。
裁判所の公式案内では、 労働審判手続について、 テレビ会議を利用できる場合がある とされています。
手続を扱う裁判所から離れた場所に住んでいる場合でも、 裁判所が適当と判断すれば、 近くの裁判所からテレビ会議で参加できる場合があります。
ただし、 希望すれば必ずテレビ会議が認められるわけではありません。
利用できるかどうかは、 裁判所が個別の事情を踏まえて判断します。
また、 自宅や事務所から接続するウェブ会議については、 今回確認した裁判所公式資料からは 一般的な利用方法まで確認できませんでした。
遠隔参加を希望する場合は、 申立先となる裁判所へ確認してください。
労働審判は原則3回以内の期日で進められます
労働審判は、 通常の民事訴訟とは異なり、 比較的短期間で紛争解決を図ることを目的とした制度です。
裁判所の公式案内では、 原則として3回以内の期日 で審理を終えることとされています。
また、 特別の事由がない限り、 第1回期日は申立日から40日以内の日に指定される と案内されています。
ただし、
- 必ず40日以内に実際の審理が終わる
- 3回で必ず和解できる
- 必ず短期間で解決する
という意味ではありません。
事案が複雑で、 労働審判に適さないと判断される場合には、 手続が終了し、 訴訟へ移行する場合もあります。
パワハラの損害賠償も労働審判で扱える?
労働審判は、 労働者と事業主との間の 個別労働関係民事紛争 を対象とする制度です。
そのため、 パワハラを理由とする会社への損害賠償についても、 労働審判で問題となる場合があります。
もっとも、
- パワハラ行為の有無
- 会社の安全配慮義務違反
- 精神疾患との因果関係
- 損害の内容
- 証拠関係
などが複雑な事案では、 限られた期日での審理になじまない場合もあります。
「パワハラなら労働審判の方がよい」 「労災認定されているから労働審判に向いている」 と一律に判断することはできません。
労働審判と通常訴訟のどちらを検討するか、 どのような請求を行うかについては、 労働問題を扱う弁護士へ相談してください。
労災と労働審判は別の制度です
パワハラによる精神障害については、 労災申請と労働審判の両方を考える方もいます。
ただし、 労災と労働審判は別の制度です。
| 項目 | 労災保険 | 労働審判 |
|---|---|---|
| 主な目的 | 労災保険給付の対象となるかを判断する | 労働者と事業主との民事上の紛争解決を図る |
| 主な手続先 | 労働基準監督署 | 地方裁判所 |
| 主な専門家 | 労災手続・不服申立て等は社労士が支援できる場合があります | 申立て、代理、主張立証、損害賠償等は弁護士へ相談します |
労災で認定されたことだけで、 労働審判で会社の責任が当然に認められるわけではありません。
一方で、 労災申請の過程で整理した 時系列、診療録、勤怠、録音、メール、 会社への相談記録などが、 弁護士へ相談する際の整理材料になる場合はあります。
社労士に相談すること、弁護士へ相談すること
労災と民事上の問題を同時に抱えている場合、 相談先を分けて考えることが大切です。
| 相談内容 | 主な相談先 |
|---|---|
| 精神障害の労災申請、 労災不支給後の審査請求、 労災資料や出来事の整理 | 社会保険労務士 |
| 損害賠償請求、 労働審判の申立て、 代理、 主張・立証、 訴訟、 和解等 | 弁護士 |
| 労災と民事上の問題の両方を検討している | 社労士・弁護士が それぞれの業務範囲で対応・連携を検討 |
特に、 「どの裁判所へ申し立てるべきか」 「労働審判と訴訟のどちらを選ぶべきか」 「どの証拠をどのように提出するか」 といった個別の法的判断については、 弁護士へ相談してください。
まとめ|まず「本社所在地」だけで判断しないことが大切です
労働審判を検討するとき、 会社の本社が遠方にあると、
「そこまで行かなければならないのか」
と不安になることがあります。
しかし、 労働審判の管轄は 本社所在地だけで決まるわけではありません。
- 相手方の住所・営業所・事務所等の所在地が管轄候補になる
- 現在または最後に就業した事業所所在地も基準になる
- 退職後でも「最後に就業した事業所」が重要になる
- フルリモート勤務だから自宅所在地が当然に管轄になるわけではない
- 遠方の場合、テレビ会議を利用できる場合がある
- 個別の申立先、手続選択、損害賠償等は弁護士へ確認する
パワハラ等について労災申請も行っている場合には、 労災と民事手続を混同せず、 まずそれぞれの制度で何が問題になっているのかを整理すること が重要です。
パワハラ・精神障害の労災について整理したい方へ
「パワハラで精神的に体調を崩した」
「会社との民事問題も気になるが、まず労災について整理したい」
「労災申請で何を説明すればよいか分からない」
「労災が不支給になり、理由を整理したい」
という場合には、 まず労災保険上の出来事・発病時期・資料を整理する ところから始めます。
こもれび社労士事務所では、 パワハラ・長時間労働などによる 精神障害の労災申請や、 労災不支給後の審査請求等についてご相談をお受けしています。
なお、 損害賠償請求、 労働審判の申立て・代理、 訴訟、 具体的な請求額、 和解、 申立先の個別判断については、 労働問題を扱う弁護士へご相談ください。
参考資料
※本記事は、労働審判の管轄や制度について一般的な情報を説明するものです。 個別の事件について、どの裁判所へ申し立てるべきか、 労働審判と訴訟のどちらを選択するか、 損害賠償請求の可否・請求額・時効・証拠提出・主張立証等について 法律判断を行うものではありません。 労働審判や民事上の請求を具体的に検討する場合には、 労働問題を扱う弁護士へご相談ください。
ここまで読んで、まだ迷っていても大丈夫です。

まずは、今の状況を整理するところからで大丈夫です
「まだ相談するか決めていない」
「何を書けばいいか分からない」
そんな段階でも大丈夫です。
※ 個人のご相談(労災・後遺障害・障害年金)/全国対応(LINE・オンライン)
※ 「まず整理だけ」でも大丈夫です


