精神障害の労災で発病時期はどう決まる?初診日・休職日との違い

精神障害の労災を考えるとき、意外と重要なのが「いつ発病したと判断されるのか」という点です。
「心療内科を初めて受診した日が発病日ですか?」
「診断書の日付から6か月を見るのでしょうか?」
「休職した日が発病した日になるのでしょうか?」
こうした疑問を持つ方は少なくありません。
しかし、精神障害の労災認定における「発病時期」は、初診日・診断日・休職開始日・診断書作成日と、自動的に同じになるわけではありません。
厚生労働省の認定基準では、対象となる精神障害の発病の有無、疾患名、発病時期について、主治医の意見書や診療録などの関係資料、本人・関係者からの聴取内容等を踏まえ、医学的に判断する考え方が示されています。
そして、この発病時期を起点として、原則として発病前おおむね6か月の業務による心理的負荷が検討されます。
この記事では、精神障害の労災における発病時期について、初診日や休職日との違い、初診前から症状があった場合の考え方、6か月ルールとの関係まで、社労士が分かりやすく整理します。
▶ 動画でも解説しています
「初診日=発病時期」とは限りません。精神障害の労災で発病時期がどのように考えられるのか、動画で分かりやすく解説しています。
最初に結論|発病時期は「初診日」で自動的に決まるわけではありません
- 初診日=発病時期とは限りません。
- 診断日・休職開始日・診断書作成日とも、自動的に一致するわけではありません。
- 主治医の意見、診療録、本人や関係者の説明などを踏まえ、発病時期は医学的に判断されます。
- 初診前の不眠・不安・抑うつ・欠勤なども、症状経過を確認する事情になり得ます。
- ただし、「不眠が始まった日=発病日」と単純に決めることはできません。
- 発病時期は、原則として発病前おおむね6か月の評価期間を決める重要な起点です。
なぜ精神障害の労災で「発病時期」が重要なのか
精神障害の労災認定では、主に次の3つの要件が確認されます。
- 対象となる精神障害を発病していること
- 発病前おおむね6か月の間に、業務による強い心理的負荷が認められること
- 業務以外の心理的負荷や個体側要因によって発病したとは認められないこと
このため、発病時期がどこになるかによって、労働基準監督署が重点的に確認する業務上の出来事や長時間労働の期間が変わる可能性があります。
例えば、本人は「4月に初めて受診したので、4月が発病時期だろう」と考えていても、診療録や初診前の症状経過などから、医学的にはもっと前の時期に対象となる精神障害を発病していたと判断される可能性があります。
逆に、以前から不眠や不安があったからといって、その症状が出始めた日をそのまま発病時期とするわけでもありません。
初診日・診断日・休職日と発病時期は同じ?
一般の方が特に混同しやすいのが、次の4つの日付です。
| 日付 | 発病時期との関係 |
|---|---|
| 初診日 | 重要な資料にはなりますが、発病時期と必ず一致するわけではありません。 |
| 診断日 | 診断名が付いた日と、医学的に発病していたと判断される時期が一致しない場合があります。 |
| 休職開始日 | 就労が難しくなった時期を示す事情の一つですが、発病時期そのものを決める基準日ではありません。 |
| 診断書作成日 | 書類が作成された日であり、発病時期と自動的に同じになるわけではありません。 |
もちろん、これらの日付と発病時期が一致するケースもあります。
大切なのは、「初診日だから発病日」「休職した日だから発病日」と先に決めつけないことです。
発病時期は何をもとに判断される?
厚生労働省の認定基準では、対象となる精神障害を発病しているか、その疾患名や発病時期について、診療録などの関係資料、本人・関係者からの聴取内容などを踏まえ、医学的に判断する考え方が示されています。
その際には、例えば次のような資料・情報が確認されます。
- 主治医の意見
- 診療録(カルテ)
- 本人からの聴取内容・申立て
- 家族や同僚など関係者からの聴取内容
- 勤務状況の変化が分かる資料や事情
- 欠勤・遅刻・早退、業務能率やミスなどの変化
- メール、チャット、日記、メモなど、症状や出来事の経過を補う資料
- その他、生活・就労状況の変化を確認できる資料
主治医には、疾患名だけでなく、発病時期、発病原因、その判断根拠について意見が求められます。
ただし、主治医が記載した日付だけで機械的に確定するという意味ではありません。
労災認定では、労働基準監督署による事実調査で確認された事情と、主治医や必要に応じた専門医等の医学的意見を踏まえ、労働基準監督署長が業務上・業務外を判断します。
初診前から不眠・不安・欠勤があった場合は?
実際の相談では、
- 受診する数か月前から眠れなくなっていた
- 朝起きられず遅刻が増えていた
- 仕事中に涙が出るようになった
- ミスや欠勤が増えていた
- 家族から「以前と様子が違う」と言われていた
- 上司や同僚とのやり取りを避けるようになった
というケースもあります。
こうした初診前の症状や言動の変化は、発病時期を判断するための重要な手掛かりになり得ます。
勤務状況の変化、欠勤や遅刻、早退、業務上のミスなども、症状の経過や就労状況を確認する事情の一つになり得ます。
「不眠が始まった日=発病日」
「会社を休んだ日=発病日」
と単純に決めることはできません。
不眠、欠勤、遅刻などは重要な手掛かりになり得ますが、それらの日をそのまま発病時期とするわけではありません。症状や生活・就労状況の変化を含め、対象となる精神障害を発病していたといえる時期について医学的に判断されます。
発病時期を1日単位で特定できない場合もあります
精神障害は、骨折のように「この瞬間に発生した」と明確に分かるものばかりではありません。
徐々に不眠や不安が強くなり、仕事に行けなくなり、後になって受診するケースもあります。
そのため、発病時期を特定することが難しい場合には、認定基準上も、できる限り時期の範囲を絞り込んだ医学的意見を求めて判断する考え方が示されています。
つまり、必ずしも「○月○日」と1日単位で決められるとは限りません。
本人が労災申請を考える場合にも、自分で無理に発病日を1日に決めてしまうより、症状の変化や業務上の出来事を時系列で整理しておく方が重要です。
強い出来事の前から症状があったら労災は難しい?
ここも誤解されやすいところです。
例えば、業務による強い心理的負荷と評価される出来事の前から不眠などの兆候があり、その出来事の後にも症状が続いていた場合があります。
現行の認定基準では、業務による強い心理的負荷と評価される出来事の前後の双方に、発病の兆候と理解し得る言動があり、対象となる精神障害の診断基準を満たした時期を特定することが難しい場合には、その出来事の後に発病したものとして取り扱う考え方が示されています。
ただし、これは「出来事の前に不眠や不安があれば、常に出来事後の発病として扱われる」という意味ではありません。
実際には、症状の経過、診療録、主治医の意見、出来事の内容、本人や関係者から確認された事情などを踏まえた個別の判断になります。
したがって、出来事の前に少し不調があったという理由だけで、「すでに発病していたから、この出来事は関係ない」と自己判断するのは早い場合があります。
発病時期と「発病前おおむね6か月」の関係
精神障害の労災では、原則として発病前おおむね6か月の間に、業務による強い心理的負荷があったかを確認します。
そのため、発病時期をどこに置くかによって、評価対象となる業務上の出来事、長時間労働、ハラスメントなどの期間が変わることがあります。
ただし、「6か月より前の出来事はすべて無意味」という意味ではありません。
例えば、いじめやハラスメントのように反復継続する出来事が、6か月より前から始まり、発病前おおむね6か月にも続いていた場合には、認定基準上、開始時からの行為を含めて評価する取扱いがあります。
また、出来事の起点が6か月より前であっても、発病前おおむね6か月の間に、その出来事による苦痛や困難な状況、会社側の対応などが継続している場合には、その期間中の状況が評価に関係することがあります。
6か月ルールと長期ハラスメントについては、別の記事で詳しく解説しています。
発病後に起きた出来事はどうなる?
通常の「新たな精神障害の発病」について業務起因性を判断する枠組みでは、原則として発病前おおむね6か月の業務上の出来事を評価します。
そのため、すでに発病した後に起きた出来事を、その発病の原因として遡って評価するものではありません。
もっとも、すでに精神障害を発病している人について、その後の業務上の強い心理的負荷によって症状が自然経過を超えて著しく悪化したかが問題になる場合には、別途「悪化」の枠組みで検討されることがあります。
このため、出来事が発病前のものなのか、発病後に生じた悪化に関係するものなのかを整理することも重要です。
すでに精神科へ通院している場合は?
「以前からうつ病で通院しているから、労災は無理ですか?」という相談もあります。
既往歴や通院歴があることだけで、直ちに労災の対象外になるわけではありません。
実際には、
- 既存の精神障害が悪化したのか
- 症状の一時的な動揺の範囲なのか
- 別の精神障害を新たに発病したのか
- 症状が安定した後の新たな発病なのか
といった点を、診療経過や医学的意見、業務上の出来事との関係から個別に判断する必要があります。
既存の精神障害が悪化したケースでは、業務上の出来事によって、自然経過を超えて著しく悪化したと医学的に判断されるかが問題になります。
「既往症があるから無理」と早い段階で結論を出さず、まずは受診経過、症状の変化、勤務状況、業務上の出来事を整理することが大切です。
労災申請を考えるなら、発病時期の前後を時系列で整理する
発病時期について、本人が医学的な結論を出す必要はありません。
むしろ労災申請を考える際に重要なのは、発病時期を判断するための事実を、できるだけ時系列で整理することです。
| 整理する項目 | 確認したい内容 |
|---|---|
| 業務上の出来事 | いつ、何が起きたか。誰が関わったか。どの程度続いたか。 |
| 症状の始まり | 不眠、不安、抑うつ、動悸、食欲低下、涙が出る、意欲低下などがいつ頃からあったか。 |
| 勤務状況の変化 | 遅刻、欠勤、早退、ミス、残業、休日出勤、出勤困難などの変化。 |
| 周囲が気づいた変化 | 家族・同僚が見た言動、表情、連絡頻度、生活状況などの変化。 |
| 受診経過 | 初診日、診断名、医師へ伝えた内容、通院頻度、服薬の開始・変更。 |
| 休職・退職 | 就労が難しくなった時期、休職や退職に至った経緯。 |
| 客観資料 | メール、チャット、勤怠記録、勤務表、録音、日記、メモ、診療記録など。 |
最初からすべての証拠がそろっている必要はありません。
「いつ何が起きたのか」「その頃から体調や仕事にどんな変化が出たのか」を一本の時系列にするだけでも、発病時期と業務上の出来事の関係が見えやすくなります。
よくある誤解
「初診日の6か月前だけを見ればいい」
必ずしもそうではありません。評価期間の起点となるのは、医学的に判断される発病時期です。初診日と一致することもありますが、自動的に同じになるわけではありません。
「初診前から不眠があったから、その時点ですでに発病していた」
不眠などは重要な判断材料になり得ますが、それだけで発病時期が決まるわけではありません。症状経過や関係資料を踏まえ、対象となる精神障害を発病していたといえる時期について医学的な判断が必要です。
「診断書に書かれた発病日はそのまま認められる」
診断書に記載された発病時期は重要な医学的資料になりますが、その日付だけで機械的に決まるわけではありません。主治医の判断根拠、診療録、症状の経過、本人や関係者から確認された事情なども踏まえて判断されます。
「既往症があれば労災にはならない」
一律にそうとはいえません。既存障害の悪化なのか、症状安定後の新たな発病なのか、症状の動揺の範囲なのかなど、個別の医学判断が必要です。
まとめ|発病時期は自分で決め打ちしないことが大切
精神障害の労災でいう「発病時期」は、初診日、診断日、休職開始日、診断書作成日と必ず同じになるものではありません。
主治医の意見や診療録、本人や関係者からの聴取内容などを踏まえ、対象となる精神障害を発病していたといえる時期について医学的に判断されます。
そして発病時期は、原則として「発病前おおむね6か月」の心理的負荷を評価する起点となります。
そのため、労災申請を検討するときは、「初診日の6か月前だけ」を機械的に整理するのではなく、初診前からの症状、勤務状況、業務上の出来事を時系列で確認することが重要です。
発病時期や時系列の整理で迷っている方へ
「初診日より前から眠れなかった」「パワハラが続いていたが、いつを起点に整理すればいいか分からない」「通院歴があるため、労災になるのか不安」といった場合、初診日だけで結論を出すことはできません。
こもれび社労士事務所では、業務上の出来事、症状の変化、受診経過、勤務状況、手元に残る資料を時系列で確認し、労災認定基準上、どこが重要になり得るかを整理しています。
診療録や証拠がすべて揃っていなくても構いません。まずは、分かる範囲で「いつ・何があったか」「いつ頃から体調が変わったか」を箇条書きでお送りください。
ご自身で作成したメモ、LINE・メールの画面、勤務表、勤怠記録、日記、時系列の下書きなどがあれば、そのままお送りいただいて構いません。
状況がまとまっていなくても、短文・箇条書き・画像からお送りいただけます。
よくある質問
Q. 初診日より前が発病時期になることはありますか?
あります。初診日と発病時期が一致することもありますが、診療録や症状経過、本人・関係者からの聴取内容などから、初診前に対象となる精神障害を発病していたと医学的に判断される場合があります。
Q. 休職した日が発病日になりますか?
休職開始日は重要な経過の一つですが、その日が自動的に発病時期になるわけではありません。休職前の症状、勤務状況、受診経過なども含めて判断されます。
Q. 診断書に書かれた発病日はそのまま認められますか?
診断書に書かれた発病時期は重要な医学的資料ですが、その日付だけで機械的に決まるわけではありません。主治医の判断根拠、診療録、症状の経過、本人や関係者から確認された事情なども踏まえて判断されます。
Q. 発病日が正確に分からなくても労災申請できますか?
発病時期を本人が1日単位で確定してから申請する必要はありません。発病時期の特定が難しい場合には、できる限り時期の範囲を絞り込んだ医学的意見をもとに判断されます。
Q. 6か月より前のパワハラは意味がありませんか?
一律にそうとはいえません。反復継続するハラスメントが発病前おおむね6か月にも続いている場合など、認定基準上、6か月より前からの経過が評価に関係するケースがあります。
執筆・監修
社会保険労務士 近藤 明久
こもれび社労士事務所
精神障害の労災申請、パワーハラスメント事案、障害年金等の相談対応を行っています。本記事は、厚生労働省の現行認定基準および関連通達をもとに作成しています。
参考資料
- 厚生労働省「心理的負荷による精神障害の認定基準について」(令和5年9月1日・基発0901第2号)
- 厚生労働省「心理的負荷による精神障害の認定基準に係る運用上の留意点について」(令和5年9月1日・基補発0901第1号)
※本記事は、2026年9月時点で公表されている厚生労働省の認定基準等をもとに、一般的な考え方を解説したものです。実際の労災認定は、個別の事実関係、医学的判断、労働基準監督署による調査結果等に基づいて行われます。
ここまで読んで、まだ迷っていても大丈夫です。

まずは、今の状況を整理するところからで大丈夫です
「まだ相談するか決めていない」
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