会社に労災申請を言うのが怖い。事業主証明なしでも申請できる?

会社への連絡をためらい、事業主証明なしでの労災申請について悩む会社員の水彩イラスト

「労災を申請したいけれど、会社が事業主証明をしてくれない」

「パワハラを受けた会社に、もう一度連絡するのが怖い」

「会社に労災申請のことを伝えないと、労働基準監督署は受け付けてくれないのでしょうか」

精神障害の労災相談では、このような不安をお聞きすることがあります。

特に、うつ病、適応障害、PTSDなどで療養している方にとって、 ハラスメントや強い叱責などの原因となった会社へ自分から連絡することは、 大きな心理的負担になることがあります。

結論:事業主証明が得られなくても、労災請求そのものができなくなるわけではありません

厚生労働省は、会社が事業主証明を拒否するなどして事業主証明が得られない場合でも、 労災保険の請求はできると案内しています。

2026年5月29日の衆議院厚生労働委員会でも、 厚生労働省の労働基準局長が、 「事業主証明がない場合でも労災請求は可能としております」 と答弁しています。

つまり、「会社が証明してくれない=労災申請できない」ではありません。

ただし、ここには一つ重要な注意点があります。

「会社への連絡が怖い」「ハラスメントの原因となった会社と接触すると症状が悪化する」といった事情があれば、 会社へ一度も証明を依頼しなくても必ず受け付けてもらえる と全国一律に定めた公式資料までは確認できませんでした。

そのため、会社への直接連絡が難しい場合には、 現在の症状、会社との関係、接触による負担などを具体的に整理したうえで、 まず管轄の労働基準監督署へ相談し、 事業主証明欄を空欄とする請求書の提出方法を確認することが現実的です。

この記事では、事業主証明がない場合の労災請求について、 厚生労働省の資料、法令、2026年の国会答弁と、 精神障害の労災申請を扱う社労士としての実務経験を分けながら解説します。

事業主証明は原則として必要

まず、「事業主証明はまったく必要ない」という意味ではありません。

労働者災害補償保険法施行規則では、療養(補償)等給付や 休業(補償)等給付などの請求について、 一定の事項について事業主の証明を受けることが定められています。

例えば、負傷・発病年月日、災害の原因や発生状況、 休業に関する事項などについて事業主証明欄が設けられています。

ポイントは、「事業主証明が原則として求められること」と 「証明が得られなければ労災請求そのものができないこと」は、 同じではないということです。

また、労災保険法施行規則では、 保険給付を受けようとする人から必要な証明を求められた場合、 事業主は速やかに証明しなければならないことも定められています。

したがって、通常は会社に証明を求めて請求するのが基本的な手続です。

それでも、事業主証明なしで労災請求はできる

ここがこの記事で最も重要なところです。

厚生労働省は、会社が事業主証明を拒否するなどして 事業主証明が得られない場合であっても、労災保険の請求はできると案内しています。

働いていた会社が廃止されている場合や、会社が事業主証明を拒否するなど、 事業主証明が得られない場合であっても労災請求はできますので、 最寄りの都道府県労働局または労働基準監督署にご相談ください。

つまり、会社が証明してくれないことだけを理由に、労働者が労災請求を諦める必要はありません。

厚生労働省の「労災保険給付の概要」でも、 会社が廃止されている場合や事業主が証明を拒否する場合など、 事業主証明を得られない場合でも労災請求できることが案内されています。

厚生労働省|労災保険給付の概要(R8.7)

2026年の国会でも「事業主証明がなくても労災請求は可能」と答弁

この点については、2026年5月29日の衆議院厚生労働委員会でも取り上げられています。

厚生労働省の労働基準局長は、 「事業主証明がない場合でも労災請求は可能としております」 と答弁しています。

さらに、労働者等からの労災請求や事業主の意見申出を受けた上で、 労働基準監督署長が必要な調査を行い、支給・不支給の決定を行うと説明しています。

労働者が請求できるかどうかと、 会社がその労災請求についてどのような意見を持っているかは、 分けて考える必要があります。

衆議院|第221回国会 厚生労働委員会 第13号(2026年5月29日)

動画でも解説しています

会社が「労災とは認めない」と言っても、会社が認定を決めるわけではない

事業主証明について誤解されやすいのが、 「会社が証明する=会社が労災だと認める」 という考え方です。

労災保険給付について、業務上か業務外かを最終的に判断するのは会社ではありません。

労働者本人が労災保険給付を請求し、 労働基準監督署が必要な調査を行ったうえで、 労働基準監督署長が支給・不支給を決定します。

したがって、「会社が労災ではないと言っているから申請できない」わけではありません。

「会社へ事業主証明を頼むこと自体が怖い」場合はどうする?

精神障害の労災では、ここが特に重要です。

パワハラ、公開叱責、退職強要、長期間の嫌がらせなどが原因となっている場合、 その会社へ本人が直接連絡すること自体が大きな負担になることがあります。

会社名を見たり、会社から電話がかかってきたりするだけで、 動悸、不安、過呼吸、フラッシュバックなどの症状が強くなる方もいます。

では、そのような場合に 「会社へ一度も事業主証明を依頼せず、最初から証明欄を空欄にして提出できる」 と言い切れるのでしょうか。

ここは断定しすぎないことが大切です

2026年9月時点で確認した公的資料では、 「会社への連絡が怖い」「精神的負担が大きい」という事情があれば、 会社へ一度も証明を依頼しなくても必ず受理しなければならない、 と全国一律に明記した資料までは確認できませんでした。

一方で、厚生労働省は広く 「事業主証明が得られない場合」であっても労災請求できると案内しています。

そのため、会社への直接連絡が症状悪化につながるなどの事情がある場合には、 無理に会社へ連絡する前に、労働基準監督署へ具体的な事情を説明し、 事業主証明を得られない状態での提出方法を相談する ことが考えられます。

「一度は会社へ証明を依頼してください」と言われることもある

実務では、労働基準監督署へ相談した際に、 「まず会社へ事業主証明を依頼してください」 と案内されることがあります。

しかし、今回確認した労災保険法、労災保険法施行規則、 厚生労働省の公表資料、2026年の国会答弁では、

  • 必ず一度会社へ証明を依頼しなければならない
  • 会社に拒否された実績がなければ請求書を受け付けない
  • 拒否された日時や回答を証明しなければ請求できない

といったことを、独立した法定の請求受理要件とする明文は確認できませんでした。

ただし、労災保険法施行規則上、 事業主証明を受けることが原則となっていることには注意が必要です。

そのため、 「法律に会社への依頼義務が書かれていないから、最初から会社へ依頼しなくてよい」 と一般化するのも適切ではありません。

「事業主証明を得られない事情の申立書」は必須?

事業主証明なしで請求する場合、 「なぜ証明を得られないのか」を説明する資料を求められることがあります。

ただ、2026年9月時点で確認した労災保険法、施行規則、 厚生労働省の労災保険給付関係様式には、

  • 事業主証明拒否理由申立書
  • 事業主証明取得不能申立書
  • 会社連絡困難申立書

といった名称の全国共通の法定様式は確認できませんでした。

また、特定名称の申立書を必ず添付しなければ 労災請求できないという法令上の規定も確認できません。

実際には、証明を得られない事情について、 労基署と相談しながら別紙などで具体的に説明することがあります。

重要なのは書類の名前よりも、なぜ事業主証明を得られないのかを具体的に説明できることです。

事業主証明なしで提出すると、その後どうなる?

事業主証明がないからといって、 労基署が会社側の事情を確認しないということではありません。

特に精神障害の労災では、請求書の受付後、 労基署が調査方針を立て、請求人だけでなく、 事業主、主治医、上司、同僚などから資料収集や聴取を行って事実関係を確認します。

厚生労働省が公表している 「精神障害事案の標準的な調査・決定の流れ」でも、 請求書受付後に事業主へ資料提出を依頼し、 関係者から事実確認を行う流れが示されています。

つまり、「本人が会社から事業主証明をもらうこと」と 「労基署が会社を調査すること」は別です。

事業主証明なしで請求したとしても、 労災調査の中で会社へ連絡や照会が行われる可能性があります。

厚生労働省|精神障害事案の標準的な調査・決定の流れ

当事務所でも、事業主証明なしで提出したケースがあります

こもれび社労士事務所では、 精神障害の労災申請について全国からご相談をお受けしています。

実際のご相談では、 「会社に証明をお願いしてください」と簡単には言えないケースがあります。

会社とのやり取りそのものが症状悪化につながっている場合や、 ハラスメントの相手がいる会社へ連絡することに強い恐怖を感じている場合などです。

当事務所でご相談を受けた精神障害の労災事案の中には、 会社への直接連絡が大きな心理的負担となる事情を具体的に整理し、 事業主証明を得られない理由を記載した資料を添えて、 事業主証明欄を空欄とした請求書を提出し、 労基署で請求として受け付けられたケースがあります。

ただし、これは個別の事情を踏まえた対応例です。 全国すべての労働基準監督署で、同じ事情について同じ取扱いが行われることを意味するものではありません。

また、当事務所で実際に使用している事情説明資料の書式や具体的な作成方法については、 個別案件の内容を踏まえて作成しているため、公開していません。

1分でポイントを確認

事業主証明がないことと、労災が認められるかどうかは別

もう一つ大切なのは、 事業主証明の有無と労災認定の結論を混同しないことです。

会社が証明したからといって、必ず労災認定されるわけではありません。

反対に、会社が証明を拒否したからといって、 それだけで労災が不支給になるわけでもありません。

精神障害の労災では、発病の有無・時期、 発病前のおおむね6か月間に起きた業務上の出来事、 心理的負荷の強度、業務以外の心理的負荷、 個体側要因などを調査したうえで判断されます。

会社への連絡が怖いときに、先に整理しておきたいこと

会社への直接連絡が難しい場合は、 単に「会社と話したくない」と伝えるだけではなく、 なぜ連絡が困難なのかを具体的に整理しておくことが重要です。

  • どのような職場の出来事があったのか
  • 会社や上司との接触によってどのような症状が出るのか
  • 現在の診断名や療養状況
  • 会社への連絡によって症状悪化が懸念される事情
  • これまで会社とどのようなやり取りがあったのか
  • 労基署から会社へ必要な照会・調査を行うことについてどう考えているか

こうした事情を整理したうえで、 管轄の労働基準監督署へ事情を説明し、 事業主証明が得られない状態で請求書を提出する場合の取扱いを確認することが考えられます。

よくある質問

Q. 会社が「労災ではない」と言ったら申請できませんか?

いいえ。会社が労災と認めるかどうかによって、 労働者の請求権そのものが決まるわけではありません。 労災保険給付を請求し、支給・不支給を判断するのは労基署長です。

Q. 事業主証明欄が空欄でも提出できますか?

厚生労働省は、会社の廃止や会社による証明拒否などにより、 事業主証明が得られない場合であっても労災請求はできると案内しています。

ただし、給付請求書では事業主証明が原則として求められるため、 証明欄を空欄とする事情や提出方法について、 管轄の労働基準監督署へ事情を説明し、相談することが大切です。

証明が得られない理由、会社との関係、現在の症状や療養状況などについて、 事情説明や追加資料を求められることがあります。

Q. 一度は会社へ証明を頼まないといけませんか?

今回確認した法令や厚生労働省の公表資料では、 「一度会社へ依頼すること」自体を独立した法定の受理要件とする明文は確認できませんでした。 一方、事業主証明を受けることは原則とされています。

会社への直接連絡が難しい事情がある場合は、 先に労基署へ具体的な事情を説明して提出方法を相談するのが安全です。

Q. 「会社に連絡するのが怖い」という理由だけで証明なしにできますか?

その事情だけで必ず証明依頼を省略できると全国一律に定めた公式資料までは、 2026年9月時点で確認できませんでした。

ただし、精神障害の症状やハラスメントの経緯などから会社への直接接触が難しい場合には、 その事情を具体的に労基署へ説明し、 事業主証明を得られない状態での提出方法を相談することが考えられます。

Q. 会社に知られずに最後まで労災申請できますか?

精神障害の労災では、労基署が事業主や上司・同僚などへ資料提出や事実確認を行うことがあります。 そのため、本人が会社へ事業主証明を依頼しなかったとしても、 労災調査の過程で会社に連絡が行われる可能性があります。

まとめ

  • 事業主証明は原則として求められる
  • ただし、事業主証明が得られなくても労災請求はできる
  • 2026年の国会答弁でも「事業主証明がない場合でも労災請求は可能」と確認されている
  • 会社が労災と認めなくても、労働者本人は労災請求できる
  • 会社へ一度依頼することを独立した法定受理要件とする明文は確認できない
  • 一方、心理的負担があれば必ず依頼を省略できるという全国一律の公式ルールも確認できない
  • 会社への直接連絡が難しい場合は、事情を具体的に整理して労基署へ相談する
  • 事業主証明なしで提出しても、調査の中で労基署から会社へ照会されることがある

労災申請は、会社に認めてもらってから行う手続ではありません。

特に精神障害の労災では、 「会社に連絡するのが怖いから申請できない」と一人で諦めてしまう前に、 どのような方法で請求できるのかを整理することが大切です。

会社への連絡が難しい精神障害の労災申請もご相談ください

こもれび社労士事務所では、うつ病・適応障害・PTSDなど、 精神障害の労災申請について全国からご相談をお受けしています。

「会社に事業主証明を頼むのが怖い」 「会社が労災を認めてくれない」 「証明欄が空欄のままでも申請できるのか分からない」 といった段階でも、まず現在の状況を整理します。

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参考資料・一次資料

※本記事は2026年9月時点で確認できる法令・厚生労働省公表資料・国会会議録等をもとに、 一般的な制度と実務上の考え方を解説したものです。 個別事案における提出方法や必要資料は事情によって異なるため、 実際の請求では管轄の労働基準監督署等への確認が必要になる場合があります。

ここまで読んで、まだ迷っていても大丈夫です。

まずは、今の状況を整理するところからで大丈夫です

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そんな段階でも大丈夫です。

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