上司の暴言・叱責で労災が認められた事例はある?最近の傾向と判断ポイント

上司の暴言・叱責で労災が認められた事例はある?最近の傾向と判断ポイント
上司からの暴言、強い叱責、人格否定でうつ病や適応障害になったとき、多くの方が気にされるのが「自分と似たケースで労災が認められた例はあるのか」という点です。
結論からいうと、上司等からの身体的攻撃・精神的攻撃等のパワーハラスメントを受け、精神障害の労災として支給決定されているケースは実際にあります。ただし、労災は「ひどい言葉を言われたか」だけではなく、言葉の内容、継続性、会社の対応、発症までの流れを総合して見ます。
このページで分かること
最近の労災補償状況では、パワハラが精神障害の主な出来事になっています
厚生労働省が公表した令和6年度「過労死等の労災補償状況」では、精神障害に関する事案の請求件数は3,780件、支給決定件数は1,055件とされています。その中で、出来事別の支給決定件数は「上司等から、身体的攻撃、精神的攻撃等のパワーハラスメントを受けた」が224件で最も多い項目とされています。
参考:厚生労働省「令和6年度『過労死等の労災補償状況』を公表します」
| 項目 | 令和6年度の公表内容 | この記事での見方 |
|---|---|---|
| 精神障害の請求件数 | 3,780件 | メンタル不調で労災を検討する方は増えています。 |
| 精神障害の支給決定件数 | 1,055件 | 認められているケースは実際にありますが、個別事情の整理が必要です。 |
| 出来事別で最多 | 上司等からの身体的攻撃・精神的攻撃等のパワーハラスメント 224件 | 上司の暴言・叱責・人格否定は、労災上も重要なテーマです。 |
ただし、統計上「パワーハラスメント」として支給決定されていることと、どの暴言でも必ず認められることは別です。労災では、発病前の出来事、発症時期、医療経過、証拠、会社対応などを個別に確認します。
認められやすいケースに共通するポイント
厚生労働省の心理的負荷評価表では、上司等による精神的攻撃について、人格や人間性を否定するような精神的攻撃が執拗に行われた場合や、必要以上に長時間にわたる厳しい叱責、他の労働者の面前での大声の威圧的な叱責などが重要な例として示されています。
参考:厚生労働省「精神障害の労災認定基準に『パワーハラスメント』を明示します」
人格否定がある
「使えない」「価値がない」「向いていない」など、業務上の注意を超えて、人間性や存在価値を否定する言葉がある場合は重要です。
繰り返し・継続がある
一度だけではなく、週に何度も、数週間から数か月続いている場合は、心理的負荷の強さを整理するうえで重要になります。
人前で叱責されている
会議、朝礼、他の社員の前、チャット上などで大声・公開の形で叱責されている場合、単なる注意より重く見られることがあります。
会社に相談しても改善しない
人事や相談窓口に伝えたのに対応がない、改善されない、かえって状況が悪化した場合は、会社対応の有無として重要です。
発症までの流れが近い
暴言が続いた後に、不眠、動悸、食欲低下、通院、休職などが出ている場合、出来事と発症の時期関係を整理します。
他の出来事が重なっている
長時間労働、異動、孤立、仕事を外される、退職圧力などが重なると、全体として心理的負荷を見ていく必要があります。
実際には、 「LINE通知が怖い」 「出勤前に吐き気がする」 「日曜の夜になると眠れない」 「会社の近くに行くだけで動悸がする」 という状態で相談につながる方もいます。
代表的な事例パターン
ここでは、公表資料や裁判例の解説で問題になりやすい事情をもとに、上司の暴言・叱責で相談につながりやすい代表パターンを整理します。実際の認定は、個別の証拠や医療経過をもとに労基署が判断します。
事例パターン1|人前で大声の叱責が反復されたケース
業務報告やミスのたびに、他の社員の前で大声で叱責される状態が繰り返されるケースです。裁判例の解説でも、他の労働者の面前での大声の威圧的な叱責が反復・継続していた事情が、強い心理的負荷の判断で問題になった例があります。
参考:益川総合法律事務所「パワハラでの労災認定を認めた裁判例について」
- 他の社員の前で叱責されていた
- 大声・威圧的な態様だった
- 一度ではなく、一定期間続いていた
- 出勤前の不安、不眠、通院などにつながっていた
事例パターン2|人格否定・侮辱を含む言動が続いたケース
「仕事ができない」という注意を超えて、人格や人間性を否定する言葉、侮辱的な言葉が繰り返されるケースです。労災上は、業務上明らかに必要性がない、または業務目的を大きく逸脱した精神的攻撃が執拗に行われたかが重要になります。
- 「お前は必要ない」「人としておかしい」など、人格に向けた言葉がある
- ミスの指摘ではなく、本人そのものを否定している
- 言動が継続している
- 家族への相談、日記、通院時の説明などに経過が残っている
事例パターン3|会社に相談しても改善されなかったケース
一つひとつの出来事が「中」程度に見える場合でも、会社に相談しても適切な対応がなく、改善されなかった場合は、労災上の評価で重要になることがあります。人事、上司の上司、相談窓口、産業医などに伝えた履歴がある場合は、経過を整理しておくことが大切です。
- 相談した日付や相手が分かる
- 相談後も暴言や叱責が続いた
- 会社が把握していたのに改善されなかった
- 相談後に異動・孤立・業務外しなどが起きた
事例パターン4|暴言に加えて、異動・業務量増加・孤立が重なったケース
実務では、暴言だけでなく、異動、未経験業務、業務量の急増、長時間労働、孤立、退職圧力などが重なっていることがあります。この場合は、「暴言だけで認められるか」ではなく、発病前の複数の出来事を全体として整理することが重要です。
- 異動後に上司の叱責が強まった
- 未経験業務を任され、できないことを責められ続けた
- 仕事を外されたり、情報共有から外されたりした
- 退職を迫る言葉と人格否定が一緒にあった
「叱責があったのに弱い」と見られやすいケースもあります
反対に、上司から強い言い方をされたとしても、労災上は弱く見られやすいケースもあります。たとえば、単発の注意、業務上必要な指導の範囲内と見られる発言、人格否定や執拗性が確認しにくい場合です。
これは「本人がつらくなかった」という意味ではありません。労災では、本人のつらさに加えて、客観的に見て仕事による強い心理的負荷だったといえるかが問われます。
| 弱く見られやすい事情 | 整理で確認したいこと |
|---|---|
| 一度だけの強い口調 | その後も続いたか、他の出来事が重なっていないかを確認します。 |
| 業務上の注意と見られる発言 | 注意の内容が業務に関係していたか、言い方が社会通念を超えていたかを確認します。 |
| 発症時期との関係が遠い | 不眠、通院、休職がいつ始まったかを時系列で整理します。 |
| 裏付け資料がほとんどない | 録音以外に、LINE、メモ、日記、家族への相談、診療録につながる情報がないか確認します。 |
自分のケースでまず整理したいこと
認められた事例とまったく同じかどうかを探すより、まずは自分のケースが労災上どのように見えるかを整理することが大切です。
出来事の整理
- 誰から言われたか
- どんな言葉だったか
- いつ頃から始まったか
- どのくらいの頻度で続いたか
- 人前だったか、1対1だったか
- 相談しても改善されなかったか
体調・証拠の整理
- 不眠や動悸がいつから出たか
- いつ受診したか
- 診断名、休職診断書の有無
- LINE、メール、チャット、録音の有無
- 家族や同僚に相談した記録
- 勤怠、欠勤、休職、退職の流れ
最初からきれいにまとめる必要はありません。「2026年1月頃から上司に怒鳴られています」「録音はありませんが、家族に相談したLINEがあります」「会社に言うのが怖くて止まっています」だけでも、整理の入口になります。
よくある質問
認められた事例と同じ言葉を言われていないと無理ですか?
同じ言葉である必要はありません。労災では、言葉の内容、反復・継続、叱責の態様、会社対応、発症までの流れなどを総合して見ます。
上司の叱責だけでは認められにくいですか?
通常の業務指導の範囲と見られる場合は弱く見られやすいです。ただし、人格否定、公開の場での威圧的叱責、長時間の叱責、執拗な反復、会社が対応しなかった事情がある場合は、見方が変わることがあります。
録音がありません。それでも相談できますか?
相談できます。録音がなくても、メモ、日記、LINE、メール、通院記録、家族への相談、勤怠や休職の経過などから整理できることがあります。
まだ労災申請するか決めていません。相談してもよいですか?
大丈夫です。最初から申請を決める必要はありません。まずは、労災上どこが論点になりそうか、今ある資料で何を整理できるかを確認します。
自分のケースに近いか分からない段階でも、まずは整理できます
認められた事例を読んでも、「自分の場合はどうなのか」が分からないことは多いです。上司の暴言・叱責・人格否定で心身の不調が出ている場合は、今の状況を短く送ってください。
STEP1
LINEで今の状況を送る。短文・箇条書き・スクショだけでも大丈夫です。
STEP2
出来事、時系列、証拠、通院状況を確認し、労災上の論点を整理します。
STEP3
必要な場合のみ、書類作成サポートの内容と費用を事前にご案内します。
※ 相談内容を無断で会社・労基署へ共有することはありません。※ 本記事は一般的な情報提供を目的としたものであり、個別事案の労災認定を保証するものではありません。
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