傷病手当金が不支給になったらどうする?|審査請求の期限と裁決例を解説

傷病手当金が不支給になった場合の審査請求の期限と確認ポイントを解説するイメージ
傷病手当金が不支給になっても、それで必ず終わりではありません。不支給理由を確認し、審査請求を検討できる場合があります。

「傷病手当金の不支給通知が届いた。もう終わりなのだろうか」
「医師は仕事を休む必要があると書いてくれたのに、なぜ不支給なの?」
「不支給を覆す方法はある?」

傷病手当金が生活を支えている方にとって、不支給通知が届いたときの不安は大きいと思います。

結論からいうと、傷病手当金が不支給になっても、それで必ず終わりというわけではありません。 不支給処分に納得できない場合には、社会保険審査官に対する「審査請求」という不服申立ての制度があります。

ただし、審査請求をすれば自動的に不支給が覆るわけでもありません。 大切なのは、なぜ不支給になったのかを確認し、その判断の前提となった事実や評価のどこに問題があるのかを、診療録、主治医の意見、勤務資料などの具体的な資料とともに整理することです。

この記事では、傷病手当金の不支給通知が届いたときに最初にすること、審査請求の期限、実際に不支給処分が取り消された裁決例、追加資料の考え方まで解説します。

結論|傷病手当金が不支給になっても「終わり」ではない

傷病手当金の不支給決定は、健康保険法上の「保険給付に関する処分」です。

そのため、不支給処分に不服がある場合には、健康保険法189条に基づき、社会保険審査官へ審査請求することができます。

さらに、社会保険審査官の決定にも不服がある場合には、社会保険審査会への再審査請求という手続があります。

不支給通知

社会保険審査官への審査請求

社会保険審査会への再審査請求

実際に、社会保険審査会の公表裁決には、傷病手当金の不支給処分が取り消された事例があります。

ただし、重要なのは「審査請求という制度がある」ことだけではありません。

自分の不支給理由が何なのか、その判断を覆すためには何を示す必要があるのかを見極めることが重要です。

不支給通知が届いたら、まず何をすればいい?

不支給通知が届いた直後に、いきなり長い審査請求理由書を書く必要はありません。

まず確認したいのは、次の点です。

  1. 不支給通知を受け取った日を記録する
  2. どの期間が不支給になったのか確認する
  3. 不支給理由を確認する
  4. 申請時に提出した資料と照らし合わせる
  5. 審査請求の期限を確認する

特に重要なのが、「なぜ不支給になったのか」です。

不支給通知だけでは、判断の詳しい前提まで分からないことがあります。

厚生局の案内でも、不支給理由の詳細については、まず処分を行った協会けんぽ支部や健康保険組合などの保険者に問い合わせることが案内されています。

「不支給だった」だけでは、審査請求の争点はまだ分かりません。
保険者がどの事実を、どのように評価して不支給にしたのかを確認することが出発点です。

審査請求はいつまで?|原則3か月以内

社会保険審査官への審査請求には期限があります。

原則として、 処分があったことを知った日の翌日から3か月以内 です。

通常は、不支給決定通知を受け取った日を基準に考えます。 ただし、個別の送達状況によって確認が必要になるため、通知書だけでなく封筒や配達記録も保管しておくと安心です。

そのため、不支給通知が届いたら、

  • 通知書
  • 封筒
  • 配達日が分かる記録

を保管しておくことをおすすめします。

「主治医の意見書が完成してから審査請求しよう」
「資料が全部そろってから出そう」

と準備を続けている間に、審査請求期限を過ぎないよう注意が必要です。

期限を過ぎても「正当な理由」が認められる場合には例外がありますが、どのような事情でも認められるわけではありません。

資料収集と期限管理は、並行して進めることが大切です。

動画で短く解説|傷病手当金が不支給になったら?

傷病手当金が不支給になった場合の審査請求には、原則3か月の期限があります。 不支給通知が届いたときに、まず確認したいポイントを短い動画で解説しています。

審査請求では何を争うの?

審査請求で重要なのは、

「私は本当につらかった」
「医師も休んだ方がいいと言っていた」
「不支給は納得できない」

という気持ちだけを伝えることではありません。

審査請求では、原処分のどの判断が問題なのかを具体的に整理します。

たとえば、「療養のため労務不能ではない」と判断された場合であれば、

  • 当時どのような症状があったのか
  • どのような治療を受けていたのか
  • 本来どのような仕事をしていたのか
  • その症状では、なぜその仕事ができなかったのか
  • 実際に出勤や就労をしていたのか
  • 給与や報酬を受けていたのか

などを整理します。

「病気だったか」だけではなく、「その期間、本来の仕事に就くことができる状態だったか」が問題になるということです。

医師が「労務不能」と書いていれば必ず支給される?

主治医の意見は、傷病手当金の判断において重要な資料です。

しかし、 医師が「労務不能」と証明していれば、それだけで必ず傷病手当金が支給されるわけではありません。

公表裁決を見ると、医師の意見だけではなく、

  • 診療録
  • 診察時の具体的な症状
  • 検査結果
  • 治療内容
  • 処方・服薬状況
  • 実際の仕事内容
  • 出勤記録
  • 賃金の支払い状況

などとの整合性を含めて判断されています。

たとえば、医師の労務不能判断が本人の申告だけを前提としており、診療録や客観的な所見による裏付けが乏しい場合には、その証明だけでは十分ではないと判断された裁決もあります。

主治医に追加の意見をお願いする場合も、単に「労務不能だった」と結論を書いてもらうだけではなく、当時の診療録に基づいて、どの症状によって本来業務のどの部分が困難だったのかが具体的に説明されていることが重要になります。

実際に不支給処分が取り消された裁決例

社会保険審査会の公表裁決には、傷病手当金の不支給処分が取り消された事例があります。

ここでは、審査請求・再審査請求を考えるうえで参考になる事例を紹介します。

事例1|リハビリ出勤をしていたが「労務可能」とはされなかった事例

抑うつ状態等について傷病手当金が争われた事例では、請求人が職場へ出ていたことなどから、労務可能だったのではないかが問題となりました。

しかし、実際の状況を確認すると、

  • 本来業務である製本機械の操作をしていなかった
  • 会社が復職計画を作成していた
  • 通勤訓練等の段階だった
  • 特定の業務を担当していなかった
  • 通常の勤怠管理を受けていなかった
  • 給与が支払われていなかった

といった事情がありました。

社会保険審査会は、単に「職場に来ていた」という外形だけではなく、 実際に本来業務へ復帰していたのか を具体的に検討し、原処分の一部を取り消しました。

ポイント: 「出勤した」という事実だけではなく、その出勤が通常勤務だったのか、復職訓練だったのかという実態が重要です。

確認したい資料: 復職計画、実際の担当業務、勤怠記録、給与明細、会社の説明資料

事例2|通院回数が少なくても不支給処分が取り消された事例

左自然気胸・強直性脊椎炎が問題となった事例では、資格喪失時の傷病や労務不能の状態などが争われました。

この事例では、

  • 肺活量などの客観的な検査結果
  • 胸郭の機能障害
  • 主治医等の医学的見解
  • 営業や作業を伴う実際の仕事内容

などが総合的に検討されています。

また、通院回数が少ないことについても、医師から 医療上行える治療が限られていたためであるという趣旨の説明 がありました。

その結果、単に「通院回数が少ない」という事情だけではなく、病態・検査結果・仕事内容を含めて判断され、不支給処分が取り消されました。

ポイント: 通院回数が少ない場合でも、その理由と医学的な状態を具体的に説明できるかが重要です。

確認したい資料: 診療録、検査結果、主治医の医学的説明、仕事内容が分かる資料

事例3|うつ病の「社会的治癒」が認められた事例

うつ病について、以前の傷病手当金の支給開始から法定給付期間を超えているとして不支給となった事例では、 以前のうつ病と今回のうつ病を同じ傷病として扱うのか が問題になりました。

通院・服薬自体は続いていましたが、

  • 抗うつ薬が減量されていた
  • 服薬が再発予防的な治療の範囲になっていた
  • 長期間、通常勤務を続けていた
  • 出勤簿・賃金台帳上、欠勤がなかった
  • 通常の社会生活・職業活動を行っていた

などの事情が確認されました。

社会保険審査会はこれらを総合し、社会的治癒を認め、不支給処分を取り消しました。

ポイント: 「通院・服薬を続けていた=以前の病気がずっと継続していた」と機械的に判断されるわけではなく、治療の性質や実際の勤務状況も検討されます。

確認したい資料: 出勤簿、賃金台帳、治療・服薬の経過、再燃前の通常勤務状況

取消し事例から分かる「覆すための資料」

公表裁決を横断して見ると、取消し事例では、 診断書の結論だけではなく、複数の資料が相互に整合していること が重要だったことが分かります。

争点 確認したい資料
労務不能 診療録、主治医意見、仕事内容、勤務記録、検査結果
リハビリ出勤 復職計画、出勤記録、担当業務、給与・勤怠資料
通院回数が少ない 診療録、医師による通院間隔の医学的説明、検査結果
社会的治癒 出勤簿、賃金台帳、服薬内容、治療内容、再発までの経過
退職後の継続給付 資格喪失時の診療録、傷病名、労務不能状態、その後の経過

どの資料が必要かは、不支給理由によって異なります。

そのため、最初から大量の資料を集めるのではなく、 まず不支給理由を特定し、その判断に関係する資料を集める という順序が重要です。

審査請求で新しい資料を追加できる?

審査請求では、当初の傷病手当金申請時に提出していなかった資料を追加提出することもできます。

争点に応じて、

  • 主治医の意見書
  • 診療録
  • 診療報酬明細書
  • 処方・調剤記録
  • 本人の申立書
  • 勤務表・出勤簿
  • 賃金台帳・給与明細
  • 雇用契約書
  • 具体的な仕事内容を説明する資料
  • 復職計画

などが検討対象になります。

ただし、 「新しい診断書を出せば覆る」というものではありません。

特に過去の労務不能状態を争う場合には、後から作成した意見書であっても、当時の診療録や症状経過に基づいて説明されているかが重要です。

また、追加資料は提出できるとしても、遅くなればよいというものではありません。 提出期限や審理の進行については担当先の案内を確認し、できるだけ早く提出することが大切です。

処方薬を受け取っていなかった場合は?

精神疾患の傷病手当金では、処方箋が交付されていたものの、薬局で薬を受け取っていなかったことが問題になる場合があります。

実際に、適応障害・うつ病について、処方薬の未調剤を含む療養実態が問題となった社会保険審査会の裁決があります。

ただし、 「薬を受け取らなかった=必ず不支給」ではありません。 実際の療養状況や労務不能の状態などを含めて個別に判断されます。

労災との関係が理由で傷病手当金を確認される場合もある

傷病手当金は原則として業務災害以外の病気やけがを対象とするため、医師が「職場ストレス」「仕事が原因」などと記載している場合には、業務上・業務外について確認されることがあります。

ただし、 医師が「職場ストレス」と記載しただけで、自動的に労災になるわけでも、傷病手当金が自動的に不支給になるわけでもありません。

保険者から確認を受けることがあっても、そのことだけで直ちに傷病手当金が不支給になるわけではありません。 労災保険の対象となる業務上の疾病に当たるかは、別途、具体的な事実関係に基づいて判断されます。

審査請求でやってはいけないこと

審査請求を検討するときには、次のような対応には注意が必要です。

  • 不支給理由を確認しないまま「納得できない」とだけ主張する
  • 3か月の審査請求期限を過ぎる
  • 診断書だけを提出し、仕事内容や勤務実態を確認しない
  • 通院回数の少なさや服薬中断など、不利に見える事実を隠す
  • 医師に当時の診療録と異なる症状や期間を書いてもらう
  • 後から作成する申立書で事実を誇張する
  • 出勤簿、給与明細、診療録などの客観資料と矛盾する主張をする

特に、主治医へ追加の意見をお願いする場合には、 「結論を変えてもらう」のではなく、当時の診療録に基づいて医学的な理由を具体化してもらう という考え方が重要です。

審査請求でも認められなかったら?|再審査請求

社会保険審査官の決定にも不服がある場合には、社会保険審査会へ再審査請求することができます。

再審査請求の期限は原則として、 審査官の決定書謄本が送付された日の翌日から2か月以内 です。

再審査請求でも、請求人と保険者双方の主張・資料をもとに審理されます。

また、健康保険の処分について取消訴訟を検討する場合には、原則として社会保険審査官の決定を経る必要があります。一方、審査官決定後に必ず再審査請求まで行わなければ取消訴訟を提起できないという仕組みではありません。

「審査請求をすれば何割くらい覆る?」

不支給通知が届くと、「審査請求をした場合、どのくらいの確率で覆るのか」が気になると思います。

しかし、今回確認した厚生労働省等の公表資料では、 傷病手当金だけを抽出した審査請求・再審査請求の認容率を示す信頼できる統計は確認できませんでした。

また、公表されている社会保険審査会の裁決例は、すべての傷病手当金事件を網羅したものとは確認できません。

したがって、

  • 「審査請求をすれば○割が覆る」
  • 「医師の意見書を出せばほぼ認められる」
  • 「この事例に似ているから認められる」

といった判断は適切ではありません。

社会保険審査官の決定はすべて公開されている?

社会保険審査官段階の個別の決定について、今回確認した厚生局等の公開資料では、傷病手当金の決定を体系的に検索できる決定集は確認できませんでした。

また、社会保険審査会が公開している裁決例についても、すべての裁決が公開されているとは確認できません。

そのため、本記事で紹介している裁決は、 公開されている一次資料で確認できた事例 です。

公表された取消事例の数だけから、傷病手当金の審査請求全体の認容率を計算することはできません。

まとめ|不支給理由を特定し、判断の前提を一つずつ確認する

  • 傷病手当金が不支給になっても、それで必ず終わりというわけではありません。
  • 不支給処分に不服がある場合は、社会保険審査官へ審査請求できます。
  • 審査請求は原則として、処分を知った日の翌日から3か月以内です。
  • まず保険者に、不支給となった具体的な理由を確認することが重要です。
  • 医師の労務不能証明だけで、必ず不支給が覆るわけではありません。
  • 診療録、症状経過、仕事内容、勤務実態、賃金資料などとの整合性が重要です。
  • 審査請求では、新たな主治医意見書や診療録、勤務資料などを追加提出することもできます。
  • 資料がそろうのを待って審査請求期限を過ぎないよう注意が必要です。

不支給通知が届いても、争う余地がある場合があります。
ただし、「審査請求をすれば覆る」のではなく、不支給理由を特定し、その前提となった事実認定や評価に問題があることを具体的な資料で示せるかが重要です。

傷病手当金の不支給・審査請求でお困りの方へ

傷病手当金の審査請求では、不支給通知だけを見るのではなく、申請時の資料、診療経過、仕事内容、勤務記録などを確認し、 何を争点として、どの資料で主張を組み立てるか を整理する必要があります。

社会保険労務士は、傷病手当金など社会保険に関する審査請求・再審査請求について、法令上、代理人として関与できる場合があります。

ただし、実際にどのような支援が適切かは、事案の内容、資料の状況、他の手続との関係などによって異なります。 不支給理由の整理、争点の確認、理由書や資料の組み立てから検討することが大切です。

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ご相談の際は、不支給決定通知書の表面・裏面、申請書の控え、協会けんぽ・健康保険組合とのやり取りなどをご用意いただくと確認がスムーズです。個人情報を伏せた状態でも構いません。

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参考資料

※本記事は、2026年9月時点で確認できる法令、厚生労働省・地方厚生局の公開資料、社会保険審査会の公表裁決等をもとに、傷病手当金の不支給と審査請求について一般的に解説したものです。個別の処分が取り消されるかどうかは、不支給理由、対象期間、診療経過、仕事内容、勤務実態、提出資料その他の事情によって異なります。また、公表裁決例はすべての事件を網羅するものではありません。

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