精神障害なら何でも障害年金の対象?ICD-10「Fコード」と認定対象の考え方

「精神科に通院していれば、どの病気でも障害年金の対象になりますか?」
「診断書にF31、F43、F44などと書いてありますが、この数字は何でしょうか?」
「日常生活に大きな支障があれば、病名に関係なく障害年金を受給できるのでしょうか?」
精神疾患による障害年金について調べていると、「ICD-10コード」や「Fコード」という言葉を目にすることがあります。
結論からいうと、障害年金の等級は、診断名やFコードだけで決まるものではありません。
しかし、だからといって、
「精神疾患で日常生活が大変なら、傷病名や疾病分類は関係ない」
というわけでもありません。
精神の障害では、まずその傷病が障害認定基準上どのように取り扱われるのかを確認し、そのうえで、症状、治療経過、日常生活能力、就労状況などを総合的に見ていく必要があります。
特に、PTSD、適応障害、解離性障害などが含まれるF4群では、障害年金特有の重要な取扱いがあります。
この記事では、障害年金の精神の障害で目にするICD-10の「Fコード」とは何か、Fコードによって障害年金の取扱いにどのような違いがあるのかを、社会保険労務士の視点から分かりやすく解説します。
この記事のポイント
- Fコードは精神・行動の障害を分類するためのコードです
- 「F○○なら何級」とコードだけで障害等級が決まるわけではありません
- 一方で、傷病によって障害認定基準上の取扱いが異なることがあります
- 特にF4群の神経症については「原則として認定対象外」という重要な取扱いがあります
- ただし、精神病の病態を示している場合には例外的な取扱いがあります
- 最終的には傷病名、病態、治療経過、日常生活能力、就労状況などを整理して確認することが重要です
精神障害なら何でも障害年金の対象になる?
障害年金では、精神疾患も障害状態によっては認定の対象となります。
ただし、
「精神科へ通院している」
「精神疾患の診断名が付いている」
「仕事を休んでいる」
という事実だけで、障害年金が認定されるわけではありません。
精神の障害では、傷病の原因、症状、治療経過、具体的な日常生活状況などを踏まえて、障害の程度が判断されます。
精神の障害用診断書では、たとえば、
- 適切な食事ができるか
- 身辺の清潔を保てるか
- 金銭管理や買い物ができるか
- 通院や服薬が適切にできるか
- 他人との意思疎通や対人関係を保てるか
- 安全保持や危機対応ができるか
- 社会生活に必要な手続などができるか
といった日常生活能力についても確認されます。
また、就労している場合には、仕事をしているかどうかだけではなく、仕事内容、勤務状況、職場で受けている援助や配慮なども重要になります。
ここだけを見ると、
「それなら病名は何でもよく、日常生活能力だけを見ればよいのでは?」
と思われるかもしれません。
しかし、障害年金では、傷病によって認定基準上の取扱いが異なる場合があります。
ICD-10の「Fコード」とは?
ICDとは、疾病や健康状態を分類するための国際的な分類です。
ICD-10では、精神および行動の障害がF00~F99として分類されています。
そのため、精神科の診断書などでは、
双極性感情障害 F31
PTSD F43
解離性障害 F44
というように、診断名とともに「F」から始まるコードが記載されることがあります。
障害年金の精神の障害用診断書にも、①「障害の原因となった傷病名」の欄に、傷病名とその傷病に対応するICD-10コード」を記載する欄があります。
障害年金で目にする主なFコード
ICD-10では、精神および行動の障害は大きく次のように分類されています。 ただし、Fコードだけを見て障害年金の対象・対象外が決まるわけではありません。
| 分類 | 主な内容・例 | 障害年金での主な見方 |
|---|---|---|
| F0 | 症状性を含む器質性精神障害。認知症などが含まれます | 病状、治療経過、日常生活・社会生活への支障などを踏まえて判断します |
| F1 | 精神作用物質使用による精神及び行動の障害。F10にはアルコール使用による精神・行動の障害が含まれます | 精神作用物質の使用による精神障害については、病態や治療状況なども含め、認定基準上の取扱いを確認する必要があります |
| F2 | 統合失調症、統合失調症型障害及び妄想性障害。F20は統合失調症です | 症状、治療経過、日常生活能力、就労状況などを総合的に判断します |
| F3 | 気分(感情)障害。F31は双極性感情障害、F32はうつ病エピソード、F33は反復性うつ病性障害です | 症状の程度、病相の経過、日常生活能力、就労状況などを総合的に判断します |
| F4 | 神経症性障害、ストレス関連障害及び身体表現性障害。F43、F44などが含まれます | 神経症は原則として認定対象外という取扱いがあります。ただし、精神病の病態を示す場合には例外があります |
| F6 | 成人の人格及び行動の障害。人格障害などが含まれます | 人格障害は原則として認定対象外とされています。ほかの精神障害が併存する場合には、併存する傷病の病態や障害状態との関係を踏まえて、個別に判断します |
| F7 | 知的障害 | 知的機能だけでなく、日常生活能力や社会生活上の支障などを踏まえて判断します |
| F8 | 心理的発達の障害。自閉スペクトラム症などの発達障害に関係する分類です | 発達特性による日常生活・社会生活上の支障、援助の必要性などを踏まえて判断します |
注意:
この表は、精神疾患のICD-10分類と、障害年金で確認する主な論点を簡略化したものです。
Fコードだけで、障害年金を受給できるか、何級に該当するかが決まるわけではありません。
特に注意したいのが、障害認定基準では、神経症および人格障害について 「原則として認定の対象とならない」 という取扱いが定められていることです。
ただし、神経症については、臨床症状から精神病の病態を示している場合には、 統合失調症または気分(感情)障害に準じて取り扱われます。
また、ICD-10の分類と障害認定基準上の取扱いを、コードだけで機械的に対応させることも適切ではありません。 実際の傷病名や病態については、主治医の医学的判断を前提として確認する必要があります。
F4が障害年金で特に重要になる理由
障害年金の精神の障害を考えるうえで、特に注意したいのがF4群です。
ICD-10では、F4は、
「神経症性障害、ストレス関連障害及び身体表現性障害」
のグループです。
たとえば、
- F43:重度ストレスへの反応及び適応障害
- F44:解離性[転換性]障害
などが含まれます。
PTSDや適応障害はF43、解離性障害はF44に分類されます。
神経症は「原則として認定の対象とならない」
国民年金・厚生年金保険の障害認定基準には、神経症について重要な取扱いがあります。
神経症は、症状が長期間持続し、一見重症であっても、原則として認定の対象とならない
とされています。
つまり、F4群の傷病については、
「日常生活にこれだけ大きな支障があるから、あとは2級・3級のどちらになるかを判断すればよい」
と単純に考えることはできません。
まず、神経症について定められている「原則認定対象外」という取扱いとの関係を確認する必要があります。
ただし「F4=絶対に障害年金を受給できない」ではありません
ここが非常に重要です。
障害認定基準には、神経症を原則として認定対象外とする一方で、例外も定められています。
なお、ICD-10上のF4群と、障害認定基準で用いられる「神経症」の範囲が、すべての場面で機械的に同じ意味になるわけではありません。実際の診断書の傷病名、症状、病態については、主治医の医学的判断を前提に確認する必要があります。
臨床症状から判断して精神病の病態を示している場合には、統合失調症または気分(感情)障害に準じて取り扱うとされています。
そのため、
- PTSDだから絶対に障害年金は受給できない
- 適応障害なら必ず対象外になる
- 解離性障害(F44)と書いてあれば請求しても意味がない
と一律に判断することも適切ではありません。
逆に、
- 症状が重い
- 仕事ができない
- 家族から多くの援助を受けている
という事情だけで、F4の取扱いを飛ばして認定されると考えることも適切ではありません。
その傷病が実際にどのような病態を示しているのかという医学的な評価が重要になります。
「精神病の病態を示している」とはどういう意味?
「精神病の病態」と聞くと、一般の方には分かりにくい言葉だと思います。
これは、本人や家族、社労士が、
「症状が重いから精神病の病態だろう」
「この症状があるから気分障害の病態だろう」
と判断するものではありません。
診察内容、症状、診療録、治療経過などを踏まえて、どのような精神医学的な病態を示しているのかを判断するのは医師です。
障害年金では、その医学的判断を前提として、診断書に記載された病態や日常生活状況などを確認していくことになります。
F44の診断書を例に考える
たとえば、精神の障害用診断書の①「障害の原因となった傷病名」に、
解離性障害(F44)
と記載されているケースを考えてみます。
日常生活に大きな支障がある場合でも、それだけで直ちに障害等級に該当するかを判断できるわけではありません。
F44はF4群に分類されるため、障害認定基準上の神経症の取扱いとの関係を確認する必要があります。
一方、F44と記載されていることだけを理由に、
「障害年金の対象外だから申請しても意味がない」
と一律に判断することも適切ではありません。
医師が臨床症状から、統合失調症等または気分(感情)障害の病態を示していると医学的に判断する場合には、認定基準上の例外的な取扱いを検討することになります。
精神の障害用診断書の①傷病名と⑬備考も確認ポイント
日本年金機構の「障害年金の診断書(精神の障害用)記載要領」では、F4群について診断書上の記載方法も示されています。
①「障害の原因となった傷病名」に、ICD-10コードがF4で始まる傷病名が記載されている場合で、統合失調症、統合失調症型障害及び妄想性障害、または気分(感情)障害の病態を示していると医師が判断するときは、⑬「備考」欄にその旨と、示している病態のICD-10コードを記載する取扱いが示されています。
これは、障害認定基準にある「神経症であっても精神病の病態を示す場合」の取扱いを、診断書上でも確認できるようにするための記載と考えると分かりやすいでしょう。
注意:
「⑬備考に気分(感情)障害のコードを書いてもらえば障害年金が認定される」という意味ではありません。
どの傷病名・病態に該当するかは、診療録、症状、治療経過などを踏まえた医師の医学的判断です。
F31なら認定されやすく、F44なら認定されにくい?
このような説明を読むと、
「それならF44よりF31と書いてもらった方がよいのでは?」
と思われる方もいるかもしれません。
しかし、障害年金を受給するために、
- 認定されやすそうな診断名へ変えてもらう
- 別のFコードを書いてもらう
- 後から付いた診断名を根拠なく過去へ遡らせる
という考え方は適切ではありません。
傷病名や病態を診断するのは医師です。
社労士が行うのは、診断名を選ぶことではなく、これまでの診療経過や資料を整理し、障害年金の認定基準との関係で確認すべき点を整理することです。
F10のアルコール関連障害はF4とは別のグループ
たとえば、アルコール使用による精神および行動の障害は、ICD-10ではF10に分類されます。
F10はF1群であり、F4群とは異なる分類です。
そのため、F4の神経症について定められている「原則として認定対象外」という取扱いを、そのままF10へ当てはめるものではありません。
ただし、F10だから自動的に障害年金の対象になるという意味でもありません。
アルコール関連の精神障害についても、具体的な病態、治療経過、日常生活や社会生活への影響などを踏まえて検討する必要があります。
「病名だけで決まらない」の正しい意味
精神疾患の障害年金について、
「障害年金は病名だけでは決まりません」
という説明を目にすることがあります。
これは正しいのですが、意味を誤解しないことが大切です。
「病名だけで決まらない」とは、
「病名は何でもよく、日常生活能力だけで認定する」
という意味ではありません。
より正確には、
まず、その傷病が障害認定基準上どのように取り扱われるのかを確認する。
そのうえで、病態、症状、治療経過、日常生活能力、就労状況などを総合的に確認する。
という考え方になります。
だからこそ、診断書に記載された傷病名や「ICD-10コード」も重要な確認項目の一つになります。
診断名やFコードが途中で変わっている場合はどうする?
精神科・心療内科の治療では、診断名が途中で変わることがあります。
たとえば、
適応障害 → うつ病
抑うつ状態 → 双極性感情障害
解離性障害 → その後の診療経過から別の精神疾患も診断される
といったケースです。
この場合も、現在の診断名だけを見て過去の傷病名を機械的に変更するものではありません。
当時の診療録や診断書、その後の治療経過などを踏まえて、各時点でどのような病態だったのかを医師が医学的に判断することになります。
診断名が途中で変わった場合や、PTSD・適応障害・解離性障害などが関係するケースについては、こちらの記事でも詳しく解説しています。
PTSD・適応障害・解離性障害は障害年金の対象?診断名が変わった場合の注意点
診断書にFコードがあったら、どこを確認すればいい?
精神の障害用診断書がお手元にある場合、Fコードだけを見て受給できる・できないを判断するのではなく、診断書全体を確認することが大切です。
たとえば、
- ①「障害の原因となった傷病名」とICD-10コード
- 発病から現在までの病歴・治療経過
- 現在の症状・状態像
- 日常生活能力の判定
- 日常生活能力の程度
- 就労状況
- ⑬備考欄に記載されている内容
などを確認します。
また、過去と現在で診断名が違う場合には、受診状況等証明書、過去の診断書、紹介状、診療録なども含めて時系列で整理すると、確認すべき点が見えやすくなります。
「F○○だから対象外」と病名だけで諦めないでください
インターネットで自分の傷病名やFコードを検索して、
「この病気では障害年金は無理らしい」
と早い段階で諦めてしまう方もいらっしゃいます。
しかし、
Fコードだけで、障害年金の受給可否を判断することはできません。
一方で、
「日常生活が大変だから病名は何でもよい」
と考えることも適切ではありません。
傷病名、ICD-10コード、認定基準上の取扱い、実際の病態、日常生活状況などを一つずつ整理することが重要です。
精神疾患の傷病名・Fコードが気になる方へ
こもれび社労士事務所では、精神疾患による障害年金について、
- 自分の診断名が障害年金の対象になるのか分からない
- 診断書にF31・F43・F44などのコードが書かれている
- PTSD・適応障害・解離性障害などが関係している
- 初診時と現在で診断名が変わっている
- 複数の精神疾患を診断されている
- 過去の診断書と現在の診断書の傷病名が違う
- 主治医へ診断書を依頼する前に資料を整理したい
といったご相談にも対応しています。
障害年金を受給するために診断名を変更してもらうのではなく、傷病名、診断の変遷、診療経過、日常生活状況などを整理し、障害認定基準との関係で確認すべきポイントを一緒に整理していきます。
「Fコードを調べても、自分の場合が対象になるのか分からない」
「病名が途中で変わっていて、どう整理すればよいか分からない」
という段階でもご相談いただけます。
参考:公的資料
※この記事について
この記事は、精神疾患のICD-10コードと障害年金の一般的な考え方を解説したものです。Fコードだけで障害年金の受給可否や障害等級が決まるものではありません。実際の認定は、傷病名、病態、治療経過、日常生活状況、就労状況、診断書その他の資料などを踏まえて個別に判断されます。また、傷病名や病態の診断は医師が行うものです。
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