【原処分理由書から学ぶ①】実際に労災保険審査官から届いた原処分理由書から学ぶ、精神障害の労災認定のポイント

この記事では、実際に労災保険審査官から送付された原処分理由書(個人情報等は伏せています)をもとに、精神障害の労災認定で重視されるポイントを社労士の視点から解説します。
精神障害の労災申請では、「何があったか」だけでなく、その出来事が労災の認定基準上どのように評価されるかが重要です。
先日、審査請求を担当している案件で、労災保険審査官から送付された原処分理由書(原処分庁意見書)を確認し、それに対する追加意見書を作成する機会がありました。
個別の事案の詳細には触れませんが、実際の原処分理由書を読み込むことで、労基署がどのような視点で出来事を評価しているのか、また申請書を作成する段階でどのような点を意識すべきかについて、多くの学びがありました。
この記事では、実際の原処分理由書から見えてきた、精神障害の労災認定で本当に見られているポイントを整理します。
労災認定では「出来事の書き方」だけでなく「評価のされ方」が重要
精神障害の労災認定では、厚生労働省の認定基準に基づき、発病前おおむね6か月間に起きた業務上の出来事について、心理的負荷の強度が評価されます。
ここで大切なのは、単に「つらい出来事があった」と書くだけでは足りないということです。
精神障害の労災認定では、出来事について次のような観点から評価されます。
- 業務上必要な指導だったのか
- 一時的な出来事だったのか、継続的な出来事だったのか
- 本人の主張を裏付ける客観的資料があるか
- 発症や受診、休職との時間的なつながりがあるか
- 全体として心理的負荷が「強」といえるか
といった観点から判断します。
そのため、労災申請では、出来事を感情的に書くのではなく、認定基準に沿って整理することが非常に重要になります。
① 複数の出来事が「バラバラに評価」されてしまうことがある
原処分理由書を読んで改めて感じたのは、労基署の判断では、一つひとつの出来事が切り分けて評価されやすいということです。
たとえば、復職後に複数のやり取りがあり、その積み重ねによって精神的に追い込まれていった場合でも、原処分理由書では特定の日の面談や発言を中心に評価している例が見られることがあります。
しかし、精神障害の労災認定では、関連して生じた出来事については、全体として心理的負荷を評価すべき場面があります。
そのため、申請書を作成する段階では、
- いつから心理的負担が始まったのか
- どの出来事がどのようにつながっているのか
- 最終的にどの出来事で症状が悪化したのか
を時系列で整理しておくことが重要です。
一つひとつの出来事だけを見ると「中」や「弱」と評価される場合でも、一連の経過として見れば、心理的負荷の評価が変わる可能性があります。
② 「業務上必要な指導」と評価されると、心理的負荷は軽く見られやすい
原処分理由書では、会社側の発言や対応について、「業務上の必要性があった」「業務指導の範囲内である」と評価されていることがあります。
このように評価されると、本人にとって非常につらい出来事であっても、心理的負荷の評価が相対的に低く記載されることがあります。
もちろん、業務上必要な指導がすべて労災上問題になるわけではありません。
しかし、次のような事情がある場合には、単なる業務指導とはいえない可能性があります。
- 本人の希望しない勤務形態の変更を迫られた
- 退職を示唆する発言があった
- 複数名から一方的に話をされた
- 個室など心理的圧迫を受けやすい場面で行われた
- 発言の内容が業務指導の範囲を超えていた
申請書では、「上司にひどいことを言われた」と書くだけではなく、その発言がなぜ業務上必要な指導の範囲を超えていたのかを整理する必要があります。
③ 会社提出の様式8号や意見書が、労働者側の証拠になることもある
今回、特に重要だと感じたのは、会社が提出した書類の中に、労働者側の主張を裏付ける記載が含まれている場合があるという点です。
労災申請では、会社の証明や意見書があると、「会社側の資料だから不利なのではないか」と不安に思われる方もいます。
しかし、実際には必ずしもそうとは限りません。
会社が提出した様式8号や意見書の中に、
- 本人が退職を迫られたこと
- 勤務形態の変更を求められたこと
- 出来事の直後に体調不良となったこと
- 会社側も出来事の存在を認識していたこと
などが記載されている場合、その内容は労働者側の主張を補強する資料になり得ます。
そのため、審査請求や再審査請求では、会社提出資料を丁寧に読み込み、本人の主張と整合する部分を見つけることが重要です。
労災申請では、会社の書類を「相手側の資料」と決めつけるのではなく、内容を一つひとつ確認し、どの部分が本人の主張を裏付けているのかを検討する必要があります。
④ 発症・受診・休職のタイムラインは非常に重要
精神障害の労災認定では、業務上の出来事と発症との時間的な関係も重要です。
たとえば、
- ある面談の直後から眠れなくなった
- 翌日から出勤前に吐き気や下痢が出た
- 数日以内に精神科を受診した
- その後すぐに休職に至った
という流れがある場合、出来事と発症との時間的近接性を示す重要な事情になります。
ただし、これも単に「その後つらくなった」と書くだけでは不十分です。
申請書では、
- いつ症状が出たのか
- どのような症状だったのか
- いつ医療機関を受診したのか
- 医師からどのように診断されたのか
- いつから休職したのか
を時系列で明確にしておく必要があります。
特に精神障害の労災では、症状の出現から受診、休職までの流れが整理されているかどうかで、審査上の見え方が大きく変わります。
⑤ 個室面談・複数名対1名という「場面の圧迫性」も整理しておく
労災認定では、発言内容だけでなく、その出来事がどのような状況で行われたかも重要です。
同じ言葉であっても、
- 通常の業務連絡として言われたのか
- 個室に呼び出されて言われたのか
- 複数名に囲まれて言われたのか
- 突然の面談で一方的に伝えられたのか
によって、心理的負荷の程度は変わります。
しかし、原処分理由書では、発言内容は検討されていても、面談の場面設定や心理的圧迫性への言及が見られないことがあります。
そのため、申請書では「何を言われたか」だけでなく、
- どこで言われたのか
- 誰が同席していたのか
- 何人対何人だったのか
- 事前に説明があったのか
- 本人が反論できる状況だったのか
まで整理しておくことが大切です。
今回、私が改めて感じたこと
実際に労災保険審査官から送付された原処分理由書を読み込み、それに対する追加意見書を作成したことで、認定基準だけでは見えてこない「実際にどのような点が評価されるのか」を改めて考える機会となりました。
それは、精神障害の労災申請では、「事実を書く」だけでは足りないということです。
もちろん、事実を正確に書くことは大前提です。
しかし、それに加えて、
- 認定基準上、どの出来事に当たるのか
- 心理的負荷の強度をどう評価すべきか
- 関連する出来事を一連の流れとして整理できているか
- 会社資料や医療資料との整合性があるか
- 発症・受診・休職までの時間的連続性があるか
という視点で整理することが必要です。
労基署は、申請者の気持ちだけで判断するわけではありません。
認定基準に沿って、出来事の内容、状況、継続性、客観的資料、発症との関係を総合的に見ています。
だからこそ、申請書を作成する段階から、認定基準に沿った整理をしておくことがとても重要です。
不支給になってからではなく、最初の申請段階から整理しておく
審査請求では、原処分理由書を確認したうえで反論することができます。
しかし、最初の労災申請の段階で、出来事の整理や証拠の位置づけが不十分だと、不支給後に反論する負担は大きくなります。
そのため、精神障害の労災申請では、最初から次の点を意識しておくことが大切です。
- 出来事を時系列で整理する
- 出来事を一つずつ孤立させず、一連の流れとして整理する
- 会社資料・LINE・メモ・診断書などとの整合性を確認する
- 発症、受診、休職までの流れを明確にする
- 認定基準上、どの心理的負荷に当たるのかを意識する
これらを意識することで、単なる事情説明ではなく、労災認定の判断枠組みに沿った申請書に近づけることができます。
まとめ:労災申請は最初の整理が大切です
実際の原処分理由書を読むと、労基署がどのような視点で精神障害の労災申請を判断しているのかが見えてきます。
今回、特に重要だと感じたのは、次の点です。
- 複数の出来事がバラバラに評価されることがある
- 「業務上必要な指導」と評価されると心理的負荷が軽く見られやすい
- 会社提出資料が、労働者側の証拠になることもある
- 発症・受診・休職までの時間的近接性が重要になる
- 個室面談や複数名対1名といった場面の圧迫性も整理すべき
精神障害の労災申請では、「つらかったこと」を書くだけではなく、その出来事が認定基準上どのように評価されるのかを意識する必要があります。
今回は一つの事案を通じて感じたポイントを整理しましたが、今後も実際の原処分理由書から学んだ「パワハラの評価」「長時間労働の評価」などについて、順にお伝えしていきたいと思います。
こもれび社労士事務所では、精神障害の労災申請について、出来事の整理、証拠の確認、申請書類の作成までサポートしています。
会社に言う前の段階でも、まだ申請するか迷っている段階でも大丈夫です。
最初の申請段階から認定基準を意識して整理することで、その後の審査や審査請求にもつながる土台を作ることができます。
精神障害の労災申請でお悩みの方へ
パワハラ、退職勧奨、復職後のトラブル、勤務変更、長時間労働などで体調を崩した場合、労災申請の対象になる可能性があります。
「これで労災になるのか分からない」という段階でも構いません。まずは現在の状況を一緒に整理していきましょう。
ここまで読んで、まだ迷っていても大丈夫です。

まずは、今の状況を整理するところからで大丈夫です
「まだ相談するか決めていない」
「何を書けばいいか分からない」
そんな段階でも大丈夫です。
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