労基署は精神障害の労災で何を調査する?会社・本人・病院への確認内容を社労士が解説

労基署は精神障害の労災で何を調査するのか、会社・本人・病院への確認内容を解説

精神障害の労災申請をすると、労働基準監督署は、申請した本人だけでなく、会社や医療機関などにも必要な確認を行います。

しかし、初めて労災申請をする方にとっては、 「労基署から何を聞かれるのだろう」 「会社が事実を否定したらどうなるのだろう」 「病院にはどこまで確認されるのだろう」 と、不安に感じることも少なくありません。

この記事では、精神障害の労災申請後に、労働基準監督署が本人・会社・病院に対してどのような確認を行うのかを、社労士の実務経験を踏まえて分かりやすく解説します。

この記事のポイント

  • 労基署は本人の申立てだけでなく、会社や医療機関の資料も確認します。
  • 主な確認事項は、発病の有無・発病時期・業務による心理的負荷・業務以外の事情です。
  • 会社が出来事を否定しても、その回答だけで結論が決まるわけではありません。
  • 追加資料の提出を求められることは、必ずしも不利な兆候ではありません。

精神障害の労災で調査される3つのポイント

精神障害が労災として認められるためには、原則として、次の要件を満たす必要があります。

  1. 認定基準の対象となる精神障害を発病していること
  2. 発病前おおむね6か月の間に、業務による強い心理的負荷が認められること
  3. 業務以外の心理的負荷や個体側要因によって発病したとは認められないこと

そのため、労働基準監督署の調査も、大きく分けると次の3点を確認するために行われます。

  • いつ、どのような精神障害を発病したのか
  • 仕事上、どのような出来事や負担があったのか
  • 仕事以外に、発病へ大きく影響した事情がなかったか

なお、発病前おおむね6か月より前に始まった出来事であっても、ハラスメントやいじめなどが発病時まで繰り返されている場合には、一連の出来事として評価されることがあります。

「6か月より前の出来事は、すべて無関係になる」という意味ではありません。

本人に確認されること

申請後、まず本人に対して、申立書の提出や事情聴取が行われることがあります。

具体的な方法は労基署や事案によって異なりますが、主に次のような内容が確認されます。

発病までの経過

  • いつ頃から不眠、食欲低下、抑うつ、不安などの症状が現れたか
  • 初めて医療機関を受診した日はいつか
  • どのような診断を受けたか
  • 休職や欠勤を開始した時期
  • 症状が強くなった時期と、その直前に起きた出来事

仕事上の出来事

  • 上司や同僚からどのような言動を受けたか
  • 配置転換や担当業務の変更があったか
  • 長時間労働や休日出勤があったか
  • 達成困難なノルマや過大な責任を負わされたか
  • 仕事を与えられない、無視されるなどの状況があったか
  • 出来事が単発だったのか、繰り返されていたのか
  • 会社へ相談したか、その後どのような対応があったか

仕事以外の事情

精神障害の労災調査では、必要に応じて、仕事以外の出来事についても確認されることがあります。

  • 家族関係や近親者の病気・死亡
  • 離婚や別居などの生活上の変化
  • 借金などの経済的な問題
  • 過去の精神疾患の受診歴
  • 既往歴や治療状況

これらを聞かれたからといって、直ちに労災が否定されるわけではありません。

業務上の出来事、業務以外の出来事、医学的な経過などを総合的に確認するための調査です。分からないことを無理に推測せず、覚えている範囲で事実を伝えることが大切です。

会社に確認されること

労働基準監督署は、本人の申立内容を確認するため、会社に対して回答や資料の提出を求めることがあります。

求められる内容は事案によって異なりますが、一般的には次のようなものが考えられます。

本人の所属や業務に関する資料

  • 会社概要
  • 組織図
  • 本人の所属部署、役職、指揮命令関係
  • 担当業務や業務量
  • 配置転換や担当変更の経緯
  • 人事評価、業務指示、指導記録

労働時間に関する資料

  • タイムカード
  • 勤怠システムの記録
  • 入退館記録
  • パソコンの使用記録
  • 業務メールの送受信記録
  • シフト表や休日出勤の記録
  • 賃金台帳

労働時間が争点となる場合には、タイムカードだけでなく、メール、パソコン、入退館など複数の記録を照らし合わせることがあります。

ハラスメントや対人関係に関する確認

  • 問題となった発言や行為があったか
  • 誰がその場にいたか
  • 本人から相談や申告があったか
  • 会社が事実確認を行ったか
  • 注意、配置変更、接触制限などの措置を行ったか
  • 同様の相談やトラブルが過去にもなかったか

会社からは、本人の申立てと異なる説明が提出されることもあります。

その場合でも、労基署は双方の説明だけでなく、客観的な記録や関係者の話なども照らし合わせて事実関係を検討します。

病院・主治医に確認されること

精神障害の労災認定では、医学的な判断も重要です。

そのため、本人の同意を得たうえで、必要に応じて主治医や医療機関に対して、医学的な意見や診療内容の確認が行われます。

確認の対象となり得る事項には、次のようなものがあります。

  • 傷病名
  • 発病時期
  • 初診時の症状
  • 本人が診察時に話していた仕事上の出来事
  • 症状の経過
  • 治療内容
  • 休業の必要性や労務不能期間
  • 既往歴や過去の受診歴

必要に応じて、主治医の意見書や診療録などが確認される場合もあります。

診断書に「仕事が原因」と書かれていない場合

診断書に「業務が原因である」と記載されていないだけで、労災申請ができなくなるわけではありません。労災に該当するかどうかは、主治医だけで決定するものではなく、労働基準監督署が、業務上の出来事や医学的資料などを調査したうえで判断します。

一方で、初診時にどのような症状や出来事を主治医へ伝えていたかは、発病時期や発病経過を検討する資料の一つになり得ます。

診察では、労災認定に有利になる表現を求めるのではなく、実際に起きた出来事と症状の経過を正確に伝えることが重要です。

証拠や関係者への確認

精神障害の労災では、事故の映像のような明確な証拠が残っていないケースも多くあります。

そのため、労基署は、書面だけでなく、必要に応じて同僚、上司、元従業員などの関係者から事情を聴くことがあります。

資料として検討される可能性があるものには、次のようなものがあります。

  • 録音データ
  • メール
  • LINEや社内チャット
  • 業務日報
  • 手帳や日記
  • 会社への相談メール
  • 人事や相談窓口からの回答
  • 診断書、診療録、服薬記録
  • 勤怠記録
  • 同僚などの申述

証拠は、数が多ければよいとは限りません。

「いつ、誰が、どこで、何をしたのか」と、その資料がどの事実を裏付けるのかを整理して提出することが大切です。

会社が「そんな事実はない」と否定したらどうなる?

精神障害の労災申請では、会社が本人の申立内容を否定することもあります。

しかし、会社が否定したという理由だけで、労災が不支給になるわけではありません。

労基署は、本人と会社のどちらか一方の説明をそのまま採用するのではなく、次のような事情を総合的に確認します。

  • 双方の説明に一貫性があるか
  • 録音やメールなどの客観的資料と一致しているか
  • 第三者の説明と整合するか
  • 出来事の直後に相談や受診をしているか
  • 診療録に当時の出来事や症状が記録されているか
  • 勤怠記録や業務記録と説明が合っているか

会社の回答と本人の申立てが食い違うこと自体は、珍しいことではありません。

大切なのは、会社を強く批判する文章を作ることではなく、出来事を日時、場所、関係者、発言内容、その後の影響に分けて、具体的に説明できるようにすることです。

追加資料を求められることもある

申請書や申立書を提出した後に、労基署から追加説明や追加資料を求められることがあります。

例えば、次のような場合です。

  • 出来事の日付や順序が分かりにくい
  • 本人と会社の説明が食い違っている
  • 労働時間を確認できる資料が不足している
  • 録音の中で重要な部分が特定されていない
  • 発病時期と仕事上の出来事の関係を確認する必要がある
  • 申立書に記載した人物との関係が分かりにくい

追加資料を求められたからといって、「疑われている」「不支給になりそうだ」という意味とは限りません。

労基署が事実関係を判断するために、不足している情報を補う通常の調査である場合もあります。

回答期限が設けられている場合は、内容を確認し、準備に時間がかかるときは担当者へ早めに相談するとよいでしょう。

申請前後に整理しておきたいもの

精神障害の労災申請では、申請書を提出することだけでなく、出来事と証拠を整理することが重要です。

1.出来事を時系列で整理する

次の項目に分けて整理すると、労基署にも伝わりやすくなります。

  • 年月日または時期
  • 場所
  • 関係者
  • 具体的な発言や行為
  • その場にいた人
  • 会社へ相談した内容
  • 会社の対応
  • 体調への影響

2.出来事と証拠を対応させる

資料を大量に提出するだけでは、何を証明する資料なのかが伝わりにくくなることがあります。

例えば、 「○月○日の上司の発言について、録音の○分○秒付近に記録されている」 「配置転換の時期について、人事通知とメールで確認できる」 というように、出来事と資料を対応させます。

3.症状の経過を整理する

  • 眠れなくなった時期
  • 食欲が低下した時期
  • 欠勤や遅刻が増えた時期
  • 医療機関を予約した時期
  • 初診日
  • 休職開始日

仕事上の出来事と症状の変化を時系列で整理すると、発病までの経過を説明しやすくなります。

労基署の調査でよくある誤解

「調査は不利な事情を探すために行われる」?

労基署の調査は、不支給にするための材料だけを探すものではありません。

労災保険給付を行うかどうかを判断するため、本人、会社、医療機関、関係者などから必要な情報を集め、事実関係を確認する手続です。

「会社が認めなければ申請できない」?

労災に該当するかどうかを最終的に判断するのは会社ではなく、労働基準監督署長です。

会社が事業主証明に応じない場合や、業務上の出来事を否定している場合でも、労基署へ相談し、請求書を提出できる場合があります。

「証拠が一つでも不足すると認定されない」?

精神障害の労災は、一つの資料だけで判断されるとは限りません。

本人と関係者の説明、メール、録音、勤怠、診療録など、複数の資料を総合して検討されます。

明確な録音がないからといって、直ちに申請できないわけではありません。

「申立書を一度提出したら説明を補えない」?

申請後に、労基署から質問を受けたり、追加資料の提出を求められたりすることがあります。

もっとも、後から説明を大きく変更すると、内容の一貫性について確認を受ける可能性があります。最初の段階から、分からないことを推測せず、客観的な事実を丁寧に整理しておくことが重要です。

まとめ|労基署は本人・会社・病院の情報を総合して判断する

精神障害の労災申請後、労働基準監督署は、主に次の内容を確認します。

  • 精神障害の発病の有無と発病時期
  • 仕事上、どのような出来事や心理的負荷があったか
  • 会社の組織、業務内容、労働時間、対応状況
  • 医療機関での診断、症状、治療経過
  • 仕事以外に発病へ大きく影響した事情がなかったか

労基署は、本人の申立書だけ、会社の回答だけ、診断書だけで判断するのではなく、関係資料や事情聴取の内容を総合的に検討します。

そのため、申請前後には、出来事を時系列で整理し、それぞれの出来事を裏付ける資料を対応させておくことが大切です。

また、申請後に追加資料を求められても、それだけで不利な状況になったとは限りません。求められている内容を確認し、客観的な資料に基づいて落ち着いて対応しましょう。

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参考資料

※本記事は、精神障害の労災調査に関する一般的な考え方を解説したものです。実際の調査方法、順序、提出を求められる資料は、個別の事案や労働基準監督署の判断によって異なります。

ここまで読んで、まだ迷っていても大丈夫です。

まずは、今の状況を整理するところからで大丈夫です

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