人前で叱責されたら労災になる?精神障害の労災認定で確認したいポイント

人前で叱責されたら労災になる?精神障害の労災認定で確認したいポイント
上司から、他の社員がいる前で大声で叱責された。 何人もの同僚がいる事務所で、繰り返し厳しく注意された。 人前で能力や人格を否定するようなことを言われた。
こうした状況が続き、眠れない、気分が落ち込む、会社に行くのが怖い、仕事に集中できないなどの症状が出てくると、 「人前での叱責が原因なら、精神障害の労災になるのだろうか」 と考える方もいると思います。
結論からいうと、 人前で叱責されたという事実だけで、直ちに精神障害の労災と認定されるわけではありません。
一方で、厚生労働省の精神障害の労災認定基準では、 他の労働者の面前での大声による威圧的な叱責や、必要以上に長時間にわたる厳しい叱責なども、 パワーハラスメントに関する心理的負荷を評価する際の具体例として示されています。
そのため、 人前だったかどうかだけでなく、発言の内容、声量や態様、頻度、継続期間、業務上の必要性、会社へ相談した後の対応、症状の変化などを全体として整理すること が重要です。
この記事のポイント
「人前で叱責された=必ず労災」というものではありません。
ただし、人前での威圧的な叱責が繰り返されていた場合などは、
精神障害の労災認定における心理的負荷の評価で重要な事情になることがあります。
人前で叱責されたというだけで、直ちに労災になるわけではありません
職場では、上司が部下に対して業務上必要な注意や指導を行うことがあります。
そのため、
- 他の社員がいる場所で注意された
- 上司から厳しく指摘された
- 仕事上のミスについて叱られた
という事情だけで、直ちにパワーハラスメントや労災と判断されるわけではありません。
精神障害の労災認定では、 実際にどのような出来事があり、その心理的負荷がどの程度だったのか を具体的に確認します。
つまり、「人前だった」という一点だけを見るのではなく、 その場で何を言われたのか、どのような態様だったのか、何度繰り返されたのか、その後どうなったのかまで含めて整理する必要があります。
厚生労働省の認定基準では「人前での威圧的な叱責」も具体例に示されています
厚生労働省の「心理的負荷による精神障害の認定基準」では、 上司等からのパワーハラスメントについて、心理的負荷の強度を判断する具体例が示されています。
その中には、
- 人格や人間性を否定するような精神的攻撃
- 必要以上に長時間にわたる厳しい叱責
- 他の労働者の面前での大声による威圧的な叱責
- 私生活に過度に立ち入るような言動
などを、反復・継続するなどして執拗に受けた場合が挙げられています。
ここで重要なのは、 「人前だったから強い」と機械的に判断されるわけではない という点です。
どのような発言だったのか、態様や手段がどの程度だったのか、反復・継続していたのかなど、 実際の状況に即して評価されます。
人前での叱責について確認したい6つのポイント
精神障害の労災申請で人前での叱責が問題になる場合、 少なくとも次のような点を整理してみましょう。
1.どこで、誰の前で叱責されたのか
まず、 叱責が行われた場所と周囲の状況 を確認します。
たとえば、
- 自分の席の前だった
- 事務所全体に聞こえる場所だった
- 朝礼や会議の場だった
- 複数の同僚がいる前だった
- 部下や後輩もいる前だった
- 取引先や顧客がいる前だった
などです。
可能であれば、 「人前だった」というだけではなく、 誰がその場にいたのか まで整理しておくと、状況を第三者に伝えやすくなります。
2.声量・口調・時間など、どのような態様だったのか
次に確認したいのが、 叱責の態様です。
たとえば、
- 大声だった
- 威圧的な口調だった
- 机を叩くなどの行為が伴っていた
- 至近距離で強く詰め寄られた
- 長時間にわたって注意された
- 一方的に言われ続け、十分に説明できなかった
といった事情です。
同じ「注意」という言葉でも、 短時間の業務上の指摘と、 長時間にわたる威圧的な叱責では、 出来事の内容が異なります。
申立書では、 「ひどく怒鳴られた」という評価だけでなく、実際にどのような状況だったのか を具体化することが大切です。
3.業務上の注意だったのか、人格・能力を否定する発言まであったのか
上司からの発言については、 何について注意されたのか と どのような言葉が使われたのか を分けて考えます。
たとえば、
- 書類の作成方法について指摘された
- 報告が遅いことについて注意された
- 業務上のミスについて説明を求められた
という内容と、
- 人格そのものを否定するような発言
- 能力そのものを侮辱するような発言
- 年齢や経歴を持ち出した発言
- 家族や私生活に踏み込むような発言
とでは、整理の仕方が異なります。
「業務上の指導だった」という会社側の説明があったとしても、 実際にどのような言動が行われていたのか を確認することが重要です。
4.一度だけだったのか、繰り返されていたのか
精神障害の労災申請では、 頻度や継続性も大切な確認事項です。
たとえば、
- 一度だけだったのか
- 複数回あったのか
- 一定期間繰り返されていたのか
- 特定の時期から急に増えたのか
- 人前での注意と別室での注意の両方があったのか
などを整理します。
正確な回数を覚えていない場合には、 無理に数字を作る必要はありません。
録音、メール、予定表、勤務記録、本人メモなどから確認できる範囲と、 本人の記憶による部分を分けながら時系列にしていきます。
5.会社に相談した後、状況は改善したのか
人前での叱責などについて、 別の上司、人事部門、相談窓口などへ相談している場合は、 相談した事実だけでなく、その後どうなったのか まで確認します。
厚生労働省の認定基準では、 心理的負荷として「中」程度の精神的攻撃等であっても、 会社に相談したにもかかわらず適切な対応がなく、 改善されなかった場合などが「強」の具体例として示されています。
そのため、
- いつ誰に相談したか
- どのような内容を伝えたか
- 会社からどのような回答があったか
- 配置変更や注意などの対応があったか
- 相談後も同じ状況が続いたか
- 相談後に状況が悪化したか
などを整理しておくことが大切です。
6.叱責が続いた時期に、どのような症状が出ていたのか
精神障害の労災申請では、 職場での出来事だけでなく、 症状や受診に至る経過 も整理します。
たとえば、
- 眠れなくなった
- 食欲が落ちた
- 朝になると会社へ行くことが怖くなった
- 仕事中に集中できなくなった
- ミスや物忘れが増えた
- メールや書類作成が進まなくなった
- 休日も職場のことを考えてしまった
- 欠勤するようになった
- 医療機関を受診した
- 休職することになった
などです。
単に「精神的につらかった」とまとめるより、 仕事や日常生活にどのような変化が出たのか を時系列で整理すると、経過を伝えやすくなります。
会社から「業務上必要な指導だった」と言われたら?
人前での叱責について労災を考える方の中には、 会社から 「パワハラではなく業務上必要な指導だった」 と言われているケースもあります。
しかし、 会社がどのように評価しているかだけで、精神障害の労災認定が決まるわけではありません。
精神障害の労災認定では、 厚生労働省の認定基準に基づき、 実際に発生した出来事と心理的負荷が個別に評価されます。
そのため、
- 何について指導されたのか
- その指導に業務上の必要性があったのか
- 発言や態様が必要な範囲を超えていなかったか
- 人格否定など業務と直接関係しない発言がなかったか
- どの程度繰り返されていたか
など、 結論ではなく事実を具体的に整理すること が重要です。
人前での叱責について残しておきたい資料
人前での叱責が続いている場合は、 可能な範囲で、後から状況を確認できる資料を残しておきます。
たとえば、
- 録音データ
- LINEやチャット
- メール
- 本人が当時作成したメモ
- 会社へ相談したメールや相談記録
- 同席していた人が分かる資料
- 勤務表やスケジュール
- 診断書や受診に関する資料
などがあります。
本人メモを作る場合には、
- 日時
- 場所
- 相手
- どのようなことがあったか
- 誰がその場にいたか
- その後どのような状態になったか
を記録しておくと整理しやすくなります。
録音が複数ある場合
最初からすべてを全文文字起こしするのではなく、
まず録音日時・長さ・相手・主な内容を一覧化して、
どの出来事に対応する録音なのかを整理する方法があります。
「人前で叱責された」だけでなく、出来事全体を時系列で見ることが重要です
精神障害の労災申請では、 人前での叱責だけを切り取って考えるのではなく、
- いつ頃から始まったのか
- どのような頻度で続いたのか
- どのような場所や態様だったのか
- 会社へ相談したか
- 相談後に改善したか
- 症状がどのように変化したか
- どのような証拠が残っているか
を一つの流れとして整理することが大切です。
精神障害の労災申請で申立書や証拠をどのように整理すればよいかについては、 次の記事で詳しく解説しています。
→ 上司からの叱責が続くとき|精神障害の労災申請で重要な7つの整理ポイント
人前で叱責された場合の労災|まとめ
人前で叱責されたという事実だけで、 直ちに精神障害の労災と認定されるわけではありません。
一方で、 他の労働者の前での大声による威圧的な叱責や、必要以上に長時間の厳しい叱責などが反復・継続していた場合 には、 精神障害の労災認定における心理的負荷の評価で重要な事情となることがあります。
「人前だったかどうか」だけではなく、 発言内容、態様、場所、頻度、継続期間、会社の対応、症状の変化、残っている資料 を具体的に整理していくことが大切です。
上司からの叱責が続き、労災申請を考えている方へ
「みんなの前で繰り返し叱責されている」
「会社からは業務上の指導だったと言われている」
「録音はあるけれど、労災申請でどう使えばよいか分からない」
このような場合、 一つの発言だけを見るのではなく、 出来事の経過、頻度、会社への相談、症状の変化、録音やメールなどの資料を一緒に整理すること が重要です。
こもれび社労士事務所では、 精神障害の労災申請について、 申立書の作成や録音・LINE・メール等の証拠資料の整理を含めてサポートしています。
「まだ労災になるか分からない」 「会社からパワハラではないと言われている」 「何から整理すればよいか分からない」 という段階でも、 まず現在の状況を整理するところからご相談いただけます。
参考資料
※精神障害の労災認定は、個々の事案について、発病時期、業務上の出来事、その内容・程度・継続性、その後の状況、業務以外の心理的負荷、既往歴・治療経過などを踏まえて個別に判断されます。
人前で叱責されたことだけで、労災認定またはパワーハラスメントへの該当が決まるものではありません。
本記事は一般的な情報提供を目的とするものであり、個別の事案について労災認定やパワーハラスメント該当性を保証するものではありません。
ここまで読んで、まだ迷っていても大丈夫です。

まずは、今の状況を整理するところからで大丈夫です
「まだ相談するか決めていない」
「何を書けばいいか分からない」
そんな段階でも大丈夫です。
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※ 「まず整理だけ」でも大丈夫です


