精神障害の労災申請の本人申立書に何を書く?出来事・症状・証拠の整理方法

うつ病や適応障害などの精神障害について労災申請を進める中で、「本人申立書には何を書けばよいのだろう」と悩む方は少なくありません。
職場でつらかったことはたくさんある。上司から言われた言葉も覚えている。録音やLINE、メールも残っている。
それでも、
- どの出来事から書けばよいのか
- 昔の出来事まで全部書くのか
- 症状についてどこまで書くのか
- 録音やメールをどう結び付ければよいのか
- 証拠がない出来事は書いてはいけないのか
と迷うことがあります。
この記事では、労働基準監督署から申立書が届いた意味や提出期限ではなく、本人申立書の本文をどう組み立てるかに焦点を当てます。職場での出来事、症状の変化、受診・休業までの経過、残っている資料を、一つの時系列として整理する方法を解説します。
この記事のポイント
本人申立書をいきなり書き始めるのではなく、出来事 → 症状の変化 → 受診・休業 → 証拠の順に整理してから文章にすると、労基署に経過を伝えやすくなります。
精神障害の労災申請で「本人申立書」は何のためにある?
精神障害の労災請求では、労働基準監督署が、発病した精神障害と仕事との関係について調査します。
その際には、
- どのような仕事をしていたのか
- どのような業務上の出来事があったのか
- 出来事がいつ起きたのか
- その後どのような状況が続いたのか
- 症状がいつ頃から現れたのか
- 受診や治療の経過
- 過去の治療歴など
といった事項について確認されることがあります。
厚生労働省の現行の精神障害の労災認定基準では、認定対象となる精神障害を発病していることに加え、原則として発病前おおむね6か月の間に、業務による強い心理的負荷が認められるかどうかなどを確認します。
そのため本人申立書では、「自分はとてもつらかった」という気持ちだけではなく、労基署が事実関係を確認できるように経過を整理することが重要になります。
本人申立書は「つらかった気持ち」だけを書く書類ではありません
職場でつらい経験をした場合、
「毎日が地獄でした」
「本当にひどい上司でした」
「会社は何もしてくれませんでした」
と書きたくなることもあると思います。そのように感じたこと自体を否定する必要はありません。
ただし、本人申立書では、その感情が生じた背景にある具体的な事実を整理することが重要です。
たとえば、「上司から毎日ひどく怒られた」だけではなく、
- いつ頃から始まったのか
- どこで行われたのか
- 誰がその場にいたのか
- 何について注意されたのか
- どのような言葉や態様だったのか
- どの程度の頻度で続いたのか
という形に分解すると、第三者にも状況が伝わりやすくなります。
いきなり申立書の用紙に書かず、先に時系列を作る
本人申立書を作るときにおすすめしたいのが、最初から申立書の枠に文章を書き込まず、まず別に時系列表を作ることです。
たとえば、次のような項目を並べます。
| 時期 | 職場での出来事 | 症状・状態 | 受診等 | 確認できる資料 |
|---|---|---|---|---|
| ○月頃 | 業務内容が大きく変わった | 不安が強くなる | ― | 辞令・メール |
| ○月頃 | 上司から繰り返し叱責を受ける | 眠れなくなる | ― | 録音・本人メモ |
| ○月頃 | 会社へ相談 | 集中できなくなる | 医療機関を受診 | 相談メール・診断書 |
| ○月頃 | 状況が続く | 出勤困難 | 休業 | 録音・診断書 |
このようにすると、「職場で何があったのか」と「本人の状態がどう変わったのか」を同じ時間軸で見ることができます。
申立書を書く作業は、この時系列から必要な事実を取り出して文章にしていく、というイメージです。
発病前の業務上の出来事は、何をどこまで書く?
精神障害の労災認定では、原則として発病前おおむね6か月の間に起きた業務上の出来事について、心理的負荷が評価されます。
そのため、まず「いつ頃発病したと考えられるのか」を意識しながら、その前の職場での出来事を整理していきます。
たとえば、
- 仕事内容・仕事量が大きく変わった
- 昇進・配置転換があった
- 重大な仕事上のミスや責任が発生した
- 長時間労働が続いた
- 上司とのトラブルがあった
- パワーハラスメントと感じる言動が続いた
- 同僚との深刻なトラブルがあった
- 退職を迫られた
などです。
ただし、発病前6か月より前の出来事はすべて無関係というわけではありません。
ハラスメントやいじめのように、出来事が繰り返されながら発病まで継続している場合には、発病より6か月以上前から始まっている出来事についても、その開始時点からの心理的負荷が評価される場合があります。
したがって、長期間続いていた出来事については、「6か月より前だから書かない」と機械的に切り捨てるのではなく、いつ始まり、その後どのように続いたのかを確認することが大切です。
叱責・ハラスメントは「強い一言」だけを抜き出さない
上司からの叱責やハラスメントが問題になっている場合、特に強烈だった一言だけを書きたくなることがあります。
しかし、本人申立書では、発言そのものに加えて、
- いつ頃から始まったか
- どの程度の頻度だったか
- どの程度の期間続いたか
- 人前だったか、別室だったか
- どのくらいの時間続いたか
- 業務上の指導だったのか
- 人格・能力・私生活への言及があったか
- その後も同様の出来事が続いたか
などを整理することが重要です。
上司からの叱責について申立書・証拠を整理するときの全体的な考え方は、こちらの記事で詳しく解説しています。
→ 上司からの叱責が続くとき|精神障害の労災申請で重要な7つの整理ポイント
人前で叱責された場合は「場所」と「周囲の状況」も書く
同じ内容の注意であっても、どのような状況で行われたかによって、出来事の受け止め方や状況は異なります。
たとえば、
- 他の社員がいる事務所内だった
- 朝礼や会議の場だった
- 複数の部下・後輩がいた
- 顧客や取引先がいる場所だった
- 別室で一対一だった
などです。
本人申立書では、「人前で叱責された」とだけ書くより、どこで、誰がいて、どのような状況だったのかを具体化すると事実関係が伝わりやすくなります。
人前での叱責が精神障害の労災認定でどのように確認されるかについては、こちらをご覧ください。
→ 人前で叱責されたら労災になる?精神障害の労災認定で確認したいポイント
会社へ相談した経過と、その後の対応を書く
上司からの言動や職場環境について会社へ相談している場合には、その経過も整理します。
確認したいのは、
- いつ相談したか
- 誰に相談したか
- 何を伝えたか
- 体調への影響を伝えたか
- 会社へ何を求めたか
- 会社からどのような回答があったか
- 会社が実際にどのような対応をしたか
- その後、状況が改善したか
です。
ここでも、「会社は何もしてくれなかった」という評価だけではなく、会社に何を伝え、会社が何をして、その結果どうなったのかを書くことが大切です。
会社へ相談しても状況が改善しなかった場合に残しておきたい記録については、こちらの記事で詳しく整理しています。
→ パワハラを会社に相談しても改善しないとき|精神障害の労災申請で残しておきたい記録
症状は「つらかった」ではなく、何ができなくなったかを書く
職場での出来事と同じくらい、その後に本人の状態がどう変化していったのかも重要です。
たとえば、
- 眠れなくなった
- 夜中や早朝に目が覚めるようになった
- 食欲が低下した
- 朝、会社へ行くことに強い不安を感じた
- 仕事中に集中できなくなった
- 簡単な判断が難しくなった
- メールへの返信ができなくなった
- 仕事の手が止まる時間が増えた
- 以前楽しめていたことを楽しめなくなった
- 休日にも職場のことを考え続けた
- 家事や外出が難しくなった
- 欠勤が増えた
などです。
「精神的につらかった」だけでなく、仕事や日常生活で、実際にどのような支障が出ていたのかを書くと、症状の経過が具体的になります。
症状の出現から受診・休業までを一本につなげる
本人申立書では、受診した日だけを書くのではなく、受診に至るまでにどのような変化があったのかも整理してみましょう。
職場での出来事が続く
↓
眠れなくなる
↓
集中できなくなる
↓
勤務を続けることが難しくなる
↓
医療機関を受診する
↓
診断を受ける
↓
欠勤・休職する
というような流れです。
実際の経過がこの順番どおりになるとは限りません。症状が出ていても受診せず勤務を続けていたり、一度受診した後に通院が途切れていたりすることもあります。
そのような場合も、事実に沿って「なぜその時期に受診しなかったのか」「その間どのように勤務していたのか」を整理しておくと、経過を理解しやすくなります。
診断書・診療経過との大きな食い違いがないか確認する
本人申立書を作成するときは、診断書や受診経過についても確認します。
たとえば、
- 初めて症状が出たと考えている時期
- 初めて医療機関を受診した時期
- 医師へ伝えていた主な症状
- 休職・療養を指示された時期
- 過去の精神障害等の治療歴
などです。
本人申立書を診断書に合わせて作り変えるという意味ではありません。受診当時にどのような状態で、どのような説明をしていたのかを振り返り、事実に沿って整理することが大切です。
録音・LINE・メールは「出来事」と対応させる
録音やLINE、メールが大量に残っている場合、資料を種類ごとに並べるだけでは、本人申立書との関係が分かりにくくなることがあります。
そこで、出来事を軸にして資料を対応させると整理しやすくなります。
| 出来事 | 申立書で説明する内容 | 確認できる資料 |
|---|---|---|
| 出来事① | 人前での叱責 | 録音・本人メモ |
| 出来事② | 長時間の面談 | 録音 |
| 社内相談 | 人事等へ状況を説明 | 相談メール・面談録音 |
| 症状悪化 | 勤務継続が困難になる | 診断書・受診記録 |
こうすると、本人申立書のどの記載を、どの資料で確認できるのかが分かりやすくなります。
録音が多い場合の一覧化・文字起こしの進め方については、こちらの記事をご覧ください。
→ パワハラの録音が大量にあるとき|労災申請での整理・文字起こしの進め方
録音やメールがない出来事は申立書に書けない?
「証拠がない出来事は申立書に書いてはいけないのでは」と不安になる方もいます。
しかし、職場で起きたすべての出来事について、録音やメールが残っているとは限りません。
録音がなくても、
- 当時作成した本人メモ
- 同席していた人
- その前後のメール
- LINE・チャット
- 勤務表
- 予定表
- 会社への相談記録
- 受診記録
などから、出来事の時期や経過を確認できる場合があります。
重要なのは、証拠で直接確認できる部分と、本人の記憶に基づいて説明する部分を区別しながら、事実に沿って整理することです。
「パワハラでした」と結論だけを書かない
本人申立書では、「これは明らかなパワハラでした」と結論を書くことだけに力を使うより、何が実際に起きたのかを具体的に書くことが大切です。
評価中心の書き方
「上司から毎日のようにひどいパワハラを受けました。」
だけではなく、
事実を整理した書き方
「○月頃から、事務所内で業務の進め方について繰り返し注意を受けるようになった。注意の際には他の従業員がいることもあり、業務上の指摘に加えて、能力について否定的に言及されることがあった。」
というように、時期・場所・内容・頻度・周囲の状況を整理します。
労災認定の判断そのものは、労働基準監督署が調査した事実関係をもとに認定基準に沿って行います。本人申立書では、その判断材料となる事実経過を、第三者が追える形で伝えることを意識するとよいでしょう。
出来事が多すぎる場合は「主要な出来事」と「継続状況」を分ける
長期間にわたるパワーハラスメントなどでは、出来事が多すぎて、すべてを同じ細かさで書こうとすると申立書が非常に長くなることがあります。
そのような場合には、
- 特に重要な出来事
- 継続性を示す出来事
- 会社へ相談した出来事
- 症状が大きく悪化した時期の出来事
などに整理したうえで、全体の継続状況を説明する方法があります。
ただし、単に強い発言だけを選ぶのではなく、出来事全体を確認したうえで、主要な出来事と継続経過の関係が分かるように整理することが大切です。
本人申立書を書く前に作っておきたい「出来事一覧」
出来事が多い場合は、次のような一覧表を先に作っておくと便利です。
| 時期 | 出来事 | 場所・相手 | 証拠 | その後の状態 |
|---|---|---|---|---|
| ○月頃 | 業務内容の大きな変更 | 職場 | 辞令・メール | 不安が強くなる |
| ○月頃 | 上司からの叱責 | 事務所・上司 | 録音 | 不眠 |
| ○月頃 | 会社へ相談 | 面談・人事 | メール・録音 | 症状継続 |
| ○月頃 | 状況が改善せず | 職場 | メモ・録音 | 集中困難・受診 |
この一覧を作ってから本人申立書を書くと、同じ出来事を何度も書いたり、重要な時期を抜かしたりすることを防ぎやすくなります。
提出前に確認したい5つのポイント
本人申立書を作成したら、提出前に次の点を確認してみましょう。
- 時系列が前後していないか
出来事、症状、受診、休業の順序が追えるか確認します。 - 「つらかった」だけで終わっていないか
日時・場所・相手・内容などの具体的事実が書かれているか確認します。 - 出来事と証拠が対応しているか
録音・メール・LINEなどが、どの出来事を確認する資料なのか整理します。 - 症状の変化が具体的か
仕事や日常生活で何ができなくなったのか確認します。 - 他の資料と明らかな食い違いがないか
診断書、受診時期、勤務記録、相談メールなどと見比べ、事実関係を確認します。
申立書が労基署から届いて戸惑っている場合はこちら
この記事では、本人申立書の内容をどう整理するかを中心に解説しました。
一方、労災請求をした後に労働基準監督署から申立書が届き、
- なぜこの書類が届いたのか
- 全部書かなければならないのか
- 提出期限はどう考えればよいのか
- 労基署から質問されたらどうすればよいのか
と戸惑っている方は、こちらの記事もご覧ください。
→ 労災申請後、労基署から申立書が届いたら?実際によく聞かれる質問と回答の考え方
精神障害の労災申請の本人申立書|まとめ
精神障害の労災申請で本人申立書を作成するときは、いきなり長い文章を書こうとする必要はありません。
まず、
- 発病時期を意識する
- 発病前の業務上の出来事を時系列にする
- 頻度・期間・場所・態様を具体化する
- 会社への相談と、その後の対応を整理する
- 症状の出現・悪化を整理する
- 受診・休業までの経過をつなげる
- 録音・LINE・メール等を出来事と対応させる
という順番で整理してみましょう。
本人申立書は、「どれだけつらかったか」を強い言葉で訴えることよりも、職場での出来事、症状の変化、受診経過、資料との関係を、第三者が追える形で整理することが大切です。
精神障害の労災申請で、本人申立書を一人でまとめるのが難しい方へ
「出来事が多すぎて、何から書けばよいか分からない」
「録音やLINEはあるが、申立書とどう結び付ければよいか分からない」
「長期間の経過を、自分だけで文章にするのが難しい」
精神障害の労災申請では、単に申立書の空欄を埋めるのではなく、出来事・症状・受診経過・客観資料を一つの時系列として整理する作業が重要になります。
こもれび社労士事務所では、精神障害の労災申請について、本人申立書の作成に加え、録音・LINE・メールなどの証拠資料の整理も含めてサポートしています。
「まだ何を書くか整理できていない」「資料が十分なのか分からない」「労災になるかどうかも分からない」という段階でも、まず現在までの出来事と資料を整理するところからご相談いただけます。
参考資料
※精神障害の労災認定は、本人申立書の記載内容だけで決まるものではありません。労働基準監督署の調査を踏まえ、発病時期、業務上の出来事、その内容・程度・継続性、出来事後の状況、業務以外の心理的負荷、既往歴・治療経過などを含めて個別に判断されます。
また、実際に使用する申立書の様式や、労働基準監督署から確認を求められる事項は、個別の請求内容や調査状況によって異なる場合があります。
本記事は一般的な情報提供を目的とするものであり、個別の事案について労災認定を保証するものではありません。
ここまで読んで、まだ迷っていても大丈夫です。

まずは、今の状況を整理するところからで大丈夫です
「まだ相談するか決めていない」
「何を書けばいいか分からない」
そんな段階でも大丈夫です。
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