パワハラを会社に相談しても改善しないとき|精神障害の労災申請で残しておきたい記録

上司からの叱責やハラスメントについて、 勇気を出して会社へ相談した。
ところが、
- 「様子を見てください」と言われただけだった
- 会社が面談をしたものの、状況は変わらなかった
- 上司へ注意したと言われたが、同じ言動が続いた
- 相談後も同じ上司と接触し続けることになった
- 相談した後に、かえって職場に居づらくなった
ということがあります。
このような場合、 「会社に相談した」という事実だけでなく、相談前に何があり、何を伝え、会社がどう対応し、その後どうなったのか を一つの経過として整理することが大切です。
精神障害の労災認定では、 上司等からのパワーハラスメントについて、 言動の内容や程度、反復・継続性などに加え、 会社への相談後の対応や、その後に状況が改善したかどうか が確認される場合があります。
この記事のポイント
会社へ相談しても改善しなかった場合は、
相談前の出来事 → 相談した内容 → 会社の回答・対応 → 改善の有無 → 相談後の出来事 → 症状・受診経過
を時系列で整理すると、経過を伝えやすくなります。
会社に相談したのに改善しなかったことは、労災申請で関係する?
結論からいうと、 会社へ相談した後の対応や、その後に職場環境が改善したかどうかは、精神障害の労災認定で確認される事情の一つになり得ます。
厚生労働省の精神障害の労災認定基準では、 上司等からのパワーハラスメントについて、 行為の内容・程度・反復継続性などを踏まえて心理的負荷を評価します。
また、一定程度の精神的攻撃などについて、 会社に相談しても、又は会社がパワーハラスメントがあると把握していても、 適切な対応がなく改善されなかった場合は、 心理的負荷を「強」と評価する具体例として示されています。
相談後に職場の人間関係が悪化した、相談したことをきっかけに別の問題が生じたといった事情も、 出来事後の状況や職場環境の変化として、事実経過の中で整理しておくことが大切です。
ただし、 「会社に相談したのに解決しなかった=必ず労災になる」 という意味ではありません。
実際にどのような言動があり、 その程度や頻度はどうだったのか、 会社がどのような対応を行い、 その後の職場環境や本人の状態がどう変化したのかを、 個別に確認する必要があります。
「会社が何もしなかった」ケースだけではありません
「会社に相談しても改善しなかった」と聞くと、 会社がまったく対応しなかったケースだけを想像するかもしれません。
しかし実際には、
- 会社は事情聴取をしたが、その後も同じ言動が続いた
- 上司へ注意したと説明されたが、態度が変わらなかった
- 席や部署を変更したが、業務上の接触が続いた
- 相談者側だけが配置変更された
- 会社から一定の回答はあったが、実質的な改善につながらなかった
- 相談後に職場の人間関係が悪化した
といったケースもあります。
そのため、 「会社が対応したか・しなかったか」という二択ではなく、何を行い、その結果どうなったのか を整理することが大切です。
残しておきたい記録1|会社へ相談する前の出来事
まず、 会社へ相談することになった背景を整理します。
たとえば、
- いつ頃から問題となる言動が始まったのか
- 誰から、どのような言動を受けていたのか
- どの程度の頻度で続いていたのか
- 人前だったのか、別室だったのか
- 長時間の面談や叱責があったのか
- 人格・能力・私生活などへの言及があったのか
などです。
この段階で、
- 録音
- LINE・チャット
- メール
- 本人メモ
- 勤務表
- スケジュール
などが残っていれば、 出来事と対応させて整理しておきます。
残しておきたい記録2|会社へ相談した事実
次に、 いつ、誰に、どのような方法で相談したのか を確認します。
たとえば、
- 直属上司より上位の管理職へ相談した
- 人事・総務へ相談した
- 社内相談窓口へ連絡した
- コンプライアンス窓口へ相談した
- 労働組合へ相談した
- 産業医や社内カウンセラーへ相談した
などがあります。
残しておきたい資料としては、
- 相談メール
- LINE・社内チャット
- 相談フォームの送信内容
- 面談日時が分かる予定表
- 面談の録音
- 面談後に作成したメモ
などがあります。
厚生労働省「あかるい職場応援団」でも、 相談時には、 問題行為がいつ・どこで・どのように行われたか、 誰かに相談したか、 現在の状況や心身の状態などを確認することが示されています。
残しておきたい記録3|相談時に会社へ何を伝えたのか
「会社へ相談した」という事実だけでなく、 相談時に何を伝えていたのか も重要です。
たとえば、
- どの上司から、どのような言動を受けていたか
- それがどの程度続いていたか
- 人前での叱責や長時間の面談があったこと
- 眠れない、出勤が怖いなど体調への影響
- 勤務を続けることが難しくなっていること
などを伝えていたかを確認します。
また、 会社に何を求めていたのか も整理しておくとよいでしょう。
たとえば、
- 事実関係を調査してほしい
- 上司へ注意・指導してほしい
- 直接の接触を避けてほしい
- 配置変更を検討してほしい
- 面談には第三者を同席させてほしい
などです。
後から、 「会社には体調が悪いことまで伝えていなかった」 「配置変更を希望したのか覚えていない」 という状態にならないよう、 相談メールや面談メモなどで確認できる形にしておくと整理しやすくなります。
残しておきたい記録4|会社からの回答・対応
会社へ相談した後は、 会社が実際に何をしたのか を記録しておきます。
たとえば、
- 相談を受け付けただけだった
- 上司や同僚への聞き取りが行われた
- ハラスメント調査が実施された
- 上司へ注意・指導したと説明された
- 席や部署が変更された
- 業務分担が変更された
- 相談者と相手の接触を減らす措置が取られた
- 「パワハラには当たらない」と回答された
などです。
資料としては、
- 会社からのメール
- LINE・社内チャット
- 面談録音
- 面談メモ
- 調査結果の通知
- 人事異動・配置変更に関する文書
などが考えられます。
申立書では、 「会社は何もしてくれなかった」と評価だけを書くより、会社からどのような説明があり、実際に何が行われたのか を具体的に整理する方が経過を伝えやすくなります。
残しておきたい記録5|相談後、本当に状況は改善したのか
会社から何らかの対応があった場合でも、 そこで整理を終わらせないことが大切です。
確認したいのは、 その対応によって実際の職場環境がどう変わったのか です。
たとえば、
- 同じ言動がなくなった
- 回数は減ったが続いていた
- 言い方は変わったが威圧的な対応が続いた
- 別室での面談はなくなったが、人前での叱責が続いた
- 配置変更後も業務上の接触があった
- 相談後に無視・排除など別の問題が生じた
- 相談したことが周囲に知られ、職場に居づらくなった
などです。
この部分についても、 相談前と同じように、 録音、メール、LINE、本人メモなどを時系列で整理します。
ポイント
「会社が対応したか」だけではなく、
その対応によって職場の状況が改善したのか
まで確認しましょう。
相談後に新しい出来事があった場合も分けて整理する
会社への相談後に、 それまでとは異なる出来事が生じることもあります。
たとえば、
- 急に仕事を外された
- 会話や情報共有から外されるようになった
- 周囲の態度が変わった
- 評価や配置について新たな説明を受けた
- 退職を勧められた
などです。
こうした場合には、 すべてを「パワハラが続いた」と一括りにするのではなく、 相談前から続いている出来事と、相談後に新しく発生した出来事を分けて整理する と分かりやすくなります。
そのうえで、 それぞれについて日時・内容・相手・資料を確認します。
残しておきたい記録6|相談後の症状・受診・休業の経過
精神障害の労災申請では、 会社への相談経過だけでなく、 本人の症状がどのように変化したのか も整理します。
たとえば、
- 相談前から眠れなくなっていた
- 相談した後も不眠が続いた
- 仕事に集中できなくなった
- 出勤前に強い不安を感じるようになった
- 会社へ行けなくなった
- 医療機関を受診した
- 診断書が作成された
- 欠勤・休職することになった
などです。
可能であれば、
相談前の出来事 → 会社への相談 → 会社対応 → その後の職場状況 → 症状悪化 → 受診・休業
という一つの時系列にしてみると、 全体の経過が見えやすくなります。
会社が「パワハラではない」と判断した場合は?
社内調査の結果、 会社から 「パワーハラスメントには該当しない」 と回答されることがあります。
しかし、 会社の社内判断だけで、精神障害の労災認定が決まるわけではありません。
精神障害の労災認定では、 厚生労働省の認定基準に基づき、 実際にどのような業務上の出来事があり、 心理的負荷がどの程度だったのかが個別に評価されます。
そのため、 会社の結論だけを見るのではなく、
- 会社がどのような事実を確認したのか
- どのような理由で判断したのか
- 相談後にどのような対応をしたのか
- その結果、状況が改善したのか
などを事実として整理しておくことが大切です。
相談メールは消さず、会社からの返信も一緒に残しておく
会社へメールや社内チャットで相談した場合、 自分が送った内容だけでなく、会社からの返信も一緒に保管しておく とよいでしょう。
相談から回答まで一連のやり取りが残っていると、
- いつ相談したのか
- 何を伝えたのか
- 会社が何を把握していたのか
- 会社がどのように回答したのか
を後から確認しやすくなります。
退職や休職によって会社のメール・チャットへアクセスできなくなる可能性もあるため、 保存方法については、 会社の情報管理ルールや機密情報・個人情報の取扱いにも注意しながら、 必要な記録を確認しておくことが大切です。
口頭で相談した場合は、相談後にメモを作っておく
会社への相談が口頭だけだった場合、 後から 「いつ、誰に、何を伝えたのか」 が分からなくなることがあります。
その場合は、 相談後できるだけ早い時期に、
- 相談日時
- 相談相手
- 相談場所
- 伝えた内容
- 会社から言われたこと
- 今後の対応として説明されたこと
などをメモしておく方法があります。
会社側から面談記録や確認メールが送られてきた場合には、 自分の認識と大きな違いがないか確認しておきます。
録音・LINE・メールが多い場合は「相談前・相談時・相談後」に分ける
資料が大量にある場合は、 一つひとつをバラバラに整理するより、
| 時期 | 出来事 | 会社対応 | 主な資料 | 症状 |
|---|---|---|---|---|
| 相談前 | 上司からの叱責等 | ― | 録音・メール・メモ | 不眠・落ち込み |
| 相談時 | 人事等へ相談 | 面談・調査 | 相談メール・面談録音 | 症状継続 |
| 相談後 | 同様の言動等 | 改善の有無 | 録音・LINE・メモ | 症状悪化・受診 |
という形で、 相談前・相談時・相談後 に分けると経過を把握しやすくなります。
録音が大量にある場合の整理・文字起こしの進め方については、 こちらの記事で詳しく解説しています。
→ パワハラの録音が大量にあるとき|労災申請での整理・文字起こしの進め方
精神障害の労災申請では、社内相談だけでなく出来事全体を整理する
会社への相談経過は重要ですが、 それだけで精神障害の労災申請が完成するわけではありません。
申立書では、
- 業務上の出来事
- 出来事の頻度・継続性
- 人前・別室などの状況
- 発言や対応の態様
- 会社への相談
- 相談後の会社対応
- 症状の変化
- 受診・休業の経過
- 録音・LINE・メールなどの証拠
を一つの経過として整理していくことが大切です。
精神障害の労災申請で申立書や証拠を整理する際の全体的なポイントについては、 こちらの記事をご覧ください。
→ 上司からの叱責が続くとき|精神障害の労災申請で重要な7つの整理ポイント
会社に相談しても改善しなかった場合|まとめ
上司からの叱責やハラスメントについて会社へ相談しても、 必ずしも状況がすぐ改善するとは限りません。
その場合には、 「相談したのに何もしてくれなかった」とだけまとめるのではなく、相談前から相談後までの事実を時系列で整理すること が大切です。
整理しておきたいのは、
- 相談前にどのような出来事があったか
- いつ、誰に相談したか
- 相談時に何を伝え、何を求めたか
- 会社がどのように回答・対応したか
- 相談後に状況が改善したか
- 相談後に新たな出来事がなかったか
- 症状・受診・休業がどう変化したか
です。
会社への相談そのものだけでなく、その前後の経過と客観資料を対応させる ことで、申立書の骨格を作りやすくなります。
会社へ相談したのに状況が改善せず、労災申請を考えている方へ
「人事へ相談したが、上司の対応が変わらない」
「会社は対応したと言っているが、実際には状況が続いている」
「相談メールや録音はあるものの、労災申請でどう整理すればよいか分からない」
このような場合は、 相談前の出来事、相談内容、会社の対応、その後の職場状況、症状の変化を一つの時系列として整理すること が重要です。
こもれび社労士事務所では、 精神障害の労災申請について、 申立書の作成に加え、 録音・LINE・メール・社内相談資料などの証拠整理も含めてサポートしています。
「会社へ相談したけれど、この状態で労災を申請できるのか分からない」 「会社の対応が適切だったのか、自分では整理できない」 という段階でも、 まず現在までの経過と資料を整理するところからご相談いただけます。
参考資料
- 厚生労働省「精神障害の労災認定」
- 厚生労働省「あかるい職場応援団・悩んでいる方」
- 厚生労働省「あかるい職場応援団・相談窓口のご案内」
- 法テラス「職場で、パワハラを受けています。どうすればよいですか。」
※会社へ相談した事実や、相談後に改善しなかったことだけで、精神障害の労災認定やパワーハラスメント該当性が決まるものではありません。
精神障害の労災認定は、発病時期、業務上の出来事、その内容・程度・継続性、会社への相談後の対応や職場環境の変化、業務以外の心理的負荷、既往歴・治療経過などを踏まえて個別に判断されます。
本記事は一般的な情報提供を目的とするものであり、個別の事案について労災認定やパワーハラスメント該当性を保証するものではありません。
ここまで読んで、まだ迷っていても大丈夫です。

まずは、今の状況を整理するところからで大丈夫です
「まだ相談するか決めていない」
「何を書けばいいか分からない」
そんな段階でも大丈夫です。
※ 個人のご相談(労災・後遺障害・障害年金)/全国対応(LINE・オンライン)
※ 「まず整理だけ」でも大丈夫です


