労災の傷病(補償)年金が不支給になったら?症状固定・障害給付・審査請求の整理

労災の療養が長期間続き、傷病(補償)年金についての判断を受けたところ、 「傷病等級に該当しないため不支給」 という通知が届くことがあります。
突然、不支給通知を受け取ると、
- 「労災そのものが否定されたのだろうか」
- 「症状が軽いと判断されたということなのか」
- 「審査請求をしたほうがよいのか」
- 「このまま争わないと、将来の障害等級にも不利になるのか」
- 「症状固定になった後の障害(補償)給付は受けられるのか」
と不安になる方も少なくありません。
一方で、今回の不支給決定そのものに納得できず争う場合には、審査請求の期限があります。
そのため、 「現在の不支給決定を争う話」と「今後、症状固定後の障害(補償)給付に備える話」を分けて整理すること が重要です。
この記事では、労災の傷病(補償)年金が不支給になった場合に、何を確認し、どのように今後の対応を考えればよいのかを、社会保険労務士が分かりやすく整理します。
傷病(補償)年金が不支給になったら、最初に確認すること
不支給通知が届いたとき、すぐに「審査請求をする・しない」を決めようとする必要はありません。
まずは、次の点を分けて確認することが大切です。
- どの給付について不支給になったのか
- 不支給となった理由は何か
- 現在も治療継続中なのか、治ゆ(症状固定)と判断されているのか
- 提出した診断書にはどのような状態が記載されていたのか
- 実際の生活状況と診断書の記載に違いはないか
- 審査請求の期限はいつまでか
特に重要なのが、「傷病(補償)年金が不支給」と「労災そのものが否定された」という話を混同しないことです。
「傷病等級に該当しない」とはどういう意味?
傷病(補償)年金は、業務上のけがや病気について療養を開始してから1年6か月を経過した後も傷病が治っておらず、さらに、その障害の程度が傷病等級第1級から第3級に該当する場合に支給される給付です。
そのため、
治療が続いており、生活や就労に困難を抱えていても、傷病(補償)年金では、傷病等級第1級から第3級に該当する程度かどうかが判断されます。
そのため、生活上の支障があることと、直ちに傷病等級に該当することは同じではありません。通知書の文言だけで結論を出さず、どのような医学的資料や生活状況を前提として判断されたのかを確認することが重要です。
傷病(補償)年金と障害(補償)給付は別の制度
不支給後の相談で特に多いのが、
「傷病(補償)年金が認められなかったら、将来の障害(補償)給付も認められないのでしょうか?」
というご質問です。
ここでは、傷病(補償)年金と障害(補償)給付の違いを理解しておく必要があります。
| 制度 | 主な判断時点 | 基本的な考え方 |
|---|---|---|
| 傷病(補償)年金 | 療養開始後1年6か月経過後 | まだ治っておらず、傷病等級第1級から第3級に該当するか |
| 障害(補償)給付 | 治ゆ(症状固定)後 | 症状固定後に一定の障害が残っているか |
つまり、両者は関係のある制度ではありますが、同じ時点に、まったく同じ条件で判断される制度ではありません。
※業務災害では「傷病補償年金」「障害補償給付」、通勤災害では「傷病年金」「障害給付」と名称が異なります。本記事では、検索上一般的に用いられる「傷病(補償)年金」「障害(補償)給付」と表記しています。
労災の「治ゆ」は「完全に元どおり」という意味ではない
労災でいう「治ゆ」は、必ずしも事故や病気になる前の状態まで完全に回復したことを意味しません。
症状が安定し、医学上一般に認められた治療を続けても、それ以上の改善を期待できない状態になった場合には、症状が残っていても労災上「治ゆ(症状固定)」と判断されることがあります。
そして、症状固定後に一定の障害が残った場合には、障害(補償)給付の対象となるかが改めて問題になります。
↓
「将来の障害給付も不支給」と自動的に決まる
という仕組みではありません。
傷病(補償)年金の不支給に審査請求するか迷ったら
傷病(補償)年金の不支給決定に納得できない場合には、労災保険審査官に対する審査請求を検討することになります。
ただし、不支給になったからといって、すべてのケースで審査請求をしたほうがよいわけではありません。
まずは、次の4点を確認してみてください。
1.なぜ不支給になったのか
最初に確認したいのは、労働基準監督署が何を根拠に傷病等級に該当しないと判断したのかです。
たとえば、
- 主治医の診断書
- 専門医の意見
- 診療録
- リハビリテーションの記録
- 本人や家族から確認された生活状況
- 労働基準監督署が行った調査内容
などが判断材料となっている可能性があります。
審査請求を検討するときは、単に「本人はもっと重い状態です」と主張するだけではなく、 原処分でどの事実がどのように評価されたのか を確認することが大切です。
2.診断書と実際の生活状況に差がないか
特に脳損傷、高次脳機能障害、神経系統の障害などでは、診断書に記載された状態と、ご家族が日常生活で見ている状態との間に差が生じることがあります。
ここで注意したいのは、
たとえば、食事を自分で口に運べたとしても、
- 食事をすること自体を忘れてしまう
- 声をかけなければ食べない
- 食事の準備や片付けができない
- 同じものばかり食べてしまう
という状態であれば、「食事動作ができる」という情報だけでは生活実態を十分に表せない場合があります。
同様に、
- 服薬管理
- 金銭管理
- 予定管理
- 通院
- 外出
- 公共交通機関の利用
- 火や戸締まりなどの安全確認
- 対人関係
- 感情や行動のコントロール
についても、本人が「できる・できない」だけではなく、 声かけ、見守り、準備、確認、危険回避など、家族がどの程度支援しているか を具体的に整理することが重要です。
3.主治医は今後の治療や症状固定をどう考えているか
傷病(補償)年金の不支給と、症状固定の判断は分けて考える必要があります。
現在も治療やリハビリによる改善が期待され、主治医が治療継続を必要と考えているのであれば、今後の治療経過を確認することも重要です。
一方、状態が安定し、それ以上の治療効果が期待できない段階になれば、治ゆ(症状固定)とされた後の障害(補償)給付を検討する場面に移っていきます。
「傷病(補償)年金が不支給だったから、すぐに症状固定にしなければならない」と考える必要はありません。
4.審査請求の期限を確認する
労災保険給付の決定に対する審査請求は、原則として、 その決定があったことを知った日の翌日から3か月以内 に行う必要があります。
審査請求は、決定を行った労働基準監督署を管轄する都道府県労働局の労災保険審査官に対して行います。提出先や必要書類に迷う場合は、不支給決定通知の記載も確認しましょう。
「今後の治療経過を見てから考えよう」としている間にも、今回の不支給決定についての審査請求期限は進んでいきます。
そのため、
審査請求するかどうかはまだ決められなくても、期限だけは先に確認しておく
ことをおすすめします。
審査請求をしないと、将来の障害等級に不利になる?
これも非常に多い不安です。
結論からいうと、 今回の傷病(補償)年金について審査請求をしなかったこと自体によって、将来の障害等級が自動的に低くなるという仕組みではありません。
傷病(補償)年金と、症状固定後の障害(補償)給付では、判断する時点や制度上の要件が異なるからです。
ただし、注意すべき点があります。
過去の診断書や医学的評価がなくなるわけではない
審査請求をしなかったからといって将来の障害等級が自動的に決まるわけではありませんが、過去に作成された診断書、診療録、検査結果などの資料そのものがなくなるわけでもありません。
したがって、
- 診断書に実際より軽い状態が記載されている
- 家族による介助や見守りが十分伝わっていない
- 重要な神経心理学的検査の結果が反映されていない
- 医療機関によって評価が大きく異なっている
といった事情がある場合には、今のうちから資料を整理しておく意味があります。
今回の不支給決定を争える期間は別に進んでいく
もう一つ重要なのは、 将来の障害(補償)給付と、現在の傷病(補償)年金の不支給処分は別の問題 だということです。
将来の障害(補償)給付について検討できるとしても、それによって現在の不支給決定に対する審査請求期限が延びるわけではありません。
そのため、
② 将来の障害(補償)給付にどう備えるか
この2つを分けて考えることが大切です。
診断書と実際の生活状況が違うと感じたら
不支給通知を受け取ったとき、診断書を見直して、
「家ではこんなに介助しているのに、診断書にはほとんど支援が必要ないように書かれている」
と気付くことがあります。
この場合、すぐに「診断書を訂正してください」と医師に求めることが最善とは限りません。
まず、
- 診断書作成時に医師へどのような生活状況を伝えていたか
- 家族から医師へ状況を説明する機会があったか
- 診療録にはどのように記載されているか
- リハビリ担当者はどのように評価しているか
- 神経心理学的検査などの客観的検査結果はどうなっているか
を確認します。
そのうえで、診断書に反映されていない生活上の支障があるなら、 具体的な生活場面に分けて整理する ことが大切です。
「介助あり・なし」だけで整理しない
家族の支援には、身体を直接支えるような介助だけではなく、
- 声かけ
- 見守り
- 予定の確認
- 服薬の準備
- 忘れ物の確認
- 金銭管理
- 危険行動を防ぐための確認
- 外出時の付き添い
などがあります。
「何をしてあげているか」だけでなく、
「その支援をしなかったら、本人の生活に何が起こるのか」
まで整理すると、生活実態が伝わりやすくなります。
不支給後に残しておきたい資料
審査請求をする場合にも、将来の障害(補償)給付に備える場合にも、資料を早い段階から残しておくことは重要です。
たとえば、
- 傷病(補償)年金の不支給決定通知書
- 労働基準監督署へ提出した診断書
- 主治医の診断書や意見書
- 診療録
- 検査結果
- リハビリテーション記録
- 退院時サマリー
- 家族が記録した日常生活上の支障
- 介助・見守りの内容や頻度が分かる記録
- 医療機関や支援機関から受けた説明の記録
などがあります。
特に、事故から時間が経過すると、家族にとって現在の介助が「いつものこと」になってしまい、以前はできていたこと、どの程度支援が増えたのかを思い出しにくくなることがあります。
できるだけ、 具体的な場面・頻度・支援しなかった場合に起きること を残しておくとよいでしょう。
不支給通知が届いた直後に、すべてを決める必要はありません
傷病(補償)年金が不支給になると、
「今すぐ審査請求をするのか」
「症状固定にするのか」
「障害(補償)給付をどうするのか」
と、一度に多くのことを決めなければならないように感じるかもしれません。
しかし、実際には、 急いで確認すべきことと、治療経過を見ながら判断できることを分ける ことができます。
- 不支給決定通知の内容
- 不支給理由
- 審査請求の期限
- 提出済み診断書の内容
- 主治医の治療見通し
- 症状固定の時期
- 症状固定後に残る障害
- 将来の障害(補償)給付
不支給通知を受け取った直後ほど、制度を一つずつ分けて考えることが大切です。
傷病(補償)年金の不支給について社労士へ相談したい方へ
こもれび社労士事務所では、労災の不支給決定を受けた方からのご相談や、審査請求に向けた書類作成支援を行っています。
傷病(補償)年金の不支給については、
- 今回の不支給理由をどのように確認すればよいか
- 審査請求を検討する余地があるのか
- 診断書と実際の生活状況に違いがある
- 現在争うべきなのか、今後の障害給付に備えるべきなのか分からない
- 家族による介助や見守りをどのように整理すればよいか
など、状況によって確認するポイントが異なります。
「審査請求をすると決めていない段階」でも構いません。
不支給決定通知や診断書などを確認しながら、まず現在の状況を整理することができます。
不支給決定通知がお手元にある場合は、通知日・不支給理由が分かる部分をご確認いただくと、その後の整理がしやすくなります。
まとめ|傷病(補償)年金の不支給後は「現在の処分」と「将来の障害給付」を分けて考える
傷病(補償)年金が不支給になったからといって、それだけで将来の障害(補償)給付まで否定されたことにはなりません。
一方で、今回の不支給決定そのものに不服がある場合には、審査請求には期限があります。
そのため、不支給通知を受け取ったら、
- 不支給理由を確認する
- 審査請求期限を確認する
- 診断書と実際の生活状況を照らし合わせる
- 現在の治療見通しや症状固定について主治医の考えを確認する
- 「今回の処分を争うこと」と「将来の障害給付に備えること」を分けて考える
という順番で整理するとよいでしょう。
特に、診断書に書かれている状態と実際の生活状況が違う場合や、複数の医療機関で評価が異なっている場合には、不支給通知だけを見て結論を出さず、医療記録や生活実態を含めて確認することが重要です。
不支給通知を受け、審査請求や今後の障害給付に迷っている方へ
通知書・診断書・生活状況を整理しながら、現在の処分を確認すべきか、今後の手続に備えるべきかを一緒に考えることができます。
LINEで相談する※本記事は労災保険制度について一般的な情報を解説したものです。個別の事案における支給・不支給、障害等級、審査請求の見通しなどは、医学的資料や処分理由その他の事情によって異なります。
ここまで読んで、まだ迷っていても大丈夫です。

まずは、今の状況を整理するところからで大丈夫です
「まだ相談するか決めていない」
「何を書けばいいか分からない」
そんな段階でも大丈夫です。
※ 個人のご相談(労災・後遺障害・障害年金)/全国対応(LINE・オンライン)
※ 「まず整理だけ」でも大丈夫です


