労災申請中に解雇される?認定前でも休職満了・自然退職になるのか社労士が解説

会社から「休職期間が満了したら退職になります」「期限までに復職できなければ自然退職です」と言われ、不安になっていないでしょうか。
特に、パワハラや長時間労働などを原因として精神障害を発病し、労災申請をしている場合、労災の結果が出る前に休職期間の満了を迎えることがあります。
このような場合、
- 労災申請中でも退職になってしまうのか
- 労災を申請していれば会社は結果を待たなければならないのか
- 私傷病として自然退職になった後、労災認定されたらどうなるのか
- 認定結果が出るまでの生活費はどうすればよいのか
といった疑問を持つ方は少なくありません。
結論からいうと、労災を申請しただけで、休職満了や退職の手続きが自動的に止まるわけではありません。
一方で、後に業務上の傷病であると認められた場合には、休職満了による退職や解雇の有効性が問題になることがあります。
この記事では、労災申請中に休職期間が満了する場合について、労働者の方向けに分かりやすく解説します。
この記事のポイント
- 労災申請中というだけで、会社に認定結果を待つ義務が生じるとは限りません。
- 解雇制限は、労災の認定通知が出たかではなく、実態として業務上の傷病であるかが重要です。
- 労災申請中でも、会社が私傷病休職として手続きを進めることはあります。
- 後に労災認定された場合、退職や解雇の有効性が争われる可能性があります。
- 休職満了の通知を受けたら、就業規則と会社からの書面を早めに確認することが重要です。
労災申請中に休職満了を迎えたらどうなる?
労災申請中に休職期間が満了した場合の対応は、会社によって異なります。
主に、次のような対応が考えられます。
- 就業規則に従い、私傷病休職の満了として自然退職または解雇の手続きを進める
- 一定期間、休職期間を延長する
- 労災認定の結果が出るまで退職等の判断を保留する
- 主治医や産業医の意見を確認し、復職や配置転換の可能性を検討する
ただし、「労災申請中の従業員について、どの対応をする会社が何%あるか」という統一的な公的統計は、一般に確認できません。
そのため、特定の対応を「企業の多数派」と断定するのは難しいところです。
実務上は、労災認定前の段階では業務上の傷病かどうかが確定していないとして、いったん私傷病休職として管理し、就業規則に沿って手続きを進める会社もあります。
一方で、後に労災と認められた場合のリスクを考慮し、休職満了の扱いを保留する会社もあります。
労災申請をすれば、会社は結果を待たなければならない?
労災を申請したという事実だけで、会社が必ず認定結果まで休職満了の手続きを止めなければならないとは限りません。
労災保険給付を支給するかどうかは、労働基準監督署長が必要な調査を行ったうえで判断します。
会社が「労災ではない」と考えていても、労働者本人が労災保険給付を請求することはできます。
一方、労災認定の結果が出るまでには時間を要することがあります。特に精神障害の労災では、本人、会社、医療機関などへの調査が必要になり、休職期間中に結論が出ないケースもあります。
そのため、会社としては、労災申請とは別に、次のような手続きを進めることがあります。
- 休職期間満了日の通知
- 主治医の診断書の提出依頼
- 本人との面談
- 産業医面談
- 復職できる状態かどうかの確認
- 配置転換や業務軽減が可能かどうかの検討
- 就業規則に基づく休職満了手続き
したがって、「労災申請をしたから、結果が出るまで雇用が必ず維持される」と考えるのは注意が必要です。
業務上の傷病で療養休業中は、原則として解雇できない
労働基準法第19条では、労働者が業務上の負傷または疾病によって療養のため休業している期間と、その後30日間について、原則として解雇を禁止しています。
例外は、使用者が法律上の打切補償を行った場合や、天災事変その他やむを得ない事由によって事業を継続できなくなった場合などに限られます。
重要なのは、「労災認定通知が出ているか」だけではなく、実態として業務上の傷病により療養休業していたかどうかです。
そのため、労災認定前に会社が解雇し、後から業務上の傷病であったことが認められた場合には、その解雇が労働基準法第19条に反していなかったかが問題になる可能性があります。
ただし、労災申請をしただけで、すべてのケースに当然に解雇制限が適用されるわけではありません。
最終的には、傷病の業務起因性、療養の必要性、休業の実態、会社が行った手続きなどを踏まえて個別に判断されます。
「自然退職」なら解雇制限は関係ない?
休職期間満了時の扱いには、大きく分けて次の2つがあります。
- 会社が従業員に対して解雇の意思表示をする「解雇」
- 就業規則の定めにより、一定の条件を満たすと雇用契約が終了するとされる「自然退職」
労働基準法第19条は、条文上は「解雇」を制限する規定です。
そのため、自然退職と解雇をまったく同じものとして扱うことはできません。
もっとも、会社が就業規則上は「自然退職」と呼んでいても、それだけで常に有効になるわけではありません。
実際には、次のような点が問題になります。
- 就業規則に休職満了時の取扱いが明確に定められているか
- 休職期間満了時に、本当に就労できない状態だったか
- 主治医の意見を適切に確認したか
- 本人に復職の意思や能力があったか
- 会社が復職可能性を十分に検討したか
- 配置転換や業務軽減によって就労できる可能性がなかったか
- 実質的には会社による一方的な雇用終了ではなかったか
- 傷病が業務上のものである可能性を会社が把握していたか
したがって、「自然退職と書いてあるから、労災申請中でも必ず有効」ということではありません。
一方で、後から労災認定されたからといって、すべての自然退職が自動的に取り消されるわけでもありません。
休職満了時の退職の有効性と、労災保険給付の支給決定は、関連する部分はあるものの、それぞれ別の法的判断になります。
後から労災認定されたら、退職は自動的に取り消される?
後日、労災認定されたとしても、会社の退職処理が自動的に取り消されるとは限りません。
労災認定は、労災保険給付を支給するかどうかについて、労働基準監督署長が判断するものです。
一方、解雇や自然退職が有効かどうかは、会社との雇用契約に関する問題です。
会社が自主的に退職処理を撤回することも考えられますが、会社が撤回しない場合には、労働者側が次のような主張を検討することがあります。
- 解雇が無効であるとの主張
- 休職満了による自然退職が無効であるとの主張
- 従業員としての地位確認
- 雇用契約が続いていることを前提とした賃金請求
もっとも、これらが認められるかどうかは、就業規則、会社からの通知内容、休職満了時の病状、復職可能性、労災認定の内容などによって異なります。
労災認定を受ければ必ず会社に戻れる、退職が当然に無効になる、という単純な関係ではありません。
労災認定前に会社が私傷病として扱うのは違法?
労災認定前に会社が私傷病休職として管理していることだけで、直ちに違法になるとは限りません。
認定前の段階では、会社側も業務上の傷病であるかどうかを確定的に判断できないことがあります。
そのため、会社が就業規則に基づき、私傷病休職として次のような対応を行うことは考えられます。
- 休職期間を設定する
- 定期的に診断書の提出を求める
- 復職判定を行う
- 休職期間満了日を通知する
- 満了時に復職できない場合の取扱いを説明する
ただし、本人が労災申請をしていることや、傷病が業務に起因する可能性を会社が把握している場合には、機械的に私傷病として処理することにはリスクがあります。
特に、労災申請を理由として不利益な取扱いをしたり、申請の取り下げを迫ったり、事実と異なる説明を強要したりすることは別の問題になります。
会社が休職満了を進める場合に確認されること
休職期間満了による退職や解雇の有効性が問題になった場合、単に「就業規則に書いてある」という事情だけでなく、会社が復職可能性を適切に検討したかが重要になります。
一般的には、次のような事情が確認されます。
| 確認項目 | 主な内容 |
|---|---|
| 就業規則 | 休職期間、延長の有無、復職要件、満了時の取扱い |
| 会社からの通知 | 満了日や必要な手続きが事前に明確に伝えられていたか |
| 主治医の診断 | 復職可能性、就業上必要な配慮、治療見込み |
| 産業医の意見 | 実際の職務内容を踏まえた就労可能性 |
| 本人の意向 | 復職意思の有無、希望する配慮、会社との連絡状況 |
| 配置の可能性 | 元の仕事以外に、現実的に担当できる業務があるか |
| 労災申請の内容 | 業務上の出来事、会社の認識、申請の進行状況 |
労災申請中に休職満了を通知されたら確認したいこと
会社から休職満了や自然退職の通知を受けた場合には、感情的に反論する前に、まず資料を確認することが大切です。
1.就業規則を確認する
まず、次の条項を確認してください。
- 休職を命じる条件
- 休職期間
- 勤続年数による期間の違い
- 休職期間を延長できる条件
- 復職の要件
- 休職満了時の取扱い
- 自然退職なのか解雇なのか
就業規則の条文と、会社から説明された内容が一致しているかを確認しましょう。
2.会社からの通知を保存する
次の資料は削除せずに保存してください。
- 休職命令書
- 休職期間満了通知書
- 自然退職または解雇に関する通知書
- 会社とのメールやチャット
- 人事担当者との面談記録
- 復職手続きに関する案内
口頭で説明を受けた場合には、日時、相手、説明内容をメモに残しておくことも重要です。
3.主治医に具体的な職務内容を伝える
診断書に「復職可能」とだけ書かれていても、どのような条件なら働けるのかが分からないことがあります。
主治医には、次のような情報をできるだけ具体的に伝えましょう。
- 実際の仕事内容
- 勤務時間
- 通勤時間
- 業務上のストレス要因
- 異動や配置転換の可能性
- 短時間勤務が可能か
- 避ける必要がある業務や人物
「元の部署への完全復帰は難しいが、別の部署であれば勤務できる」など、条件付きで復職できる可能性がある場合には、その内容を医師に相談することも考えられます。
4.労災申請中であることを書面で伝える
会社が労災申請の事実を把握していない場合や、口頭でしか伝えていない場合には、書面やメールで伝えておくことをおすすめします。
例えば、次のような事項を簡潔に伝えます。
- 労働基準監督署へ労災請求を行っていること
- 対象となっている傷病名
- 現在も療養のため就労できない状態であること
- 休職満了の取扱いについて慎重な検討を求めること
- 必要に応じて主治医の意見書を提出する意思があること
労災申請中であることを伝えたからといって、必ず手続きが停止するわけではありません。
しかし、会社がどのような事情を把握したうえで判断したのかを明確にする意味があります。
5.退職届や合意書にすぐ署名しない
会社から退職届、退職合意書、退職勧奨に関する書類などを提示された場合には、内容を十分に確認してください。
自分で退職届を提出した場合、後から「実際には解雇だった」「退職を強制された」と主張することが難しくなる可能性があります。
その場で署名を求められても、
「内容を確認したいので持ち帰ります」
と伝え、すぐに署名しないことが大切です。
認定結果が出るまでの生活費はどうする?
労災の認定結果が出るまで、会社から給与が支払われないことがあります。
その場合、健康保険の傷病手当金を申請するケースがあります。
ただし、同じ傷病・同じ期間について、労災保険の休業補償給付と健康保険の傷病手当金を重複して受け取ることはできません。
先に傷病手当金を受給し、後から同じ期間について労災保険給付が支給されることになった場合には、保険者との間で返還や調整が必要になることがあります。
そのため、傷病手当金を申請するときは、労災申請中であることを健康保険の保険者に伝え、取扱いを確認しておきましょう。
また、会社を退職した後も一定の要件を満たせば、傷病手当金の継続給付を受けられる場合があります。
退職日や資格喪失日の出勤状況などが影響するため、退職前に加入している健康保険へ確認することが重要です。
有期契約の場合は「雇止め」の問題になる
契約社員やパートタイマーなど、雇用期間が定められている場合には、休職満了とは別に契約期間満了による雇止めが問題になることがあります。
期間の定めのない正社員の解雇と、有期契約の契約期間満了は、法律上まったく同じではありません。
ただし、有期契約であっても、更新を繰り返している場合や、更新されることへの合理的な期待がある場合には、雇止めが自由に認められるとは限りません。
また、会社から「労災申請をしたから次回は更新しない」などと言われた場合には、別の問題が生じる可能性があります。
有期契約の方は、次の資料も確認してください。
- 雇用契約書
- 契約更新の回数
- 過去の更新状況
- 更新基準
- 会社からの更新に関する説明
- 雇止め理由証明書
退職勧奨を受けた場合も注意が必要
会社が一方的に雇用契約を終了する「解雇」と、労働者に退職を勧める「退職勧奨」は異なります。
退職勧奨を受けても、原則として応じる義務はありません。
会社から、
- 今後の居場所はない
- 復職しても仕事はない
- 労災申請を続けるなら退職してほしい
- 今すぐ退職届を書いてほしい
などと言われた場合には、発言内容を記録しておきましょう。
また、退職条件として解決金などが提示される場合もあります。
一度合意すると撤回が難しくなることがあるため、退職届や合意書に署名する前に、内容を慎重に確認することが大切です。
よくある質問
労災申請をした時点から解雇できなくなりますか?
労災申請をしたという事実だけで、直ちにすべての解雇が禁止されるわけではありません。
労働基準法第19条による解雇制限では、実態として業務上の傷病によって療養のため休業しているかが重要です。
ただし、労災申請中であることを知りながら会社が解雇を進め、後に業務上の傷病と認められた場合には、解雇の有効性が問題になる可能性があります。
会社は労災認定の結果が出るまで待つ義務がありますか?
労災申請中という理由だけで、会社が必ず認定結果まで休職満了の手続きを保留しなければならないという一律のルールがあるとは限りません。
実際の対応は、就業規則、休職期間、病状、復職可能性、会社が把握している事実などによって異なります。
休職期間を延長してもらうことはできますか?
休職期間を延長できるかどうかは、就業規則の定めや会社の判断によります。
延長規定がなくても、労災申請中であること、認定の見込み、治療経過、復職の見通しなどを説明し、個別対応を求めることは考えられます。
ただし、会社が必ず延長に応じなければならないとは限りません。
後から労災認定されたら会社に戻れますか?
労災認定されたことだけで、自動的に復職できるとは限りません。
退職や解雇の有効性について会社と見解が異なる場合には、交渉、労働審判、訴訟などを通じて争うことがあります。
就業規則、会社からの通知、医療記録、労災認定の内容などを踏まえた個別判断が必要です。
会社から自然退職と言われたら、従うしかありませんか?
まずは就業規則の条文、休職満了日、復職条件、会社が行った復職判定の内容を確認してください。
「自然退職」という名称だけで、すべてのケースが当然に有効になるわけではありません。
疑問がある場合には、退職届や合意書へ署名する前に専門家へ相談することをおすすめします。
通勤災害でも同じ解雇制限がありますか?
労働基準法第19条の解雇制限は、「業務上」の負傷・疾病を対象としています。
通勤災害は労災保険の給付対象になりますが、同条の解雇制限がそのまま適用されるわけではありません。
もっとも、通勤災害による休業中の解雇についても、解雇理由や手続きによっては、解雇権濫用など別の観点から有効性が問題になることがあります。
労災申請中の休職満了は、早めの確認が重要です
労災申請中に休職期間が満了する場合、会社によって対応は異なります。
労災の認定結果が出るまで休職を継続する会社もあれば、認定前はいったん私傷病として扱い、就業規則どおり休職満了の手続きを進める会社もあります。
大切なのは、次の点です。
- 労災申請をしただけで雇用が自動的に維持されるわけではない
- 一方で、認定前だから会社が自由に解雇できるとも限らない
- 後に労災認定された場合、退職や解雇の有効性が問題になることがある
- 自然退職と解雇は区別して検討する必要がある
- 就業規則、通知書、診断書、会社とのやり取りを保存する
- 退職届や合意書へは、内容を確認せずに署名しない
会社から「〇月〇日までに復職できなければ退職です」と伝えられた場合には、期限が来てからではなく、できるだけ早い段階で就業規則や通知内容を確認しましょう。
労災申請、休職満了、復職、傷病手当金、退職後の生活などは、それぞれ別の制度ですが、実際の相談では密接に関係しています。
一つの制度だけで判断せず、現在の雇用状況と労災申請の進行を合わせて整理することが重要です。
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※本記事は一般的な制度と考え方を解説したものです。休職満了、自然退職、解雇、雇止めの有効性は、就業規則、雇用契約、病状、会社の対応などによって異なります。個別の紛争や法的判断については、弁護士などの専門家への相談もご検討ください。
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