上司からの叱責が続くとき|精神障害の労災申請で重要な7つの整理ポイント

上司からの叱責による精神障害の労災申請で録音やメールなどの証拠を時系列に整理するイメージ

上司からの注意や叱責が繰り返され、眠れない、気分が落ち込む、仕事に手がつかないといった状態になっても、「単なる指導だったのではないか」「労災申請では何を説明すればよいのか」と迷う方は少なくありません。

精神障害の労災申請では、特定の一言だけを取り上げるのではなく、出来事が起きた期間、頻度、場所、発言や対応の態様、社内への相談状況、症状の変化、残っている証拠などを、一つの経過として整理していくことが重要です。

録音やLINE、メール、メモが多数残っている場合も、「資料が多いほど有利」という単純なものではありません。労災申請で確認すべき事実と、それを裏付ける資料を対応させていく必要があります。

この記事では、上司からの叱責や注意などをきっかけとして、うつ病や適応障害などの精神障害について労災申請を検討する際に、申立書や証拠資料を整理するうえで確認したい7つのポイントを解説します。

この記事のポイント
精神障害の労災申請では、「ひどいことを言われた」という説明だけではなく、いつ、どこで、誰から、どのようなことがあり、それがどの程度続き、その後どのような状態になったのかを時系列で整理していくことが大切です。

精神障害の労災は「一番ひどい一言」だけで判断されるわけではありません

職場で精神的につらい経験をすると、どうしても強く印象に残っている言葉や出来事に意識が向きやすくなります。

もちろん、発言内容そのものが重要になる場合はあります。しかし、精神障害の労災申請では、それだけでなく、出来事の内容、その後の状況、継続性、職場環境の変化などを含めて全体として整理することが重要になります。

厚生労働省の「心理的負荷による精神障害の認定基準」でも、実際に発生した業務上の出来事と、その後の状況を具体的に把握したうえで、心理的負荷を評価する仕組みとなっています。

また、ハラスメントやいじめのように繰り返される出来事については、一つひとつを完全に切り離して見るのではなく、繰り返される出来事を一体のものとして評価する場合があります。

そのため、申立書を作る際には、「一番強い発言は何だったか」だけを探すのではなく、職場で何が起き、それがどのように続き、本人の状態がどう変化していったのかを整理していく必要があります。

1.叱責や注意が始まった時期と、悪化した時期を分けて整理する

まず確認したいのが、職場での出来事が始まった時期症状が明らかに悪化した時期です。

たとえば、

  • 上司から厳しい注意を受けるようになった時期
  • 注意や叱責の頻度が増えた時期
  • 人前で指摘されることが増えた時期
  • 社内で相談を始めた時期
  • 眠れなくなった時期
  • 仕事に集中できなくなった時期
  • 医療機関を受診した時期
  • 休職・欠勤・退職に至った時期

などを分けて確認します。

ここで重要なのは、「つらかった時期」を一括りにしないことです。

最初は何とか勤務できていたものの、その後も出来事が続き、次第に睡眠、集中力、意欲、食欲などに影響が出て、最終的に勤務継続が難しくなることもあります。

こうした経過を時系列で整理すると、業務上の出来事と症状の変化との関係が第三者にも伝わりやすくなります。

2.頻度・継続期間を「何度も」「いつも」だけで終わらせない

申立書では、「何度も叱責された」「いつも怒られていた」「頻繁に注意されていた」といった表現だけでは、第三者が状況を把握しにくいことがあります。

可能であれば、

  • いつ頃から始まったのか
  • いつ頃まで続いたのか
  • 週にどの程度あったのか
  • 特に多かった時期はいつか
  • 一度の注意・面談がおおむねどの程度続いたか

といった形で整理します。

ただし、昔の出来事について正確な回数を覚えていないこともあります。その場合に、無理に数字を作る必要はありません。

録音、メール、LINE、勤務記録、スケジュール、本人メモなどから確認できる範囲と、本人の記憶による部分を区別しながら整理することが大切です。

ポイント
「正確に思い出せないから書けない」と考える必要はありません。証拠で確認できる部分と、本人が記憶している経過を分けて整理すると、申立書を作りやすくなります。

3.人前なのか、別室なのか、誰がいたのかを確認する

同じ内容の注意であっても、どのような場所や状況で行われたかは重要な確認事項です。

たとえば、

  • 自席や事務所内だった
  • 他の従業員がいる前だった
  • 会議中だった
  • 別室に呼ばれた
  • 一対一だった
  • 複数人が同席していた
  • 取引先や顧客がいる場だった

などです。

厚生労働省が示す職場のパワーハラスメントの例でも、他の労働者の面前で威圧的な叱責を繰り返すことや、必要以上に長時間にわたり厳しい叱責を繰り返すことなどが示されています。

もっとも、人前で叱責されたから直ちに労災になる、あるいはパワーハラスメントに該当するという意味ではありません。具体的な内容や程度、頻度、継続性などを含めて個別に確認する必要があります。

申立書を作る際には、発言内容だけでなく、場所・同席者・周囲の状況も記録しておくとよいでしょう。

4.業務上の指導と、人格・能力・私生活への言及を分けて整理する

上司には、業務上必要な指示や指導を行う場面があります。そのため、「上司から注意を受けた」という事実だけで、直ちに問題のある行為と判断されるわけではありません。

そこで申立書では、何について注意されたのかどのような言い方・態様だったのかを分けて整理することが大切です。

たとえば、

  • 業務上のミスについての指摘
  • 報告・連絡・相談についての指導
  • 仕事の進め方についての注意

と、

  • 人格を否定するような発言
  • 能力そのものを否定するような発言
  • 年齢など業務と直接関係しないことへの言及
  • 家族や私生活に踏み込むような発言
  • 必要以上に威圧的な言い方

とでは、整理の仕方が異なります。

申立書では、「パワハラを受けました」と結論だけを書くより、実際に何があったのかという事実を具体的に示すことを意識します。

5.社内に相談した内容と、その後に何が変わったのかを確認する

上司からの叱責やハラスメントについて、社内の別の上司、人事担当者、相談窓口などへ相談している場合は、その経過も整理しておきたいところです。

具体的には、

  • 誰に相談したか
  • いつ相談したか
  • どのような状況を説明したか
  • 会社からどのような回答があったか
  • 会社が何らかの対応をしたか
  • 相談後に状況が改善したか
  • その後も同じ状況が続いたか

などを確認します。

相談したメールやLINE、面談記録、録音などが残っていれば、相談した時点で本人がどの程度困っていたかを確認する資料になることもあります。

また、相談後の会社の対応や職場環境の変化も、出来事全体の経過を整理するうえで確認したいポイントです。

6.「つらかった」だけでなく、仕事や日常生活に出た支障を具体的に整理する

精神障害の労災申請では、職場で起きた出来事だけではなく、その後、本人にどのような症状や生活上の変化が生じたかも整理します。

たとえば、

  • 眠れなくなった
  • 夜中や早朝に目が覚めるようになった
  • 食欲が低下した
  • 出勤前に強い不安を感じるようになった
  • 仕事中に集中できなくなった
  • 簡単な判断が難しくなった
  • メールへの返信や書類作成が進まなくなった
  • 以前楽しめていたことを楽しめなくなった
  • 休日も仕事のことを考えてしまうようになった
  • 家事や外出が難しくなった
  • 欠勤や休職をするようになった

といった変化です。

「精神的につらかった」という表現だけでなく、仕事や日常生活で実際に何ができなくなったのかを具体化すると、症状の経過が伝わりやすくなります。

また、診断書や診療録に記載された症状・受診経過と、申立書の内容に大きな食い違いがないかも確認しておくことが大切です。受診時にどのような症状や職場での状況を医師へ伝えていたかを振り返り、事実に沿って整理しましょう。

7.録音・LINE・メール・診断書・メモを時系列で対応させる

精神障害の労災申請では、録音、LINE、メール、診断書、本人メモなど、複数種類の資料が残っていることがあります。

資料が多い場合におすすめなのが、先に「出来事一覧」を作ることです。

たとえば、次のような項目を整理します。

項目整理する内容
日付・時期出来事があった日、またはおおよその時期
場所事務所、会議室、別室、オンラインなど
相手上司、同僚、会社役員など
出来事何を言われたか、何があったか
周囲の状況同席者、他の従業員の有無など
証拠録音、LINE、メール、メモなど
その後の状態落ち込み、不眠、欠勤、受診など

こうしておくと、申立書の記載と証拠資料を対応させやすくなります。

たとえば、「この出来事は録音で確認できる」「この相談についてはメールが残っている」「この時期から症状が悪化し、その後受診している」という形で、一つの流れとして整理できます。

録音が大量にある場合、全部を書き起こす必要はある?

ご相談の中では、「録音が何十時間もあります。全部文字起こしした方がよいでしょうか」という質問を受けることがあります。

必ずしも、最初からすべての録音を全文文字起こしする必要があるとは限りません。

先に、

  • 録音日時
  • 録音時間
  • 誰との会話か
  • 何についての会話か
  • 重要と思われる箇所
  • 申立書のどの出来事に対応するか

を一覧化してみる方法があります。

そのうえで、労災申請で重要になる部分から確認し、必要に応じて該当箇所を文字起こししていく方が、資料全体を把握しやすい場合があります。

もっとも、重要性がありそうな録音だけを恣意的に抜き出すのではなく、録音全体の日時・長さ・相手・主題を一覧にしたうえで、申立書に記載する出来事との対応関係を整理することが大切です。

録音の本数が多いほど、「全部提出すること」よりも、どの録音が、どの出来事を裏付けるものなのかを整理することが重要になります。

証拠が十分にそろっていなくても、まず時系列を作ってみる

精神障害の労災申請を考えている方の中には、「録音していなかったから申請できないのではないか」「メールがあまり残っていない」と心配される方もいます。

しかし、すべての出来事について録音や書面が残っているとは限りません。

まずは、

  • いつ頃から何があったのか
  • 誰が関係していたのか
  • どのような出来事だったのか
  • その頃どのような状態だったのか
  • 何か確認できる資料が残っていないか

を時系列で書き出してみることが大切です。

その作業をすると、メール、LINE、勤務表、スケジュール、診断書、お薬手帳、受診記録など、後から関連資料が見つかることもあります。

「パワハラに当たるか」と「精神障害の労災になるか」は同じ問題ではありません

ここは混同されやすいポイントです。

職場での言動がパワーハラスメントに該当するかという問題と、精神障害が労災保険上の業務上の疾病として認定されるかという問題は、関連はありますが、まったく同じ判断ではありません。

精神障害の労災認定では、厚生労働省の認定基準に基づき、業務による心理的負荷などが個別に評価されます。

そのため、

  • 会社が「パワハラではない」と言っている
  • 上司が「業務上の指導だった」と説明している
  • 社内調査でハラスメント認定されていない

という事情だけで、精神障害の労災申請が直ちにできなくなるわけではありません。

逆に、「自分では明らかなパワハラだと思う」ということだけで労災認定されるわけでもありません。

実際にどのような出来事があり、どの程度の心理的負荷だったのかを、認定基準に沿って確認していく必要があります。

申立書では「感情」と「事実」を分けると伝わりやすい

つらい経験について文章を書くと、どうしても、

「本当にひどい上司でした」
「毎日地獄でした」
「会社は何もしてくれませんでした」

といった気持ちを書きたくなることがあります。

もちろん、そのように感じたこと自体を否定する必要はありません。

ただ、労災申請のための申立書では、第三者が事実関係を確認できる書き方を意識することが大切です。

たとえば、「毎日ひどく怒られた」だけではなく、「〇月頃から、事務所内で業務の進め方について繰り返し注意を受けるようになった。その際、他の従業員が同席していることもあった」というように、時期・場所・内容・周囲の状況に分けて整理します。

そのうえで、「その頃から眠れなくなった」「業務中に手が止まることが増えた」など、症状の変化を別に整理すると、経過が伝わりやすくなります。

精神障害の労災申請で整理しておきたい7つのポイント【まとめ】

上司からの叱責や注意が続き、精神障害について労災申請を検討する場合は、次の7点を整理してみてください。

  1. 出来事が始まった時期と、症状が悪化した時期
  2. 叱責や注意の頻度・継続期間
  3. 人前・別室などの場所と同席者
  4. 業務上の指導と、人格・能力・私生活への言及
  5. 社内相談の内容と、その後の対応
  6. 仕事や日常生活に現れた具体的な支障
  7. 録音・LINE・メール・診断書などとの対応関係

精神障害の労災申請では、「ひどいことを言われた」という一点だけではなく、出来事の内容、継続性、相談後の経過、症状の変化、客観資料との対応を一つの流れとして整理することが重要です。

録音が複数残っている場合も、すべてを書き起こすところから始めるのではなく、まず日時・場所・主な内容・その後の状態を一覧化すると、申立書の骨格を作りやすくなります。

精神障害の労災申請について、一人で資料を整理するのが難しい方へ

録音、LINE、メール、メモなどが残っていても、「どの資料が重要なのか」「何から整理すればよいのか」「労基署にどう説明すればよいのか」と迷うことがあります。

特に、出来事が長期間にわたっていたり、録音やメールが多数残っていたりする場合は、資料を集めるだけでなく、出来事・症状・受診経過・客観資料を対応させて整理する作業が重要になります。

こもれび社労士事務所では、精神障害の労災申請について、申立書の作成や録音・LINE・メール等の証拠資料の整理を含めてサポートしています。

「まだ労災になるか分からない」「資料が十分にそろっているか分からない」という段階でも、まず現在の状況を整理するところからご相談いただけます。

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参考資料

※精神障害の労災認定は、個々の事案について、発病時期、業務上の出来事、その後の状況、業務以外の要因等を踏まえて判断されます。
また、業務上の出来事だけでなく、発病時期、業務以外の心理的負荷、既往歴・治療経過などについても個別に確認・判断されます。
本記事は一般的な情報提供を目的とするものであり、個別の事案について労災認定やパワーハラスメント該当性を保証するものではありません。

ここまで読んで、まだ迷っていても大丈夫です。

まずは、今の状況を整理するところからで大丈夫です

「まだ相談するか決めていない」
「何を書けばいいか分からない」
そんな段階でも大丈夫です。

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