残業20時間未満でもメンタル労災は認められる?最新統計「57件」の意味を社労士が解説

残業時間だけでは判断できない精神障害の労災認定について考える会社員のイメージ

「メンタルの労災は、月80時間や100時間くらい残業していないと認められない」

そのように思って、労災申請を諦めかけている方もいるのではないでしょうか。

しかし、精神障害の労災は、残業時間だけで決まるものではありません。

厚生労働省が2026年7月15日に公表した令和7年度「過労死等の労災補償状況」では、業務災害に係る精神障害の支給決定件数は1,082件でした。

さらに注目したいのが、時間外労働時間別の数字です。

令和7年度・精神障害の支給決定事案
時間外労働「20時間未満」
57件
時間外労働時間別の公表件数では最多
※「1か月又は2~6か月における1か月平均」の時間外労働時間別

「え? 時間外労働が20時間未満の区分でも、精神障害の支給決定事案があるの?」

と思うかもしれません。

ただし、この数字は慎重に読む必要があります。

「残業20時間未満なら労災になる」という意味でも、「57件が残業の少なさとは別の特定の理由で認定された」と分かるわけでもありません。

それでも、この最新統計から一つ重要なことが分かります。

精神障害の労災は、「残業時間だけ」を見て判断されているわけではないということです。

この記事では、「20時間未満57件」という数字の正しい読み方と、パワハラ、カスタマーハラスメント、セクハラ、仕事内容・仕事量の変化など、精神障害の労災で確認したいポイントを社会保険労務士が解説します。

先に結論

残業時間が少ないという理由だけで、精神障害の労災申請を最初から諦める必要はありません。
一方で、残業が少なくても簡単に認定されるという意味でもありません。
発病前に何があったのかを、出来事・時系列・資料から個別に整理することが重要です。

動画でも解説しています

「残業20時間未満57件」という最新統計の意味と、精神障害の労災で残業時間以外に確認されるポイントを動画で解説しています。

令和7年度の精神障害の支給決定は1,082件

厚生労働省の令和7年度「過労死等の労災補償状況」によると、業務災害に係る精神障害について、令和7年度の労災請求件数は4,958件、支給決定件数は1,082件でした。

項目 令和7年度
精神障害の労災請求件数 4,958件
支給決定件数 1,082件
うち自殺(未遂を含む) 76件

支給決定件数は、前年度より26件増えています。

ここは誤解しないよう注意してください。

1,082件は「令和7年度に精神障害を発病した人が1,082人」という意味ではありません。厚生労働省によると、支給決定件数は令和7年度中に業務災害等と認定した件数で、令和7年度以前に請求されたものも含みます。

つまり、「請求した年度」「発病した年度」「支給決定された年度」は同じとは限りません。

出典: 厚生労働省「令和7年度『過労死等の労災補償状況』を公表します」

「残業20時間未満57件」は何を意味する?

今回の統計で、特に注目したいのが時間外労働時間別の支給決定件数です。

厚生労働省は、精神障害の支給決定事案について、 「1か月又は2~6か月における1か月平均」の時間外労働時間別 の傾向を公表しています。

その中で最も多かった区分が、

時間外労働
20時間未満 57件
次いで40時間以上60時間未満が55件

でした。

精神障害の労災について「長時間残業がなければ無理」と考えていた方にとっては、意外な数字かもしれません。

少なくとも、最新の支給決定統計には、時間外労働時間の区分が20時間未満となっている支給決定事案が存在することが確認できます。

57件という数字から「分からないこと」もある

ただし、ここからが重要です。

この「57件」を、

「残業20時間未満でも57人が残業を理由に労災認定された」

と読むのは正確ではありません。

厚生労働省の公表統計だけでは、この57件それぞれについて、

  • どの精神障害を発病したのか
  • 具体的にどの出来事が認定の中心となったのか
  • パワハラがあったのか
  • カスタマーハラスメントがあったのか
  • セクハラがあったのか
  • 仕事内容や仕事量の変化があったのか
  • どのような証拠が確認されたのか

までは分かりません。

正確な読み方

「精神障害について支給決定された事案の時間外労働時間別の傾向を見ると、『20時間未満』の区分が57件で最も多かった」

この範囲にとどめて理解するのが適切です。

「月80時間以上ないと労災にならない」は正確ではない

精神障害の労災について、

「80時間を超えていないので無理ですよね」
「100時間くらい残業していないと労災にはならないですよね」

と聞かれることがあります。

しかし、これは正確ではありません。

長時間労働は、精神障害の労災認定における重要な評価要素の一つです。

一方、精神障害の労災では、発病前に起きた具体的な出来事と、その心理的負荷も確認されます。

厚生労働省の認定基準では、対象となる精神障害を発病していることに加え、原則として発病前おおむね6か月の間に業務による強い心理的負荷が認められるかなどを確認します。

したがって、

「残業○時間未満だから労災ではない」

と、残業時間だけを切り取って判断するものではありません。

実際に支給決定が多かった出来事

では、精神障害の支給決定事案では、どのような出来事が多かったのでしょうか。

令和7年度の厚生労働省統計で、支給決定件数が多かった出来事は次のとおりです。

出来事 件数
上司等から、身体的攻撃、精神的攻撃等のパワーハラスメントを受けた 222件
顧客や取引先、施設利用者等から著しい迷惑行為を受けた 127件
セクシュアルハラスメントを受けた 127件
仕事内容・仕事量の大きな変化を生じさせる出来事があった 113件

厚生労働省は、ここでいう「出来事」を、精神障害の発病に関与したと考えられる事象の心理的負荷の強度を評価するため、認定基準で一定の事象を類型化したものと説明しています。

パワーハラスメント|222件

最も多かったのは、 「上司等から、身体的攻撃、精神的攻撃等のパワーハラスメントを受けた」222件 でした。

ここで重要なのは、「パワハラという言葉を使ったかどうか」だけではありません。

例えば、

  • どのような発言・行為だったのか
  • 誰から受けたのか
  • どの程度繰り返されたのか
  • 人前だったのか、1対1だったのか
  • その後どのような状況が続いたのか

など、具体的な事実に分けて整理することが重要です。

顧客等からの著しい迷惑行為|127件

「顧客や取引先、施設利用者等から著しい迷惑行為を受けた」は127件でした。

いわゆるカスタマーハラスメントに関係する出来事です。

精神障害の労災というと「上司からのパワハラ」や「長時間労働」を思い浮かべる方が多いかもしれませんが、顧客や利用者などから受けた著しい迷惑行為も、認定基準上の具体的出来事として位置付けられています。

セクシュアルハラスメント|127件

「セクシュアルハラスメントを受けた」も127件でした。

ハラスメントについては、単に出来事の有無だけでなく、その内容、程度、継続状況、その後の会社対応なども含めて事実関係を整理することが大切です。

仕事内容・仕事量の大きな変化|113件

「仕事内容・仕事量の大きな変化を生じさせる出来事があった」は113件でした。

個別の113件の事情は統計からは確認できませんが、一般に仕事内容・仕事量の変化が問題となる場面としては、次のような事情が考えられます。

  • 異動により突然仕事内容が変わった
  • 経験のない業務を任された
  • 人員減少により担当業務が大きく増えた
  • 昇進・配置変更で責任が急激に重くなった
  • 複数の業務を同時に抱えることになった

このようなケースでは、単純な残業時間だけを見ても、実際の心理的負荷を十分に把握できないことがあります。

残業以外の出来事が重なっているケースも重要

実際のご相談では、一つだけではなく、複数の出来事が重なっていることがあります。

例えば、

人員が減る

仕事量と責任が増える

ミスについて上司から強く叱責される

不眠・動悸などが出始める

精神科を受診し、休職する

このように、出来事を一つずつ切り離すより、発病までの流れとして整理した方が分かりやすいケースがあります。

「一番ひどかった出来事は何か」だけでなく、その前後にどのような仕事上の変化があったのかも確認しておくことが大切です。

残業が少ない人ほど「発病前6か月」を整理したい

もし、

「残業は月20~30時間程度だった」
「長時間労働とは言えないと思う」

という場合には、残業時間だけで判断せず、まず発病前おおむね6か月を時系列で振り返ってみてください。

整理するときには、

  • 異動・配置転換
  • 仕事内容の変化
  • 仕事量の増加
  • 責任の増大
  • 上司からの叱責・暴言
  • 同僚とのトラブル
  • 顧客・利用者からの暴言や威圧
  • 退職勧奨
  • セクシュアルハラスメント
  • 大きな失敗やトラブルへの対応

などがなかったかを確認します。

そのうえで、

「出来事」→「その後の状況」→「症状の変化」→「受診・休職」

という形で並べると、経過を整理しやすくなります。

どんな証拠・資料を整理すればよい?

精神障害の労災では、「証拠が1個あるか、ないか」だけで考えないことも重要です。

例えば、次のような資料が事実関係を確認する材料になることがあります。

  • タイムカード・勤怠システム
  • パソコンのログ
  • 業務メール
  • LINE・社内チャット
  • 録音
  • 会社への相談メールや相談記録
  • 人事異動・配置転換に関する資料
  • 業務分担表・シフト表
  • 日記・手帳
  • 診断書・診療録
  • 同僚など関係者の説明

例えば録音がなくても、LINE、メール、会社への相談記録、診療録など、複数の資料から当時の状況を整理できる場合があります。

相談前に全部そろえる必要はありません。

「何が証拠になるのか分からない」という段階では、まず現在手元にある資料を残しておき、何を示す資料なのかを一つずつ整理していく方法があります。

会社に否定されても、それだけで終わりではない

パワハラなどを理由に労災申請を検討している方から、

「会社は全部否定すると思います」
「会社が『そんな事実はない』と言ったら終わりですか?」

という相談もあります。

会社が出来事を否定したからといって、会社の説明だけで労災の結論が決まるわけではありません。

本人と会社の説明に食い違いがある場合には、メール、LINE、録音、勤怠記録、診療録、関係者の説明などを含めて事実関係を確認していくことになります。

詳しくはこちらで解説しています。

「残業が少ないから無理」と申請前に決めつけない

今回の統計を見て、最も大切だと思うのはこの点です。

残業時間が少ないという理由だけで、
メンタル労災を最初から諦めない

もちろん、残業が少なければ労災認定されるという意味ではありません。

また、「パワハラがあった」「仕事量が増えた」と主張するだけで認定されるわけでもありません。

精神障害の労災では、

  • 対象となる精神障害をいつ発病したのか
  • 発病前おおむね6か月に何があったのか
  • それぞれの出来事がどの程度の心理的負荷だったのか
  • 出来事を確認できる資料があるか
  • 業務以外の事情や個体側要因をどう評価するか

などを個別に確認していく必要があります。

「月○時間だから無理」と、自分だけで結論を出す前に、発病前の出来事全体を確認してみることが大切です。

よくある質問

残業20時間未満でも精神障害の労災申請はできますか?

残業時間が20時間未満だからという理由だけで、労災請求ができなくなるわけではありません。

精神障害の労災では、残業時間だけでなく、発病前おおむね6か月にあった仕事上の出来事や、その心理的負荷などを確認します。

「20時間未満57件」は、残業が少なくても認定されやすいという意味ですか?

いいえ。

この数字は、支給決定事案を時間外労働時間別に見たとき、「20時間未満」の区分が57件だったことを示しています。

57件それぞれの具体的な認定理由までは統計から確認できないため、「残業が少なくても認定されやすい」と判断することはできません。

残業80時間未満なら労災は難しいですか?

残業時間だけで判断することはできません。

長時間労働は重要な評価要素ですが、パワハラ、顧客等からの著しい迷惑行為、セクハラ、仕事内容・仕事量の大きな変化など、他の業務上の出来事も確認されます。

残業時間を正確に証明できません。申請できませんか?

残業時間を確認できる資料は重要ですが、手元にタイムカードがないという理由だけで、直ちに労災申請ができなくなるわけではありません。

勤怠記録、パソコンログ、メール送信履歴、業務チャットなど、労働時間を確認する材料がほかにないか整理してみることが考えられます。

パワハラの録音がありません。それでも申請できますか?

録音がないという理由だけで、労災申請ができなくなるわけではありません。

当時のメール、LINE、相談記録、日記、診療録、関係者の説明など、複数の資料から出来事を整理できる場合があります。

まとめ|メンタル労災は「残業時間だけ」で判断されない

厚生労働省の令和7年度統計では、業務災害に係る精神障害の支給決定件数は1,082件でした。

時間外労働時間別では、

「20時間未満」57件が最多

となっています。

また、出来事別では、

  • パワーハラスメント:222件
  • 顧客や取引先、施設利用者等からの著しい迷惑行為:127件
  • セクシュアルハラスメント:127件
  • 仕事内容・仕事量の大きな変化:113件

が上位でした。

この統計から、「残業20時間未満なら認定される」と考えることはできません。

一方で、「長時間残業がないから、それだけで精神障害の労災は無理」とも言えません。

まずは発病前おおむね6か月に何があったのかを時系列で整理し、メール、LINE、録音、勤怠記録、診療録などと照らし合わせながら、自分のケースで何が重要になるのかを確認することが大切です。

「残業が少ないので、労災は無理かもしれない」と迷っている方へ

こもれび社労士事務所では、パワーハラスメント、仕事量の増加、配置転換、顧客対応、長時間労働などをきっかけとする精神障害の労災申請について、申立書の作成や資料整理のサポートを行っています。

「残業時間は多くないけれど、職場でいくつもの出来事があった」
「パワハラと言えるのか自分では判断できない」
「LINEやメールはあるが、何が証拠になるのか分からない」
「発病前6か月をどう整理すればよいか分からない」

という段階でも構いません。

最初から完璧な申立書を作ったり、証拠を全部そろえたりする必要はありません。現在分かっている経過や手元にある資料から、何を確認すべきか整理していきます。

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参考資料

※本記事は、厚生労働省が公表している統計資料および精神障害の労災認定基準をもとに、一般的な考え方を解説したものです。個別の事案について労災認定を保証するものではありません。実際の判断は、精神障害の発病時期、具体的な業務上の出来事、心理的負荷、医学的資料、業務以外の事情などを踏まえて個別に行われます。

ここまで読んで、まだ迷っていても大丈夫です。

まずは、今の状況を整理するところからで大丈夫です

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