【原処分理由書から学ぶ⑥】退職勧奨はどこから心理的負荷になる?精神障害の労災認定で見られる評価ポイント

実際の原処分理由書から学ぶ退職勧奨の評価ポイントをイメージした水彩イラスト

実際の原処分理由書を読むと、退職勧奨についても、その言葉だけではなく、面談の状況やその後の経過を含めて評価されていることがあります。

この記事では、退職勧奨がどこから心理的負荷として問題になるのか、そして申請時にどのような点を整理しておくべきかを解説します。

「退職を勧められただけでは、労災にはならないのでしょうか」

精神障害の労災相談では、このようなご相談を受けることがあります。

たしかに、退職の話が出たというだけで、直ちに労災認定につながるわけではありません。

しかし、精神障害の労災認定では、退職勧奨そのものだけでなく、それがどのような状況で行われ、どのような経過の中で生じたのかが重要になります。

この記事では、退職勧奨がどこから心理的負荷として問題になるのか、そして申請時にどのような点を整理しておくべきかを解説します。

退職勧奨=すべて労災、ではありません

まず大切なのは、「退職の話が出た」ということと、精神障害の労災認定における心理的負荷が強いと評価されることは、必ずしも同じではないという点です。

会社が本人の体調や業務適性を理由に配置や働き方について話し合うこと自体は、直ちに違法・不当と評価されるわけではありません。

しかし、その面談や発言が、実質的に退職を迫る内容だったり、継続的な圧迫の一部として行われていたりする場合には、心理的負荷の評価が変わることがあります。

そのため、労災申請では、「退職を勧められた」と書くだけではなく、その場面の内容や経過を整理する必要があります。

① 「業務指導」と「退職勧奨」の境界が問題になる

原処分理由書でよく見られるのは、会社側が「業務上必要な指導だった」「本人の適性や体調に配慮した説明だった」と評価しているケースです。

このように整理されると、本人にとって非常につらい出来事であっても、心理的負荷が低く見られることがあります。

しかし、次のような事情がある場合には、単なる業務指導や説明にとどまらない可能性があります。

  • 退職を前提としたような発言があった
  • 勤務継続ではなく退職を選ばせる流れになっていた
  • 本人の希望を十分に聞かずに話が進められた
  • 配置転換や勤務変更とあわせて退職が示唆された
  • 繰り返し面談が行われ、精神的に追い込まれていた

労災申請では、「何を言われたか」だけでなく、その話し合いが本当に業務上の説明だったのか、それとも退職勧奨としての性質を持っていたのかを整理することが大切です。

② 面談の状況そのものが心理的負荷になることがある

退職勧奨が問題になる場面では、発言内容だけでなく、面談の状況も非常に重要です。

たとえば、同じ言葉であっても、次のような状況では心理的負荷の程度が大きく変わります。

  • 個室に突然呼び出された
  • 管理職や人事担当者が複数同席していた
  • 3対1のような構図で話が行われた
  • 長時間にわたり一方的に話をされた
  • その場で返答を求められた

実際の原処分理由書でも、発言内容は取り上げられていても、面談の場面設定や圧迫性への言及が十分でないと感じることがあります。

そのため、申請書や意見書では、「どこで」「誰が」「何人で」「どのくらいの時間」「どのような雰囲気で」行われた面談だったのかを整理しておくことが重要です。

③ 発言内容だけではなく「誰が、どこで、どのように言ったか」が重要

退職勧奨に関するご相談では、「向いていない」「他を考えたらどうか」「この仕事は難しいのではないか」といった言葉が出てくることがあります。

これらの言葉は、文面だけを見ると曖昧に見えることがあります。

しかし、実務では、その言葉が、

  • 直属の上司から言われたのか
  • 人事担当者や管理職が同席していたのか
  • 配置転換や勤務変更の話と一緒に出たのか
  • 体調不良を訴えた直後だったのか
  • 複数回の面談の中で繰り返されていたのか

という点を含めて見ていきます。

つまり、発言内容だけを切り取るのではなく、その言葉が置かれた状況全体で評価することが重要です。

④ 退職勧奨は一度だけとは限らない

退職勧奨は、ある日突然一回だけ行われるとは限りません。

実際には、

  • 面談①で勤務への不満や適性を指摘される
  • その後に配置転換や勤務変更が行われる
  • 面談②で今後の働き方について話が出る
  • さらに面談③で退職を示唆する発言がある

というように、複数回のやり取りの中で退職勧奨の性質が強まっていくことがあります。

このような場合、最後の一言だけを取り出して評価するのではなく、それまでの面談や勤務変更、配置転換、周囲の対応も含めて一連の流れとして整理することが重要です。

ここは、第5弾で解説した「一連評価」の考え方が特に重要になる場面です。

⑤ 退職勧奨はパワハラや勤務変更と重なることがある

退職勧奨が問題になる事案では、それだけが単独で存在することは少なくありません。

実際には、

  • それ以前から強い叱責や否定的な言動が続いていた
  • 長時間労働や夜勤、一人勤務で負担が高まっていた
  • 復職後に職務内容や勤務条件が変わっていた
  • 相談しても十分な配慮がされなかった
  • 最終的に退職を示唆される流れになっていた

ということがあります。

そのため、退職勧奨を一つの場面だけで捉えるのではなく、パワハラ、勤務変更、長時間労働などとの関係も含めて全体として見ていく必要があります。

⑥ 私が実務で最初に見るポイント

退職勧奨が問題になっているご相談では、私はまず「退職を勧める言葉があったか」だけを見ません。

最初に整理するのは、面談の回数、日時、同席者、発言内容、その後の勤務変更や体調悪化との流れです。

実務では、次のような点を時系列で確認します。

  • いつ面談があったのか
  • 誰が同席していたのか
  • どのような発言があったのか
  • その後に配置転換や勤務変更があったのか
  • LINEやメールで補強できるやり取りがあるか
  • その後、症状悪化、受診、休職につながっているか

こうして整理すると、相談段階では単発の面談に見えていたものが、実際には一連の圧力や心理的負荷の流れの中にあったことが見えてくることがあります。

このように時系列で整理することで、認定基準に沿った心理的負荷の評価や、一連評価との関係も整理しやすくなります。

まとめ:退職勧奨は、その場面だけでなく経過全体で見ることが重要です

退職勧奨は、それだけで直ちに労災認定につながるわけではありません。

しかし、精神障害の労災認定では、面談の状況、発言内容、同席者、継続性、その後の勤務変更や体調悪化との流れなどを含めて、心理的負荷が評価されます。

実際の原処分理由書や審査請求実務を通じて感じるのは、退職勧奨だけを切り離して見るのではなく、パワハラ、勤務変更、長時間労働なども含めた一連の流れとして整理することが非常に重要だということです。

今回は、原処分理由書から学ぶシリーズの第6弾として、退職勧奨の評価ポイントを整理しました。パワハラについては第2弾、長時間労働については第3弾、会社資料の読み方については第4弾、一連評価については第5弾で詳しく解説しています。

こもれび社労士事務所では、退職勧奨、パワハラ、勤務変更、復職後のトラブルなどによる精神障害の労災申請について、出来事の整理、証拠の確認、申請書類の作成までサポートしています。

「退職を勧められたが、これがどこまで問題になるのか分からない」という段階でも大丈夫です。

まずは、面談の内容やその後の経過を、短文や箇条書きで送っていただければ、一緒に整理していきます。

退職勧奨や面談対応で悩んでいる方へ

退職を勧められた、配置転換を打診された、復職後に働き方を大きく変えられた、複数名との面談で強い負担を感じた場合、労災申請の対象になる可能性があります。

「これが退職勧奨に当たるのか分からない」という段階でも構いません。まずは起きたことを整理するところから始めていきましょう。

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