精神障害の労災が不支給になる理由とは?一連の出来事が別々に評価される落とし穴

精神障害の労災で不支給になる理由や、一連の出来事の関連性を表現した水彩イラスト

精神障害・パワハラの労災

精神障害の労災が不支給になる理由|出来事の関連性が重要

「これほどつらい出来事が続いたのに、なぜ労災が認められなかったのだろう」

この記事で分かること
✅ なぜ精神障害の労災が不支給になるのか
✅ 「一連の出来事」が別々に評価される問題
✅ 不支給後に確認したいポイント

精神障害の労災申請では、一つひとつの出来事だけを見れば心理的負荷が「中」と評価される場合でも、 複数の出来事のつながりや、その後の状況を含めて全体を見ることで、評価が変わる可能性があります。

ところが、実際のご相談で労働基準監督署の判断内容を確認すると、 本来は一連の流れとして検討すべき事情が、別々の出来事として整理されているケースが見られます。

この記事では、精神障害の労災が不支給となる場面で見落とされやすい 「出来事の関連性」と「全体としての心理的負荷」について、 専門用語をできるだけ使わずに解説します。

この記事の要点
一つの出来事だけでは評価が「中」にとどまっても、 その前後に起きた出来事や継続的な状況を含めて見ると、 全体として「強」と評価される可能性があります。

精神障害の労災が不支給になる理由

精神障害が労災として認められるためには、対象となる精神障害を発病していることに加え、 発病前おおむね6か月の間に、仕事による強い心理的負荷があったと認められることなどが必要です。

そのため、本人にとって非常につらい経験であっても、 労働基準監督署の調査で仕事による心理的負荷が「強」に至らないと判断されれば、 不支給となることがあります。

不支給となる場面では、例えば次のような点が問題になります。

  • 出来事の内容や程度が十分に確認できない
  • 出来事と精神障害の発病時期が合っていない
  • 仕事以外の心理的負荷が大きいと判断される
  • 複数の出来事が別々に評価され、全体としての負荷が十分に伝わらない
  • 出来事の後も続いた叱責、孤立、過重業務などが十分に反映されない

このうち、当事務所で不支給後のご相談を受けて判断資料を確認する中で、 特に注意が必要だと感じるのが、 複数の出来事が「一連の流れ」ではなく、単発の出来事として分けて評価されているケースです。

出来事が単発で評価されると何が起きるのか

例えば、ある労働者に次のような出来事が続いたとします。

1

突然の配置転換

経験のない業務を十分な引継ぎもなく担当することになった。

2

業務量の増加

退職者の仕事まで引き継ぎ、残業や持ち帰り仕事が増えた。

3

上司からの叱責

業務が追いつかないことを理由に、人前で繰り返し責められた。

4

職場での孤立

相談しても支援を受けられず、周囲との関係も悪化した。

5

不眠・抑うつ状態から発病

眠れない、食欲がない、出勤できないなどの症状が現れた。

この流れを「配置転換」「仕事量の増加」「叱責」「人間関係の悪化」と一つずつ切り離して見れば、 それぞれ単独では心理的負荷が「中」にとどまる可能性があります。

しかし、実際には配置転換をきっかけとして業務量が増え、 仕事が追いつかなくなった結果として叱責を受け、 支援も得られないまま孤立し、精神障害を発病しています。

別々に見る場合

配置転換は「中」
業務量増加も「中」
叱責も「中」

一連の流れとして見る場合

出来事の関連性、継続性、反復性、その後の状況を含めて、 全体として心理的負荷を評価する

つまり、個々の出来事の評価だけでなく、 なぜ次の出来事が起きたのか、どのような状態が続き、発病に至ったのか まで伝えることが重要です。

一連の出来事として整理したい典型例

次のようなケースでは、出来事を一つずつ並べるだけでなく、 前後の関係や継続した状況を整理する必要があります。

配置転換から発病したケース

配置転換

未経験業務・引継ぎ不足

業務量の増加

ミスに対する叱責

発病

配置転換だけでなく、その後の業務内容、支援の有無、叱責の経緯まで含めて整理します。

仕事を外され孤立したケース

上司との対立

担当業務を外される

会議から外される

周囲との接触が減る

発病

単なる業務変更ではなく、排除や孤立が継続していたことを具体的に示します。

繰り返し叱責されたケース

最初の叱責

人前での叱責が反復

人格を否定する発言

相談しても改善なし

発病

一番強い発言だけでなく、回数、期間、場所、周囲の反応、会社の対応も整理します。

退職を迫られたケース

低い人事評価

改善困難な目標設定

退職を促す発言

権限や仕事を外される

発病

退職勧奨の発言だけでなく、その前後に行われた処遇や職場での扱いまで確認します。

注意: これらの流れがあれば必ず労災認定されるという意味ではありません。 実際の認定は、出来事の具体的な内容、客観的資料、発病時期、医学的判断などを踏まえて、 個別に行われます。

なぜ出来事が別々に見られてしまうのか

労働基準監督署が意図的に出来事を切り離しているとは限りません。 申請時の資料や本人の説明から、出来事同士の関係が十分に読み取れない場合もあります。

1.申立書が出来事の羅列になっている

「4月に異動した」「5月に叱責された」「6月に休んだ」とだけ書かれていると、 各出来事がどのようにつながっているのかが伝わりません。

2.最も強い出来事だけを詳しく書いている

激しい叱責など、一番印象に残った出来事だけを詳しく説明し、 その前に続いていた業務負担や、その後の孤立状態がほとんど書かれていないことがあります。

3.出来事後の状況が抜けている

問題となる出来事が起きた後、会社がどのように対応したのか、 状況が改善したのか、それとも悪化したのかという点も重要です。

4.証拠と出来事が結び付いていない

メール、チャット、勤務記録、診療録などを提出していても、 どの資料がどの出来事を裏付けるのか分からなければ、十分に活用されない可能性があります。

5.発病時期との関係が整理されていない

精神障害の労災では、いつ頃発病したのかが重要です。 症状の始まり、初診日、欠勤や休職の時期と、仕事上の出来事を同じ時系列上で確認する必要があります。

申請時に整理しておきたい5つのポイント

  1. 出来事を年月日順に並べる

    正確な日付が分からない場合も、「○月上旬」「異動の約2週間後」など、 分かる範囲で時期を特定します。

  2. 出来事同士の関係を書く

    「人員が減ったため業務量が増えた」「業務が追いつかず叱責された」など、 次の出来事が起きた理由を明確にします。

  3. その状態がどれくらい続いたかを書く

    一度だけの出来事なのか、毎週、毎日、数か月間続いたのかによって、 心理的負荷の見え方は変わります。

  4. 会社へ相談した後の対応を書く

    上司、人事、相談窓口などへ申し出た後、調査や配置変更が行われたのか、 放置されたのか、かえって状況が悪化したのかを整理します。

  5. 症状の変化と仕事上の出来事を並べる

    不眠、食欲低下、動悸、欠勤、医療機関の受診などがいつ始まったのかを、 仕事上の出来事と一緒に確認します。

時系列整理の例
時期 仕事上の出来事 その後の状況 心身の変化 関連資料
4月1日 未経験部署へ異動 引継ぎは2日間のみ 強い不安 辞令、引継ぎメール
4月中旬 退職者2名分の業務を担当 残業が増加 寝付きが悪くなる 勤怠記録、業務一覧
5月10日 会議中に強い叱責 同様の叱責が継続 動悸、食欲低下 会議記録、同僚の証言
5月下旬 上司へ相談 具体的な対応なし 欠勤が始まる 相談メール
6月3日 出勤困難 休職 医療機関を受診 診断書、診療録

不支給になった後は「本当の判断理由」を確認する

不支給の通知を受け取っても、その通知だけでは、 どの出来事がどのように評価され、なぜ仕事による強い心理的負荷が認められなかったのかを 十分に把握できないことがあります。

そのような場合は、労働基準監督署が調査や判断の過程で作成した資料を確認することが重要です。

ここで初めて専門用語が出てきますが、 労働基準監督署が認定判断のために作成する資料は、一般に 「調査復命書」などと呼ばれます。 また、不支給の理由をより詳しく確認できる資料が交付されている場合もあります。

これらの資料を確認すると、例えば次のような点が見えてくることがあります。

  • どの時点を精神障害の発病時期と判断したのか
  • どの出来事を認定し、どの出来事を認定しなかったのか
  • 各出来事の心理的負荷を「強・中・弱」のどれと評価したのか
  • 複数の出来事を関連するものとして評価したのか
  • 本人、会社、関係者の説明のどこを採用したのか
  • 仕事以外の事情をどのように評価したのか

「不支給=申請内容がすべて否定された」とは限りません

出来事そのものは認められていても、心理的負荷の強度が「中」と判断されている場合があります。 また、一部の出来事だけが認定され、前後の事情が十分に結び付けられていない場合もあります。

そのため、審査請求を考える前に、まず何が認められ、何が認められなかったのかを整理することが重要です。

審査請求では「同じ説明を繰り返す」だけでは足りません

労災保険給付の不支給決定に不服がある場合は、審査請求を行うことができます。 ただし、申請時と同じ主張や資料をそのまま繰り返すだけでは、 最初の判断を変えることは容易ではありません。

審査請求を検討する場合は、判断資料を確認したうえで、 次のような論点を具体的に示す必要があります。

  • 事実認定に誤りや見落としがないか
  • 出来事が不自然に分断されていないか
  • 出来事後の継続的な状況が評価されているか
  • 複数の出来事について全体評価が行われているか
  • 発病時期の判断は診療録や症状経過と整合しているか
  • 提出した証拠が適切に評価されているか

特に「出来事を一連の流れとして見るべきだった」という主張をする場合は、 単に「全部つながっています」と書くのではなく、 各出来事の因果関係、時間的な近さ、継続性、反復性、会社の対応、発病までの経過 を資料に基づいて再構成することが大切です。

審査請求には期間制限があります。 不支給決定を受けた場合は、通知書に記載された不服申立ての案内を確認し、 早めに所轄の労働局や専門家へ相談してください。

まとめ|一つひとつではなく、発病までの流れを伝える

精神障害の労災では、強い叱責や配置転換など、 一番目立つ出来事だけが認定の対象になるわけではありません。

一つの出来事をきっかけに業務負担が増え、 叱責、孤立、支援の欠如などが続き、精神障害の発病に至ったのであれば、 その流れ全体を整理して伝える必要があります。

この記事のまとめ

  • 単独では「中」の出来事でも、複数の出来事を全体として評価する場合がある
  • 出来事同士の関係、継続性、反復性、時間的な近さが重要になる
  • 申立書では出来事を並べるだけでなく、発病までの因果関係を示す
  • 不支給後は、どのような調査と評価が行われたのかを確認する
  • 審査請求では、最初の判断のどこに問題があるのかを具体的に示す

不支給の通知を受けても、それだけで諦める必要はありません。 まずは、どの出来事がどのように評価されたのかを整理することが重要です。

当事務所で不支給後のご相談を受け、判断の根拠となった資料を確認すると、 出来事が一つずつ評価され、その関連性や継続した状況が十分に反映されていないと考えられるケースがあります。

「自分のケースでは出来事がどのように評価されたのか分からない」 「一連の出来事として見てもらえていないのではないか」と感じている方は、 不支給通知だけで判断せず、調査内容を確認したうえで今後の対応を検討することが大切です。

こもれび社労士事務所から

こもれび社労士事務所では、精神障害・パワーハラスメントの労災申請や、 不支給決定後の審査請求についてご相談をお受けしています。

仕事上の出来事がどのようにつながり、どのような経過で発病に至ったのかを丁寧に整理します。

当事務所では、精神障害の労災申請をご依頼いただいた際には、一つひとつの出来事が単発で評価されないよう、時系列や出来事同士の関連性、その後の経過も含めて整理しながら書類を作成しています。

そのうえで、客観的な資料と照らし合わせながら、発病までの流れが伝わるよう、申立書や証拠説明書を一つひとつ丁寧に整えています。

ご相談の内容を確認したうえで、対応可能な範囲や費用をご案内します。 ご依頼を急かすことはありません。

参考資料

ここまで読んで、まだ迷っていても大丈夫です。

まずは、今の状況を整理するところからで大丈夫です

「まだ相談するか決めていない」
「何を書けばいいか分からない」
そんな段階でも大丈夫です。

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