労災認定されないと会社を訴えられない?パワハラの損害賠償請求との関係

パワハラや長時間労働、退職強要などをきっかけに精神疾患を発病し、 労災申請をしたものの不支給になった場合、
「労災が認められなかったのだから、会社を訴えることもできないのでしょうか」
と不安になる方がいます。
結論からいうと、 労災が不支給になったことだけを理由に、 会社や上司に対する民事上の損害賠償請求が 法律上当然にできなくなるわけではありません。
ただし、 「労災はダメでも、民事なら認められる」 という意味でもありません。
労災保険の支給・不支給と、 会社や上司の民事上の損害賠償責任は、 目的・根拠・判断する内容が異なる別の問題です。
そのため、 労災不支給=会社への損害賠償請求もできない とは限りません。
一方で、 なぜ労災が不支給になったのか は非常に重要です。
発病時期、パワハラ等の出来事の認定、 診療録、主治医意見、会社側の説明など、 労災で問題となった資料や事実関係は、 民事上の責任を検討するときにも重要な材料になる場合があります。
この記事では、 精神障害の労災が不支給になった場合に、 会社への損害賠償請求との関係で何を確認しておきたいのか を、精神障害の労災を取り扱う社会保険労務士の立場から整理します。
結論|労災不支給だけで民事請求ができなくなるわけではありません
🎥 動画でも解説|労災が不支給でも会社を訴えられる?
労災が不支給になった場合でも会社への損害賠償請求が当然にできなくなるわけではありません。不支給後に確認したいポイントを動画で解説しています。
労災保険と、 会社や上司に対する民事上の損害賠償請求は、 同じ職場の出来事を背景にすることがあっても、 同じ制度ではありません。
| 項目 | 精神障害の労災 | 会社等への損害賠償 |
|---|---|---|
| 主な目的 | 労災保険給付の対象になるかを判断する | 会社・上司等の民事上の責任を前提に損害の回復を求める |
| 主な問題 | 精神障害の発病、業務による心理的負荷、 業務外の心理的負荷や個体側要因など | 安全配慮義務違反、不法行為、使用者責任、 因果関係、損害など |
| 判断 | 所轄労働基準監督署長による労災保険上の判断 | 交渉・労働審判・民事訴訟等の中で、 民事上の責任が別途問題となる |
| 専門家 | 労災手続や事実・資料整理は社労士が支援できる場合があります | 損害賠償・労働審判・訴訟等は弁護士へ相談します |
つまり、 労災で不支給になったという行政上の判断だけで、 民事上の請求そのものが禁止されるわけではありません。
ただし、 民事上の責任が認められるかどうかは、 別の要件に基づいて個別に検討されます。
「労災不支給でも会社を訴えることはできる」 と 「会社の責任が認められる」 は、同じ意味ではありません。
この記事でいう「請求できる」とは、 労災不支給だけを理由として 民事上の請求が法律上当然に排除されるわけではない、 という意味です。
精神障害の労災では、何が判断されているのか
現在の厚生労働省の 「心理的負荷による精神障害の認定基準」では、 原則として次の点を確認します。
- 認定基準の対象となる精神障害を発病していること
- 発病前おおむね6か月の間に、 業務による強い心理的負荷が認められること
- 業務以外の心理的負荷や個体側要因によって 発病したとは認められないこと
そのため、 精神障害の労災が不支給になる場合でも、 どの部分が認められなかったのかはケースによって異なります。
例えば、
- 対象となる精神障害や発病時期が問題になった
- パワハラ等の出来事自体が十分確認できなかった
- 出来事は認められたが、心理的負荷が「強」と評価されなかった
- 本人が主張した内容と会社側の説明が異なっていた
- 業務外の心理的負荷や個体側要因との関係が問題になった
など、さまざまな理由があります。
したがって、 「不支給だった」という結果だけを見るのではなく、 何がどのように判断されたのかを確認すること が重要です。
労災不支給の理由が、民事でも重要になることがあります
労災と民事上の損害賠償は別の制度です。
しかし、 同じ職場の出来事、同じ精神疾患、同じ時系列が問題になる以上、 共通する資料が多くなることがあります。
特に確認しておきたいのは、 次のような点です。
- 労基署は発病時期をいつと認定したのか
- パワハラ等の出来事は、どこまで認められたのか
- 認められなかった出来事は何か
- 心理的負荷はどのように評価されたのか
- 会社側はどのような説明をしていたのか
- 診療録・主治医意見には何が記載されていたのか
- 勤怠、録音、メール、LINE等はどのように扱われたのか
労災で認められなかった事実が、 民事でも必ず認められないというわけではありません。
反対に、 労災の調査結果や不支給理由を確認せず、 「民事は別だから関係ない」と考えるのも適切ではありません。
不支給後に確認しておきたい7つの資料
労災が不支給となった後に、 審査請求や民事上の請求を検討する場合には、 まず手元の資料を整理してみましょう。
| 資料・情報 | 確認したいこと |
|---|---|
| ① 不支給決定通知書 | まず、どの給付について不支給となったのか、 決定日や内容を確認します。 |
| ② 労災請求書・申立書 | 自分がどの出来事、発病時期、症状経過を説明したのかを確認します。 |
| ③ 労基署とのやり取り | 聴取や照会で何を聞かれ、どのように説明したのかを整理します。 |
| ④ 診療録・診断書・主治医意見 | 初診時の訴え、症状、発病時期、職場の出来事について どのような記録があるかを確認します。 |
| ⑤ 勤怠・業務記録 | 労働時間、仕事量、配置転換、担当業務等を時系列で確認します。 |
| ⑥ 録音・メール・LINE・チャット | 実際の言動、相談内容、会社側の対応等を確認できる資料がないか整理します。 |
| ⑦ 人事・会社への相談記録 | 会社がいつ問題を認識し、どのような対応をしたのかを確認します。 |
この段階で、 「裁判で有利になるように内容を作り直そう」 と考える必要はありません。
まずは、 当時の資料に沿って、 いつ何が起きたのかを正確に整理すること が大切です。
会社への損害賠償請求では何が問題になる?
民事上の損害賠償では、 労災認定基準とは別に、 会社や上司等の法的責任が検討されます。
例えば、
- 会社に安全配慮義務違反があったか
- 上司等の言動が違法な不法行為に当たるか
- 会社が使用者として責任を負うか
- 行為と精神疾患・休業・退職等との間に因果関係があるか
- どのような損害が生じたのか
などが問題になることがあります。
労働契約法5条では、 使用者は、労働者が生命・身体等の安全を確保しながら 労働できるよう必要な配慮をするものとされています。
また、パワハラに関する民事裁判では、 言動の内容や態様、 人格権侵害の程度、 会社の把握や対応などが問題となった事例があります。
しかし、 「パワハラがあった」 = 「会社に損害賠償責任がある」 と一律に判断されるものではありません。
労災で認められなかった事実は、民事でも認められない?
必ずしもそうとは限りません。
労災保険上の判断と、 民事裁判における事実認定・法的責任の判断は、 同じものではありません。
ただし、 労災調査の中で、
- 本人の説明
- 会社側の説明
- 関係者の聴取
- 診療録
- 主治医意見
- 勤怠
- メールや録音等
が確認されていることがあります。
そのため、 民事上の請求を検討する場合にも、 労災で何が確認され、何が確認できなかったのか を整理しておくことは重要です。
今回、公的に確認できる裁判例を調査しましたが、 「精神障害の労災が不支給となった同じ事案について、 その後の民事裁判で会社の責任が認められた」 と判決文等から安全に確認できる事例は、 確認した範囲では特定できませんでした。
そのため、 本記事では「労災不支給から民事で逆転した裁判例がある」 という説明はしていません。
パワハラの民事責任が争われた裁判例があります
厚生労働省は、 「パワーハラスメントに関連する主な裁判例」を公表しています。
そこでは、 例えば、
- 継続的ないじめや嫌がらせ
- 会社が問題を把握した後の対応
- 侮辱的なメール
- 暴行・脅迫的な言動
- 厳しい叱責や業務指導が許容範囲を超えていたか
などについて、 不法行為や安全配慮義務等が問題となっています。
一方で、 厳しい叱責や指導があったとしても、 具体的な事情から民事上の違法性が否定された事例もあります。
つまり、 言葉の強さや「パワハラ」という名称だけではなく、 具体的な行為の内容、経緯、継続性、会社の対応等を確認する必要があります。
審査請求・再審査請求と民事請求は別の手続です
労災の不支給決定に納得できない場合には、 労災保険上の 審査請求を検討することがあります。
さらに、 審査官の決定に不服がある場合には、 再審査請求が問題となることもあります。
労災保険上の審査請求・再審査請求と、 会社や上司に対する民事上の請求は別の手続です。
少なくとも、労災上の不服申立てが終わるまで、 民事上の請求を一律に始められないとする制度ではありません。
ただし、実際に、
- どちらを先に進めるか
- 同時期に進めるか
- 消滅時効をどう考えるか
- 会社に何を請求するか
- どの資料をどの手続で提出するか
といった具体的な判断は、 個別事情によって異なります。
損害賠償、労働審判、民事訴訟については、 労働問題を扱う弁護士へ相談してください。
労災給付と損害賠償の関係
労災保険給付と民事上の損害賠償は別の制度ですが、 同じ損害が二重に補填されることを避けるため、 調整が問題になる場合があります。
ただし、
- 休業補償給付
- 休業損害
- 治療費
- 逸失利益
- 慰謝料
- 特別支給金
は、すべて同じ性質のものではありません。
そのため、
「労災を受けたら慰謝料は請求できない」
「労災給付と損害賠償は必ず両方満額もらえる」
と一律に考えない方がよいでしょう。
具体的な損害額、控除、調整、請求内容については、 弁護士へ確認してください。
社労士に相談できること、弁護士へ相談すること
労災が不支給となると、 「次は誰に相談すればよいのか分からない」 という方もいます。
| 相談内容 | 主な相談先 |
|---|---|
| 労災不支給理由の確認、 出来事・発病経過・医学資料の整理、 審査請求等の労災上の不服申立て | 社会保険労務士 |
| 会社・上司への損害賠償請求、 民事交渉、労働審判、民事訴訟、 請求額・時効・手続の選択 | 弁護士 |
| 労災の不服申立てと民事上の請求の両方を検討している | 社労士と弁護士が、 それぞれの業務範囲で対応・連携を検討 |
こもれび社労士事務所では、 精神障害の労災が不支給となった場合の 不支給理由、出来事、発病経過、医学資料等の整理 や、労災上の不服申立てを検討する際のご相談をお受けしています。
会社への損害賠償請求、 民事交渉、労働審判、訴訟代理等は、 弁護士が取り扱う分野です。
まとめ|労災不支給だから「全部終わり」とは限りません
パワハラ等による精神障害の労災が不支給になると、 「もう会社に対して何もできない」 と感じてしまう方もいます。
しかし、 労災保険と民事上の損害賠償は 別の制度です。
- 労災不支給だけで、民事上の請求が法律上当然にできなくなるわけではない
- ただし、労災不支給でも会社の責任が当然に認められるわけではない
- なぜ労災が不支給となったのかを確認することが重要
- 発病時期、出来事の認定、診療録、主治医意見、会社側の説明等を整理する
- 労災上の不服申立ては社労士、民事上の損害賠償等は弁護士へ相談する
特に大切なのは、 「不支給」という結果だけで判断せず、 その理由を確認すること です。
労災が不支給となり、まず理由を整理したい方へ
「パワハラの労災が不支給になった」
「なぜ認められなかったのか分からない」
「審査請求を検討した方がよいのか知りたい」
「会社への請求も考えているが、まず労災の結果を整理したい」
という場合には、 まず不支給理由と、これまで提出した資料を整理することから始めます。
こもれび社労士事務所では、 精神障害の労災について、 不支給通知、申立書、診療録、主治医意見、 録音・LINE・メール、会社側の説明等を確認しながら、 労災上の争点を一つずつ整理しています。
なお、 損害賠償請求、会社との民事交渉、 労働審判、民事訴訟については、 労働問題を扱う弁護士へご相談ください。
参考資料
※本記事は、精神障害の労災不支給と民事上の損害賠償請求との一般的な関係を説明するものです。 個別の損害賠償請求の可否、消滅時効、請求額、会社との交渉、 労働審判・民事訴訟の手続選択、証拠提出等について法律判断を行うものではありません。 民事上の請求を具体的に検討する場合には、 労働問題を扱う弁護士へご相談ください。
ここまで読んで、まだ迷っていても大丈夫です。

まずは、今の状況を整理するところからで大丈夫です
「まだ相談するか決めていない」
「何を書けばいいか分からない」
そんな段階でも大丈夫です。
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※ 「まず整理だけ」でも大丈夫です


